1538.転売屋は断熱素材を探しに行く
寒いなんて言葉はもう言い飽きた。
これからは痛いがトレンド入りするかもしれない。
冷たい北風が体を打ち付け、風から身を守る為の外套を容赦なく凍らせていく。
打ち付ける雪は半分凍っていて顔に当たるたびにビシビシ音を立てるし、露出した部分が冷気で冷えすぎて霜焼けみたいになってくる。
ともかくだ、この冬は例年と違ってかなり寒い。
いや、とんでもなく寒いという事は間違いなく言いきれるだろう。
「なるほど、路上生活者が凍死し始めたと。まぁ当然と言えば当然か。」
「こっちも出来るだけのことはしているが、流入する人間を全員賄えるほどの場所はない。一応下水の一角を解放しているがあの臭いじゃ使おうなんて奴はまぁいないだろう。」
急激な寒波の襲来に真っ先に犠牲になるのは貧困者だ。
雨風を凌げるまっとうな住居を持つことも、金を払って借りる事も出来ない彼らの居場所は路地裏だけ。
多少の雪は凌げても隙間風は確実に体温を奪い、そして翌朝には文字通り冷たくなっている。
「死ぬよりもましじゃないか?」
「あそこで死ぬぐらいならってやつなんだろう。」
スライムが下水を処理してくれているとはいえ、全てを綺麗に処理できているわけではないのでどうしても臭いは残ってしまう。
これでも定期的に大掃除するようになったから昔に比べるとマシになったと思うんだがなぁ。
残るは地下墓地なんかが屋根のある場所に該当するが、あそこは出るものが出るしそれが原因で死ぬ可能性もある。
規格外の寒さ。
それは王都に限らず王都周辺でも起きており、貧しい人たちが安住の地を求めて王都へと押し寄せていた。
「ジャンヌ大司教は?」
「大聖堂をはじめ関連施設を開放しているが限界はあるらしい。加えてこの寒さだ、あんたの作ったあの羽毛布団があればマシだろうがそれでも厳しいだろうな。」
「あれは屋内仕様だからなぁ。」
「今必要なのは風を防ぐ為の天幕と寒さから身を守るための毛布。幸い森が近いから暖を取るための薪には困らないが、残り二か月これが続くとなると厳しい物があるだろう。」
「一難去ってまた一難、これで何度目だ?」
夏は魔物が溢れ、秋から冬にかけて麻薬が蔓延し、そして冬は例年以上の寒波が襲ってくる。
こんな時、元の世界の大昔の人は大仏を建てて神様にお願いしたそうだがこっちにもそういう文化はあるのだろうか。
「誰かが呪われてるんじゃないか?」
「誰かって誰だよ。それに、毛布があっても一枚二枚でどうにかなるレベルじゃないぞ?」
「じゃあどうする。毛布を与え、天幕を設置して風を防ぎ、それでも寒さから身を守れないというのなら現状その数を増やすしか方法はあるまい。」
「増やすって言っても限界があるしなぁ。発熱素材みたいに根本的に素材からやり直さないことにはどうにもならないと思うぞ。」
「そういうからにはアテがあるんだよな?」
「ない!」
バサラさんが期待したような目を向けてくるけれど、残念ながらそれを満たす物に心当たりはない。
今できることは枚数を増やすことだけ。
それがその場しのぎにしかならないとしても少しでも寒さから身を守れるのならばそうするしかないだろう。
「なるほど。わかった、とりあえず王宮に備蓄してある毛布を支給しよう、ひとまずはそれで凌いでくれ。」
「ありがとうございます。」
というわけでジャンヌ大司教とバサラさんが書いた嘆願書を手に王宮へと向かい、現状を陛下に報告。
本来ならばここに手紙が届くまでにいくつものステップを踏まなければならないのだが、事情が事情だけに俺にしか使えない直通ルートを使わせてもらった。
「本来ならばこの王都で凍死する者など出してはならぬのだが、国王などと呼ばれていても非力なものだ。」
「君のせいじゃないと思うよ。明らかにこれは普通じゃない、それは僕が保証する。」
「ということはまた誰かがこんなことを?」
「さぁ、それは僕にもわからない。」
