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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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710.転売屋は鱗を剥ぐ

「う~む。」


「どうしたディーネ。」


「体が痒い。」


「汗疹でも出来たか?昨日は寝苦しかったからなぁ。」


「そういうのではない、なんていうかこう、何かが引っかかっているような感じじゃ。」


何かが引っかかっている?


甲板の上でのんびりと日光浴をしていると、横にいたディーネが突然立ち上がりくねくねと体を動かし始めた。


背中に何かが引っかかったとか、そういう感じなのかと思ったのだがそうでもない。


見ていると非常に痒そうだ。


とはいえ背中を掻いた所でそれが直るわけでもない。


「うーむ、我慢ならん!ちょっと出るぞ!」


「おい、ディーネ!」


横で痒さのあまり身もだえしていたディーネが大きな声と共に甲板に手をかけ、飛び降りた。


はたから見たら自殺のような感じだが、姿が見えなくなった途端に船が大きく揺れる。


振り落とされないよう慌てて横のバーを掴んで耐えた。


「大丈夫ですか!」


「こっちは大丈夫だ、だが・・・。」


「あれは、ディーネ様?」


揺れがおさまった頃に船の中からアニエスさんとミラが飛び出してきた。


二人に無事を伝えると同時にミラが指さした方角に目を向ける。


そこにいたのは真っ赤なドラゴン。


最初は小さかったのにどんどんと大きくなり、川横に広がる広場の真ん中に鮮やかなレッドドラゴンが姿を現した。


「ガレイ!どこかに停まれるか!?」


「えぇぇっとぉぉぉ、いけます!」


「やってくれ!」


推進力の向きを変え、無理やりに速度を落とす。


強い反動を感じながらもなんとか200m程進んだところで船はゆっくりと接岸できた。


先にアニエスさん、周りの無事を確認してから俺達も船を降りる。


巨大なレッドドラゴンもといディーネは、元の姿に戻ってもドタバタと暴れていた。


地響きと共に強い振動が俺達を襲う。


ドスンと言う音がするたびに体が持ち上げられるような強い振動を下から受ける。


不用意に足元に近づこうものならあっという間に踏みつぶされてしまうだろう。


「どうなってるんだ?」


「わかりません、何か仰っていませんでしたか?」


「急に痒いとか言い出して船から飛び降りた、その結果がこれだ。」


「痒いですか。」


「確かに身もだえしているように見えますが。」


「身もだえっていうか大暴れだろ、これは。」


ドシンドシンと足踏みをしながら、今度は翼をバタバタはためかせている。


吹き飛ばされそうな風圧だ。


慌ててミラと共にアニエスさんの後ろに隠れた。


「どうしましょう。」


「どうしましょうといってもなぁ、このまま置いていくわけには・・・いや、いいのか。」


「流石に放置するのはちょっと。」


「怒られて街が燃やされても困りますので。」


「それもそうか。」


人型の時はそんな風に感じないが元の体に戻るとその大きさと強さに恐怖すら感じる。


見た目だけでなく中身も普通のドラゴンとは違う、人語を操り長い時を生きる古龍。


街一つ燃やすことなど朝飯前だ。


「おーい、ディーネ!大丈夫か!」


「大丈夫じゃない!」


「だよなぁ。」


「何が痒いんですか?」


「体じゃ、鱗の下がむずむずする!」


「鱗か。」


ドタバタと暴れているディーネだったが、しばらくするとその動きが小さくなってきた。


その間に三人で距離を取りながら痒さの原因と思われる鱗を確認していく。


「異常ありません。」


「こちらも目立った何かは視認できません。」


「こっちも・・・ん?」


痒みを必死に我慢するレッドドラゴン(ディーネ)という中々レアな状況ながら、必死に目を凝らして鱗を確認していると首の根本付近に違和感を感じた。


よく見ると振動と共にグラグラと動く部分がある。


「アニエスさんあれを見てくれ、首元だ。」


「あれは、確かに鱗が動いていますね。」


「たぶんそれじゃ!それを取ってくれ!この姿では手が届かん!」


ドラゴンにも手がついている。


手というか前足というか、ともかくそいつは体の大きさの割には短くグラグラと動く胸元には微妙に届かないようだ。


どうやら痒さの原因はアレらしい。


とはいえ、アレをどうやってとるか。


離れているから小さく見えるがドラゴンの鱗は一枚がかなり大きく、重さもそれなりにあるので下手に近づいて落ちてきたら骨折程度ですまないだろう。


素人が手を出していい物ではない。


「少し止まれますか?」


「今でもかなり我慢してるんじゃが。」


「一瞬で結構です、少し痛みがあるかもしれませんが我慢してください。」


「かまわん、この痒みがなくなるならやってくれ。」


「わかりました。お二人とも、出来るだけ離れてください。何かあっても守りきれません。」


「くれぐれも気を付けろよ。」


アニエスさんが得物を抜き、ゆっくりとディーネに近づいていく。


俺とミラは小走りで100m程離れて様子を見守ることにした。


