1546.転売屋は流氷を追いかける
「そんなわけで原因の調査を頼みたい。港が凍りつくことになれば物流を含め大きな問題が出る。今の所は港が毎日除去すると言っているが流入量が一気に増えるようなことがあれば向こうだけで対処するのは難しいだろう。かといってその度にお前に金を払っていたら大変なことになるからな、根本からどうにかせねばならん。」
物凄く重要な話をしているのにディスられているのはなぜだろうか。
この前の港町での一件は陛下の耳にも入っていたようで、戻った翌日にはお呼び出しされてしまった。
一応一般市民の扱いなんだがこうも頻繁に謁見してるやつは中々いないだろう。
もしかするともしかしなくても貴族の中でも稀かもしれない。
「お前にしかできないという雰囲気を出しておきながら最後の最後に落としてくるのはどうかと思うぞ。」
「そうは言うがバーンと共に除去すればまた費用を請求するのだろう?」
「いい仕事にはいい報酬をってのが俺の信条だからな。それが国ともなれば取りっぱぐれる心配もないから安心して請求できる。それに見合う仕事はしてるだろ?」
「仕事はしている、だがその費用が妥当かどうかはなんとも言えん。」
「高いと思うのならば他の誰かにやってもらえば良い、俺は別にやりたくてやっているわけじゃないしな。」
「・・・一国の主を相手にそんな態度を取れるのは世界広しといえどもお前ぐらいなもんだぞ。」
売り言葉に買い言葉じゃないけれど、向こうがその気なら俺にだって考えがある。
もちろん国王陛下として命令ならばやらざるを得ないかもしれないが、二回目を受託する頃にはもう国を出て行っていることだろう。
もちろん罰金を踏み倒して、なんていうせこいことはしない。
正々堂々すべての支払を終えてこの国を出て行ってやるつもりだ。。
とはいえそんな事をしない人だとわかっているからこそ、こうやって好き放題言えるわけで。
この人が義理の父親だからと言うのもあるかもしれないけどな。
「相手が誰であれ俺は俺の思うように仕事をさせてもらうつもりだ。陛下だってそれを許容しているからこそこういう場に呼んでいるわけだろ?」
「義理の息子が好き放題言ったところでなんとも思わん。もちろん、国に害をなす発言であれば話は別だがこやつはそこまでアホではない。」
「一応褒められているんだよな?」
「そうらしい。とりあえず話を戻すとして、今回お前にやってほしいのは流氷が何処から運ばれてきているのかという確認と場所がわかったのならばその原因の調査だ。北方ではここまでの寒さはなく南方も多少寒い程度で大きな被害が出ていない。ガルグリンダム様の言うようにこの状況はこの近辺でのみ起きていることから何かしらの原因があるという結論に至ったわけだな。とはいえこの雪じゃ大人数で移動するのも危険だし、そもそも海の上ともなると分が悪い。」
「そこで自由に飛び回れる俺達にお鉢が回ってきたというわけか。こっちの依頼も高くつくぞ?」
「ほぉ、荷物を運ぶのが一回銀貨20枚。荷物を運ぶわけでもなく指定の場所を飛ぶだけでそれ以上の金額を要求することなどあるまいな?」
話の流れ的にいい感じの金額をふっかけてやれると思ったのにまさかド正論で来られるとは思っていなかった。
陛下の言うように荷物を運ぶわけでもないのにそれ以上の金額を請求するのは難しい、これは一本とられたようだ。
そんなわけで急遽流氷の原因を探ることになり、バーンに事情を説明すると二つ返事で引き受けてくれた。
特に重たいものを運ぶわけでもなく俺と一緒に飛ぶだけで金がもらえるんだからそれもそうだろうと思ったのだが、本人はただ俺と空を飛べるだけで楽しいらしい。
うーむ、あまりにも清らか過ぎて逆に辛くなってきたんだが。
「トト、寒くない?」
「これぐらいなら大丈夫だ、これでもかってぐらいに着込んできたからな。」
「よかった!この先はもっともっと寒くなりそうな感じだから我慢できなくなったら言ってね!」
「寒くなるってわかるのか?」
「なんとなくだけど、こっちに来るとき港の北側からすごい寒い空気を感じたから。」
ふむ、バーンがそういうのならば間違いないんだろう。
息子の背中に乗りひとまず港へと移動、それから海岸線沿いに北へ北へと北上しながら海の上を漂う流氷を目印に飛び続ける。
今のところものすごい大きな塊がある感じではないのだが、同じ量がずっと続いて浮かんでいる。
こころなしか空気が冷たくなってきたようにも感じるがまだまだ我慢できる程度ではある。
「トト、あそこにシーリオーンがいるよ。」
「北方の寒い海にしかいないはずなんだが流氷に乗ってやってきたのか?」
「でも他に仲間はいないみたいだね。」
「いたらいたで厄介だが一頭だけってのも不可解だ。ちょっと見てみるか。」
