1602.転売屋は幸せの品を探す
「あの〜・・・。」
シトシトと雨が降る中、開店早々にも関わらず客がやっときた。
この時期は冒険者も引き篭もっているので朝一番に来る客は滅多にいない、だがそれは彼らの話であって一般客には関係もない話か。
やってきたのはこの店の客層とは真反対の大人しそうな若い女性。
なんとも薄幸そうな雰囲気を醸し出す細い、いやガリガリのその女性は申し訳なさそうにカウンターへと近づいてきた。
バーバラが出勤してたら愛想よく対応してもらうんだが、あいにくこの暇さなので昼前ぐらいでいいぞとつい昨日伝えたんだよなぁ。
その翌日にこれだよ。
別に接客が嫌いとかじゃないんだけど、なんとも申し訳ない気になってしまった。
「イラッシャイ、買取か?」
「いえ、ここにイエローリリーはありますか?」
「いや、ないな。」
「じゃあ、マリルゴールドは?」
「それもない。生憎とこの雨で花関係は入ってこないしそもそもここは花屋じゃない、悪いな。」
ちょっときつい言い方になってしまったのを少し、本当に少しだけ後悔したけれど俺の心配とは裏腹に本人は全くと言っていいほど気にしていないようだった。
その後も幾つか質問されたが本当に在庫がなかったため丁重にお断りをしてその人は静かに店を去っていった。
うー、幽霊か何かじゃないかと思ってしまうぐらいの静かさと不気味さ。
あぁいう薄幸そうな女性が好きだっていう人もいるんだろうけど、生憎と俺の趣味じゃないなぁ。
「なんとも黄色い物ばかり探されておりましたな。」
「幸せでも探してるんじゃないか?」
「確かに黄色は金貨と似た色、集めれば幸せになりそうな感じはあります。成程成程。」
最初が黄色い花、続いて黄色い小物や装飾品、最後は黄色い武具ととりあえず黄色いものならなんでもという感じだった。
本当に在庫がなかったので断るしかなかったのだが、もしあったら高い値段でも買ったんだろうか。
服はそんなに高そうでもなかったしお貴族様にもどこぞの金持ちの奥様という感じでもなく、どっちかって言うと娼婦と言われた方が納得してしまいそうな雰囲気ではあった。
そんな感じの人が一体何故黄色い物を欲するのか。
なんていう疑問を抱く間もなく次の客がやってきたのだが、その客もそのまた次の客も聞いてくるのは同じような内容だ。
「あ、それは多分黄色がこの春のお勧め色だからですよ。」
出勤したばかりのバーバラに事情を説明するとものの数秒で答えが返ってきた。
うーむ、さっきまで悩んでいたのは一体何だったのか。
「おすすめ?ってことは誰かが決めてるのか?」
「決めてるってわけじゃないですけど、この春から夏にかけては黄色い服とか小物が流行りになるんだと思います。服屋で売られてるのも黄色が多いですし、私も今日黄色付けてますよ。」
「つまりこの前の塩ショコラータみたいに自然にその色が選ばれてるってことか?」
「そんな感じですかね。」
元の世界でも流行色的なのがあったからそんなもんなんだろう。
誰かが初めてそれを真似して広がって、気づかないうちに始まったので流行の発端を突き詰めることは出来ないけれどとにかく人気があるから続いているってな感じか。
「では幸せを探されているわけではないのですな?」
「どういうことですか?」
「主殿が黄色は金貨に似て幸せの色だと仰っておりましたから。てっきり皆さま幸せになりたいのかと。」
「そういうわけじゃないと思いますけど、でもその考えは素敵だと思います。」
うーむ、適当に言ったらまさか納得されるとは思わなかった。
元の世界でそういう映画があったからついつい言葉に出てしまったけれど、案外間違いじゃなかったんだろう。
バーバラも随分と気に入っているみたいだしここは一つ流行にのっかりつつ新たな意味合いを持たせるのはどうだろうか。
「黄色、ですか?」
「あぁ。流行りの色らしいんだがなんでも持ってると幸せになるらしいぞ。それにあやかって黄色い物を仕入れたいんだが何かあるか?」
「黄色ですか・・・。なんでもいいんです?」
「生もの匂いものは遠慮したいところだが、まぁ物を見てからだな。」
冒険者ギルドへと向かい、受付嬢にさりげなく黄色について問い合わせしながら幸せになると普及しておく。
彼女たちの拡散力は中々侮れないからな、ここで冒険者に広まれば後は鼠算式に広がる可能性がぐっと上がる。
特に今回のはポジティブな話題だしゲン担ぎが大好きな冒険者にはぴったりのうわさ話になるだろう。
「生ものはダメですか。」
「だって腐るだろ?確かにバベナとかレレモンとかパパパインとか黄色いけど・・・って食い物が多いな。」
「卵も黄色いですしコーン種も大体黄色いですね。」
にパッと思いつくもののほとんどが食べ物なのはなぜだろうか。
後は朝の女性が言っていた花も結構黄色いのが多い気がする、マリーゴールドとかヒマワリとかその典型だろう。
うーむ、他に何かないだろうか。
「後はサニーサーペントの皮とか、ハピネスバードなんかも黄色ですし宝石だとトパーズやシトリンなんかも綺麗ですよね。」