陛下の横には珍しくガルグリンダム様が控えており、この寒さが明らかにおかしい事を教えてくれた。
とはいえ原因は不明、王都を守護する青龍でも原因を掴めないようなことが起きているとかマジで勘弁してほしいんだが。
「ガルグリンダム様の力をもってしてもどうにもなりませんか。」
「これでも寒さをやわらげているんだけどね。」
「ということは外はもっと寒いと?」
「そういう事になるかな。気象を操りすぎると色々と面倒なことになるから多少は、だけどね。」
何がどう面倒になるかについてはあえて触れないとして、そうか外はもっと寒かったのか。
ここ数日は王都の外に出ていないのでわからなかったが他所はかなりの状況なんだろう。
だから他所よりも温かい王都に人が流れ込んできているのかもしれないが、結局凍死してしまったのならば意味はない。
どうにかしたい所ではあるのだが如何せん何も思いつかないわけで。
「冷気を通さない装備ですか。」
「あぁ、そういった物があればもうとっくに出回ってるんだろうけど。別に服とかにする必要もない、ただ羽織るだけである程度防げるみたいなので構わないんだが。」
「そうなると北方の魔物から獲れる素材が該当しますね。もしくは寒冷地にあるダンジョンでしょうか、ちょっと待っていてください。」
需要があるという事は少しぐらい高くても売れるという事、出来れば毛布より温かいのがあれば最高なんだが残念ながら素材があっても加工する時間がない。
もっと簡単に使える何か、そんな時に思い付いたのは宇宙空間でも使われているという銀色のシート。
確かアルミニウムを使っていたと思うんだが全部が全部そうじゃなかったような気もする。
空気の層があるとかないとか、ともかくあんな感じのものがあれば最低限の装備として使えるんじゃないかと考えたわけだ。
困った時の王立図書館、ということでラブリーさんにお願いをして該当する素材の載った本を探してもらっているのだが俺は俺で探してみよう。
狙い目は金属系なのでゴーレム素材。
魔物の図鑑や歴史書、日記的なのも案外ヒントになったりもする。
「お待たせしました・・・ってすごい量ですね。」
「何かいい感じのがあればって思ってな。」
「私もお手伝いしたいんですけど、ごめんなさい。」
「気にしないでくれ。」
ラブリーさんの持ってきてくれた本の山を机の横に置き、後はひたすらページをめくる。
途中で偶然図書館に来ていたアネットとビアンカにも手伝ってもらいながら片っ端から本を読み漁った。
「収穫無し、そっちは?」
「こっちもなさそうです。ビアンカは?」
「収穫かはわかりませんが、魔法を相殺する特殊なゴーレムがいるそうです。そのゴーレムは他と違って装甲が何層にもなっていて魔法を直撃させてもそれがはがれるだけで下は無傷なんだとか。炎も氷も寄せ付けないと日記に書いてありました。」
ふむ、魔法を反射するとかじゃなくて何枚ものフィルムで防いでいるのか、確かに効率的ではあるな。
「どうやって倒したんだ?」
「頭の部分に動力部が見えていて、そこを破壊すると止まるそうです。出現場所は・・・ここからさほど遠くなさそうですね。行きますか?」
「可能性はそれしかないんだし行くしかないだろう。どうする?来るか?」
「行きます!」
元気いっぱいに返事をするアネットだったが自分が今いる場所に気付き、慌てて自分の口を手でふさいだ。
アネットいわく王都にいても寒いだけなのでダンジョン内なら暖かいからという理由なのだが、彼女は外の方がもっと寒いという事をまだ知らないようだ。
そんなわけで急ぎ準備を整え、アティナを連れてダンジョンへ。
想像を超える風雪にもレイブンは臆することなく街道を走り続けてくれたおかげで何とか遭難せずに
到着することができた。
因みに城壁を出た瞬間にアネットは寒すぎて無言になっていたが。
「あぁぁぁ寒かった!」
「まさかこんなに寒いとは思っていませんでした。」
