1518.転売屋は巨大クラゲを仕入れる
還年祭まで後二週間ほど。
麻薬の影響もだいぶ薄らぎ、街はいつにもまして活気を取り戻している。
王都で迎える還年祭は初めてなのでもしかしたらこれが今まで通りの盛り上がりかもしれないけれど。
兎にも角にも日常は戻りつつある。
それならば還年祭の盛り上がりに合わせてこのビッグウェーブに乗るしかないじゃないか。
「店長、次お願いします!」
「あぁぁぁ、客が多い!」
そう、たしかに俺はこのビッグウェーブに乗っていた。
還年祭を前に軍資金を得ようとやってくる大量の買取希望者たち。
その波はとどまることを知らず、昼を過ぎても買取買取買取・・・。
もっと前から準備しておけよ!と文句を言いたいところだが、例の騒動でそれどころじゃなかった人が多いんだろう。
特に冒険者は満足に戦いにもでられず金は減る一方、そのせいで武具の買取希望も多くなっているため必然的に俺の手が塞がってしまうというわけだ。
「文句は結構ですが手を動かしていただけるとありがたいですなぁ。」
「シロウ様、整理券が12枚積み上がっておりますお早く。」
「マスター、買取を終えた品は倉庫に運んでおきますのでどうぞ心置きなく買取をなさってください。」
「・・・ういっす。」
俺が文句を言ったところで買取待ちの数は変わらない。
セーラさんとアティナの手を借りてやっと一段落ついたのは昼をずいぶんと過ぎてからだった。
もう無理、マジで無理。
「では私は買い取った品と一緒にアレを王城へと運び込みます。」
「よろしく頼む。あーーー疲れた。」
「今日はいつにもまして買取希望が増えましたなぁ。」
「特に冒険者の依頼が多いようです、アレだけの武具を手放して大丈夫なのでしょうか。」
「大丈夫じゃないが、とりあえず装備の品質を落としてでも日銭を確保したかったんだろう。幸い強い武具がなくても仕事はあるし、地道に稼いでまた装備を買い戻せば良い。とりあえず俺も還年祭が終わるまではまで眠らせておくつもりだ。」
そこで全財産使い切るやつも少なからず、いや半分ぐらいいるかも知れないがなんだかんだで稼ぎ直して戻ってくることだろう。
買取金額は相場のおよそ半値、正規の値段よりも少し安く売っても十分元は取れるしその資金を確保するためにまた彼らが素材を売りに来るので、それを転がすだけでも更に利益は出るだろう。
安く売ってもらったと勝手に恩を感じてくれるだけでなく、それを返そうとまた頑張ってくれる。
いやー、笑いが止まらんなぁ。
「こんにちは!」
「お、バーンじゃないか。どうしたんだ?」
「えっとね、すっごいのが港に上がったからトトを呼びに来たの!」
「すっごいの?」
「うん!早く行こう!」
下心のない純粋さ100%の笑顔で息子が誘ってくれているのだが、生憎とこの後も客は大量に来るわけで。
今俺が抜けるわけには行かないんだよなぁ。
はてさてどうしたもんか。
「主殿、せっかくのお誘いですからどうぞ行ってきては?」
「大丈夫なのか?」
「全く大丈夫ではありませんが、港町であればバーン殿に乗ればすぐでしょう。夕方までに戻ってきてくだされば問題はありません。ただ主殿の休憩時間がなくなるだけですので。」
「お前なぁ。」
「トトいかない?しんどい?」
「あー、大丈夫だ。すっごいのが見つかったんだろ?俺も早く見てみたい。」
「でしょ!早く早く!」
息子のこんな嬉しそうな顔を見せられていかない選択肢があるだろうか、いやない。
含みのある言い方をしたジンをジロリと睨んでやったが本人は全く気にした様子もなく、バーンに急かされるまま急ぎ外套を羽織って港町まで文字通り飛んでいく。
還年祭を前にひっきりなしに荷物が届く港町はいつにもまして賑わっているのだが、そのにぎわいの中心は船着き場の方に集中していた。
何かを取り囲むように大勢の人が集まっている。
その中心に合ったのは透明ななにか。
ふむ、上から見るだけでは何もわからん、とりあえず降りてみるか。
百聞は一見にしかず、っていうか見たほうが早い。
ということで空きスペースの上でバーンに人化してもらい、背負われたまま華麗に着地。
最初の頃は街の外にワイバーンの姿のまま着陸しなければならなかったことを考えればかなりの成長と言えるだろう。
因みに荷物があるときはそのままホバリングで荷物をおろしてから人化する。
「これはこれはバーン様、それにシロウ様まで。」
「随分と賑わっているようだがまたなにか打ち上がったのか?」
「えぇ、そのまたです。」
顔馴染の漁師長的な人がわざわざ輪の中から外れて挨拶に来てくれた。
向こうからすれば俺は上得意客、時には迷惑もかけたりするけれどお互いにいい関係を築けていると俺は思っている。
話を聞くと打ち上がったのはなんとも巨大なクラゲらしく、バーンの言うすっごいのっていうのは間違いないらしい。
無理を言って人の輪の中を通らせてもらい、件のクラゲと対面する。
「でっか。」
「でしょ!すっごい大きいの!でも中身空っぽなんだよ。」
「からっぽ?」
