2.転売屋は冒険者と出会う
辺りは真っ暗で何も見えない。
ってわけでもなく、太陽が沈んでからのぼってきた月はかなり大きくそして満月だったおかげで案外明かり無しでも前には進めた。
それでも10m先になると真っ暗で何も見えない。
リーリーとどこかで聞いたような虫が鳴いているぐらいで行けどもいけども何もなし。
「すげーな、星ってこんなに見えるもんなのか。」
満月の明かりがあるにもかかわらず頭上の星々は思い思いに光り輝いていた。
この間はサソリ座が見えた記憶があるんだが、どこを探してもそれらしいものはないな。
時期的にまだ見えてもいいはずなんだが、それが見えないとなると異世界という可能性も高くなってくる。
そりゃそうだ、昨日見えたものが見えないなんて普通はあり得ない。
仮に地球の反対側に連れて行かれていたとしても、そこには宿敵のオリオン座がいるはずだ。
だが残念な事にそれらしい星が見える事はなかった。
「つまりそこから導き出される答えは、やはりここは異世界だという事だ。」
俺がそう結論付けたのにはもう一つ理由がある。
道中イライラした俺が足元に転がっていた石を拾った時だった。
『石。どこにでもある石。鉱物の含有は無し。最近の平均取引価格は銅貨1枚、最安値が銅貨1枚、最高値が銅貨1枚、最終取引日は180日前と記録されています。』
拾った瞬間またあの無機質な声が聞こえて来る。
さっきは値段を聞いてからだったのだが、今回はモノを拾ったら聞こえて来た。
それを確認したくて俺は手当たり次第に足元の石を拾いまくる。
『石。どこにでもある石。鉱物の含有は無し。最近の平均取引価格は銅貨1枚、最安値が銅貨1枚、最高値が銅貨1枚、最終取引日は180日前と記録されています。』
『石。どこにでもある石。鉱物の含有は無し。最近の平均取引価格は銅貨1枚、最安値が銅貨1枚、最高値が銅貨1枚、最終取引日は180日前と記録されています。』
『石。どこにでもある石。鉱物の含有は無し。最近の平均取引価格は銅貨1枚、最安値が銅貨1枚、最高値が銅貨1枚、最終取引日は180日前と記録されています。』
・・・
・・
・
どれだけ拾っても同じ返事。
途中草を拾ってみると、
『草。どこにでもある草。その他の成分は検出されず。最近の平均取引価格は銅貨1枚、最安値が銅貨1枚、最高値が銅貨1枚、最終取引日は54日前と記録されています。』
今度はちゃんと草バージョンの返事が返って来た。
つまりこの声は物を拾った時に自動で発生するシステムメッセージのような物。
「この草はいくらなんだ?」
『草。どこにでもある草。その他の成分は検出されず。最近の平均取引価格は銅貨1枚、最安値が銅貨1枚、最高値が銅貨1枚、最終取引日は54日前と記録されています。』
値段を聞いても同じメッセージを返してくることもわかった。
これで聞き流しても再度確認する事が出来る。
ありがたい。
一番面白かったのは一度値段を確認すると、視覚的にそれが見える事だ。
そこら中にある石の上に数字の1が乱立するという狂気。
それが見えだした瞬間気が狂うんじゃないかと思ったが、引っ込めと念じるとそれは一瞬して見えなくなった。
それどころか部分的に呼び出す事も出来るらしい。
面白い。
途中値段の違う石があったので拾ってみると、
『石。どこにでもある石。微量の鉄分を含む。最近の平均取引価格は銅貨3枚、最安値が銅貨1枚、最高値が銅貨5枚、最終取引日は7日前と記録されています。』
鉄分を含む石は多少価値が高いらしい。
それも反映されるんだからなかなか優れものだ。
だが気になっているのは、誰がどのようにしてこの値段を調査しているのかという事だ。
販売価格はまぁわかる。
ゲームでも鑑定というスキルがあって、それを念じればモノの値段や種類が分かるんだ。
それがあるかないかだけでも、ゲームのはかどり方が全然違ったと記憶している。
特に好んでハクスラ系のゲームをやった時なんかは特性がモノによって違う事が多く、持ち帰ったものの中身がゴミだったなんてのはよくある話だ。
だが、現地でそれを見極めればゴミを持ち帰ることはなくなり結果より多くの利益を上げる事が出来た。
自分で持ち帰ったものを売る系のゲームでは特に重宝したな。
おそらくそれと同じようなスキルみたいなやつが働いているんだろうと想像はできる。
だが、相場はどうだ?
まるでマーケットボードがあってそこから履歴をすべて抽出、その結果を聞かされているかのようだ。
学生の時にハマったPCのMMORPGでは相場サイトとにらめっこしながらモノを売ったり買ったりした記憶がある。
あそこからだな、俺が転売屋として目覚めたのは。
それ以降ゲームの中ではなく現実世界にそれを持ち出して、色々手広くやったものだ。
もしこの世界でもそう言った事が出来るのならば、面白いかもしれないなぁ。
「だがそれも街かどこかに無事についてからの話だ。何もないこんな場所でも魔物とエンカウントするなんて事はよくある話で・・・。」
何て言ったその時
「ウォォォォン!」
どこか遠くからオオカミの遠吠えが聞こえて来た。
いや、この世界ではオオカミかどうかすらわからないがそこら中から聞こえてくる虫の声じゃないのだけは確かだ。
ヤバイ。
今手元に武器になるようなものは何もないぞ。
この装備だって火属性の加護を与えるかなんかだけで防御力が上がるとは言ってなかったし・・・。
えぇい、とりあえず着けてないよりかはましだ!
