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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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1617.転売屋は歯磨き粉を買い付ける

どこもかしこもカップルばっかり、そんな状況に慣れてきた頃。


そこらじゅうでイチャコラしているカップルの横を通り過ぎた時、それは起きた。


「え、ちょっと信じられないんだけど!」


「いてぇ!」


「え、臭い!無理!絶対無理!」


キスをしようとしていた冒険者カップルだったが、突然女の方が男を突き飛ばし鼻を手でつまみながら騒ぎ始めた。


ついさっきまであんなに仲睦まじい感じだったのにいきなりの豹変ぶりに男の方もあっけにとられているのだが、女の方はマシンガンのように罵声を浴びせたかと思ったら手にしていたブレスレットを地面に投げ捨ててどこかに行ってしまった。


あれは確かうちで販売していたペア販売専用商品だったはず、残された男は何が起きたのかわからずその場で呆然としている。


うーむ、修羅場。


今は恋の春だからここまでひどい喧嘩は起きていないけれど、およそ三か月が恋の賞味期限というだけに夏の終わりごろになるとそこらじゅうでこんな光景を見る事になるんだろうか。


それはそれでげんなりするが、そのタイミングでペア用品の買い取りが大量に持ち込まれる可能性もあるわけだな。


それを買い取ってまた次の春に・・・いや、その頃にはもう王都を出て向こうに戻ってるからこの規模感の販売はできないはず、買取量も少しずつ絞っているんだから調子に乗って買い付けしないように気を付けないと。


「大丈夫か?」


「・・・大丈夫じゃない。」


「まぁ女って生き物は山の天気みたいなもんだからいつどうなるかわからないもんだ、そう落ち込むなって。」


「さっきまであんなに笑顔だったのに、俺が何したっていうんだよぉ。」


女に振られて茫然自失の男だったが今度はぽろぽろと涙まで流し始めた。


いくら俺が世話焼きだからって泣いている男の面倒は御免だと離れようとしたら、女々しいことに俺の手をしっかりとつかんで離しやがらねぇ。


周りの目が非常に厳しく、なんだったら俺が泣かせたみたいな空気にもなっている。


これはまずいってことで男を無理矢理立たせて引きずるようにして近くの飯屋に駆け込んだのだった。


「落ち着いたか?」


「はい、すみませんでした。」


「男だったらくよくよするなって言いたいところだが、まぁ思うところは色々あるだろうし俺は何も言わない。が、最後に何か言ってたが何を言われたんだ?」


「最後ってきまったわけ・・・いや、最後なんですよね。」


「あー、男ならうじうじするなよ全く。そういう所が嫌われたんじゃないのか?」


「そんなことない!あの時彼女は俺のことを臭いって・・・、臭いのかなぁ。」


男は自分の肩口付近のにおいを自分で嗅ぐも不思議そうに首をかしげるだけ、そもそも自分の匂いってのは自分ではわからないもので相手に指摘されないと中々気づかないといわれている。


でも横に座っている限りではそこまで気になるような感じではないんだが、さっきの情景を改めて思い出すと別に服のにおいとか体臭がどうこうっていう感じではなさそうだ。


一番の決め手は口を近づけてキスをしようとしたとき。


「なぁ、息吐いてみろ。」


「え?」


「いいから。」


さすがに直接は嫌なので正面に息を吐いてもらい手で軽く風を起こしてみる。


「うわ、臭!お前、ちゃんと歯磨きしてるのか?」


「え?そりゃあしてますよ。」


「最後にしたのいつだよ。」


「えーっと、三日前?」


「最低だな、そんなんだから女に逃げられるんだよ。いや、マジ無理だ、俺でも無理だ。よくまぁ今の今まで気づかれなかったもんだな。あれか?酒飲んでたとかか?それとも恋は盲目的なあれか?」


先ほどの女のように文句がこれでもかというぐらいに口からこぼれ出てくる。


そりゃ女も一瞬で恋から覚めるってもんだ。


臭い、マジで臭い、どぶ川の水を煮詰めたよりも臭い。


煮詰めたことが無いから比較するのはあれだがともかく臭い。


「そんなに?」


「そんなにじゃねぇよ、今すぐ歯を磨いてこい!歯ブラシを買う金ぐらい持ってるだろ、今すぐだ!さっさと行け!」


「は、はい!」


いやー、ビビったマジであれは無理だ。


俺があまりにブチギレるもんだから男は飛び上がりそのままダッシュで店の外に出ていってしまった。


あまりに騒いでしまったので店主に詫びを入れつつせっかくなので食事をしてから帰るとするか。


「あの~・・・。」


「ん?」


「怪しい物じゃないんですけどさっきの話を聞いてしまって、今お時間いいですか?」


「怪しい奴ほど怪しくないっていうもんだが・・・何かの勧誘ならお断りだが押し売りは歓迎している。ただし、金になりそうなもの限定でな。」


「絶対的に後者なんでご安心ください。」


ドン!とまっ平らな胸を叩いて胸を張るその女性。


王都に来てから何度も押し売り的なものを受けてきたがここまで自信満々な人は初めてだ。


背は低い、乳はない、背は低いとどう見ても子供みたい見た目なんだがこの世界じゃ見た目ほど信じられないものはないんだよなぁ。


そんなわけで自信満々の彼女から押し売りされる事になったのだが、これがまた面白いのなんの。


ここまで話術のある人に会うのは初めてかもしれない、それこそテレビショッピング的なのに出たら瞬く間にトップバイヤーになったであろう話し方であっという間に引き込まれてしまった。


