473.転売屋は従業員の成長を見守る
「よぉメルディ、調子はどうだ?」
「あ、シロウ様!おかげ様で元気いっぱいです。」
「そいつは何よりだ。転売はどうだ?」
「それもまぁまぁです。でも、もうすぐ銀貨50枚溜まるんですよ!」
「中々のペースじゃないか。この分だと来年には完済できそうだな。」
「えへへ、がんばります。」
うちの倉庫番ことメルディだが、元は俺の借金返済を兼ねて仕事をしてもらっている。
そしてもう一つ。
メルディを買ったのには理由があったのを忘れてはいけない。
「ってことで、明日から店番をしてもらうぞ。」
「え?」
「いや、だから店番だっての。別に倉庫番をやらせたくて雇ったんじゃないんだぞ?俺達がいない間に最低限店を回せるようになってもらうために、倉庫を片付けてもらっていたんだ。その方が素材を沢山覚えられるしな。」
「そ、そう言えばそんな事も。」
「この二ヶ月遊んでいたわけじゃないよな?しっかり成果を見せてもらうぞ。」
「うぅ・・・がんばります。」
何とも自信なさげな声を出すメルディを引きずるようにして俺達は店に戻った。
「ただいま。」
「おかえりなさいませ、メルディ様もお疲れ様です。」
「た、ただいま戻りました。」
「今日はメルディに仕事をさせてみたいと思うんだが、構わないか?」
「そろそろ二ヶ月です良い頃合いかと。」
「と、いう事だからまずはミラの横について流れを覚えろ。夕方には一人で受けてもらうからな。」
「えぇ!?一人でですか?」
「なにも装備品を査定しろって言ってるんじゃない、素材を見るだけだ。出来るだろ?」
鑑定スキルがあるならそれも可能だろうが、それなしに装備品を見極めろと言うのは無理な話だ。
だが素材であれば知識でカバーできる。
もちろん間違う事もあるだろうが、それは今後の為の勉強代と思えばいい。
昼休憩を終え、早速午後最初の客がやってきた。
「いらっしゃいませ。」
「い、いらしゃっいませ!」
「あれ?新しい子?かわいいじゃん。」
「うちはそう言う店じゃないんだが?」
「シ、シロウさんいたんっすか?」
「いちゃわるいか?」
「そんなわけないじゃないですか~、い、いやだなぁ~。」
入って来て早々メルディに気付きちょっかいを出す冒険者。
あまりのチャラさに一瞬で石になるメルディ。
確かに冒険者の中にもこういうパリピ的な奴はいるが、まさかしょっぱなから引き当てるとは。
もってるなぁ。
「失礼ながら私も若いと思いますが?」
「もちろんミラさんも若くて綺麗だけどさぁ・・・。」
「だけどなんだよ。」
「なんでもありません!」
「シロウ様はお静かにお願いします。」
「・・・すみませんでした。」
後ろからちょっかいを出すのは止めろと怒られてしまった。
残念だ。
「では品物をどうぞ。」
「今日はこれだ、もちろんミラさんなら高く買ってくれるよな?」
そういいながらチャラ男がカウンターに乗せたのはなんていうか放送禁止になりそうな触手だった。
おい、これを見せて高く買えっていうのはセクハラじゃないか?
どう見てもアダルトな玩具じゃないか。
え、そう見えるのは俺だけ?
「ヒュドラの触手ですね、鮮度も非常に良いようです。」
「だろ?獲れたてだぜ。」
「痛みはなく血抜きもされています。あ、でも毒腺がそのままですね。」
「いっけね、そこまで見てなかった。」
「まぁ切り取ってしまえば害はありません。一本銅貨12枚ですので全部で銅貨84枚になります。」
「え?」
「マジかよ、もっと高値で買ってくれよミラさん。」
「これが妥当な金額かと。それとも横の若い子に見てもらう方がよろしいですか?」
あ、やっぱり怒ってたか。
まだまだ年齢を気にする歳ではないと思うが、横にメルディがいる事で比較されたのが嫌だったんだろう。
若すぎるよりも今ぐらいの方が俺は好きだぞ。
そんな俺の視線を受けはしたがぷいっとそっぽを向かれてしまった。
別に俺は何もしてないんだが・・・。
おいチャラ男、後で覚えてろよ。
「俺が悪かった。この通り、頼むよ!この後龍宮館のお気ににプレゼント買うんだからさ!」
「それは貴方の都合ですよね?メルディさんいくらで買い取りしますか?」
「え、えっと・・・。」
「私の価格は気にしなくて結構です、自分の思ったように答えてください。」
「わかりました。」
おずおずと言った感じで触手に手を伸ばすメルディ。
見た目は完全に犯罪だが向こうは真剣だ。
ぬるぬるとした食感にも物おじせず色々と調べている。
「ヒュドラの触手で間違いありません、買取価格は一本銅貨16枚ですので銀貨1枚と銅貨12枚です。」
「え、マジで!?」
「今の相場を考えるとこの価格で問題ないと思います。」
「やったぜ!ありがとな可愛こちゃん!」
