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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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576.転売屋は卵を見守る

アグリに卵を預けて三日。


ルフの横に置かれた木箱の中には暖かそうな布と石が一緒に入れられていた。


それを迷惑そうな顔で見つめるルフ。


自分で暖めなくても良いとはいえ、しょっちゅう誰かが来るのでめんどくさいのだろう。


「お前ら仕事は終わったのか?」


「今日の分は終わったよ!」


「草むしりもばっちり!」


「だから見てていいでしょ?」


「それは構わないが静かにしろよ、ルフが昼寝できないだろ。」


「「「は~い。」」」


ガキ共が木箱の前に集まり静かに様子を伺っている。


とはいえ動くわけでもないのでただ無言の時間が過ぎていくだけだ。


「もっと暖めないとダメ?」


「これ以上すると中身が煮えるぞ。」


「それはダメ。」


「ならおとなしく見とけ。」


早く孵化して欲しい気持ちはわかるが、これ以上焔の石を入れるとゆで卵になってしまう。


布だけでは寒そうだったので使わなくなった焔の石を入れてみたのだが、思った以上に熱が伝わったので数を減らした。


何事も程々が一番だ。


「どんな鳥なんだろうね。」


「エリザ曰く飛べないがよく走り回るらしい。」


「え~、一緒に走りたいな。」


「追い掛け回されたりしてな。」


「大丈夫だよ!足速いもん。」


あの後図書館に行っていろいろと調べてみたが、結構アクティブな鳥のようだ。


性格はいたって温厚だがとにかく動き回ってはえさを探しているらしい。


幸いエサには困らない環境なので定期的に与えておけば逃げ出したりしないだろう。


とはいえ魔物は魔物だ。


いや、魔獣か。


ともかく気を抜けばこっちが襲われる可能性だってある、ペットじゃないことを認識させるべきだろう。


「ルフとレイは賢いが、こいつはそうじゃないかもしれない。気を抜いたら指を食われるから覚悟しとけよ。」


「わかってるもん。」


「前レイに噛まれたし。」


「そうなのか?」


「尻尾がふわふわだったからつい。」


触りすぎて怒られたと。


甘噛みなので怪我はなかっただろうけど痛みはあったはずだ。


これもまた教育的指導という奴だな。


「あ、いたいた。シロウ頼まれてたのを見つけたわよ。」


「お、あったか。」


「メルディが倉庫にあったのを覚えてたの。はいホットシャークの革。」


「これでゆで卵問題は解決だな。よっこいしょ・・・。」


「シロウ気をつけて!」


「両手、両手で!」


「わかってるっての静かにしてろ。」


俺が雑に卵を持ち上げるものだからガキ共に注意されてしまった。


心配性な奴らめ。


『ホットシャークの革。体内で作り出した熱を外に逃さないホットシャークの革は、主に断熱材や保温材として使われている。最近の平均取引価格は銅貨70枚、最安値銅貨55枚最高値銀貨1枚。最終取引日は31日前と記録されています。』


鮫でありながら地上を泳ぐように移動する不思議な鮫、ホットシャーク。


魚でありながら体内に熱を溜め、それを放出する勢いで移動する不思議な魔物だ。


通称へこき鮫とも呼ばれている。


そういや虫にもそんな奴いたよなぁ。


超高温の屁をこくやつ。


あれってなんて名前だっけ。


「これでよしと。」


「なにこれ。」


「焔の石であったまり過ぎないようにする奴だ。これがあればゆで卵にはならないだろう。」


「よかった~。」


「もうすぐ孵るかな。」


孵化する前は中からくちばしで突っついてくるはずだ。


そしたらルフが気づくだろう。


「ほら、そんなに見てたってすぐには孵らないって。仕事に戻るぞ。」


「仕事したよ?」


「こいつのための小屋を作るんだろ?材料は用意してきたから頑張って作ってみろ。」


「そうだった!」


「作る作る!」


魔獣とはいえ、生まれたての生き物を屋外でってのはさすがにアレだ。


いずれ食べられる運命の雄だとしても生き物を雑に扱うべきではない。


ってな感じで、子供ながらに手慣れた手つきでハンマーとくぎを使って小屋を作り始めるのを横目で見つめながら卵にそっと触れてみる。


心なしか、中から振動を感じる気がする。


いやいや、まさかそんな。


きっとハンマーの音に違いない。


そう思っていながらも、卵から伝わってくる振動は大きくなっていく。


え、マジで孵化するの?


俺が皮を敷いたから?