眼下に浮かぶ流氷の上にシーリオーンという巨大な魔物を発見、トドのような見た目だが大きさは3倍ぐらいありそうな上に泳ぎが達者で水中から獲物めがけて突進して吹き飛ばすという中々に気性の荒いやつだったりもする。
ぐんぐんと高度を下げて近づくとあっという間に海の中に逃げ込んでしまった。
このまま無計画に近づくと下から襲われてしまうので途中でホバリングに切り替えたものの他に仲間はいないようだ。
「にげちゃったね。」
「なにかに追われてって感じでもなさそうだが、なんでこんなところにいるんだろうな。」
「待ってみる?」
「いや、あくまでも調査が優先だからとりあえず北を目指そう。もしかしたらそっちにいるかも知れないし。」
「わかった!」
あの大きさならかなりの肉と脂を手に入れることができるだろうけど、無理をして捕まえるような魔物でもない。
再び高度を上げて流氷沿いに移動すること一時間ほど、北の大山脈がそのまま海に突っ込んだような険しい断崖絶壁が続く場所に巨大な氷棚を発見した。
そこから氷が割れて流氷になっているようにも見えるが、不思議なのはそれよりも北側の海に一切流氷がない。
流氷がないってことはさっきのシーリオーンが休む場所もないわけで、まじで何処から来たのか検討もつかないんだが。
「トト、あそこになにかあるよ。」
「ん?たしかに黒いなにかがあるな、あれは・・・穴か?」
「洞窟かな。」
「その割には小さい・・・いや、氷の下にまだつづいてるのか?」
上空から見るだけではよくわからないのだが、氷棚の終点にほくろのような小さな点が一つ見える。
ダンジョンの入口のようなぽっかり開いた穴ではなく、周りが真っ白いからこそ気付いた程度の小さな穴。
周りを警戒しながら高度を落としてゆっくりと氷の上に着陸したが、元の姿のままでも氷が割れる様子はなかった。
「かなり分厚い氷だな、っていうか寒すぎだろ。」
「あの穴からすごい冷気が出てきてるみたい。」
「まるで冷風機みたいだな。とはいえ何処からか入れるような大きさでもないか。」
その穴から吹き出すものすごい冷風が氷を作っているかのような錯覚を覚える、それぐらいに冷たい風が穴から吹き出していた。
とりあえず周りを確認するのが今回の仕事、ってことでそのまま大山脈に向かって歩きながら周りの様子を確認していると300mぐらい離れた山の中腹に大人がかがんで通れるぐらいの別の穴を発見。
こっちは冷気が出てくる様子もなく周りも思った以上に寒くない。
北方のほうが温かいとは聞いていたけれどたしかにその傾向はありそうだ。
「ダンジョンっていう感じじゃなさそうだな。」
「でも中からすごい魔素を感じる。」
「となると奥にあるのは魔石か、それとも魔物の巣窟か。今回は確認してこいという命令なので中に入る必要はないんだがどうする?」
「んー、何かあっても大変だから中は良いんじゃないかな。それよりもここに来るまでの方法を考えないと、誰も見に来れないままになっちゃうよ。」
たしかにバーンの言うとおりだ、調査するのならばそれなりに人は必要になるしその人達をここまで誘導する必要がある。
前のように俺達だけで調査する事もできるのだけど、今回の依頼に調査分の報酬は含まれていないので余計なことはしないでおこう。
それよりも街道からここに誘導するまでの道を考えなければならない。
というわけで再びバーンの背に乗り今いる位置を確認、そこから円を描くように飛行して街道とぶつかる場所を探し出す。
大山脈沿いとはいえいちいち山脈沿いに移動するのは非常に時間が掛かるし、なによりリスクが高い。
山脈沿いには大小さまざまな洞窟があり、その中には多数の魔物が潜伏しているのでそこを経由するぐらいなら直線距離で森を抜けたほうが安全だったりする。
幸い近くに街道が走っていたのでベースキャンプ候補地までの道はさほど遠くなかった。
この距離なら2日もあれば調査団が確認に来れるはず、とりあえず報告できる何かを見つけられてなによりだ。
「とりあえず目印になるものを置いておこう。バーンが蹴散らしてくれたおかげで道はそれなりに通れるようになったし、後は余計な魔物がでてこないように駆除しておけば問題ないはず。やっぱりシーリオーンは他にいないみたいだなぁ。」
「何処から来たのかな。」
「案外見つけた穴の中だったりして。」
「それならいっぱいお肉が手に入るね!」
あの巨大な体からは中々の量の肉が取れるはず、北方の人は今でも脂を灯りとして使っているみたいだし美味しく頂けるからこそ肉も人気があるのだろう。
個人的には肉よりも皮のほうが使い道が多いのでそっちのほうを大量に手に入れたい。
撥水性能が高く長靴なんかに加工されたり外套としても人気があるのだとか。
そのついでに肉が手に入ればそっちの分でも金儲けができるので一石二鳥というわけだが、果たしてそううまくいくのだろうか。
氷を生み出す不思議な穴、果たして中で待つのは何者か。




