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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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1517.転売屋はミニチュアを買い付ける

「店長、お願いがあるんですけどいいですか?」


朝のラッシュを乗り越え一息ついていた時のこと、意を決したような真剣な表情でバーバラが俺に声をかけてきた。


「なんだ、休みの相談か?」


「そうじゃないんですけど、今日買い取った素材を譲って欲しいんです。あ、もちろんお金は払います!」


「そんな興味を引く素材なんてあったか?」


「もしかして知らずに買い取ってます?」


「もしかしなくてもそうだな。」


今日買い取ったのはほとんどが魔物の素材で、珍しい装備とか綺麗なアクセサリーなんかは無かったはず。


そんな中で何が欲しいのか見当もつかない。


パッと顔を輝かせて買い取ったばかりの素材を入れておく木箱から彼女が持ってきたのは予想外の品物だった。


え、これを買うのか?


「これなんですけど、いいですか?」


「女性が笑顔でそれを持ってると中々怖いものがあるが、その感じから察するに金になるネタなんだろうなぁ。」


「そんな感じです。」


「よし、そのネタとやらを情報料に譲ろうじゃないか。」


箱から持ってきたのは髪の毛の束。


魔物の素材とは思えないほどの艶やかなその黒い髪を手に満面の笑みを浮かべるバーバラのその姿は、客観的に見れば中々にホラーだが本人はかなり喜んでいる。


『名もなき少女たちの遺髪。この世に未練を残して無くなった少女達の遺髪。非常に濃い魔素を有しており呪術などの触媒として用いられることが多い。もし彼女たちの願いを叶えることができたのならその御礼に願いを叶えてもらえるという言い伝えがある。最近の平均取引価格は銅貨60枚、最安値銅貨51枚、最高値銅貨84枚、最終取引日は昨日と記録されています。』


彼女曰くこの髪の毛をとある人形に巻きつけ、服を着させるなどして着飾ってやるとお礼に人形が願いを叶えてくれるという話だった。


元の世界じゃ笑い話で終わってしまう話だが、この世界だと十分あり得そうなんだよなぁ。


実際願いが叶うかもって鑑定スキルは言っちゃってるし。


大半の願いは恋に関するものらしいが内容によっては髪の毛の編み方を変えたりするんだとか。


未練を残した少女達を人形に宿してってな感じなんだろうけど、さも当たり前のように幽霊と同居するってことだよな?


怖くないんだろうか。


「つまりそのヴェイグドールとやらにその髪を移植してさらには着飾ったり世話をしてやるとお礼に願いを叶えてくれると。女性ってのはそういう話好きだよなぁ。」


「可愛いと思いませんか?」


「それに関してはノーコメントだ。服とかは前々から人形用のが取引されてたが、まさか髪の毛が売れる日が来るとはなぁ。」


「ヴェイクドールも中々手に入らないんですけど、そっちは前に知り合いの冒険者から譲ってもらいました。お洋服とか部屋とか準備して、あとは髪の毛だけだったのでこれでやっと全部揃います。」


まるで某雑誌のようにパーツを集めて完成品を作るみたいな感じだろうか。


願いを叶える人形とはいうけれどようは未練の集合体だろ?


