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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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274.転売屋は誕生日を祝われる

雨が降っていた。


ここ最近では珍しい激しい降り方に思わずため息が出る。


「こりゃ客は来ないな。」


「すごい雨ですね。」


「あぁ、ここ最近じゃ一番の雨だろう。昨日はあんなに晴れていたのになぁ。」


「この前のお昼寝、最高でしたね。」


「また時間があれば行くか。」


「それなら色々と置きたいですね、倉庫も整理しましたし机とか椅子とか食器とか。」


まぁ気持ちは分かる。


この時期と秋口は最高の休憩スポットになる事だろう。


もちろん冬と夏は無理だ。


熱い鉄板の上で寝るとか自殺行為以外の何物でもない。


遮蔽物もないし、冬は強風で凍えてしまう事だろう。


「まるで秘密基地だな。」


「男性ってそういうの好きですよね。」


「まぁな。周りにもいたか?」


「子供の時にはそういうのを作って遊んでいました。あ、私じゃなくて周りの男の子たちが。」


「俺の周りじゃ女の子も混ざっていた気がするなぁ。まぁ、あの頃は男女なんて関係なかったが。」


小学校低学年までは男女の関りなんて意識する物じゃなかった。


だが高学年になり自分の性を認識するようになると、そういうのから必然的に離れていくのだろう。


「たっだいまー!」


「お帰りなさいエリザ様。」


「も~!すっごい雨!靴の中までびしょびしょよ。」


「お風呂は沸いております、どうぞ先に温まってください。今日は冷えますから。」


「そうさせてもらうわ。」


エリザがちらっとこっちを見てから二階へと上がって行った。


何だったんだろうか。


「どこに行ってたんだ?」


「お買い物だと聞いています。」


「この雨の中で?」


「欲しい物があったのではないでしょうか。」


「ふ~ん。」


そこまでして欲しい物ねぇ。


武器や防具の類は俺から買うからそれ以外の物、食い物か酒か。


まぁそんな所だろう。


食費は俺が出しているが酒代は自腹だ。


エリザの稼ぎがあれば宿代までもらってもいいんだろうが、その辺はもうなぁなぁになってしまった。


だから酒代だけは出して貰うようにしている。


そうしないと際限なく飲むからな、あいつは。


「俺はこの雨の中出るのは・・・無理だな。」


「シロウ様は濡れるのがお嫌いですか?」


「そういうわけじゃない。むしろ夏の小雨程度なら傘無しで歩いていいと思っている。だがこの雨はなぁ、突然降られたのならともかくこの状況で出るのは億劫だ。」


「私もこの雨はちょっと。」


「私は逆にこの雨なら出たくなりますね。」


お、アネットは違うようだ。


「雨が好きなのか?」


「これぐらいの雨だとむしろ楽しくありませんか?」


「いや、別に楽しくは無いが・・・。」


「やっぱり私だけなんですかねぇ・・・。あの雨のぶつかる音以外が聞こえない状況って好きなんですけど。」


確かに傘に当たるザーーーって音は他の音をかき消してくれるけど・・・。


そこまでストイックに何かを考えることってあんまりないんだよなぁ。


思いにふける事も考えることも無い。


お気楽な人生だったもんで。


「あ~、温かかった。」


それからしばらくして首からタオルをぶら下げたエリザが戻ってきた。


いつもよりも生地が薄い服を着ている。


この間作ってもらったんだろう、若干ボディーラインが透けて見えるが外出するわけでは 

ないので別にいいだろう。


「雨の中大変だったな。」


「まぁね。」


「何買いに行ってたんだ?」


「え~、内緒。」


「どうせ酒だろ?」


「違うわよ!」


てっきりそうだと思ったんだが・・・。


じゃあ甘いものだな。


「お、違ったか。じゃあ甘いものだな。」


「だから違うって!」


「ふむ、それも違うのか。」


「別に私が何買いに行っても構わないでしょ!」


「ま、それもそうだ。お前がどこで何を買おうが知ったこっちゃない。」


「その言い方は何か傷つくんだけど。」


「もちろん、他の男に貢ぐ品なのであれば出て行ってもらう事も考えるが・・・。」


「馬鹿!そんなわけないじゃない!シロウの誕生日プレゼ・・・あ。」


ん?


今なんて言った?


誕生日とかそんなこと言ってなかったか?


慌てて口をふさぐエリザと、目を丸くするアネット。


ミラはいつもと同じ感じだが、エリザにと注いだ香茶が溢れそうになっている所から察するに動揺はしているようだ。


火傷するなよ。


「そうか、誕生日か。すっかり忘れてた。」


「みんなごめ~ん。」


「今のは仕方ありません、シロウ様が上手だっただけです。」


「むしろこの雨の中買いに行って頂いたというのに、お詫びするのはこちらの方です。」


女達はエリザの傍に集まり慰め合っていた。


エリザが買いに行ったのは俺の誕生日プレゼント。


言われるまで自分の誕生日なんてすっかり忘れていた。


女達の誕生日はちゃんと覚えていたんだけどなぁ。


年末はミラの誕生日を盛大に?祝ったし、プレゼントも渡した。


あの時渡したブレスレットは今もミラの腕で輝いている。


ルティエ手製の一品もの。


値は張ったが、中々の品を仕上げてくれた。


「そういや、俺の誕生日はいつも雨だなぁ。」


「え、そうなの?」


「あぁ。これまで晴れた事なんて数えるほどしかないんじゃないか?」


「それは知りませんでした。」


「なんだか可哀想。」


「別にそうでもないぞ?出かけることは出来ないが、その分美味いものは食べれる。」


「ふふ、シロウらしい。」


「で、何を買ってきてくれたんだ?」


「え~、どうしようかなぁ。」


まさかこの場において出し惜しみか?


