725.転売屋は式を挙げる
「準備出来ましたでしょうか。」
「こっちは問題ない、エリザはどうだ?」
「もうすぐ準備完了です。しかし、本当にここでよろしいのですか。」
「エリザの希望だからな。まぁいいじゃないか。」
ここが王都ならマリーさんの時に使った大聖堂で式を挙げることになっただろうけど、ここは勝手知ったる俺達の街。
そんな厳かな場所は・・・なくはないが、生憎と改装工事中なので今回の場にはふさわしくない。
じゃあどうするか。
エリザと話し合った結果、本人のしたいようにさせることにしたというわけだ。
「それではシロウ様お先にお願いします。」
「あいよ。」
白いタキシード風の衣装を身に着け俺は部屋を出る。
ぶっちゃけ綺麗とは言えない廊下を進み、到着したのは見慣れたカウンター。
「お、主役の登場か。」
「似合わねぇなぁ。」
「うるせぇ、俺も思ってるよ。」
いつもは中央に置かれている台が動かされ、少しは広くなったエントランスを見渡す。
そこにいたのはリングさん、それと護衛のホリアだけ。
いつもは大勢の人であふれているだけに二人しかいないのは非常に違和感だ。
「エリザ様が参ります、お静かに。」
お礼を言う間もなくもう一人の主役、というかこっちが本当の主役なんだけども。
ともかく俺の大事な女が反対側の通路からゆっくりと姿を現す。
純白のドレスは肩がむき出しになっており、胸元が大きく開いている。
そこには例のコサージュがあしらわれていた。
馬子にも衣裳は失礼だな、エリザにしては珍しい上品なドレスのお腹はほんの少しだけ膨らんでいるがそんなに目立つ感じではない。
「えへへ、どうかな。」
「良く似合ってるぞ。」
「ありがとう。それにこのアクセサリーも、いつの間に用意したの?」
「ちょっとな。そっちもよく似合ってるじゃないか。」
「ルティエちゃんにお礼を言わなくちゃ。」
「だな。」
いつもよりも少しだけおしとやかな雰囲気で恥ずかしそうに微笑むエリザ。
たまにはこういうのも悪くはないな。
素材はいいんだし普段からもっときれいな服を・・・いや、それはちょっとちがうか。
「ちょっと、なに見つめ合ってるのよ。」
「み、見つめ合ってないわよ!」
「はいはい、いいからいいから。それじゃあちゃちゃっと始めるわよ、早くしないと外の連中がうるさいからね。」
「今でも十分うるさいんだが?」
「お祝いなんだからいいじゃない。」
カウンターの奥からギルドの正装に身を固めたニアが出て来た。
普段と違ってかなりきちっとした感じだ。
っていうか正装なんてあったんだな。
そう、ここは冒険者ギルド。
いつもは大勢のむさくるしい連中でにぎわっているこの場所で、俺達は式を挙げる。
それも、冒険者のやり方にのっとった特別なやつだ。
エリザの手を取って横に並び、カウンター越しにニアと向き合った。
「今日この場に揃ったのは冒険者と商人。普段はいがみ合いながらも、お互いを深く愛し今日という日を迎えた素晴らしい二人です。新婦は血気盛んでダンジョンの魔物を切り倒し、新郎は持ち帰った素材を売り捌く。この街になくてはならない二人が今こうして夫婦となります。えぇっと、なんだっけ?」
「知らないわよ。」
「俺に聞くな。」
折角いい感じで進んでいたのに途中で止まるとか、まったくニアらしい。
「ともかく、この二人の門出に異議がある人は挙手をもって意思を示すように。いますか?いませんね?面白くないわね。」
「勘弁してくれ。」
「異議はないようなので、冒険者ギルドはこの二人を夫婦を認めより一層のサポートをここに誓う物とする。これからもよろしくね、お二人さん。」
「こちらこそよろしくニア。」
「よろしく頼む。」
冒険者ギルドらしい、冒険者の為の結婚式。
そもそも結婚式に形はないと思っている。
俺はエリザが喜ぶ式を上げたかった、だからこれで十分満足だ。
「ご参列のお二人も、お二人に何か一言お願いします。」
「王族を代表して陛下からお言葉を預かっている。『これからもしっかり頼むぞ。』だそうだ。私からはそうだな、あまり突拍子のない事ばかりして体を壊すなよ。それとエリザ殿、いい子を産んでくれ。」
「俺はあれだ、お幸せにってやつだ。」
「ありがとう二人共。」
「ありがとうございます。」
「さて、式はこれで終わりか?」
厳か、とはいいがたいが冒険者にしては大人しい式はこれで終わり。
大人しい方はな。
「そんなわけないでしょ。」
「あぁ、むしろここからが本番だ。」
「それじゃあみんな待ってるからさっさと行きましょ!」
ニアがカウンターを飛び越え、入口の戸を開け放つ。