今はいいが飽きてから放置とかするとどんな事になるかわかったもんじゃない。


いや、まじで魔物化するなんてのが十分あり得る世界だけにそっちの方が気になるんだが。


「くれぐれも大事にしろよ、雑に扱ったらバチが当たるからな。」


「店長ってそういうの信じる人なんですね。」


「信じるっていうか未練が残りすぎるとどうなるか実際に目にしてるし。」


「う、それを聞かされると怖くなりますけど。大丈夫です、最後までお世話します。」


ベッキーがまさにそうだもんなぁ、本人の性格から大事には至ってないがあれが敵に回るとそれはもう大変なことになる。


ミケと共にダンジョンで無双する姿を見ている立場からすれば絶対に敵に回したくない。


とはいえ金になるには間違いないし、髪の毛をどうするかは買った人間の責任なので俺がそこまで気にする必要はないわけで。


自己責任でよろしくお願いしますってやつだ。


ひとまず先に買い取ったやつは約束通りバーバラに譲り、俺は新しいネタを探しに市場へと向かった。


名もなき少女の遺髪なんていう禍々しいものでも普通に売っているのが王都の市場。


一本だけ貰った遺髪を手に相場スキルを発動すると、すぐに相場よりも安いものを発見した。


「お客さん?」


「一応な、その遺髪がほしいんだが。」


「・・・ダメ。」


「値段が付いてるってことは売り物なんだろ?」


「そうだけど、大事にしてくれる人にしか売れない。」


「ふむ、店においているものから察するにヴェイグドール用の服だよな。」


遺髪の横には可愛らしい服や小物がいくつも並べられ、まるでミニチュアショップのようだ。


こういう細かくて小さいいのが女性は好きなんだよなぁ。


向こうに持って帰ったら妻たちが黄色い歓声を揚げながらこれがほしいアレがほしいと騒ぎまくるんだろう。


ぬいぐるみのときもそうだったし、今回のドールも間違いなく流行る。


が、ぬいぐるみと違って呪術的な観点がかなり強くでているので途中で投げ出さないという約束が必要だ。


彼女が売っているのはつまりそういうことなんだろう。


「そう、妹のために作ったもの。でも、どれを着せても満足してくれなかった。」


「ってことはその髪は・・・。」


「これは違う。」


ちがうんかーい。


今の話の流れだったら絶対に妹の髪の毛だろ、と思ったのだがどうやらそうではないらしい。


なんでも昔から足が悪くて歩けるようになりたいという願いを叶えるためにヴェイグドールを手に入れたそうだが、中々願いが叶えられずとうとう諦めてしまったらしい。


並べられた道具たちはその名残であり彼女が妹のために作ったものらしい。


そこにある遺髪はドールから取り出したもの、やはり放置すると祟りのようなものがあるんだとか。


「なるほどな、だから次は満足させてくれる人に渡したいと。」


「そう。」


「そういうことなら俺も無理に買い付けるつもりはない。それよりもこっちのほうが気になるんだが、これとこれのセットを作るとなるとどのぐらいかかる?材料はこっち持ちで。」


そう言って指さしたのはドールが座れそうな椅子とテーブルのセット、この組み合わせなら座らせるのに困らないし上に小物をおいたりして楽しめる。


ドール系の小物は過去にもいくつか出ているが、それと比べても質素ながら出来はいい感じだった。


「それなら一時間ぐらいで出来る。」


「早いな、じゃあ10個なら?」


「半日もかからないぐらい。それと、この机と椅子を置くなら机の上に物を置かないとこの子達もさみしい。」


「ふむ、ってことはいくつか小物が必要か。因みに必要なもの含めて10セットならいくらになる?」


「考えたこと無いけど、ここにあるのなら銀貨3枚ぐらい。」


ふむ、椅子と机だけだと少し高いかなと思ったが彼女が指さした小物は全部で5つぐらいあったので、それ全部だと思えばかなり安い。


ミニチュアの出来も悪くないしこれなら欲しがる人は多いだろう。


本当は髪の毛を転がすつもりだったのだが、物が物だけに何時までも店に置きっぱにするのは正直怖い。


それならば人形の流行に合わせて必要になる付属品を売ったほうが安心だし、なにより点数が増えれば増えるだけ俺の懐が暖かくなる。


鑑定の結果から察するに様々な要因で亡くなってしまった少女達を満足させなければならないわけだが、大体が貧しい感じの子だろうから豪華な家に住まわせて美味しそうな食事を並べれば満足するんじゃないだろうか。