狼の耳をピンと立てたアニエスさんが一人で巨大なドラゴンに対峙している様子は、まるで映画のワンシーンのようだ。


動きを止め、僅かに首を垂れるディーネ。


その隙を見逃さずアニエスさんが宙を舞った。


その刹那。


耳を劈くディーネの咆哮が辺り一面に響き渡った。


声だけでなく振動と目に見えない力で思わず身がすくむ。


咆哮が収まり、ゆっくりと顔を上げると巨大な鱗を手にしたアニエスさんが地面に降り立っていた。


「おぉ!痒くないぞ!」


「それは何よりです、しかし見事な鱗ですね。」


アニエスさんに駆け寄ると一部が血に染まった鮮やかな赤い鱗を手にしていた。


大きさは1mほど。


見事なドラゴンの鱗だ。


『レッドドラゴンの鱗。鮮やかな赤い色の鱗は火に対して非常に強く、断熱性も高いため多くの防具に加工されている。また、その強靭さは隕鉄をも凌ぐ。古龍の鱗。最近の平均取引価格は銀貨20枚。最安値銀貨15枚最高値銀貨77枚最終取引日は5日前と記録されています。』


火に対して強い耐性を持つので、多くの魔物に対応できる分レッドドラゴンの鱗は他のドラゴン種よりも需要が多い。


もちろん手に入れるためのリスクも高いので早々出回るものではないのだが、需要は常にあるのであればあるだけありがたい品だ。


それも古龍の物となればかなりの価値があるだろう。


なんせディーネからしか手に入れられないんだから。


「とても綺麗です。」


「あぁ、見事だ。」


「そんなに褒められると照れるんじゃが。」


「それだけの品ということです。これで作られる武具はさぞかし素晴らしいものでしょう。欲しいぐらいです。」


「こんなのでよければいくらでもくれてやるぞ。」


「え、マジで?」


「たまには身綺麗にしてやらんとなぁ、痛いのは余り好きではないが先程ぐらいで済ませてくれるのであれば我慢は出来る。また痒くなられても困るからのぉ。」


「と、ディーネ様はおっしゃっていますがどうされますか?」


どうされますかって、そんなの答えは一つしかないだろう。


こんな凄い鱗がノンリスクで手に入るんだぞ?


いわば金が空から降ってくるようなものだ。


もちろんそのために無理やり剥がすようなことはしないが、今回は自分から差し出すわけだし遠慮する理由がない。


本人もそれを望んでいるわけだしな。


ディーネの提案をありがたく受け入れアニエスさんに手伝いをお願いした。


はがれた鱗を俺が回収、ミラがそれを拭き上げていく。


搬入は後で暴れている二人に任せれば問題ない。


「あ、シロウ様少しお待ちを。」


「どうした?」


「そこについている血を回収したいんです。」


「血?あぁ、薬の原料になるんだったな。」


「鮮度のいいものほど効果が高いそうです、アネットさんが喜びますね。」


「何に使うんだ?」


「なんにでも使えますが、一番需要が多いのは精力剤でしょうか。」


これ以上は何も聞かない方がいいだろう。


薬に頼るつもりはないのだが、アネットのことだ間違いなく作る。


出来れば金になる薬に使って欲しいんだが、何を隠そう精力剤が一番売れてるんだよなぁ。


いろんな方面で需要がある精力剤。


冒険者にお金が回るようになってから需要が一気に増え、その結果街は空前のベビーブーム寸前だ。


一体どれだけの妊婦が町にいるのやら。


もちろん彼女達が未亡人になるリスクも高いのでそれを支援する組織も必要になる。


そのための婦人会なんだけれども、ぶっちゃけその受け皿としては十分すぎるぐらいに大きな組織になっていた。


その原因は間違いなく俺。


俺は人手を確保でき、向こうは仕事を提供できる。


まさにwin-winの関係を構築出来た。


もちろん頼る必要がないのが一番だが、コレばっかりは彼らの運次第だからなぁ。


その運を高めるためにも優れた防具は必要になる。


ディーネの鱗もそれに一役買うことだろう。


今回回収できた鱗は全部で12枚。


早くもゴードンさんに頼まれた鱗の依頼を達成できてしまった。


古龍の物と知ったら驚くだろうなぁ。


あの人ならいい感じに仕上げてくれるはずだ。


ディーネも喜ぶだろう。


「はぁ、スッキリした。」


元の姿に戻ったディーネがすがすがしい顔で大きく伸びをしている。


再び遡上を始めた船の風を浴びて、髪の毛が頬に絡まっている。


それを取ってやると嬉しそうにはにかんだ。


「そりゃ何よりだ、痛いところはないか?」


「後で化粧水を塗っておけば問題ないだろう、帰りにカーラのところによるのじゃろう?」


「そのつもりだ。」


「そのときに上等な奴を買ってくれ、それで手打ちとしよう。」


「やっすいなぁ。」


「金をもらったところで使い道がないからの、それなら美味い肉が食いたい。」


「では戻りましたらたっぷり用意いたします。」


「うむ、期待しておるぞ。」


単純計算で金貨1枚、物が物だけに金貨5枚ぐらいの価値がある鱗を提供してもらったんだ、それなりの肉を用意しようじゃないか。


でもなぁ、そういう肉って大抵ドラゴン種なわけで。


ま、本人がそれでいいなら別にいいか。

帰り道にまさかの拾い物になったが、たまにはこういうのもいいよな。


棚から牡丹餅、ディーネから鱗。


ありがたやありがたや。

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