4.転売屋は仕事を探す
三日月亭。
ひねりも何にもない看板だったが中身は案外綺麗で、昔スキーに行った時に入ったロッジのような雰囲気だった。
「お一人ですか?」
「あぁ、ダンという冒険者の紹介できたんだけど・・・。」
「え、ダンの紹介?彼帰ってきたんですか?」
「今さっき別れた所だ、どこかに行くって言っていたからまた戻って来るんじゃないかな?」
「ふーん、戻ってきたんだ。」
入って来て早々店員に誘導されるのかと思いきや、ダンの名前を聞いた途端にその人は固まってしまった。
小さい。
誰かの娘・・・て言われても十分通じる小ささだ。
でもこの感じはおそらく違うんだろう。
「リンカ、お客さん待ってるぞ!」
「あ、ごめんなさいマスター。それに、お客さんも。宿を希望してるのよね?」
「あぁ、手続きをしたいんだがどうすればいい?」
「前金で一泊三食付き銀貨1枚だけどどのぐらいいるの?」
「そうだな・・・。」
どのぐらいいればいいだろうか。
ダンにはカッコつけて稼ぐなんて言ってしまったが正直何も考えていない。
まぁ、それを考えるために腰を据えたいってことなんだけど。
「ちょっとお客さん?」
「とりあえず30日かな。」
「さんじゅ・・・ちょっと本気?」
「本気とは?」
「ダンの知り合いなんでしょ、そんなお金あるの?」
「彼とは途中で知り合って護衛してもらっただけで俺は冒険者じゃない。」
「そうなんだ。そうよね、見た感じ武器も何も持ってないし、服はいい感じだから商売でもしに来たの?」
「そんな所だ。」
そういう事にしておこう。
最初に出会った商人も俺の服を見て貴族だと間違えたみたいだが、〇ニクロって高級っぽく見えるんだな。
「30日分前金で銀貨30枚、それだけ長く泊まってくれるならお風呂のお湯は二日に一回サービスしてあげる。」
「おいおいリンカ勝手に決めるなよ。」
「えー、良いでしょマスター久々の上客だよ?」
と、そんなやり取りを奥のカウンターで見ていたのは顎髭がなかなか立派なまさにマスターといった感じの男性だった。
「という事で30日お願いしたい。」
「お客さん名前は?」
「四朗だ。」
「シロウね、珍しい名前だな。仕事で来たのかい?」
「商売をしに出てきたんだが途中で魔物に襲われてね、そこを彼女の知り合いっぽいダンという冒険者に助けられたんだ。」
「そりゃついてたな。前金で銀貨30枚、リンカの言ったようにお湯はサービスしよう。」
「いいのか?」
「ダンの知り合いなら悪い奴じゃないだろう。」
なるほど、結構評判良いんだなダンは。
そういう意味では確かについているのかもしれない。
「これで。」
「金貨か、久々に見たな。」
「え!金貨!見せて見せて!」
前金制ということなのでポケットからなけなしの金貨を取り出してマスターに手渡すと、じゃれついてくるリンカとかいうスタッフをあしらいながら珍しそうに金貨の表裏を確認して・・・噛んだ。
おぉ、金メダリストが噛むふりをするのはテレビで見たことがあるけど本当にするところを見るのは初めてだ。
「本物で間違いなさそうだな。それじゃ、これがおつりの銀貨70枚っと。確認してくれ。」
「・・・確かに。」
「何ならもう少し長く泊まってくれてもいいんだぜ?金払いのいいお客には一杯つけてもいい。」
「そうだな、とりあえず今回分で仕事が軌道に乗れば考えるさ。」
「アンタなら大丈夫だろ。」
「なんでそう思うんだ?」
「俺の長年の勘さ。リンカ、部屋に案内してやってくれ。」
「はーい!さぁシロウさんこっちこっち!」
長年の勘ねぇ。
異世界に来て右も左もわからない状況なんだ、是非そうなることを期待しているよ。
目の前でヒラヒラと揺れるスカートを出来るだけ見ないようにしながら奥の階段を進み二階へと移動する。
中身を見られても気にならないんだろうか。
それとも中身を見られたら金を要求されたりするんだろうか。
わからん。
「さ、シロウさんの部屋はここね。横は空き部屋だから多少うるさくしても大丈夫だよ。」
「別に一人だしうるさくする事も無いだろう。」
「え、女の子呼んだりしないの?」
「そういうサービスもやってるのか?」
「ここに来る男の人はみんな娼館から女の人呼んで楽しんでるからてっきりそうなのかと思って。気を悪くしたのならごめんなさい。」
「別に、気にしてないから安心してくれ。」
「ダンもね、ここに泊まる時は絶対に呼んだりしないのよ。」
へぇ、そういう事。
ダン、俺に顔は負けるかもしれないけど案外やることはやってるじゃないか。
見直したぞ。
「ふーん。そうだ、この街について聞きたいことがあるんだけど構わないか?」
「いいけど、娼館には自分で行ってよ?」
「そういうんじゃない、商店とか露店とかどこにあるか聞きたかっただけさ。」
「まだついたばかりだよ?今日ぐらいゆっくりしたら?」
「時間を持て余すのは嫌いな性分でね、時間がある時に色々と見ておきたいのさ。」
「働き過ぎは体壊すよ。」
「その辺はわきまえているつもりだ。」
「そ、ならいいけど。」
その後軽く教えてもらいひとまず部屋に入った。
六畳ほどの広さに備え付けのタンスとベッドと机が置いてある。
ビジネスホテルみたいな感じだな。
お、クローゼットもあるのか。
下にあるのは固定式の金庫かな?
