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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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787.転売屋は牡蠣を食す

冬。


冬といえばまず思いつくのは鍋だろう。


肉は何でもいけるし魚介でもオッケー。


最近じゃトマト鍋だのカレー鍋だの亜種が色々出ているようだが、鍋は鍋。


美味しくいただければそれでいいじゃないか。


ってな感じでこの冬も鍋のブームが来ているようだ。


それ系の素材が取引所に張り出され、冒険者たちが喜んでそれを集めて回っている。


集めればそれが自分のお腹に収まるわけだから当然だろう。


自分の物は自分で採ってくる。


それが出来るのもまたダンジョンの素晴らしい所。


天然の食糧庫ってやつだ。


注意すべきは途中で自分が食われかねないという所だが、そんな事で臆する冒険者ではない。


食べたいなら取りに行くべし。


そして今日もまた新たな食材が食糧庫から運び出されるのだった。


「お、美味そうなのが入ってるじゃないか。」


「今年の初物っすよ。」


「大変だっただろ。」


「まぁそれなりに。でも美味いのは保証します。」


「絶対だな?」


「いや、そこまでは保証できないですけど。」


なんだよ、そこまで言うなら自信もって言えよな。


こぶし大の大きさが殆どだがいくつか掌を広げたぐらいの大きさもある。


ごつごつとしたそのフォルムは元の世界のやつと全く同じだ。


『クレイジーオイスター。貝でありながら岩場に生息する不思議な魔物。空気中の水分と岩塩から吸収する塩分を混ぜ合わせて活動していると考えられている。通常のオイスター種と同じく食用として取引されているが、中った時の被害は通常種を大きく超え命の危険を及ぼすこともある。最上の美味さを求め生食する冒険者が多い事からこの名がついた。最近の平均取引価格は銅貨30枚。最安値銅貨20枚、最高値銅貨50枚、最終取引日は本日と記録されています。』


クレイジーオイスターとは中々の名前だが、あえて生食をして命を落とす狂ったやつらがいるだけに間違いではない。


それも一人ではなく何人も被害が出ているのに生食をやめないんだから困ったものだ。


とはいえ気持ちはわかる。


生ガキ美味いもんなぁ。


だが過去にあたった身としてはあの苦しさは二度とご免だ。


なのでしっかり火を通して頂きたい。


「全部で10個か。それなら銀貨3枚だな。」


「あ、他の連中もあとで来ると思います。」


「そりゃいい、今日は酒盛りにするか。」


「いいなぁ、俺も食いたいんですけど。」


「じゃあ一個銅貨50枚で売ってやる。」


「高くないっすか?」


「店で食えばもっと高いぞ。」


一般商店で食えば銅貨60枚ぐらいは余裕で取るだろう。


時期物だし、鑑定結果にもあるように狂ったように食う冒険者もいる。


これを食う為だけに生きているみたいな奴をこの世界に来てから何人も見てきた。


人を狂わす恐ろしい食い物。


とはいえ、美味いんだよなぁ。


「他の連中もって事はまた群生地を見つけたのか?」


「そうなんですよ。岩塩を掘ってたら空洞を見つけてその奥にびっちりって感じです。」


「すごいな。」


「なので一度塩抜きをお勧めしておきます。」


「ってことはもう食ったやつがいるのか。」


「鮮度がいいやつは中らないらしいですよ。」


「どんな迷信だよ。」


鮮度が良かろうが悪かろうが中るやつは中る。


美味いのはわかっているが、それで命を落とすのはさすがにどうだろうか。


その後、話に聞いていたように大量の牡蠣が店に運び込まれた。


裏庭が半分埋まるぐらいに積み上げられた牡蠣を前に思わず感嘆の声が漏れる。


流石にこれ全部を一人で食うのは無理だ。


何なら屋敷の全員でも無理だ。


ならどうするか。


牡蠣鍋もいいが、ここはやっぱり焼き牡蠣だろう。


それも焚火台の上に網を敷いてその上で好きなように焼く炉端スタイル。


入り口で必要数を買って自分で焼いてもらえば手間もかからないし、酒も良く売れる。


牡蠣といえば清酒。


あぁ、日本酒が飲みたくなってきた。


酒に関しては牡蠣を賄賂にマスターから融通してもらい、俺は俺で別の用意をする。


畑での酒盛りはいつもの事。


アグリに言えばあっという間に準備をしてくれるから助かるなぁ。


せっかくの炉端スタイルなので、仕入れておいた干物の他に肉や野菜なんかも一緒に提供すればいい稼ぎになる。


たまに飲食店を経営した方が儲かるんじゃないかとか思う事もあるが、それはそれだ。


予定通り牡蠣は1つ銅貨50枚。


他の肉とかは銅貨20~30枚の比較的安い値段で用意した。


儲けは少ないが、その分酒を飲んでもらってマスターからバックマージンを貰う手はずになっている。


飲めば飲むだけ俺に金が入る。


なら飲むように仕向けるのが商売人ってものだろう。


「では、お金を貰ったらこちらの桶から牡蠣を出すんですね。」


「あぁ、そっちは塩抜きしてるからこっちから辛いのがいいやつはそのまま渡してくれればいい。調味料は別に置いてるから後は適当にやるだろう。悪いな、製薬で忙しいのに。」