俺はネックレスを首からぶら下げ胸元にしまい込み、静かに辺りを見渡してみる。
遠吠えは時々聞こえて来るが、かなり距離があるように感じる。
このまま何事もなくどこかに行ってくれたら・・・。
「ウォォォン」
と、今度はさっきと反対の方向から遠吠えが聞こえて来て
「ウォォォォン!」
さらにそれに反応するように最初に聞こえた方から返事が帰って来る。
これってさ、もしかしてここに居るぞって合図してるんじゃないの。
マジで勘弁してくれよ!
オオカミに食い殺される自分を想像した瞬間、何故か俺は走り出していた。
とりあえず走る。
どうにかなるかわからないけど走る。
走る走る走る走る走る!
全速力で体力の続く限り俺は走り続けた。
だが体力は無限ではない。
バテる!
だんだんと息が上がり速度が落ち、そして肩で息をしながら俺は歩いていた。
しゃべる事すらできない。
のどが渇いた。
それでも今までの俺では考えられないような距離を走れた気がする。
これも火事場の馬鹿力という奴なんだろうか。
そんなことを考えていると、再びあの遠吠えが聞こえて来た。
それもかなり距離が近い。
「やばい、マジで食い殺される。」
そう思うとどこにそんな力が残されていたのか、俺は再び走り出していた。
肉食獣に追いかけられる草食動物の映像を思い浮かべる。
脚を噛まれ、喉を潰され、そして腸を食われる哀れな獣。
オッサンを食ったってうまくないんだからな!
なんて叫びそうになった俺の目に、突然オレンジ色の明かりが飛び込んできた。
夕日のように鮮やかなオレンジ色。
そこだけが闇に染まらず煌々と光り輝いて闇を払っていた。
誰かいる!
それが盗賊でも誰でも構わない。
盗賊ならペンダントを上げればいい。
そうでないのなら・・・!
ともかく俺は一縷の望みをかけてその光の下へと走り続けた。
「すみません助けてください!」
最後の力を振り絞ってそこまで走り、滑り込むように焚火で暖を取る若者に頭を下げる。
ジャンピング土下座的な奴をやる日が来るとは思いもしなかったぜ。
「な、なんだ!?」
「魔物に追われているんです!命からがらどうにかここまでたどり着いて・・・。」
「お前一人なのか?他の連中はどうした。」
「他の連中?」
「まさかこの大草原を一人で歩くバカはいないだろ。一人でもせめて馬車がないと。」
なるほど、ここは大草原というのか。
そしてそこを一人で歩くバカはいないと。
いや、そのバカなんですけども。
その時、再びあの遠吠えが耳に入っていた。
それを聞いた途端につい反射的に身をかがめてしまう。
その様子がおかしかったのかその若者・・・青年は大きな声を出して笑いだした。
「火を焚いてたらここまでは来ないよ、それにあいつらは魔物じゃないただの犬だ。」
「犬?」
「あれに魔素が入り込んだら魔物になるけど、今はまだ犬だな。」
引っかかる言い方だがここまで来ないのなら一安心だ。
ホッと息を吐き緊張の糸が切れ脱力する。
「その様子じゃ大変な目に遭ったみたいだな、ほらこれでも飲んで元気出せよ。自分だけでも生きていたならそれでいいじゃないか。」
「あ、えぇ、まぁ・・・。」
青年はカバンから別のカップを取り出すと火の傍に置いていたポットから何かを注いで手渡してくれた。
若干薬臭い感じはするが毒ではないんだろう。
「俺はダンってんだ、あんたは?」
「四郎だ。」
「シロウか、よろしくな。」
差し出された手をカップを持たない手で慌てて握り返す。
その様子がおかしかったのか青年・・・ダンはまた笑った。
若いのに随分と愛想がいい。
今時の若者にしては珍しいな。
手を放しカップを口に付けると匂いとは裏腹にすっきりとした紅茶のような味わいだった。
「あぁ、生き返る。」
「若いのに苦労してるんだな。まぁ、まだ人生長いんだしこれからいいことあるって。」
「いや、若くないとおもうぞ。」
「じゃあハーフかなにかなのか?見た感じ耳も長くないけど。」
「生粋の日本人だとおもうが・・・。」
「ニホンジン?よくわからないなぁ、その顔で若くないって言われたら俺なんてオッサンになっちまうよ。」
そう言いながらダンは横に置いていた盾のようなものを俺に向けてきた。
焚火の光に反射してオレンジ色に輝くそれは、デコボコしているが良く磨かれていて俺の顔が良く見える。
「嘘、だろ?」
そこに写っていたのは若かりし頃の俺、20代の時の顔がそこにいた。