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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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1705.転売屋は髪を留める

「そういやこっちじゃカチューシャが人気なんだな。」


「そうですね、手軽に使えますし最近は職人様達が色々と作ってくださいますので。」


「なるほど、手軽に作れて使いやすいと来たらそれなりに売れるのか。そして人気の出始めた作家の作品は値上がりすると。」


「おっしゃる通りです。」


ミラと一緒に朝飯の片づけをしていると、洗い物の前にカチューシャですっと前髪を上げていた。


今までは髪留め的なものだったのだが前髪が上がっておでこが見えるのは中々に新鮮、情報一つで女性は印象が変わるというけれどこの姿もまたグッとくるなぁ。


「お好きですか?」


「あぁ、なかなか好みだ。」


「ふふ、それはよかったです。」


「これが終わったら市場に新しいのを見に行かないか?」


「デートのお誘いですね?」


「そういうことだ。今のも似合っているが折角なら俺が贈ったのをつけてもらいたいだろ?」


折角ならミラだけじゃなく全員分を買ってつけてもらえれば俺もうれしいし、女たちもケンカしなくて済むだろう。


エリザやアニエスなんかはあまり興味がないかもしれないが意外に隠れてつけてくれるかもしれないしな。


そんなわけで秋晴れの中ミラと二人きりのデートに出かけることにした。


大勢の人が行きかう市場を二人でゆっくりと散策しながら、気になる店を物色していく。


お目当てはあくまでもカチューシャだけど他に面白い物があるのにそれを見逃すことは難しいだろ?


「ここも随分と変わったな。」


「そうですね、シロウ様が居なくなってからこの街は随分変わりました。」


「いい意味でか?」


「いい意味でも、悪い意味でもです。」


「悪い部分もやっぱりあるよな。」


「人が増えるのはいいことですけど、その分軋轢も多くなりますしなにより今までのように街全員の顔と名前が一致するようなことはなくなってしまいました。よく知らない他人がいる、それは結構恐ろしい物ですね。」


確かに今までの規模ならどこかしらに知り合いがいて、直接知らなくても知り合いの知り合いぐらいの感覚で話が出来た。


だが、街の規模がざっと三倍以上に拡張されたことで知り合いの知り合いですら知らない人が増え、心から安心できなくなってしまったんだろう。


今までの当たり前が当たり前でなくなる恐怖、この街が長いミラだからこその感覚だろう。


「王都なんてその集合体みたいなもんだが、まぁ案外何とかなるもんだ。もちろん知らないやつに騙されそうになったりもしたけど結局自分を守れるのは自分だけ、それさえ気を付けていれば案外何とかなるもんだ。それに他人が増えたとしてもそれ以上に親しい仲間が大勢いるからな、少しずつその輪を広げていけば大丈夫だ。」


「そうだといいんですけど・・・。」


「お、あそこにお目当てのカチューシャがあるぞ行ってみようぜ。」


ミラの手をぎゅっと握って少し強引に引っ張りながらカチューシャの並ぶ露店に近づく。


ベースは銀色の金属、そこに色とりどりの石をつけて豪華さを演出しているようだ。


「いらっしゃいませ、どうぞ見ていってください。」


「ここで作ってるのか?」


「職人通りの工房を借りて仲間と一緒に作っています。」


「ということはまだ自前の工房は持たせてもらってないのか。」


「私ひとりじゃなかなか難しいですけど、でもみんなと一緒なので。」


ルティエの話では町が大きくなり住民が増えたのと同じタイミングで職人希望の若者が増えたそうで、いきなり工房を持たせるわけにもいかずまずは複数人で一つの工房を持たせることにしたらしい。


いずれ全員が工房を持てるぐらいのキャパはあるようだけど腕の無い人に店を任せるわけにもいかないのでまずは下積みからやらせているんだとか。


冒険者と違って職人は何年も下積みがあってこそ輝く世界、もちろんいきなり素晴らしい出来栄えの品を作る天才肌の職人もいるだろうけど、それはほんの一握りに過ぎない。


実際並んでいるカチューシャは見栄えはきれいだけども、まだまだルティエ達実力者の品物と比べると細工や仕上げが荒い部分がある。


とはいえ普通に使う分にはまずまずな出来栄えじゃないだろうか。


「いくらだ?」


「一つ銀貨1枚です。」


「かなり安いな。」


「この腕じゃまだまだお金を摂れるほどじゃないので・・・、でも!一生懸命作った私たちの結晶です。」


自分たちのレベルの低さは百も承知、それでも人に評価されることが次なる作品を作るモチベーションになるのもまた事実。


こういうやる気のある職人がどんどん増えれば街の未来も安泰だろう。


「ありがとうございました!」


深々と頭を下げる職人に見送られ次の店へ。


個人的にはいい買い物ができたと思うけど、金になるようなものじゃないんだよなぁ。


「いい物が買えたな。」


()()()()としては申し分ないかと。」


「厳しいなぁ。」


「いずれルティエ様のように成長されればぜひ買付けたいと思いますが、今はまだその時ではありません。」


「ま、俺も同意見だ。金になるのならまだしもこれを客に売るのは忍びない。」


金になるのなら喜んで買付けるけど、これを買ったところで客に売るのは自分達の目利きを疑われるのも同じこと。


家族間ならまだしも他人に売るとなるとそれはそれで基準が厳しくなるものだ。


「カチューシャが流行りなのはわかったんだが、それだと後ろの髪とか邪魔じゃないか?特にミラなんかは長いから前を止めても横から垂れてくるだろ?」


「確かにそれはありますが、普通の紐だと絡みついて外す時に何本も髪の毛が抜けるんです。」


「それは髪用の奴じゃないからだろ?」


「それを使ってもダメなんです。」


それは聞き捨てならないな。


確かに一般に流通している髪紐が良く絡むってのは聞いたことあるけれど、王都ではそこまで問題になっていなかった。


髪をポニーテールのようにアップにしている冒険者もいたし、奥様方でも料理や洗濯の時なんかは髪をくくって作業していたにもかかわらず問題なく使えていたということはその素材が比較的優秀だったという事。