「ガルグリンダム様曰く、通常じゃ考えられない寒さらしい。原因はわからないがこれが長引く可能性は十分にある、それを乗り越えさらには大儲けする為にもまずはゴーレムについて調べないとな。」
ダンジョン内に季節は関係ない、それをここまでありがたいと思ったのはいつぶりだろうか。
本当は外で待機するレイブンも中に入れてやりたいのだが、簡易の天幕を設置したのでその下で待ってもらうことにした。
焔の石を大量に積んできたから大丈夫だと思うけれど出来るだけ早く戻らないと。
そんなわけでアティナを先頭に出来るだけ魔物に遭遇しない場所を選んでもらいながら奥へ奥へと進んでいく。
恐らくは旧王朝時代の遺跡の一部なんだろう、見覚えのある無機質な壁でおおわれた通路を進んでいくこと一時間程。
そろそろ休憩というタイミングでアティナがぴたりと歩みを止めた。
「いたか?」
「おそらくは、ですが部屋の中では魔素がかなり反射していますので魔法はあまり使えないかもしれません。」
「という事は私は役立たずですね。」
「安心しろ、ゴーレム相手じゃ俺も同じようなものだ。できるのは援護だけ、ビアンカは後ろの警戒を頼む。二人は本体の方をよろしくな。」
ゴーレムなんて言う巨大な魔物に接近戦を挑むなんてどうかしている、なんてことは口が裂けても言えないが戦闘用ホムンクルスであるアティナにとっては日頃の鬱憤を晴らすまたとないチャンス。
アネットには援護に徹してもらってとりあえず様子を見るとしよう。
通路の先は小部屋になっており、その真ん中にパトランプのような丸い頭を付けた巨大なゴーレムが鎮座していた。
部屋に一歩入るなりその頭が赤く光り、ゴゴゴゴと音を立てて動き始める。
真っ先にアティナがゴーレムに向かってハンマーを振り下ろすも外装をなでるようにして地面を叩いた。
「む、変ですね。」
「何かを削った感じはありますけど、私の槍もうまく当たりません。」
「それが魔法を反射する装甲ってやつなんだろう。とりあえず引きつけつつ頭を狙ってくれ、俺もやれるだけやってみる。」
狙うはパトランプのようにクルクル回るあの赤い頭、スリングを構え左右に動く頭が止まる瞬間を待ち続ける。
「アネット様!」
「足がだめでも関節なら!」
ゴーレムの強烈な降り降ろしをアティナがハンマーで受け止め、その隙にアティナが槍を関節の隙間に勢い良く差し込む。
可動部を止められゴーレムが片膝をついたその瞬間、限界まで引っ張り続けたスリングを解き放った。
「お見事です。」
「あー、腕がつかれた。」
「頭を打ち抜いたらそのまま止まっちゃいましたね。」
「下手に倒れるより好都合だ、今のうちに外装をチェックしよう。」
『フィルムゴーレムの外装。通常のゴーレムと違い何百もの薄い外装に覆われており、その一枚一枚が優れた耐熱・耐魔法・耐衝撃性能を持つ。かなり薄い為かつては防具に張り付ける加工が試みられたが、すぐに破損してしまう為実現することはなかった。最近の平均取引価格は銅貨10枚、最安値銅貨5枚、最高値銅貨16枚、最終取引日は47日前と記録されています。』
地面に落ちた外装を拾い上げて相場スキルを発動、ある程度は俺の想像通りだがまさかこれを防具に張り付けようとするとはなぁ。
魔法を反射できるなら確かに価値はあるが攻撃を防ぐたびに剥がれるんじゃ何度加工してもきりがない。
試しに引っ張ってみると、ある程度ピンを張ったまま力を入れたらいとも簡単に破れてしまった。
この強度じゃ戦いには使えないけど日常遣い程度なら多少は何とかなるんじゃなかろうか。
「ナイフを刺しても一枚しか剥がせませんが何度も動かせばまとまった量を剥ぎ取れそうです。」
「できるだけ大きく剥ぎ取ってくれ、出来れば足とか胴体から頼む。」
「了解しました。」
「ご主人様、頭の部分どうしますか?」
「あー、とりあえず持って帰るか。」
何に使えるかはわからないけど記念になるかもしれないし。
そんなわけで念願の素材を確保、どう使うかは今後考えていくとしよう。
通常とは違う寒さ、マジで勘弁してもらいたいんだがなぁ。




