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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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352.転売屋は結果を聞く

ガーネットルージュが大々的に発表されてから二週間が経過した。


そろそろ向こうから初速の報告が上がってくるはず。


そんな事を思っていたらちょうどいいタイミングで手紙が届いた。


差出人はオリンピア・・・の息のかかった商人。


手紙に証人と王家、二つのエンブレムが描かれている。


うぅむ、ドキドキするなぁ。


「って事で出て来る。」


「ルティエ様の所ですね。」


「あぁ、開封するのなら向こうが良いだろう。それにこの事業は今後ルティエ達にぶん投げるしな。」


「せっかく儲かるのに丸投げしちゃうの?」


「あぁ、投げる。こんなめんどくさい事いちいちやってられないからな。俺は買取屋で忙しいんだ。」


「まぁシロウが良いならいいけど。」


「他人に任せて俺には金だけが入って来る、最高だろ?」


「うん知ってた、シロウってそう言う男よね。」


なんだか言い方が気になるがそんな些細な事は気にしない。


事実だしな。


仮に失敗したにしろ成功したにしろ、ガーネットルージュは作り続けるだろう。


その材料はどこから仕入れるのか、もちろん俺だ。


俺はただ材料を卸すだけで金が入ってくる。


もちろん成功すれば大金が入ってくることだろう。


だが、今回の製品は俺が儲けるために作ったわけじゃない。


この製品がルティエ達職人の自信となり、そして生活の糧になればと思ったからだ。


って言えば格好いいのかもしれないが、俺からしてみれば金になれば何でもいい。


職人たちの腕が上がり、注文が増えれば結果として俺の実入りも増える。


笑いが止まりませんなぁ。


「ご主人様が悪い顔をしています。」


「アネット様、いつもの事です。」


「そ、お金のことを考えてるだけよ。」


「悪いか?」


「別に。そのおかげでこうして美味しいご飯にありつけるわけだしね。」


「今更お前から金とるのもなぁ。」


気づけば居候状態。


もちろんエリザから金はもらっていない。


それは俺の女っていう意味もあるが、金はエリザが持って帰ってきた道具や装備の代金からもらっている。


なかなかの稼ぎ頭だ、生活費なんて微々たるものだと思えるぐらいのな。


「まぁ行ってくる。」


「行ってらっしゃいませ。」


「夕方には戻ってきなさいよ、今日の食事当番はシロウなんだから。」


おっとすっかり忘れていた。


ならば急いで用事を済ませるとしよう。


手紙を持ちその足でルティエの店に向かう。


事情を説明すると、あっという間に工房中の職人たちが店の周りに集まった。


「シロウさん、揃いました!」


「そんじゃまお楽しみのお時間だ、ガーネットルージュががどうなったのか覚悟して聞いてくれ。」


皆の前で手紙を開封していく。


全員の視線が俺へと・・・いや手紙に集中する。


『この度のガーネットルージュですが、即日完売し予約注文が多数寄せられています。他の品と見比べましても、この度のガーネットルージュはどれも品質が良く何より細工の細かさ、仕事の丁寧さには目を瞠るばかりです。我々も数多くの作品を拝見してまいりましたが、この度の品はその中でも群を抜いた出来であり、このような品を任せていただいたことを誇りに思います。』


「えっと・・・それってつまり?」


「おいおい今の文面でわかれよ、大成功だよ。お前らの頑張りが王都で認められたんだ。誇っていいぞ、俺たちは認められた。王都なんて場所でも十分にやっていけることが証明されたんだ。」


「やっ・・・。」


「「「「「たぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」」」


通りに職人たちの歓声が響く。


それはもう大きな声で。


窓ガラスがバリバリと揺れるぐらいの声だ。


思わず両手で耳をふさいだために手紙を落としてしまったぐらいだ。


落とした手紙を拾おうとすると、二枚目があることに気が付いた。


「お、まだあるぞ。『つきましては大至急追加の品をお送りいただきたく、おおよその納期でも結構です、わかり次第ギルド協会を通じてご連絡ください。お返事お待ちしております。』だ、そうだ。おいおい、こりゃ大変なことになったな。」