「と、いうわけで100年のドラゴンの恋すらも破綻させてしまう口臭にこそ、うちのナッタービーンズを使た軟膏が最適なわけです。これを少量口に入れてブラシのようなもので歯をこすればあっという間にぬめりや粘つきがなくなり、更に舌の上にたまった汚れも吸着して口臭を()()()()!取り除きます!」


「だが高いんだろ?」


「ここまでご清聴頂いたからにはしっかり勉強させてもらいますとも。どうです?ほしくなりました?」


「これを聞いてほしくならないやつはいないだろ、なぁ。」


割れんばかりの拍手が店中から巻き起こり、一身に受ける彼女が手を振ってそれに応える。


いやー面白かった!


面白かっただけじゃなく実際に欲しくなってしまった。


同じものでもただ露店に置いてあっただけじゃ絶対に売れないけれど、これを聞いたら今すぐにでも手を上げて買いたくなってしまう。


実際店内からは自分にもほしい!という声が多数上がっているので、とりあえずその声にこたえてもらっている間に少しクールダウンして、それから買い付けに入らせてもらうとしよう。


「いやー、すみませんお待たせしまして。」


「大盛況だな。」


「これもこの場を設けていただいた貴方のおかげです。」


「俺はただ話を聞いていただけだ。結構売れてたみたいだが在庫はまだあるのか?」


「もちろんですとも!大事なお客様の分を売り切ってしまうなんてことあってはならない事ですから、たくさん買ってくださいね。」


折角落ち着いたところなのにそんないい方されたらついつい買いたくなってしまう。


別に色気がとかたらしこまれたとかそういうのじゃなく、純粋なる販売力に敗北する感じ。


実際間違いなく売れるであろう商品なのでここはひとつ買い付けを減らすという流れを断ち切って思い切った数を買わせてもらおうじゃないか。



「とまぁ、そんなわけで買ってみたんだよ。」


「それがこれですか。」


「確かに効果はありそうですが、そもそも使う習慣がない物をどうやって売るのですかな?」


「・・・だよなぁ。」


どや顔で店に戻った俺を待っていたのは冷めた目で見てくるバーバラ達。


確かに素晴らしい物だし効果があるのも間違いない、だがそもそもこの世界では歯磨きの習慣がほとんどない。


別にないわけじゃないんだけどもイメージで言うと貴族はするけど庶民はしない、もしくは女性は気を付けてるけど男性はほとんどしないって感じだろう。


そんな事なら虫歯になるじゃないかって?


そうなったら虫歯になった歯を引っこ抜いてポーションをぶっかけるっていう荒業で治すから別に問題ないといえば問題ないんだよなぁ。


俺はもう二度としたくないけれどどうにかなってしまうので結果として歯磨きの文化が広まっていないんだろう。


だが、その結果がこれだ。


キスをしようとして相手(男女ともに)に嫌われてへこんでいる元カップルが多数生まれているのは間違いようのない事実。


まずはそういった連中に売り込んで少しずつ事業を拡大していくしかないだろう。


「これ一つが銀貨2枚、最初は4枚でしたか?強欲なる我らが主殿とは思えない買い付け、少々お疲れだったのかそれとも相手が上だったのか。後者の場合かなりの強者だったといえるでしょうなぁ。」


「売り切れますかね。」


「買い付けた以上俺が責任を持って売るから安心してくれ、とりあえずまずはアニエスに相談して冒険者ギルドに売り込むところからだな。」


「レイラ様イザベラ様はどうですか?」


「あっちはもう文化が根付ているから今更って感じだ。あー、あとはバサラさんとジャンヌさんか。貧民はおいそれと治療できないし、痛い思いをするのならって感じで地道に広めていくしかないか。」


やり方はいくらでもあるけれど、問題は値段の方なんだよなぁ。


あの時は確かに安い、いろいろと考えを巡らせてこれなら絶対に売れる!そう確信していたのだけれど、店に戻ってきて皆の意見を聞くとどう頑張っても利益が出ない。


たかが歯磨き粉にいったい誰が銀貨を出すというのだろうか。


酒や食べ物には湯水のように金を使う冒険者も、ただ口臭を消すだけの物に銀貨を出すとは到底思えない。


思えないんだがあの時の試算では利益が出ている。


うーむ、いったい俺は何を考えていたんだろうか。


「手痛い出費になりましたな。」


「まったくだ。だがただで転ぶつもりはないぞ?事実口臭が原因で別れたカップルがいるわけだからな、それをネタに売り込みをかけるつもりだ。」


利益は出なくともせめて原価は回収しておきたい。


夏が終わるまでおよそ四か月とちょっと。


それまで時間をかければなんとかなる・・・はずだ。

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