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1566.転売屋はショコラータを販売する

14月も半ばに突入。


そして今日はその中でも一番のビッグイベント、ショコラータ選考会の当日だ。


国中から我こそは!というショコラティエが一堂に集結!なんてことはなく、せいぜい近隣の街から武者修行に来る程度ではあるけれどそれでも王都一の座を獲得するべく皆準備に余念がない。


そんな未来ある多くのショコラティエの中に一人、どう見ても場違いという感じのおっさんが一人。


いや、見た目(ビジュアル)的にはまだ若いんだけども中身はもう40を超えたオッサンだ。


そんなオッサンが何しにここにいるかって?


そりゃ選考会に参加する為だ。


別に一番のショコラティエになりたくて参加しているわけではないので異色は異色なのだが、諸々の要素が複雑に絡み合って、とりあえず参加することになってしまった。


なので他の面々と違ってやる気に満ち溢れているかと聞かれれば、別の部分でやる気に満ち溢れている。


因みに今冬の流行りはずばり『塩』。


塩チョコというのだろうか、塩味を感じるショコラータが人気なようでおそらく参加者のほとんどがそれ系の奴を出すのではないかと言われている。


だが、俺はあえてそれに反旗を翻し独自路線のショコラータを投入する予定だ。


っていうかそれが目的ですらある。


なんでも参加者が毎回同じになりつつあって観客が飽き始めているらしくそれを何とかしてほしいという事でお声がかかったわけだ。


そもそもなんで素人の俺にと思ったりもしたが、そもそもショコラータをダンジョン街で流行らせたのは俺だし、それが巡り巡って王都に来てこっちで大騒ぎになっているわけで。


そんな話を誰かが聞きつけて声をかけてきたんだろうけど、そんな要望を素直に聞くような俺じゃない。


やるからには金儲けをする、その信念だけは曲げるつもりはない。


「シロウさん準備できました!」


「よし、とりあえず今回は数を売るからな。じゃんじゃんつけて、ガンガン渡していけ。」


「了解です!値段は全部一緒ですよね?」


「本当は種類別に分けるべきなんだろうが、それをやると計算が非常にめんどくさい。だから全種一本銅貨10枚、それでいい。」


「わっかりました!」


今回は助っ人としてルティエを召喚、っていうか自分から手伝うと名乗りを上げてくれたので無給で頑張ってもらうことになっている。


恐らくかなりの客が来ることになるので、在庫補給部隊としてジンも屋敷でスタンバイ中だ。


この日の為に延々と仕込み続けた果物の砂糖漬け。


それにショコラータをかけるだけのシンプルなものだが、それがまた美味いんだ。


オランジェットとかそういうタイプを想像してもらうとわかりやすいかもしれないが、あぁいう素材を生かした作品こそ下

手にあれこれ混ぜるよりもショコラータとして楽しめるんじゃないだろうか。


もっとも、本物のオランジェットはチョコが固まった状態なので今回のはどっちかっていうとフォンデュに近いのかもしれない。


とか偉そうに言いつつ普通のも好きだけどな。


そんなわけで色々な意味合いを含んだ選考会が開始。


大通りに面した特設露店の前を大勢の人が通り過ぎ、お目当ての店でショコラータを買っていく。


選考会の勝敗は購入者の数、購入者から代金と一緒に渡される投票棒をどの店が一番獲得するのかで勝者が決まる。


最初はなかなか売れないだろうと覚悟はしていたものの、開始して30分近くが経過するものの他の店のように行列ができるぐらいに客が来る感じではない。


もちろん買ってくれた人からは美味しいというお言葉を頂戴しているものの、やはり最初は有名店舗に客が集まってしまうらしい。


「売れませんねぇ。」


「まぁ最初はそんなもんだ、みんな人気作家の作品を楽しみにしていたんだから当然だろう。」


「こんなに美味しいのに、もったいない。」


「つまみ食いするなよ。」


「えー、いいじゃないですかいっぱいあるんですから。」


俺的に余らせるつもりはないのだがこの客入りに早くもルティエはあきらめモード。


ちゃんと食べた分は後で請求するとしてそんなに自棄にならなくてもいいのになぁ。


まぁ気持ちはわからなくもないが、もうしばらくしたら客がぞろぞろとやってくることだろう。


その読み通り、選考会が始まって半分が経過した頃、ぽつりぽつりと客がやってきて二つ三つと商品を買っていくようになってきた。


「ありがとうございます!甘酸っぱくてとっても美味しいのでまた来てくださいね!」


「はい!みんなにも宣伝しておきますね!」


キャイキャイと女子トークを楽しんだのち、女性二人組はたっぷりチョコのかかったドライオランジェを手に去っていった。


いっそのことバベナにチョコをたっぷりつけて売った方が良いんじゃないかとか思ってしまったが、流石にこの品評会向けではないのでやめておこう。


あくまでも見た目と味が重要な選考会だ、いくら数が勝敗にかかわるとはいえその辺は皆厳しい。


「な、客が増えてきただろ?」


「なんでこうなるってわかったんですか?」


「そりゃ同じ味ばっかり食べたら食い飽きるだろう。人気の職人は形は違えどみんな似たような味ばかりだし、お目当ての店をいくつか回ったら飽きてくるもんだ。その点うちの店は他所とは全く違う上に味もいくつかあるだろ?同じ味をいくつも食べるぐらいなら、違う味をいくつかつまみたくなるもの。つまり、どの客も一度はここをはさんで他の店に行くってわけだ。」