「いえ、牡蠣が食べられるなら問題無いです。」


「よっぽど好きなんだな。」


「だって美味しいじゃないですか。」


「中った事ないのか?」


「一応今の所は。」


準備で走り回っているとアネットに遭遇、事情を説明すると二つ返事で手伝ってくれることになった。


牡蠣が好物とは知らなかったが、クレイジーオイスターの名前を聞いた瞬間に頭上の耳が大きく動いたのを俺は見逃さなかった。


耳は口ほどにモノを言う。


店番しながら好きに食べていいぞといったのが良かったようだ。


ちなみに俺は店主なので無料。


さぁ、たらふく食うぞ。


「シロウさん!最高です!」


「まじでうめぇ、焼くだけでこんなに違うのか。」


「そうじゃないって、この醤油が美味いんだって。」


「俺はレレモンだな、これがあればいくらでも食えそうだ。」


即席の炉辺焼き会場はあっという間に満席。


それぞれ網の上に牡蠣を並べて思い思いの調味料で味付けしている。


あっという間に彼ら足元は牡蠣の殻で一杯になってしまった。


まぁいいか、明日掃除すれば。


行儀がいいのは最初だけ、気づけばそこらじゅうでドンちゃん騒ぎが始まっている。


よく見ると冒険者だけでなく主婦もいれば職人の姿もある。


どうやら牡蠣を食べられると聞いて集まってきたようだ。


裏庭の山を見たときは正直ちょっと不安になってしまったが、どうやらその心配は杞憂に終わりそうだ。


「こりゃ美味い。」


「だろ?やっぱり牡蠣には醤油だって。」


「出汁を入れるとこれだけで料理になるな、王宮でもこんな美味いもの出てこないぞ。」


「そりゃ言い過ぎだって。」


「しかし、これに合う酒がなぁ。」


出汁入りの牡蠣の殻がしたからあぶられ、ふつふつと音を立てている。


そいつに醤油をひとまわしして味を調え、少しさめてから一気に口の中へ。


やっぱり醤油と出汁の組み合わせは最高だ。


でもマスターの言うようにこれに合う酒が無い。


ワインでも琥珀酒でもエールでもない。


キリッとした辛さとさっぱりとしたのみごたえ。


なにより鼻から抜ける芳醇な米の香りは清酒にしかだせないんだよなぁ。


「今日の酒も美味いんだが、やっぱり違うよな。」


「何が違うかといわれると答えにくいんだが、違うんだよ。」


「わかる。」


「肉ならエールなんだけどなぁ、ほらあいつらみたいに。」


「ったく、牡蠣が高いからって自分で持ち込んだ肉を焼くなよな。おーい、こっちにもまわせよ!」


「了解っす!」


気づけば牡蠣がなくなったのか網の上には肉だの魚だの別のものが乗せられ、そこらじゅうでいい匂いをさせている。


巨大な肉の塊から滴った脂と肉汁が焼けた木の上で蒸発する。


その音と匂いきたら・・・、畜生さっきまで清酒の口だったのにエールが飲みたくなってきた。


「結局はこっちに落ち着くのか。」


「美味いだろ。」


「美味い。」


おすそ分けしてもらった肉を口に運び、堪能した後エールを一気に流し込む。


元の世界のやつよりも炭酸は少なめだが、それでもさわやかな味は似たようなものだ。


酒1つでこれだけ気分が変わるんだもんなぁ。


お、次は海老か。


イセエビのようにでかい海老の尻尾を豪快にむき、プリプリの身にかぶりつく。


今度は琥珀酒の発泡水割り。


かー、たまらん。


「何でこんなに美味いんだ?」


「そりゃ酒は神様の飲み物だからな、美味いに決まってる。」


「面白い考えだな、それは。」


「それをおすそ分けしてもらってるんだ、味わって飲めよ。」


「おすそ分けか。いっそのこと樽で欲しいよな。」


「贅沢言うな。」


マスターもいい感じに酔いが回っているのかいつもより饒舌だった。


夜が更けてもドンちゃん騒ぎはまだまだ続く。


酒が入れば冬の寒さなんて怖くは無い。


でもやっぱり清酒が飲みたいなぁ。


どうにかして手に入らないだろうか。


空いた殻に出汁を入れて、足りない酒を空想しながら口に運ぶのだった。


翌朝。


あまりにも酷い惨状にルフからお叱りを受けたのは言うまでもない。


もちろんごみ1つ落ちないように掃除したさ。

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