1722.転売屋は顧客をもてなす準備をする
「さて、久々に行くとするか。」
久方ぶりの冒険者装備に身を固めて向かったのは町が所有するダンジョン。
そのうちの一つは未だ未踏破で絶賛アティナとアニエスさんそしてエリザの三人で攻略中。
たまにキキやアネット、ビビ達がサポートとして参加しているけれど今のところ大きな問題は出ていないらしい。
そんな危険な場所に俺が行くはずもなく、向かったのはもう一つのダンジョン。
難易度的に主に初心者向けと判断されていて久方ぶりの俺が潜るのにぴったりの場所だろう。
「ってことで相棒よろしくな。」
「ワフ!」
女たちがぞろぞろとダンジョンに向かってしまったので俺の相棒はルフのみ。
でもまぁ王都に行った時も一緒だったし彼女の実力を考えれば十分すぎる戦力だ。
「出てくるのはコボレートとかさほど強くない魔物ばかり、とはいえ金になる素材がないわけじゃないから回収しながら潜るとしよう。」
気合を入れるも目の前にあるのはダンジョン街で見たような大きな入り口・・・ではなく、なんともこじんまりとした木造の小屋。
小さな扉を開けると小屋の真ん中にぽっかりと黒い入り口が待ち構えていた。
なんとも殺風景な場所だがこれが新人の扱いなんだろうなぁ。
このままだといつまでも冒険者は来ないだろうから、小屋を作り変えてもっと大きな建物に変えたほうがいいかもしれない。
ギルドの出張所も誘致して出てきたらすぐ買取ができるだけでも喜ばれるだろうし、ここで足りないものを買い付けできれば新人からすればありがたい話だ。
別にここで儲けるつもりはなくあくまでも町での買い物がメイン、ここはあくまでもおまけ程度にするとしても集合場所や休憩場所にできれば彼らも喜んでくれるだろう。
冒険者は大事な商売相手、大事にしすぎて損はない。
「おぉ、中はこんな感じなのか。」
黒い壁を抜けた先は一面緑色の景色、そこらじゅうから蔓が延びて足元も雑草で覆いつくされている。
ダンジョン街では入ってすぐが巨大なホール上の空間だったのでいきなり別空間っていうのは久しぶりだ。
これだけ草が生い茂っていると薬草なんかを探すのも難しそうだが、俺には強い味方がいるので問題なし。
「ルフは警戒をよろしくっていっても、そこまで強い魔物もいないし金になりそうなのを回収するだけだけど。」
「わふ!」
「それでも気をつけろって?わかってるよ。」
心配性の彼女に注意されながら植物だらけの空間を進んでいく。
ダンジョンには通路型と環境型の二種類が存在するが今回は後者、通路型のほうが行く場所が分かりやすて便利なんだけど素材を回収するのには向いていない。
魔物と遭遇しても逃げられないし戦う環境も悪くなるのでそういう意味では後者の方がある程度自由に行動できる分動きの分からない新人には向いている。
とはいえ途中で通路型になったり環境型になったりするのはよくある話、現にダンジョン街では枝分かれした通路の先に海だったりマグマだったり様々な環境が待ち構えていた。
どうやらここはそういう感じじゃないらしいけど、もう一つのほうは似たような感じなんだろう。
そのほうが様々な素材を回収できる分買取する身としてはありがたい。
決まったものしか回収できないと値段も下がるし何より飽きてくるんだよなぁ。
ポケットに手を突っ込んで薬草を手に相場スキルを発動、すると緑に覆われた何もない空間にぽつぽつと数字が浮かび上がる。
後はそこまで行って近くを探せばさほど苦労せず薬草をゲット、同じ要領で毒消しの実やマヒマヒ茸なんかを回収しつつその量をチェックしていく。
ダンジョン内で手に入る素材の数はおよそ一定、もちろん大量発生することもあるし逆に採取しすぎたり魔物を借りすぎたりすると絶滅することもあるのでやりすぎは禁物だが、ある程度の目安を確認しておけば買い取る量もコントロールできる。
他にも鑑定スキルを駆使して使えそうなのをチェックしつつ下へ下へと移動。
途中魔物に襲われるもルフがあっという間に片づけてしまうので俺の出番は全くなかった。
「やれやれ、思った以上に楽勝だなぁ。」
ある程度回収したところで一度休憩、香茶を携帯用コンロで温めつつルフには肉をふるまって英気を養ってもらう。
はぁ、美味い。
「魔物が弱くて退屈だろ。」
ぶんぶん。
「個人的にはもう少し魔物が増えてくれる方がいろいろありがたいんだが、本当の新人を鍛えるという意味ではこのぐらいのほうがいいのかもなぁ。ほら、さっきみたいに複数匹出てきたときどうするかとか色々試すことができるだろ?そんな状況でも魔物が弱ければ最悪けがをする程度で済むし、生きて戻ることを目標にするのならありだとおもうけどなぁ。」
ぶん。
「それでも物足りないのはよろしくないと。じゃあ今度エリザ達と一緒に隣のダンジョンに潜ってみるか。」
ぶんぶん。
ルフとの会話も慣れたもの、直接言葉を交わすことはできなくても向こうは俺の言葉を理解してくれているし、俺もなんとなくだがわかる気がする。
何度か直接話をしているのもあってお互いに伝わっているという安心感があるのがいいよなぁ。
休憩を終え荷物を背負って再び奥へ、だがあっという間に最奥に到着してしまったので致し方なく引き返すことにした。
