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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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1750/1767

1743.転売屋は蜂蜜を手に入れる

感謝祭が近づき寒い日が続いている。


風も強く漁に出れない日が続いているせいか、漁師たちはこぞってアグリの手伝いに来てくれていた。


おかげで開墾は急ピッチで進みこの間作った貝殻の粉末が土に混ぜられていく。


後はまとまった雨が降ると塩が少しずつ排出されていくらしいのだが、これで土がよくなると考えた人ってすごいよなぁ。


「え、今日の仕事はないの?」


「あまり耕しすぎても管理が出来ませんので・・・申し訳ありません。」


「どうやって今日の分稼ぐ?」


「シロウ様が言ってた貝を拾いに行くぐらいしかないか。」


「それも飽きるんだよなぁ。」


「わかる、地味な分だけ実入りも少ないしかといって釣りをするのもなぁ。」


仕事にあぶれたと思しき若者二人組がとぼとぼとアグリの畑から戻ってきた。


まだまだやる気に満ち溢れていて今が一番楽しいっていう感じなんだろうなぁ。


今までも仕事がなかった日なんてたくさんあっただろうけど今までは大抵飲んだくれているかゴロゴロするだけだったんだとか。


それが色々と仕事をしていく中で働くのが楽しくなったのかはたまた収入が増えるのが嬉しいのかはわからないけれど、ともかく彼らが自主的に働くようになっている。


一応別の仕事を用意しているもののどうやらその仕事も飽きてしまったようだ。


まぁ普段荒波に揉まれながら漁をしている彼らに貝殻を拾ってこいっていうのも酷というもの、とはいえダンジョンに潜らせるってのもちょっと違うよなぁ。


「あ、シロウさん!」


「仕事がないんだって?」


「そうなんですよ、耕しすぎてもよくないらしくて。何かいい仕事ないですかね。」


「こまごまとした仕事はあるがそういうのは嫌なんだろ?」


「嫌っていうかあまり向いてないっていうか、贅沢なのはわかってるんですけどもっとガッツリ体を動かしたいんです。」


ガッツリ体を動かすねぇ・・・。


そうなるとやはり土木作業になるんだけど、開墾の他にどこかを直すとかそういう予定もないので残念ながら力になれそうにない。


いや、一つなくはないんだがそれを受けてくれるかどうかは話が別だ。


「ダンジョンとかはいかないのか?」


「んー、別に魔物と戦いたいわけじゃないんで。」


「まぁそうだよなぁ。」


漁に出ているときに襲ってくる魔物は致し方ないとはいえわざわざ自分から魔物を倒すことはしない。


折角屈強な体をしているんだから向いていると思うんだけど、どうやらそういうわけではないらしい。


「何かあるんですか?」


「いやな、さっき面白い話を聞いたんで誰かに行ってもらおうと思ってたんだ。」


「面白い話?」


「ロックビーって知ってるか?」


「知ってますよ、海辺に巣を作るおっきな蜂ですよね。」


「蜜が少ししょっぱくてそれがまた美味いんだよな。」


どうやらこの辺では有名な魔物らしいが、さっき市場をうろついていた時に初めてその名前を耳にした。


キキに聞くとわざわざ人を襲うことはしないらしいけど、海面すれすれ岩場に巣を作るらしく普通の人では近づけないんだとか。


もちろん巣を狙ってきたら攻撃してくるけれども海中に潜ってしまえば襲われる心配もないので、そこまで危険はない・・・と言われている。


「どうやらそいつが近くの岩場に巣を作ったらしい。領主としては放置して巣が大きくなる前に何とかしたいんだが、場所が場所だけに冒険者を派遣するわけにもいかないしそもそも泳ぎが得意な奴じゃないと頼めないんだよなぁ。」


「それで俺達に声をかけたってわけだ。」


「そういうことだ。外海は荒れていてもこの辺はまだそこまで荒れてないし、場所もすぐ近くだから小遣い稼ぎにぴったりだと思うんだけども、どうする?」


「どうするって言われても・・・。」


「なぁ?」


二人で顔を見合わせる若い二人組。


絶対にやりたくないという感じではないけれど決め手がなさ過ぎて答えを出せないという感じだろうか。


さっきは領主としてみたいな言い方をしたけれど、ぶっちゃけた話俺が食べてみたいのでお願いしたいってのもある。


加えてダンジョン街で聞いたことのない食べ物ってことは向こうでも人気が出るかもしれないのでそこも含めて頼んでみたいところだ。


二人の反応からするに可能性はゼロじゃない、じゃあ俺が出せるカードは【金】ただ一つ。


「ちなみに取りに行ってくれるだけで銀貨2枚、回収した巣一つにつき別途銀貨2枚出そう。」


「え!ってことは取れなくても銀貨4枚も貰えるんですか?」


「この寒い時期に海に入らせるんだ。まぁ、二人からすれば慣れたもんかもしれないが普通に考えればこれぐらいは必要だろう。巣に関しては多少水没しても問題ないらしいが可能なら一つずつ袋に入れてもらえると助かる。報告によればそこそこの数があるらしいから一儲けするチャンスかもしれないぞ。」