色恋に関しても可能性はあるが人形と恋をするわけにもいかないしなぁ。


髪の毛がダメならヴェイグドールの方をとも思ったが、どちらもヤバ気な雰囲気がプンプンする品なのでそう言ったものを転がすのはやっぱり辞めておこう。


何事も安全安心が一番だ。


「髪の毛以外の小物をすべて買わせてもらいたい。それと、さっきの組み合わせて10セット前金で支払うから作ってもらえないか?」


「これを?どうして?」


「知り合いにヴェイグドールを始めた子がいるんで彼女に使ってもらおうと思ってな。他に娘が小物を欲しがっているからそれ用にも買ってやりたい。生憎と髪の毛にはふさわしくないが他のものは問題ないだろ?」


「問題はない・・・かな。」


向こうからすれば在庫処分ができるわけだし、更には新しい金儲けのネタが出来るわけだ。


どういう仕事をしているのかはわからないけれどこれだけの作品を生み出せる人ならば早めに声をかけておくに限る。


ヴェイグドールが流行るのは間違いないし付属品が少なくなれば確実に高値で取引されるようになる。


そうなればもうこっちのもの、高すぎない程度の値段をつけて転がすだけでかなりの利益が出ることだろう。


ひとまず書面で簡単な契約を交わし、前金と一緒に銀貨50枚ほどを渡す。


これを書いたからには向こうも真剣にやってくれるはず、とりあえずバーバラの反応を見てから売り出し方を考えればいいか。


ということで早速買い付けたミニチュア達を手に店に戻ったわけだが、カウンターに並べたそれらをみてバーバラの動きが完全に止まってしまった。


フリーズ、思考停止、現実逃避。


最後はちょっと違うがともかく何をしても反応がない。


流石に肩を揺らしたりするのはセクハラと言われかねないので自重しておいた。


もっとも、セクシャルハラスメントなんて言葉はこの世界に存在しないわけだけども。


「おーい、大丈夫か?」


「ててて、店長!これなんですか!何処で買ったんですか!?何処に行ったら売ってるんですか!?」


「落ち着け。」


「落ち着けませんよ!すごい、こんな可愛いのが売ってるなんて全く知りませんでした。えぇ、どうしようどれが似合うかな。このお洋服とかむちゃくちゃ可愛いし、それならこっちの小物も一緒に合わせたいし。えー、どうしよう全部欲しい!」


「銀貨50枚な。」


「高すぎますよぉぉぉぉ!!」


それぐらい買えるだけの給料は出しているつもりだが色々と買い物してるみたいだし、たしかに高いといえば高い。


前払いした分を加味しなければ全部で銀貨20枚ぐらいに抑えることは出来るけれど、それだとほとんど儲けが出ないんだよなぁ。


せっかくローリスクで金儲けができるんだからここぞとばかりに稼ぎにいかないでどうするよ。


流石に全部は無理らしいので半分をバーバラに売りつけ、残りを扉横の出窓に飾っておく。


すると出してすぐに客が店に入ってきて、一直線に出窓に飾った作品をじっと見つめる。


「イラッシャイ。」


「あの、これって売り物ですか?」


「あぁ、小さいのは2つで銀貨1枚他はどれも一つ銀貨1枚で販売している。早いもの勝ちだから気に入ったのがあったら先に買うのをおすすめするぞ。」


「えーどうしよ、どれも可愛くて迷うんだけど。」


それからしばらく悩みまくっていたのだが、次に入ってきた客が同じようにミニチュアの方を見た瞬間に慌てた様子で気に入ったものをいくつか持ってきた。


結局その日のうちに残った全ては現金化され、追加はないのかとたくさんの客に問い詰められることになってしまった。


これだけの需要があるんだ、もっと高くても売れるかもしれない。


そう思いながらもこれだけの人間が例の髪の毛を移植した人形を持っていると思うとなんとも言えない気持ちになる。


どうか彼女たちの未練がなくなりますように。


そんな事を考えながらも、次なる金儲けのネタを考えるのだった。

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