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5.転売屋は掘り出し物を見つける

考えたのはこうだ。


固定買い取り価格のある商品を見つけ出し、それよりも高い価格で買取を提示する。


そして、それを平均販売価格よりも安い値段で売れば利益は減るが数は捌ける。


他よりも高く買ってくれるだけでなく安く卸してくれるとなればこぞって買いに来ることだろう。


薄利多売は小売りの基本。


本当は厚利小売がいいんだけど、そこに行きつくまでにはかなりの労力を要するからなぁ。


何が求められていてさらに高く売れるか。


リサーチが進めばそれも出来るんだろうけど、今は需要の多いものをターゲットにして利益を稼ぐべきだろう。


「とりあえずやるだけやってみるか。」


傾いているとはいえまだ陽は高い。


むしろ狙うならこれからだろう。


俺はくるりと反転して街の西側へと足を向ける。


大通りを横切るとしばらくは東側同様に商店が続いていたが、突然道が開けた。


「いらっしゃい!さぁ見て行ってくれ!」


「ダンジョンで見つけたばかりの一品だ!風の加護付きの防具は見る価値があるぞ!」


開けた先は東側以上の活気で包まれていた。


数多くの露店が立ち並び、いたる所で客寄せの声が響いている。


商店側の客はどちらかというと上品な感じだったが、こっちら側の客はその対極にいるような感じだな。


いや、別に治安が悪いとかそういうんじゃないんだけど皆思い思いに店を冷かしては店主と交渉したりしている。


向こうがプロの商人ならばこっちは素人もしくはアマチュアという感じ。


いいねぇこのフリーマーケットみたいな感じ、こっち側の方が俺にはよく合ってる感じだ。


とりあえず目的のものを探して歩き回るか。


一応区画は整理されているようで、皆同じようなスペースに商品を並べている。


一つの店に多種多様な商品が並んでいるのでお目当てのものを探すのは大変だが、俺にはこの相場スキル?があるので一発で見つけられるけどね。


薬草は東側を歩いている時に鑑定してあるのでそれを念じるだけであら不思議、薬草の上に値段が浮かび上がった。


ちなみにこれも先程気づいたのだが、一度鑑定した物は『現在の価格』と『一般取引価格』の二種類を表示できるみたいだ。


なのでそれを利用することで一目で利益を出せるかどうかがわかるようになっているのだが、固定買取価格は表示できないのでその辺はメモを取っておく必要がある。


とりあえず値段の安い薬草の店を片っ端から覗いていくか。


「いらっしゃい、今日見つけてきたばかりの薬草だよ!」


「いくらだ?」


「銅貨27枚だ。」


「随分安いんだな。」


「ちょっと千切れてるからな。」


「効果は一緒なんだろ?」


「あぁ、使用する分には問題ない。鮮度が落ちればアレだがこれなら大丈夫さ。」


「見た感じ冒険者じゃないがまさか、自分で取りに行ったのか?」


「当たり前だろ!大草原のどこに薬草が生えてるんだよ。」


なるほど薬草は外に落ちていないと。


ダンジョンに入らないと手に入らないから値段が高いわけだな。


「ありがとう、他を探してまた来るよ。」


「ここよりも安い所はねぇぞ!」


一先ず買いを保留して他の店も見て回る。


どこも大体似たような値段で、さっきの店が一番安くて高い店でも銅貨30枚ぐらいだ。


買い取りが15枚な事を考えると、どんな値段でも売れれば利益は出ると思うんだが、どうして皆同じことをしないんだろうか。


こうやって売りに出せば買い取り価格よりかは高く売れるんだろ?


それを考えればわざわざギルドに持ち込む必要はないと思うんだけどなぁ。


そんな風に思っていた疑問は、それから何件か回っていた時に判明した。


「いらっしゃい!」


「その薬草いくらだい?」


「銅貨28、いや27枚でいいよ。」


「そんな値段でいいのか?」


「もうすぐ店じまいだ、出店料は稼いだからな特別だぜ。」


おや、そんな金がかかるのか。


「出店料?」


「なんだ兄ちゃんここは初めてか?」


「今日来たばかりだよ。」


「それじゃあ知らないのも無理ないか。ここは金さえ出せばだれでも商売が出来る場所さ、多少高いが店を構える必要もないから俺みたいな流れ者には助かってるよ。」


「へぇ、いくらなんだい?」


「銀貨2枚だ。」


なるほど、それで合点がいった。


いくら販売価格の方が高くても店を出すのにそれだけかかるんじゃ買い取りに出さざるを得ないだろう。


薬草一つが定価で売れても買い取りとの差益は銅貨15枚。


薬草を13個売って初めてトントンだ。


他に売るものがあってそのついでに並べるのであればまだしも、薬草だけを並べて利益を出そうってのはなかなか難しいみたいだな。


普通に考えれば。


「今度ココで商売しようと思っていてね、なるほど少し考えた方がよさそうだ。」


「俺みたいな流れの商人にはこの価格は魅力だがね。」


「話ついでで悪いんだが、ここでよく売れるものは何かあるか?」


「それは何か買ってくれたら教えてやるよ。」


ただじゃ教えない、まぁ当然だな。


店じまいというだけあって並んでいる商品は少ない。


コンバットナイフみたいなやつにデカイ壺、樹の実みたいなやつが皿に盛られていたりする。


それにあれは絨毯かなにかか?