メルディの査定結果はミラのそれを上回る物だったが、ミラは何も言わずに代金を渡しチャラ男は去っていった。
「出過ぎた真似をしてごめんなさい・・・。」
「何がですか?」
「ミラ様の査定結果よりも高い値段を付けちゃいました。」
「それが正しい査定結果なのであれば問題ありません。もちろん安いに越したことはありませんが、我々が損をしなければそれでいいのです。結果として冒険者の利になればいずれまた戻って来るでしょう。」
「ミラの言う通りだ。因みに高くした理由は?」
「ヒュドラの触手は胃腸薬にも使われています、この時期は需要が多いのでわずかですけど高くなるんです。」
「なるほどなぁ、時期的な物か。」
「夏場は逆に下がるのでミラ様の価格が妥当だと思います。」
俺はカウンターの上に乗せられたそれを一本手に取ってみる。
『ヒュドラの触手。毒腺のある触手で獲物に絡みつき体液を吸う魔物。触手は薬の材料に使用される。最近の平均取引価格は銅貨15枚、最安値銅貨13枚最高値銅貨19枚。最終取引日は3日前と記録されています。』
ミラの価格は中央値、メルディの価格は直近の価格になるんだろう。
俺もミラと同じく銅貨15枚の買取価格って所だな。
毒腺の処理は面倒だが、確かアネットが毒腺も調合に使えるとか言っていたので何とかするだろう。
そんな事を考えていると再びベルが鳴り客が入って来た。
「いらっしゃいませ。」
「い、いらっしゃいませ!」
今度は噛まなかったがまだ上手く挨拶が出来ていないな。
ま、何とかなるだろう。
それから四人程捌いた所で査定中に別の客がやってきた。
生憎とミラは査定中。
メルディが助けを乞うような目をしてこちらを見るがあえてスルーする事にした。
「いらっしゃいませ。」
「これを買い取ってくれ、大至急だ。」
「は、はひ!」
そんな時に来るのが超がつくほどの強面をした冒険者だ。
あれだ、10人は余裕で殺してますって顔をしている。
本当に殺してるのかって?
知らん。
知らんが中身は普通のオッサンだ。
見た目は怖いが甘いものに目はない、ちなみに好きな動物は猫だ。
どうしてそんなに詳しいのかって?
飲み友達だからだよ。
入ってきてすぐに俺の方を見たが、事情を察したのか何も言わずにメルディの前に行った。
さぁ、お手並み拝見と行こうか。
ドスンと大きな音を立ててカウンターに乗せられたのは無機質な金属製の何か。
あれは・・・。
見た目には全くわからんぞ。
とはいえ鑑定スキルがあれば一発なんだが・・・。
大丈夫か?
「これは・・・シルバーゴーレムの供給管ですね。」
「ほぉ、見ただけでわかるのか?」
「光沢に艶がありませんし若干酸化が始まっています。ほらここ、断面が錆びてますよね?」
「ふむ。だが俺が倒したのはブルーシルバーゴーレムのはずだ、そっちの間違いじゃないか?」
「え?」
「間違いならだれにでもあるが決めつけはよくない、ましてや触る事もせずに決めつけるのはどういう了見だ?」
査定結果にいちゃもんをつけてくる冒険者は多い。
もちろんこっちは鑑定スキルを使っているので間違えようがないのだが、それでも文句を言う奴はいる。
この人はそうでもないのだが、これは間違いなくワザとだな。
「で、でもこれはシルバーゴーレムです。」
「理由は?」
「ブルーゴーレムなら断面に鮮やかな青い線が出ます。でも、これはそれはありません。」
「ふむ。」
「それに、錆が出ているという事はこの部分に魔力が通っていない証拠になります。ブルーゴーレムは水の魔力が流れる事で淡い青色を帯びますから、それがないということは・・・。」
「わかったわかったそこまで言わなくていい。鑑定スキルもなしに良くそこまでわかるもんだな、嬢ちゃん。」
「えっと、それはつまり・・・。」
「結果に文句はない、いくらだ?」
「ぎ、銀貨5枚と銅貨40枚です。」
強面の冒険者に睨まれてもしっかりと理由を言う事が出来たようだ。
なかなか頑張ったじゃないか。
本人は必死だっただろうが、それがプラスに働いたようだな。
震える手で代金を渡すメルディ。
「また持ってくる、頑張れよ。」
「ありがとうございました!」
元気いっぱいの声でお客様を見送る。
達成感のある顔しやがって、でもまぁネガティブになられるよりかはましだな。
ホッとしたのもつかの間、また新しい客がやって来る。
声をかけてやろうかと思ったがもうその必要もなさそうだ。
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ!」
その日あと4人の客を無事に捌いたメルディは、満足そうな顔で帰って行った。
まずは一歩前進。
将来が楽しみになって来たな。