「そっか、全部のお店を回ることは出来ないから、毎回ここを経由してもらうだけで数を稼げるんですね。」


「お、理解が早いな。そういうわけだからここから忙しくなるぞ、さっきジンに追加を頼んでおいたからじゃんじゃんチョコをつけて固めておかないと追い付かないからな。」


うちの店は大人気店にはなれない、でも普通と違うからこそ興味を持ってもらえるし試してもらえる。


その結果満足してもらえれば追加で別の味も楽しんでもらえるのでその分球数が増える。


人気店は確かに集客力はあるけれど、買える個数に限りはあるしリピートも難しい。


ついでに高い。


だがうちの店は何度もリピートしやすい味のバリエーションもあり、何より安くて空いてる。


人気店だけが決してアドバンテージにならないんだぞという事を知らしめるいいきっかけになるんじゃないだろうか。


そんな感じで終盤に向けて失速、もしくは完売してしまった人気店を横目に確実に客足を伸ばし続けていく。


値段は安いが素材の味を生かして食べるショコラータは最後の最後まで客足が途絶える事なく最後の時間を迎えたのだった。


「優勝できますかね。」


「どうだかな。俺は別に優勝とか興味ないから、其れより見ろよこの銅貨の量!」


「シロウさんはやっぱりそっちですか。」


「そりゃそうだろう、原価率を考えてもかなりの儲けが出るのは間違いないからな。参加者の使用するショコラータ代は全て負担してくれるなんて最高じゃないか。」


選考会というだけあって、使用するショコラータで優劣がついてはいけないよう必要な分は向こうが出してくれる。


なのでかかっているのは原料となる果物代だけ、それも現地に行って直接買い付けてきたものなのでこっちの価格の半分以下で買えるんじゃないだろうか。


砂糖に漬けるのだってさほど手間じゃないし、乾燥させるのも道具のお陰であっという間。


労力という見えない原価もほぼかかっていないという最高の商材だ。


値段が安いとはいえこれだけ売れれば儲けもかなりのものだろう、俺は早くそっちを確認したい。


「お待たせいたしました!集計が完了致しましたのでショコラータ選考会、結果発表に参ります!」


優勝よりもそっちの方が楽しみすぎてソワソワしていた俺だったのだが、いつの間にか集計が終わり回から順番に結果が発表されていく。


予想通りというか大番狂わせというか、中盤になっても俺達の名前は呼ばれず人気店が先に呼ばれる状態に観客たちからどよめきが聞こえてくる。


別にそんなに驚くような事でもないだろう、これが結果だ。


「シロウさん!もしかするともしかするんじゃないですか!?」


「いやー、どうだろうな。まだもう少し残ってるし。」


「でもでも、あれだけ売れたんですからもしかしてもしかすると優勝しちゃったりして!」


ルティエは大騒ぎしているが残念ながら俺はそこまで期待していない。


あくまでも俺は隙間を狙ってここまで来ただけであって、本当に美味いショコラータは別にちゃんとあるはずだ。


結局その次に呼ばれて惜しくも?優勝は出来なかったが、それでも上位入賞することができたので賞品を貰う事が出来た。


大儲けできただけでなく賞品までもらえて、正直めんどくさいとか思っていたけれどやってよかったと今は思っている。


もっとも、ルティエの落胆は大きく帰る時もしょんぼりしていた。


「まぁそんなに落ち込むなって、俺達は本職じゃないんだからこういう結果はわかってただろ?それでもあそこまで上り詰めれたのもお前が手伝ってくれたおかげだ、ありがとな。」


「ん、そうですよね。本職じゃないシロウさんが私よりもすごいアクセサリー作っちゃうのと同じですもんね。」


「いや、それは出来るかもしれない。」


「どういうことですか!」


「冗談だって。これから向こうに戻って例のブツを使った作品を作ってもらわないといけないんだ、頑張れよ本職。期待してるからな。」


「任せてください!」


やれやれ、やっといつもの感じに戻って来たな。


一大イベントも終わり、いよいよみんなが向こうに戻る時が来た。


寂しくなるがそれが当たり前、俺も早く戻れるようにしっかりと頑張らないと。


こうして選考会は無事に終わりを迎え、甘い香りと共に家路についたのだった。

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