いくらなんでもそれは出来すぎだろう。


慌てる俺を不審に思ってかルフが首をかしげながらこちらを見てくる。


「これ、産まれると思うか?」


ブンブン。


マジか。


どうやらルフにはわかるようだ。


ガキ共にまだだといった手前、もどってこいというのもなぁ。


なんて考えていると、触れていた部分に突然痛みが走った。


慌てて手を離すと、さっきまで何ともなかった卵の中から尖った何かが突き出ている。


あ、産まれるわこれ。


「おい、戻ってこい!産まれるぞ!」


「え、嘘!」


「待って待って!」


ガキ共が道具を置いてこちらに飛んでくる。


その間にもくちばしが中から何度も突き立てられ、あっという間に小さな穴が開いた。


上からのぞき込むと何かと目が合う。


『深淵を覗き込むとき・・・』うんたらかんたらという言い回しが頭に浮かんだ。


確かに何かがこちらを見てくる。


「すごい!穴が開いてる!」


「ほんとだ!」


「シロウが孵化させたの?」


「偶然だろう。ほら、しっかりみてろよ。」


我先にと木箱に集まったガキ共と、それを上からのぞき込む大人たち。


ルフとレイも興味深そうにガキ共の間に首を突っ込んで見ている。


パキパキと中から殻が割られ、そしてその時はやってきた。


ひと際大きな音がしたかと思うと、大きくなった穴から首が飛び出してくる。


そして残りの殻が上下に割れ、中から拳ほどの大きさをした灰色の雛が出てきた。


「「「かわいぃぃぃ~!」」」


かわいい・・・のか?


そいつは自分を取り囲む巨大な存在におびえるようにキョロキョロと首を動かしている。


そして俺と目が合った。


「ピィ!」


「お、鳴いたぞ。」


「シロウを見てるね。」


「ほんとだ。」


「シロウがお父さんってわかってるのかな。」


必死にこちらを見て声を上げる雛。


ガキ共の上からゆっくり手を伸ばしてやると・・・。


「イテッ!」


つつかれてしまった。


「なんだ、違うじゃん。」


「やーいきらわれてやんの~。」


「こいつ、今すぐ食ってやろうか。」


「ダメだよ!」


「そうだよ、赤ちゃんなんだよ!」


だからどうした。


飼い主をつつくなんていい度胸じゃないか。


大きくなったら覚悟しろよ、食ってやるからな。


雄かどうかはしらんけど。


そんな事を知るはずもなく、ピィピィと元気よく鳴く雛に一同メロメロになっているようだ。


こうして、畑に新たな仲間が加わったわけだが・・・。



「デカくなるの早くないか?」


「魔獣ですからこんなもんですよ。狼と違い鳥はすぐに大きくなります。」


「まだ二日だぞ?」


「むしろ二日で大きくならなければ他の魔物に食い殺されてしまいますから。」


「確かにそうかもしれないが・・・。」


産まれて二日。


俺の前には、ペンギンの子供ぐらいに大きくなった灰色の鳥が元気に走り回っていた。


追いかけられているのはもちろんルフだ。


灰色の鳥が灰色の狼を追いかけている。


まさかこんなに大きくなるとはなぁ。


そりゃあれだけ食べれば無理もないか。


「雑草もよく食べてくれていますし、カニバフラワーの後始末も良く手伝っているようです。今朝は小屋ではなくあの下で眠っていました。」


「マジか、せっかく小屋を作ったのに無駄になったな。」


「波長か何かが合うのか、彼らも襲ったりしないようなんです。」


「うぅむ、あの下に捨てられていたのをわかっているのか・・・。ま、仲がいいのはいい事だ。知らずに食い殺されていましたじゃガキ共が泣くしな。」


「そうですね。それはそうと、シロウ様あんなにたくさんの素材を頂いてもよろしいのですか?」


「置いていても使い道はないしな、新居の断熱材にでも使ってくれ。」


「そうさせて頂きます。」


エリザに持ってきてもらった革だが、本来はアグリの新居用に仕入れた物だ。


もちろん本人にいうと遠慮するので言っていないが、まぁ十中八九バレているだろう。


そのおかげで孵化が進んだかどうかは定かではないが、ないよりかマシだったんだろう。


追いかけまわされるのに疲れたルフが俺の後ろに隠れてくる。


「それぐらいにしとけよ、ココ。」


「ピィ?」


「ピィじゃねぇよ、バラして食うぞ。」


食うぞと言われ露骨に嫌な顔をする。


いや、マジで表情がわかる。


ルフもそうだったが鳥でもわかるんだな。


ちなみに名付けたのは俺じゃない、ガキ共だ。


「ったく、雌だったからよかったものの雄だったらマジで食ってたな。」


「そうですね、ですが卵は期待できそうです。頑張るんですよ。」


「ピィ!」


「産んだ卵を食われるのはいいのか。」


「無精卵ですから。」


そういうもんなんだろうか。


わからん。


首をかしげていると、俺のすねをココがつついてくる。


どけ、といいたいんだろうか。


だが断る。


「お前がルフを追いかけなければどいてやる。」


「ピィ!」


「っていってるぞ、ルフ。」


ブンブンブン。


「ダメだってよ。ほら、さっさと畑の雑草食ってこい。」


ペンギン風の縦長の体を前足?の下に手を突っ込んで持ち上げる。


ジタバタと短い脚を動かして抵抗するが、まぁ無駄な抵抗だな。


「あ、シロウがココ虐めてる!」


「いじめてる!」


「いじめてねぇし。ほら、餌が欲しいって言ってるぞ雑草は抜き終わったのか?」


「終わったよ!ココおいで!」


「ピィ!」


鳴き声から名づけるならピィちゃんか何かだと思うんだが・・・。


ま、どうでもいいか。


畑に新しい仲間が加わった。


その名はココ。


雑草も、魔物の死骸も何でも食べる掃除屋は今日も元気に畑を走り回っている。



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