バレたんだから別にいいじゃないか。


「エリザ様、構いませんよ。」


「え、でも・・・。」


「この雨でしたらお客が来ることは無いでしょう。今日は店じまいです。」


「おいおい、勝手に決めるなよ。」


「いいえ、今決めました。なのでシロウ様は会計をお願いします。私とアネットは準備がありますので。エリザ様、足止めをお願いします。」


「わかった、二人がそういうのなら任せといて。」


「じゃあ行ってきますね!」


なんだかうれしそうにミラとアネットが二階へ上がり、番をするようにエリザが階段に腰かける。


「何をするつもりだ?」


「な~いしょ。ほら、さっさと店じまいしちゃってよね。」


「そもそもそんなに客が来てないから時間はかからないが・・・。」


「私は動けないから閉店の札もしておいてね。あと、誰が来ても鍵はあけちゃダメ。わかった?」


「わかったわかった。」


これ以上何か言うと煩そうなので仕方なく片づけを始める。


言われた通り札を出し、鍵を閉めてカーテンを閉める。


帳簿を合わせて金をしまえばこれでおしまいだ。


本当であれば買い取った品々を倉庫に運ぶのだが、この雨の中裏庭を歩くのはイヤなので店に積み上げてある。


匂いがひどいわけでもないので明日でいいだろう。


「こっちは終わったんだが?」


「えーっと・・・まだみたい。」


「ずいぶん時間が掛かるんだな。」


「女の準備には時間が掛かるのよ。ちなみに私も後で上に行くから、来ちゃ駄目よ。」


「なんだそれ。」


そこまで言われると余計に気になるじゃないか。


することが無くなってしまったので夕飯の準備を先に始める。


今日は俺の当番だった。


誕生日だと覚えていたら少しは豪華にしたかもしれないが、生憎今日は質素な感じだ。


まぁ俺らしくていいじゃないか。


「エリザ様どうぞ。」


「は~い。シロウ、呼ぶまで上がっちゃ駄目よ?駄目だからね?」


「はいはい上がらないって。」


どこぞの芸人みたいな言い方をするが、本当に上がると後が怖いので大人しく待つ。


家主なのに好きに出来ないとは・・・。


こんな時は手を動かすしかないよな。


食材を切り、後は炒めて終わりというタイミングで上からお呼びがかかった。


「もういいわよ~!」


「はいはいっと。」


手を拭き二階への階段を上っていく。


まだ明るい時間のはずなのに、上はカーテンが閉められて薄暗くなっていた。


「おい、暗いぞ。」


「いいからこっちこっち。」


声は寝室の方から聞こえてくる。


まさか。


いや、流石にそれはベタだろう。


それにそれなら準備なんて必要な・・・。


そんな事を考えながら寝室のドアを開けた俺を待っていたのは。


「ど、どう?」


「いかがでしょう。」


「どうですか、シロウ様。」


こんな衣装いつ作ったんだよって全力でツッコミを入れたくなる、セクシーでスケスケなランジェリーを身に着けた三人だった。


エリザが赤、ミラが青、アネットが黄色。


隠すための要素が一切排除されたそれは、三人の裸体をより淫らにそして美しくうつしだしていた。


「は、反応が無いんだけど。」


「ちょっと過激すぎましたかね。」


「でもミラ様がこのぐらいの方がいいって・・・。」


そしてまさかのミラの発案ですか。


てっきりエリザ辺りかと思っていたんだが。


「はっきり言うぞ。」


ごくりと三人が唾をのむ音がする。


「俺好み過ぎて今にも襲い掛かりたいんだが、そうしていいって事だよな。」


「ばか!そんなこと聞かなくてもいいでしょ!」


「ったく、まだ明るい時間だってのに。覚悟しろよお前等。」


「えへへ、そういうと思ってお薬も準備してます。」


「いやそれは大丈夫だ。」


「え~!飲みなさいよ。」


「夕飯は申し訳ありませんがキャンセルです。シロウ様、どうぞ私達をお召し上がりください。そして・・・。」


「「「お誕生日おめでとう。」」」


こんなベタな誕生日プレゼントが今まであっただろうか。


まったく、これだからうちの女達は。


俺がどれだけお前達を好いているのか、どうやらわかっていないようだ。


よろしい、そっちがそのつもりなら思い知らせてやる。


ただし、薬は無しでな。


雨音がさっきよりも激しくなり、部屋の戸を閉める音もかき消されてしまった。


誕生日は雨ばかりだ。


だが、今日ほどそれを嬉しく思った日は今までの人生で一度も無かったと思う。


雨は一晩中降り続け、そして翌朝何事も無かったかのように太陽が顔を出すのだった。


で、エリザが買いに行ったのはその衣装なのか?


それとも別の物なのか?


それだけは最後までわからなかった。

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