「おそらくシードラゴンかなにかに中身を食べられてしまったのでしょう。食べられない部分が漂着したようなのですが、先程到着した船の話では沖の方にまだいくつも浮かんでいるそうです。今のところは問題はでていませんが最近の風向きを考えると港に流れ着く可能性は高そうでして。」
つまりこのでかいのがいくつも船着き場に流れ着いてしまって、作業の邪魔になってしまう可能性があるということか。
中身が残っていたら触腕とか色々と残った素材を金に帰ることができたのかもしれないが、外見だけじゃなんにも使えないんだろうなぁ。
だから誰もがこうやって手をこまねいているわけで。
『ゴースティークヴァーレ。世界最大級の大きさを持つクヴァーレといわれており、長い触手で獲物を捕食する。ただし性格は非常に温厚それ故に他の海洋生物に捕食され食べ残されたカサの部分が漂着して港を塞いでしまうことがしばしば問題となっている。カサは非常に弾力があり丈夫だが食用には向いていない。最近の平均取引価格は銀貨9枚、最安値銀貨5枚、最高値銀貨12枚、最終取引日は99日前と記録されています。』
世界最大級の名前にふさわしい大きさ、だが相場スキルをもってしても使い道について何もヒントを与えてくれなかった。
価格から察しても厄介者以外の何者でもない、おそらくこの価格も相場っていうか処分費用的な感じなんじゃないだろうか。
今が書き入れ時の港町にこんなのがいくつも漂着すれば祭りそのものに影響が出かねないのだが、いくら良好な関係を築いているとはいえ金にならないものを買い取る義理はないわけで。
「ねぇトトみてみて!」
そんな状況を知ってか知らずか、いや全く知らないバーンがワイバーンの姿に戻り巨大な傘を頭に被って遊び始めた。
所有者はいないしいっそのことこれをこのまま何処かに運んでくれないか、そんな雰囲気すらでている。
確かにバーンならこれを簡単に運べるだろう。
「いい感じの外套じゃないか。」
「でしょ!ねぇトトも中に入れるよ!」
「入れるって・・・ん?」
バーンが立ち上がったことで傘の中心が持ち上げられ、まるで草原に立つゲルのようになっている。
言われるがまま下の部分をめくり中に入ると、バーンが嬉しそうな顔で俺を見下ろしていた。
ワイバーンの姿でも息子がどういう顔をしているかぐらいは判別がつく。
しかしあれだな、中に入ると全然寒くないな。
さっきまで海風がビュービュー吹き付けていてかなり寒かったのだが、傘が分厚いからか一切中に入ってこない。
ふむ、これで暖房でもつけようものならかなり暖かくなりそう・・・いや、一酸化炭素中毒であの世行きか。
それならば換気用の窓をつけて、なんなら足元は少し隙間を空けておけばそのリスクは回避できる。
もしくは火を使わない暖房器具で加熱してやればなんとかなるかもしれない。
これだけの大きさならかなりの人数を収容できるし、あれ、もしかしてこれ使えるんじゃないか?
「バーン、貰って帰るか?」
「え、いいの!?」
「って、息子が言ってるんだがかまわないか?」
「むしろ持っていっていただけると非常に助かります。なんでしたら・・・。」
「沖のやつも持っていってほしいんだろ?悪いが多少の処分費はもらうが構わないよな?」
「もちろんです。」
交渉成立。
バーンの背に乗り沖に出るとプカプカと浮いていた同じようなカサを全部で8個ほど回収して王都へと凱旋。
突然もたらされた巨大な物体に城壁の外にも人だかりができてしまったが、持ってきたのが俺とバーンだとわかると皆納得したような顔をしていた。
なんだろうこの反応、まるで毎回俺が変なものを持ってきているみたいじゃないか。
「夕方までに戻ってきていただけたのは非常にありがたいのでが、一体この大きいのをどうするおつもりで?正直臭いますぞ。」
「とりあえず塩抜きは必要だから適当な川にさらしとけばなんとかなる、と思っているんだが。どう思う?」
「さぁそれはなんとも。ですが湖にさらすよりかはマシでしょうな。」
湖に入れようものなら塩湖に変わってしまいかねない、少し離れたところに大きな川があるからそこに沈めて塩抜きするのが一番か。
「それはバーンに任せておくか。どうするかは1つ目の塩抜きが終わってから考えるとして、あれ?どこいった?」
「バーン殿でしたら一つ被ったまま王城の方へと飛んでいきましたぞ。おそらくガルグリンダム様に見せに行ったのでしょうが、苦情は出るでしょうなぁ。」
「関係ない、と言いたいところだが子どもの尻拭いをするのも親の役目か。やれやれだ。」
「まぁまぁ、これが金になると思えばいいではありませんか。このデカブツをどうされるのか今から楽しみです。」
「聞いて驚け、原価はタダっていうか金をもらって回収してきたんだ。それが更に金を生むんだぞ、最高だろ?」
「最高ですな。」
強欲なる俺は処分費まで貰ったものをそのまま捨てるなんてことはもちろんしない。
ちょうど還年祭というビッグイベントが待っているからな、そこでしっかり活用してさらなる金を生み出すつもりだ。
これこそが強欲と呼ばれる所以、魔人もびっくりの強欲っぷりで残り二週間しっかり準備しようじゃないか。