「やります!」


「俺も!」


金儲けできると聞いて俄然やる気を出した二人、依頼料相場からすると若干高めの報酬ではあるけれど欲しいものを手に入れるとなればこのぐらいの出費は致し方ないだろう。


巣の代金だけで考えれば銀貨2枚はむしろ破格、依頼料と相殺すればちょうどいい感じになるはずだ。


そんなわけで二人に回収を依頼して俺は屋敷で待つことに。


様子を見に行くことも考えたんだが、巣を荒らされた蜂に襲われるのも嫌だったので後は実力ある彼らに任せるとしよう。


彼らもいい大人なんだし危険は百も承知、っていうかこの世界で依頼を出せば受ける側は命の危険を感じるのはむしろ当たり前なのでその辺を気に病んでいたら先に進まない。


そんなわけで待つこと数時間。


そろそろ太陽がオレンジ色に染まる頃、彼らが屋敷に戻ってくるのが見えた。


「お!無事に戻ってきたな。」


「見てくださいよあの量!」


「まさかあんなにデカい巣があるとは思わなかったんですけど、やってやりましたよ。もちろん全部買ってくれるんですよね?」


「もちろん、領主が依頼を出して約束を破ったんじゃ示しがつかないからな。とはいえ俺も商人の端くれ、現物は確認させてもらうぞ。」


屋敷前に止められた荷車にはこれでもか!という量の巣がビッガフロッグの頬袋に入れられて積み込まれていた。


その数全部で14、大きいとは聞いていたがまさかこんなにあるとは思わなかった。


普通のハチの巣と違って銀色に輝く六角形、不思議と蜂蜜が垂れている感じはなく巣の中にしっかり残っているようだ。


『ロックビーの巣。海面近くの岩場に生息するロックビーは、周囲の花の蜜の他にも果実等の果汁や蜜を収集して巣に持って帰る。海面近くに巣を作るのは外敵に狙われないためと、果実のゴミを海中に捨てる為と考えられているが定かではない。最近の平均取引価格は銀貨3枚、最安値銀貨2枚、最高値銀貨5枚、最終取引日は7日前と記録されています。』


ふむ、物は間違いなさそうだな。


試しに巣に指を差し込むとわずかな抵抗の後中から黄金の蜜があふれ出てきた。


それを掬って口の中に入れた瞬間、想像以上の甘さが脳に向かって駆け上がっていくのが分かった。


「なんだこれ!」


「すっごい甘く感じますよね。」


「あれか?わずかな塩味が甘みを引き立ててるのか?」


「そういうのはよくわかんないですけど、無茶苦茶美味いのはわかります。」


スイカに塩じゃないけどわずかな塩味のあと一気に甘さが駆け抜けていく、これは美味い。


巣の大きさから想像すると一つにつき5瓶分ぐらいありそうなので全部で70瓶ぐらい確保できそうな感じか。


いくつかは自分用に置いておくとして最低でも半分は売りに出せるはず、これはいい儲けが出そうな感じだ。


「これ以上ない状態で持ち帰ってくれたみたいだな。巣が14個と基本報酬で銀貨36枚支払おう。」


「え、多くないですか?」


「これだけの仕事をしてくれたんだから追加報酬を出すのは当然だろう。いい仕事にはいい報酬を、もし次があったらまたやってくれるか?」


「もちろんです!」


「任せてください!」


「じゃあ代金を持ってくるから巣を倉庫にもっていってくれ、奥に行けばすぐわかる。」


「「はい!」」


予想以上の金額がもらえるとわかりテンションマックスの若い二人に運びは任せて俺はそれに見合う報酬を用意する。


巣を一つ潰して回収したのは予想通り大瓶5個分。


早速その日の晩に全員で試食してみたが予想以上に好評だった。


「この甘さは癖になりますね。」


「ただ甘いだけじゃなくて塩気もあるから食べてて嫌にならないかも、むしろ食べ過ぎる気がする。」


「これ、ダンジョン内で食べたら元気出ますよね。何か作れないかな。」


「あ!それいいかも!疲れた時に甘い物は欲しいですけど、甘いだけのやつは嫌だったりするので人気出ますよ!」


とまぁこんな感じで好評ではある。


主にエリザやキキ、アネットなどのダンジョンに潜る面々からはポイントが高い。


もちろん潜らないマリーさんやミラの反応はいいけれど特に反応しているのが冒険者である彼女達だった。


「じゃあ具体的に何を作る?」


「すぐ食べられるのがいいわよね、あと手が汚れないもの。」


「となるとクッキーとかですか?」


「でもそれだと甘みが感じにくくなりそうです。」


「えー、じゃあいっそ蜂蜜漬けとか。」


「それじゃあ手が汚れちゃいますよ。」


お菓子作りの得意なエリザを筆頭に嫁たちが知恵を出し合ってより良いお菓子を作るべく盛り上がっている。


仮に菓子で人気が出れば直接売るよりも数をさばくことができるし、なにより多くの人に喜んでもらえるだろう。


買取価格だけで言えば瓶一つに銀貨1枚もかかっていないわけで、そのまま売るだけでもかなりの利益はでるが加工することによってそれが更に増えることになる。


もちろん手間も時間もかかるけれど折角食べるのなら美味しい方がいい、ってなわけで一瓶を皆に預けていい感じの物を作ってもらうことになった。


明日の朝には美味しい何かが出来ているはずなので後はそれをどう売り込むのか考えていこう。


ロックビーの蜂蜜。


これが今後この地域の名産になる、そんな雰囲気が少しずつし始めていた。

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