その途端、外から大歓声が聞こえて来た。
「さぁ、皆お待たせ!」
「「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」」
「何が始まるんだ?」
「冒険者が結婚する時は皆でその門出を祝うの。この時ばかりは何を言っても怒らないという条件付きでね。」
「それは面白い。行くぞホリア。」
「今話したんじゃないのか?」
「それはそれだ。」
まったくガキみたいな顔しやがって。
ニアに続いてリングさんとホリアがギルドを出ていく。
「それじゃあ俺達も行くか。」
「えぇ。」
右腕を軽く曲げるとエリザが腕を滑り込ませて来る。
そして大歓声の坩堝へとゆっくりと進んだ。
「おめでとぉぉぉぉ!」
「エリザ様~素敵~!」
「綺麗です~!」
「御幸せに!」
エリザへの歓声はおおむねポジティブな物だ。
男達からもその美しさに歓声が上がっている。
いいだろう、この美人が俺の女だ。
今日からは正式に俺の妻という事になる。
なんだか少しくすぐったい感じだな。
「買取価格安すぎだろ!」
「もっと高く買ってくれー!」
「もう少し装備の種類を増やしてほしいんですけど!」
「肉!肉!肉をもっとばら撒いてくれ!」
「それよりも酒だろ!」
「頼んますよシロウさん!」
エリザとは対照的に俺へ向けられる声は文句や要望ばかり。
ここぞとばかりに好き勝手言ってきやがる。
まったくこいつらと来たら。
肉も酒もかなり配ってるだろうが。
買取価格が安いなら他の店に行きやがれ、俺の儲けが無くなるだろ。
装備品の種類は持ち込まれる品によって決まる、お前らがもっと持ち込めばいいだけだ。
そこら中から聞こえてくる苦情や文句に冷静なツッコミを入れながら大通りを進んでいく。
秋晴れの太陽の元、エリザのドレスがキラキラと輝いていた。
純白のドレス、普段の鎧姿も良いがこういうのもいいよな。
元が良いだけに良く似合う。
そんな事を思っていた時だった。
「ま、魔物だぁぁぁぁ!」
大通りの向こう、城門の方から大声を上げつつ誰かが走って来る。
そいつは俺達の前で盛大にこけた。
エリザが慌てて駆け寄りそいつを起こしてやる。
「ちょっと大丈夫なの?」
「こ、コボレートが群れを成して襲ってきやがった!」
「なんでコボレートが、警備はどうした。」
「今迎え撃ってるが、数が多い。誰でもいい早く来てくれ!」
「シロウ。」
「行ってこい。」
止めるなんて事はしない。
っていうか、こいつが止まるはずがない。
騒ぎを聞きつけ他の冒険者も一斉に街の外へと駆け出していく。
「エリザ、これ!」
「ニア!ありがとう!」
「他の人を避難させたら私もすぐに行くから!」
少し遅れてニアがエリザの得物を持ってかけて来た。
投げられた斧を華麗にキャッチして純白のドレス姿のまま街の外へと消えていく。
その背中を見送るも不思議と不安は感じなかった。
とはいえ、俺もこの場でボーっとしているわけにはいかない。
エリザの背中を追いかけるように城壁の方へと走り出し、門の横から城壁の上に出る。
見下ろすと南の方からたくさんの魔物が押し寄せてきているのが見えた。
どうやら俺達の結婚式を見に来たという感じではなさそうだ。
暴走している感じもない。
時々ある魔物の襲撃、この世界では日常の一コマと言えなくもない。
特にここは多いらしいけど。
魔物はコボレート、犬の顔をした子供ぐらいの魔物が粗末な武器を手に冒険者に襲い掛かっている。
とはいえ、魔物の中では弱い方なので一匹一匹が相手であればそこまで脅威ではない。
だがどの世界でも数は脅威だ。
一匹は弱くても囲まれると一気に劣勢になる。
だから冒険者は徒党を組み、出来るだけ固まって背中を預けながら魔物を撃退する。
結婚式に参加してくれていた冒険者達が門から飛び出していき、多くの魔物を駆除していく。
そんな中。
一人前線で戦う冒険者がいた。
そいつは純白のドレスを返り血で赤く染めながら、まるで踊るかのように斧をふるってコボレートを薙ぎ払っていく。
その姿の美しさと言ったら。
ドレス姿もなかなかに綺麗だったが、やっぱりエリザは戦っている時が一番楽しそうでそして華がある。
血しぶきという真っ赤な華をそこら中に咲かせながら、エリザは一人最前線で戦い続けた。
いや、お腹の子もいるから二人でだろうか。
あまり激しく動くと早産の危険があると聞いた事があるが、今の所は大丈夫なようだ。
まったく親も親なら子も子だな。
こうして、俺達らしい結婚式は幕を閉じるのだった。
その後お祭り騒ぎになったのは、言うまでもない。