そんな言葉に気づくこともなく、職人たちはお互いの肩を叩きあって大喜びしている。


まぁ、せっかく盛り上がっているのに水を差すのは悪いな。


しばらく様子を見るか。


えーっと、ルティエはっと。


今回のチームリーダーでもあるルティエを探してみる。


おかしい、さっきまで横にいたのに・・・・って、いた。


職人たちにもみくちゃにされている。


その目は真っ赤に充血し、涙がぽろぽろとこぼれていた。


決して悔しさから流れ出る涙ではない。


嬉しさと喜びに感情がついていけなくなった。


そんな涙だ。


うんうん、よかったなぁ。


俺も鼻が高い。


なんて言うと思うか?


しばらく様子を見ていた俺だが、いい加減話を進めたいのでパンパンと大きな音を鳴らして手を叩いた。


ジンジンして痛い。


「よし、こっちを向いたな。続きがあるからもう一度読むぞ。『つきましては大至急追加の品をお送りいただきたく、おおよその納期でも結構です、わかり次第ギルド協会を通じてご連絡ください。お返事お待ちしております。』だとよ。」


「えっと?」


「しっかりしろよお前ら。王都なんて場所で認められ、さらには追加注文なんて来てるんだ。それがどういう意味か分かるよな?」


「認められた?」


「それだけじゃない、責任が出来たんだよ。ガーネットルージュを楽しみに待つ多くの人たちに品質を落とさずに追加の品を届ける。さらに新作を作り、送り届ける責任がな。一回やって終わりじゃないぞ、何回も何回も同じ品質の物、いやそれ以上の物を届ける責任がお前たちにはあるんだ。その意味が解るか?」


ゴクリ、と誰かが唾をのむ音がする。


それが聞こえるぐらいに静まり返ってしまった。


「今回は俺も関わったが、次回以降は自分達で全部やってもらう。もちろん材料は用意しよう。だが、デザインを考え、加工し、出荷する。今回は珍しい物って事で客がついたが、今後はその客を飽きさせない工夫をし続けなければならない。言ったよな、やるからには相応の覚悟がいるぞと。自分たちの作品を作る暇がないぐらいに忙しくなるかもしれないって。ルティエ、今出来てるのはどのぐらいだ?」


「えぇっと・・・200個ぐらい。」


「先方にはなんて連絡するんだ?」


「とりあえず200個?」


「足りると思うか?」


「・・・わかりません。」


「なら確認しろ。相手がどのぐらい求めていて、いつまでに欲しいのか。それに間に合うのか間に合わないのか。自分で出来ないなら仲間に頼れ、ここにいる全員が責任者だ。わかったか?わかったのならすぐに動けよ。」


「は、はい!」


事の重大さを理解したんだろう。


職人たちの顔がどんどんと青ざめていく。


自分達の作品が認められた、だけで満足してはいけない。


それを届け続けることも大切なんだ。


それがわかっただけでも一歩前進だな。


「まぁ、わからなくなったら遠慮なく聞きに来い。助言ぐらいはしてやる。俺だけじゃない、マリーさんもハーシェさんもいる。聞くのは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言うしな。ともかく成功したんだ、良かったじゃないか。」


「うぅ、今の話を聞いたら喜んでいいのかわからなくなったよぉ。」


「涙貝の時と一緒だと思え。自分たちの方が立場が上だ、だが胡坐はかくな。常にスケジュールに余裕を持って行動しろ。一か月でどのぐらい作れるのか、納品するのにどのぐらいかかるのか逆算すればおのずと答えは見えてくる。それに加えて休みはどのぐらい必要か、緊急時は誰を責任者にすればいいか。前は一人だったが今後は全員分するだけだ。簡単だろ?」