実際アニエスが使っているのも見たことがあるのでもしかするとこの街ではまだ普及していないのかもしれない。


それならばとお目当ての品を探して市場をぐるぐるすること30分ほど、やっと一軒の店でそれが売られているのを発見した。


「らっしゃい、何か欲しいものあるかい?」


「そこのマリオネットワイヤーを見せてもらえるか?」


「これかい?息子が持ち帰って売るように言われたんだけど、何に使うんだい?」


「まぁ色々とな。いくらだ?」


「銅貨50枚ぐらいでとは聞いてるけど、どうかな。」


ふむ、本人の物じゃなくて頼まれ物なら多少交渉の余地はあるだろう。


「んー、30枚はどうだ?」


「流石にそれは安すぎる、40枚にしてくれよ。」


「息子さんに怒られるのもあれだしな、それでいい。」


「折角だし他の物も見て言ってくれよ、俺にはわからないが息子が頑張って持って帰ってきた奴なんだ。」


正直他の素材はごくありふれたものだったのだが人柄が気に入ったのでわずかにでも利益が出そうなものを買い受けることにした。


満足そうな店主と別れそのまま路地裏へ移動する。


『マリオネットワイヤー。空中を浮遊するマリオネットを操る不思議な糸で、魔素の伝導率が高く編み込むことで弾力性が出る不思議な素材。非常に丈夫で切れることは少ない。最近の平均取引価格は銅貨80枚、最安値銅貨40枚、最高値銀貨1枚、最終取引日は本日と記録されています。』


「これが髪紐になるのですか?」


「まぁ見てな。」


一本のワイヤーをねじりながら絡めていき少しずつ太くしていくと、最初は引っ張ってもぴんと張るだけだったワイヤーが少しずつゴムの様な弾力を持ち始めた。


それを輪っか状に結べば即席髪ゴムのできあがりってね。


「わ、すごい弾力があります。」


「これのいいところは髪の毛にからまないってところだ。騙されたと思ってくくってみてくれないか?」


「わかりました。」


作ったばかりの髪ゴムをミラに手渡すと、唇でそれをはさみながら両手で後ろの髪を束ねてゴムで素早く根元の方を絞っていく。


うーむ、デコルテラインが見えるだけでこんなにセクシーになるのか。


これは他の男に見せるのは惜しい、いや自慢したい気もなくはない。


「どうでしょう。」


「アップにするのもいいな、時々はこの髪型にしてくれ。」


「これなら食事の時に髪の毛が垂れてくる心配もありませんし、頭が少し軽くなったように感じます。冬は流石に寒そうですがこの時期は良さそうですね。」


「それじゃあ次はゴムを引っ張って髪の毛をほどいてくれ。」


「ひっぱるだけでいいんですか?」


「まぁまぁ騙されたと思って。」


今度はその束ねた部分を恐る恐る持ち、ゆっくりと滑らせると何の抵抗もなくゴムがするりと抜けて髪の毛がふわっと背中にかかる。


「わ!すごい、全く引っ掛かりません。」


「外した後も手首にでも巻いておけばいつでも使えるし、見た目も悪くないだろ?」


「ブレスレット風にも見えますね。」


「銅貨40枚分でおよそ5本作れるとして、これを銅貨20枚で売れば銅貨60枚は儲かる計算になる。一人一本とは言わず複数本買ってくれるだろうしいそこそこの数を積んでも売りさばけるだろう。まずはワイヤーを買い付けてそれを加工、あとは実演しながら売ればあっという間に広まってくれるはずだ。」


「まさかワイヤーにこんな特性があるなんて、これが王都では当たり前に売られているんですね。」


「編み込み技術が広がってからは自分でワイヤーを買って加工する女性も多かった。編み込み方で弾力が変わるからそれぞれが自分独自のやり方を持っていて、買うとしても加工前のワイヤーだけだったなぁ。」


王都では加工したものは売れなかったし、素材も供給過多気味だったのでかなり安く設定されていた。


つまり、ここで買取依頼を出すよりも買い付けをお願いして送ってもらう方が大量かつ安く仕入れることができるだろう。


近々バーバラにむけて手紙を書くので追加でワイヤーも送ってもらえるようにお願いしておこう。


「カチューシャも便利ですがこれは冒険者にもはやりそうですね。」


「戦闘中の髪の毛問題は常に議論されているからいい結果につながるはずだ。とりあえず冬までは素材を買い付けて、加工が終わってから一気に売り出す感じで行こう。作り方がばれたら加工品は売れないだろうからそれが広まる前に一気に売って稼いでおかないとな。」


「わかりました、急ぎ手配いたします。」


「今日は髪の毛を上げていくのか?」


「いえ、これはシロウ様へのお楽しみということで。今日の夜を楽しみにしておいてくださいね。」


どうやら俺が鎖骨周りを見て喜んでいたのに気づいたんだろう、夜にどんなサービスをしてくれるのか楽しみだ。


そんなわけでカチューシャを手土産に新しい儲けのネタを考えつつ、ミラと二人で束の間のデートを楽しんだのだった。

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