「素材から欲しい物に変わってないか?」
「えへへ、折角黄色い物で幸せになるならそういう物の方が良いかなって。」
ここにルティエがいれば宝石を仕入れて幸運のアクセサリー!とかいって売り出すんだが、残念ながら向こうに戻ってしまったのでそれも難しい。
一応前に作らせたアンバーの装飾品は少し残っているけれど、いい感じのはほぼほぼ売れてしまったからなぁ。
どうしても装飾品が良ければシエルさんにお願いして黄色いブローチを作る事も出来るだろうけど、春の祭りを終えて休養に入っていたはずだ。
流石にそれを邪魔して仕事を依頼できるような間柄でもないし、かといってアルトリオの三人はもう手一杯だろう。
折角売れるネタがあるのにそれを形にできないのは非常に悔しい。
やるとしたらその形のままで売れるようなものにしなければならないのだがそんなものが都合よくあるだろうか。
「シトリンってのは聞いたことないがどんなものなんだ?」
「ストーンローズとも言われる花の形をした水晶の一種・・・だったはずです。」
「つまり詳しくはないと。」
「えへへ。」
「花の形をしてるってのは興味あるが依頼を出して手に入ると思うか?」
「どうでしょう。とりあえず依頼出すだけ出しますか?」
「まぁダメもとで出してみるか。それと黄色いものな、生もの生き物匂いもの以外で。」
期待はしていないけれど手に入れば万々歳ぐらいな気持ちで依頼を出しておくとするか。
あくまでも依頼を出す目的は黄色い物を身に着けていると幸せになるという新たな噂を広める為、その為に依頼を出すのであって手に入るかどうかはぶっちゃけどっちでもいい。
そんな程度の気持ちで依頼を出して店に戻ったのだが、その日の夕方に思いもよらない展開が待っていた。
「これは・・・どういうことだ?」
「主殿が出した冒険者ギルドの依頼を見たとのことですが、いったいどんな依頼を?」
「生もの生き物匂いもの以外の黄色い物っていう話だったんだが・・・あれ?どうしてこうなった?」
店にやってくる大勢の冒険者たち、彼らの手には鮮やかな黄色い石が握られている。
『サンストーン。太陽の木漏れ日のような優しい黄色をした石。比較的どこででも手に入るが色の濃さによって産地が変わる。仄かに熱を帯びており柔らかな日差しを受けているような錯覚を覚える事からその名がついた。最近の平均取引価格は銅貨10枚、最安値銅貨5枚、最高値銅貨45枚、最終取引日は本日と記録されています。』
ぶっちゃけ王都の外、街道にも落ちているごくありふれた石。
確かに黄色い物を持ってこいとは言ったし、これなら生もの生き物匂いもの以外っていう条件にも当てはまる。
だがこんなごくありふれたものを大量に持ち込まれても困るんだよなぁ。
いくら安いとはいえ数があるとそれなりの金額にもなるわけで、でも今更断るわけにもいかず結局100個以上のサンストーンを買い付けることになってしまった。
明日の朝一番にサンストーン以外っていう条件を付けに行かなければ。
「あの~・・・。」
「イラッシャイ、ん?確か朝も来てたよな。」
冒険者を何とか追い返してどうしたもんかと頭を悩ませていると、朝一番に来ていたあの薄幸そうな女性が再び店に入ってきた。
朝と変わらず不幸せそうな雰囲気全開なんだがまさか一日中探し回ってたのか?
「そうなんです。あの、黄色い物ってなにかありますか?」
「あー、無くはないんだが・・・こんなものでいいのか?」
最初と違って品物を指定せず黄色い物という大きいくくりになっていた。
それならばとさっき仕入れたばかりのサンストーンをカウンターの上にいくつか置いてみる。
ぶっちゃけ外に出れば拾う事の出来るありふれた物、確かに普通よりかは黄色い石ではあるけれど流石にこれはダメだろう。
「綺麗、心なしか暖かくてなんだか安心します。これ、おいくらですか?」
「あーー、買い取ったばかりなんだが。まぁ銅貨30枚って所だろう。」
「え、そんなにお安いんですか?」
「まぁ宝石じゃないしな。もしかするとシトリンなんかが手に入るかもしれないが、あったらあったで考えてみてくれ。」
銅貨5枚で買い取ったサンストーン、売れないことを前提として高値を吹っ掛けてみたんだがまさかの即答だった。
聞けば一日中探し回ったけれど思っているようなものはなかなか見つからなかったらしい。
手に残るぐらいに小さくてそれでいて黄色い物、軽ければなおよし。
探しながら黄色が幸せを呼ぶっていううわさ話も聞いて益々手に入れたかったんだとか。
確かに大きさも手ごろだし仄かな暖かさは心が落ち着く感じがするし、これを幸せの暖かさだとかなんとか言えば案外売れたりするんじゃないだろうか。
とりあえず明日の買取は継続して販売の方で様子をみてみよう。
嘘が真とはいうけれど、まさかここまで反応してもらえるとは思わなかった。
翌日、幸せの石と呼ばれるその石を求めて買取よりも長い列が店の前に出る事を今の俺はまだ知らない。