正直見ただけじゃ何が何やらわからないけど、触れば全部解決だ。


「その剣を見せてもらえるか?」


「ほらよ。」


『隕鉄の短剣。空から降ってきた石を研いで作られており切れ味はすさまじい。土属性が付与されている。内部に亀裂有り。最近の平均取引価格は銀貨50枚、最安値が10枚、最高値は金貨1枚、最終取引日は80日前と記録されています。』


(随分と値段に差があるな。)


『属性の付与の有無で値段に差が出ます』


なるほどなるほど。


それを見極められるかが重要ってわけだな。


「隕鉄の短剣か、それに属性までついてる珍しいな。」


「なんだ兄ちゃんも鑑定もちかよ、商売できねぇや。」


「いくらで売るつもりだったんだ?」


「銀貨80枚って所だ。」


「仮に鑑定できなくても予算がねぇよ。」


「じゃあこっちはどうだ?」


今度は大きな壺を転がしてくる。


『壺。ただの壺。最近の平均取引価格は銀貨1枚、最安値が銅貨10枚、最高値は銀貨5枚、最終取引日は昨日と記録されています。内部に隠匿物あり、正体は不明。』


値段の差はさっきと一緒だろうけど、それよりも気になるのは中身だ。


鑑定スキルでもわからないとか、どう考えてもレア品だよな。


「デカい壺だな。」


「なんでもどこかの遺跡から出てきたらしいぞ。これにものを入れると長持ちするそうだ。」


「嘘つけ、ただの壺だろ。」


「そうか、やっぱりただの壺か。」


「おいおい、鑑定させるために見せたのかよ。」


「へへ、悪いな兄ちゃん。俺も鑑定できるが正直不安だったんだよ。」


まぁタダだし別に構わないけどさぁ。


「で、これいくらだ?」


「なんだ買ってくれるのか?」


「ここに来たばかりで丁度いい感じの入れ物を探してたんだよ、この大きさなら色々と入れられそうだ。」


とりあえず手に入れてから考えよう。


でも普通に買うつもりはない。


「ただの壺で間違いないみたいだし、持って帰るのも邪魔だから銀貨3枚で良いぜ。」


「高すぎだろ、銀貨1枚なら買う。」


「それじゃ元取れねぇよ銀貨2枚だ。」


「持ち帰るのに邪魔なんだろ?その薬草とそこの実が一緒ならその値段でもいい。」


「けっ、足元見やがって。でもまぁそんな壺いつまでも置いてても邪魔なだけか。仕方ない、もってけよ。」


しぶしぶと言った感じだったが邪魔なのは間違いないらしい。


銀貨2枚を手渡し、薬草と毒消しの実と一緒に壺を受け取る。


『毒消しの実。この実を一つ食べるだけで軽度の毒ならすぐに回復する。最近の平均取引価格は銅貨20枚、最安値が10枚、最高値は銅貨25枚、最終取引日は今日と記録されています。』


情報料込と考えれば妥当な買い物だろう。


それから色々とネタを仕入れてからデカい壺を肩に担いでひとまず市場の隅に移動する。


人通りが少なくなった所で壺を振り上げ思いっきり地面にたたきつけた。


ガシャン!と乾いた音があたりに響き渡る。


何ごとかとチラ見をする人もいたが、皆すぐに通り過ぎて行った。


どれどれ、レア品はどこかな・・・っとあったあった。


壺の破片を取り除いていくと、小さな指輪が転がっていた。


『力の指輪。装備すると通常以上の力を発揮することが出来る。最近の平均取引価格は金貨1枚、最安値が銀貨10枚、最高値は金貨2枚、最終取引日は44日前と記録されています。』


「力の指輪か、レアであることは間違いないな。値段が安すぎるのはあれか?壊れていたからとか指輪の正体がわからなかったとかだろう。誰もが鑑定スキルを持っているわけじゃなさそうだし、こりゃ掘り出し物も結構眠ってるんじゃないか?」


思わぬ掘り出し物に思わず独り言が漏れる。


銀貨2枚の壺から金貨1枚のレア品、ぼろ儲けだな。


でも妙なのは同じく鑑定スキルを持っていたあのオッサンがどうしてこのレア品に気づかなかったかだ。


それに鑑定スキルがあるなら市場にあるレア品も見つけ放題だろ?


でもそうじゃない。


そうか、中身がわかってもレアかどうかの見極めが出来ないのか。


俺は相場がわかっているからレアかどうかすぐ察しが付くけど、値段がわからなければ価値があるかどうかも確認できないもんな。


そう考えるとこの相場がわかるのってかなり有利じゃないだろうか。


もしかしたら聞こえてくるこの鑑定内容もあのオッサンにはただの壺ぐらいにしか表示されていないのかもしれない。


とりあえず今日はそれが分かっただけでも大収穫だ。


気づけば陽が城壁の向こうに落ちかけている。


俺はホクホクな気分で三日月亭へと戻るのだった。

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