なんだかここだけは旅館みたいだ。
ベッドに腰かけて聞いた話を整理する。
街の東側に商店が並び、西側には露店が並んでいるらしい。
普通は同じような場所に固まっているものだが、自分の店を持たない流れの商人なんかは露店で商売をしてそれ以外の商人は店を構えるのがこの街のやり方のようだ。
確かに自分の店を持つのも大切だが、色々な場所に行って商売をする楽しさもわかる気がする。
俺も転売であちこち旅したが、その土地その土地の食べ物とか雰囲気とか毎回違うのが楽しかった。
荷物らしい荷物もないのでとりあえず手持ちの銀貨50枚を備え付けの金庫・・・ではなくベッドの下に隠して、残り20枚を持って部屋を出た。
「お、もう出るのか?」
「あぁ、明るいうちに色々と見ておきたくてね。」
「食事は好きな時に声をかけてくれたら準備する。」
「わかった。」
「気をつけてな。」
マスターに鍵を返して宿を後にする。
異世界物のマンガとかではよく中世風の街並みがどうのとか聞くけれど、石畳の道も無ければそれらしい建物もない。
だが目の前を歩く人たちはマンガと同じ、銃刀法違反バリバリの武器をぶら下げている。
一般人ももちろんいるが、ダンジョンがあるせいか冒険者の方が多い気がするな。
大通りを進むと途中で同じような大きな道とぶつかった。
これを右に行けば商店・・・っぽい感じの店がたくさん並んでいるな。
反対はそれらしい建物があるものの奥は広場か何かになってるようだ。
あまりキョロキョロして田舎者っぽく見られても嫌だしとりあえず右にいくか。
大通りを曲がると通りの左右にたくさんの店が並んでいる。
人通りも多く、活気もある。
さすが商売で栄えているだけのことはあるか。
どれ、適当に冷やかしながら行ってみよう。
窓がある店はどういう店なのかが分かりやすいのだが、窓のない店もありそういった所はぶら下がっている看板を目安にして中に入る。
武器・防具・日用品・食品・家具…なんでもあるな。
とりあえずどんな店があるのか確認したかったのもあるが、一番の理由は色々な店に入りながら俺は自分の能力を確認したいからだ。
『鋼の長剣。鉄よりも固く切れ味も鋭い。属性の付与は無し。最近の平均取引価格は銀貨11枚、最安値が銀貨8枚、最高値が銀貨14枚、最終取引日は今日と記録されています。』
『鉄の丸盾。通常よりも小さい分取り回しが効き扱いやすい。わずかな水属性を感知。最近の平均取引価格は銀貨4枚、最安値が銀貨2枚と銅貨50枚、最高値銀貨6枚、最終取引日は2日前と記録されています。』
『ポーション。一般的な回復薬。微量の不純物はあるが問題は無し。最近の平均取引価格は銀貨2枚、最安値が銀貨1枚、最高値が銀貨3枚、最終取引日は今日と記録されています。また各ギルドにて銀貨1枚と銅貨50枚で販売中。』
etc・・・
とまぁこんな感じで店に入るたびに商品を手に取りどういう品なのかを確認していったわけだ。
まず発見したのが、見ただけでは物の値段はわからないという事。
手に取って初めてあのメッセージが表示される。
あと、固定の販売価格があればそれも教えてくれることが分かった。
ポーションや薬草等メジャーな奴は価格が決まっているらしい。
まぁその辺がバラバラだと買う方も大変だからな。
安いのを探す楽しさもあるだろうけど、高いのを吹っ掛けられるよりも固定で買った方がやりやすい。
NPCから買うかプレイヤーから買うか、その辺の違いみたいなものだろう。
と、いう事はだ。
固定買取価格もあるんじゃないかなと考えたわけですよ。
『薬草。もっとも一般的な薬。切り傷打ち身擦り傷等軽微な物であれば患部に張り付ければ即座に効果が出る。ポーションの材料にもなる。多少の劣化はあるが問題なし。最近の平均取引価格は銅貨28枚、最安値が銅貨24枚、最高値が銅貨32枚、最終取引日は今日と記録されています。また各種ギルドにて銅貨15枚で買取り、銅貨30枚で販売されています。』
それで聞いてみたところ、こんな感じの答えが出て来た。
そこで俺は閃いてしまったんだ。
もしかしてこの能力を使えばアレが出来るんじゃないかなってね。