「簡単じゃない!」


「じゃあ仲間に頼れ。自分と同じ責任者を作れ、押し付けあうなよ話し合え。俺が言えるのはこれだけだ。さ~て、俺は帰って飯でも作るかな。」


「えぇ!帰っちゃうの!?」


「だって俺、食事当番だし。今日は何にするかなぁ、露店で何売ってるか見に行くとするか。」


「せめてこの後何すればいいかだけ教えてくださいよぉ。」


「泣き言言うなよ。言っただろ、責任者を話し合って決めろ。それと、先方への連絡だな、そもそもどのぐらい必要なのかがわからなきゃ話にならない。それを聞いたのちに具体的な話が決まるが・・・俺の予想だと千は固いな。」


「センって?」


「千個だよ。」


「せ・・・!」


数の多さにルティエが目を大きく見開き、そして倒れた。


横にいたディアスとフェイが慌てて抱き留めるも、本人たちの顔も真っ青だ。


その様子を見て他の職人達も青から白に顔色が変わっていき・・・そして倒れた。


はぁ、先が思いやられる。


固まった職人たちを置いて俺は露店へと向かう。


大成功を祝して今日は奮発するとしよう。


ちょうどワイルドボアの肉が安売りしていたので大量に買い込んだ。


その足でモーリスさんの店に行き、醤油を買う。


おっと、キャベツも忘れちゃいけないな。


一緒にパン粉と卵を買ったら買い物は終了だ。


後は店に戻って・・・。


「あ、帰ってきた!」


「逃がすな!」


店が見えてきたところで、俺の姿を見つけた何者かの声が聞こえてきた。


あれは確か職人連中の・・・。


「シロウ逃げて!」


「は?」


「シロウ様お逃げください!このままでは晩御飯が!」


「おいおい何事だよ。」


店から飛び出してきたエリザとミラが職人連中を引き止めながら叫ぶ。


「シロウさん逃がしません!」


その間を縫うようにしてルティエが飛び出し、猛スピードで突っ込んできた。


やばい。


猛獣の目をしたそいつはあっという間に俺に接近し、そしてタックルをかましてくる。


突然のことに受け身が取れず、卵が宙を舞った。


俺の卵。


そいつらが地面に落下する前に別の職人が鮮やかな手さばきで卵をキャッチした。


「卵確保しました!」


「シロウさんも確保!このまま引きずっていくから誰か手伝って!」


「おい、ルティエ。」


「文句は後で聞きます!とにかく一緒にギルド協会に来てください!」


いや来てくださいって。


抵抗しようと思ったらこれまた別の職人が俺のかばんを奪っていった。


そしてその場で中身を空ける。


「食材はワイルドボアの肉にキャベツ、卵にパン粉、醤油です!」


「ということはカツですね!料理のできる子はシロウさんのお店で調理!返事!」


「出来ます!」


「私も!」


「オッケー!美味しいの作らないとエリザさんが許さないから心して作るように!フェイ、ディアス行くよ!」


「おぅ!」


「シロウさんには悪いが、協力してもらうアル。」


ルティエが立ち上がったと思ったら今度はフェイとディアスが俺の両脇をがっちりとホールドした。


「お前らなぁ、俺が何を言ったか聞いてたか?」


「聞くのは一時の恥、聞かぬは一生の恥だよな?」


「だから聞きに来たアル。ついでに助言をもらうべく一緒に来てもらうアル。今日はとことん付き合ってもらうから覚悟するアルよ。」


「はぁ・・・まさか実力行使でくるとは。」


「元はといえばシロウさんから始まったんです。もちろん私達も頑張りますけど、うまくいくまでは付き合ってもらいますから覚悟してくださいね!」


確かに俺から始まった。


で、軌道に乗ったから手放そうと思ったんだが、どうやらそれは許してもらえないらしい。


はぁ、仕方ない途中まで一緒に伴走してやるか。


それもまた俺の仕事ってね。

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