なんとも不完全燃焼な感じだが、エリザの言うように初心者であれば一日仕事。
危険も少なく野営も経験できてほどほどに稼げるとなればまぁ悪くはないか。
「ん?なんだあれ。」
そんなダンジョンからの帰り道。
ジャングルのような鬱蒼とした茂みを通過していると見たこともないものを見つけた。
真緑の巨大な実。
実というのか房というのか形容しがたい感じだが、とにかく俺の背丈ぐらいある巨大なそいつが樹上からぶら下がっていた。
どう見ても食えそうにはないビジュアルだが、とりあえず鑑定してみたらわかるか。
『スチュロールの実。ダンジョン内にのみ自生するスチュロールは人の背丈ほどもある巨大な実をつけることで有名。ただし中身はスカスカの白い実が入っているだけで食べることはできない。最近の平均取引価格は銅貨20枚、最安値銅貨15枚、最高値銅貨38枚、最終取引日は26日前と記録されています。』
スチュロールの実ねぇ。
初めて聞く名前だが期待とは裏腹に食べることはできないらしい。
これだけ大きいなら何かに使えそうな気もしないではないが、じゃあ何に使うんだと聞かれても答えに困る。
とりあえず興味半分で蔦を切り地面に落とすと見た目以上に軽かった。
なんだろうこのスカスカ具合、風でも吹こうものなら簡単に飛んで行ってしまいそうな感じだ。
「しかしデカいなぁ。」
「わふぅ。」
「子供たちが上に載って遊ぶにはちょうどいいかもな、せっかくだし持って帰るか。」
ぶんぶん。
荷物にはなるけれど魔物はルフが何とかしてくれるので俺は荷物持ちに専念できる。
そんなわけで後半はこいつを背負いながらになってしまったが夕方ごろには無事地上に戻ることができた。
屋敷に持って帰るとさっそく子供たちが上に乗って遊び始める。
よしよし、持って帰ってきたかいがあったってもんだ。
「おかえりなさい、ずいぶんと大きなものですね。」
「残念ながら中身を食べることはできないようだが、見た目以上に軽いし子供が遊ぶ分には問題ないだろう。」
「こんなものがダンジョンに、まだまだ知らない素材があるんですねぇ。」
スチュロールに乗って遊ぶ子供たちをマリーさんとミラと共に静かに見守る。
上に立ったりして多少危ない感じはあるけれど何でもかんでも親が口を出すべきではないのでぐっと我慢して様子をうかがう。
こけても多少すりむく程度でそこまでそこまで大ごとにはならないはずだ。
「とりあえずダンジョンについての報告書はまたつくるとして、それよりも気になるのはダンジョンの入っている小屋の方だ。もう一方がどんな感じなのかは確認できてないけどあれは流石によろしくない。」
「そんなにですか。」
「ドアを開けたらダンジョンの入り口があるだけで椅子も机も用意されてないし、休憩したり待ち合わせをするという感じでもない。もちろん町にギルドがあるんだからそこで集合すればいい話なんだけど、冒険者を迎え入れるっていう感じじゃないんだよなぁ。」
実際に見てもらうほうが話は早いんだけど、とりあえず所感だけは共有しておきたかったので二人に事情を説明。
それから具体的にどういう風に改良を加えていくべきかまで話し合うことができた。
三人寄れば文殊の知恵、一人では思いつかないようなことも複数人なら色々な角度から見ることができる。
俺はギルドの出張所とかを手配したかったけれど、冒険者の数が少なすぎると逆に運営費のほうが高くなってしまうし店も出したところで商品を買えるだけの余力があるやつが来るわけでもない。
それなら店とかは出さず休憩場所を用意するだけで様子を見て、需要が増えるならば考えることに。
そうなんだよなぁ、ダンジョン街のように出せば売れるという環境ではないのでその辺はしっかり精査していかなければならない。
いつものようにポンポン開発したところで反響は少ないだろうからもっと色んな角度から見ていく必要がある。
俺一人ではなかなかに大変だけど、そのために嫁さんたちがいるんだからしっかり意見集約をして取り組もう。
「完全新人向けというのならばそういう人だけを集めても面白いかもしれませんね。宿もこちらで準備して一泊二日の探索研修みたいな感じにすれば冒険者を夢見る人たちを呼び込めるかもしれません。」
「だが儲かるのか?」
「薬草系は多々あるようですから、それをしっかり集めてもらえれば十分かと。薬草類はアネットさんとビアンカさんのおかげでいくらあっても困りませんので、勝手に集めてくれるのならばありがたい話です。」
「なるほどなぁ。めんどくさい素材をあえて集めさせることでペイしようって寸法か。」
冒険者に夢見る若者に対して最小の危険で冒険者を体験、それで無理だと思えば諦めるだろうし出来ると思えば冒険者を目指すだろう。
一番のポイントは危険が少ないということ、試しに潜って死にましたじゃ目も当てられないからな。
そういう需要は少なからずあるはずだ。
なるほど、宿泊体験か。
元の世界でもそういうイベント事はよく行われていたし面白いかもしれないな。
普段は人が通過するだけのこの町にどうやって人を呼び込み滞在させるのか。
そういうことも考えつつ自分の懐も温かくする。
今後はそういったことも考えていかないとなぁ。




