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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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1509.転売屋はヘアワックスを広める

雪が降ったり止んだりと冬本番の空気が流れてくると、街ゆく人もコートや外套のフードを深くかぶって歩くようになる。


一見すると危ない集団のようだがこれも寒さから身を守るため。


ただこれには色々と問題もあったりする。


「あー、また髪の毛ぺったんこになっちゃった。」


「いいじゃない、手櫛すればまた膨らむでしょ?」


「そう言う問題じゃないの、私はフワッフワでいたいの。折角髪の毛ヘアクリームで綺麗にしたのに外出るたびにこれだもんいやになっちゃう。」


雪の中店にやってきてくれたのは女性冒険者二人組。


文句を言っているのは鮮やかなブロンドのロングヘアーをしたお姉様風。


もう一人は珍しい漆黒ショートヘアー。


顔立ちからショートの方は西方の出だろうか、全くの初めてだが妙に親近感が湧いてしまう。


「イラッシャイ、また降ってきたのか?」


「そうなんです。仕方なくフードを被ったらこの子が文句を言い出して、ごめんなさいうるさいですよね。」


「その程度でうるさく思ってたら他の連中を全員追い出さなきゃならなくなるから気にするな。買取か?」


「ヘアオイルを売ってるって聞いてきたんだけど、こんなところにあるの?」


「もちろんあるぞ、なんせ開発したのは俺だからな。」


半信半疑でやってきた店の店主がまさか開発者だったとは思うまい。


ドヤ顔で壁の什器を指差してやると、並んだ小瓶を見つけて二人は黄色い歓声を上げながら駆けて行った。


冒険者がくるのがめっぽう減ってから一般向けの商品を多めに並べるようにしておいて正解だった。


キャイキャイ言いながら品定めをしていた二人は最終的にそれぞれ一本ずつお目当ての品を手にカウンターに戻ってくる。


「気に入ったものがあったみたいだな。」


「こんなお店って言ったら失礼だけど、他のお店じゃ完売してたのがこんなにあるとは思わなかったから驚いちゃった。」


「その髪量だと一ヶ月は難しそうだが、また還年祭の頃に買いにきてくれ。これ、次使えるクーポンな。」


「え、いいんですか?」


「その代わりにしっかり宣伝してきてくれよ。」


口コミに勝る宣伝はなし。


彼女たちの宣伝力があれば仲間の冒険者だけでなく他の女性にも広げてくれるから、そう言った客が来てくれればクーポン分の値引きなんてあっという間に回収できる。


代金を受け取った後てっきり帰ると思ったら、ロングヘアーの方が申し訳なさそうな顔をしてとある小瓶をカウンターの上に置いた。


「買取か?」


「他所で買ったヘアクリームなんだけど、これを使ったらサラサラどころかツンツンになっちゃって大変だったの。でも高かったから捨てるのも勿体無くて、こういうのも買取できる?」


「ふむ、まずはみてみよう。」


見た目はうちの瓶をちょっと劣化させた感じ、模倣品が出るのは致し方ないが何をどうやったらツンツンにできるんだろうか。


『スライムスターチ。イエロースライムの体液は他の種よりも非常に粘度が高く少量混ぜるだけで簡単に糊を作ることができる。ただし量を誤ると固着してしまうため注意が必要だが、お湯をかけると剥がすことができる。最近の平均取引価格は銅貨38枚、最安値銅貨26枚、最高値銅貨44枚、最終取引日は昨日と記録されています。』


なるほど、たしかにこの成分だとツンツンになるのは間違いない。


おそらくはうちのヘアクリームを水で薄めたらドロドロになったのでこのスライムスターチで粘度を復活させた感じだろうか。


だがそのせいでワックスみたいに固まってしまい、ツンツン頭になってしまうと。


鑑定結果にスターチしかでないってことは分量を間違った可能性は十二分にある。


救いがあるとすればお湯でリセットできるのでずっと立ったままってことがないことか、これで固定とかだったらクレーム物だがそういうわけじゃなさそうだな。


「これは何処で買ったんだ?」


「一週間ぐらい前に市場で買ったんだけど、気づけばもうそのお店はなくなってたのよね。はあ、銀貨3枚もしたのに一回しか使ってなくて大損よ。」


「まぁそういうこともあるだろう。残量もそれなりにあるし、銀貨1枚と銅貨40枚でなら買い取りできるがどうする?」


「もう少し高くならない?」


「生憎と髪の毛を立たせるためにしか使えないものだからな、需要がわからない以上これが限界だ。」


「仕方ないわよね、それで買い取って貰えるかしら。」


置いておいたところで使い道はないのだから現金化できたと思えばまだマシだろう。


向こうは使わないものを現金にして、俺は新しい金儲けのネタを冒険者から仕入れる。


両者Win-Winの取引成立と言うわけだな。


買取金を手渡し何度もお礼を言いながら店を出る彼女たちを見送る。


さて、中身を詳しく確認しようじゃないか。


瓶の中身をいくつかの小皿に分け、それと同じように店のヘアクリームを大きめのお皿の上に乗せる。


どのぐらい加水しているかは実験してみないとわからない、加えてどれぐらいスライムスターチを入れれば固くなるのかも未知数なのでただひたすら実験するのみ。


向こうだってうちの商品を模倣、加工して商品化しているんだからこっちだって同じようにしてなんの問題があるだろうか。


なんなら向こうはうちの商品の模倣品としてしか販売できないが、こっちはオリジナルとして販売できる強みがあるので分があるのはこっちの方だろう。


実験を始めること数時間、いくつもの可能性を潰しながらなんとか似たような状態に持っていくことに成功した。


ヘアクリームを3倍量の水で薄め、そこに倍量のスライムスターチを混ぜるといい感じの硬さに落ち着く。


つまり同じ量のヘアクリームと比べて6倍のヘアワックスが出来る計算になるわけだ。


スライムスターチの材料費を足しても原価は4分の1ぐらいになる。後はそれだけの需要を確保できるかだがとりあえず実際に使ってみて効果を確認するのが先決だな。


「え、頭を貸してほしい?」


「あぁ、ちょっとばかし貸してもらえるか?」


「っていうか頭って貸せるんですか?」


「大丈夫大丈夫、失敗しても髪の毛が硬くくっつくだけだから。」


「全然大丈夫じゃないじゃないですか!」


自分の頭で実験することも出来るがここは一つ冒険者の力を拝借しようじゃないか、そう思ってギルドで買取を待っている冒険者に声をかけてみたもののいい返事はもらえなかった。


商品の安全性をしっかり伝えても中々首を縦に振ってくれないわけで。


仕方ない、自分の頭を使うしか無いかそう思っていたときだった。


「あの、私の髪の毛で良かったら使ってください。」


そう言ってくれたのは深緑色のロングヘアーが綺麗な女性だった。


聞けば冒険者になりたてで余り実力がない中で魔物討伐の依頼しかなく困っていたらしい。


渡りに船とはまさにこのこと、早速彼女の頭・・・髪の毛を借りてヘアワックスの実験を行うことにした。


まずは少量を両手の指になじませそれから髪の根元に向かって指を入れる。


直接地肌に付けて荒れても困るのでそのへん気をつけるのと、いきなり見知らぬ女性の髪の毛に触れるという状況に出来るだけ冷静を保つので必死だった。


「とまぁこんな感じだが、悪くないな。」


「すごいです!こんなにフワッフワなのにさわっても崩れません!」


「うちのは正真正銘のヘアクリームをたっぷり使ってるからな、髪の毛を労りつつ髪型を楽しめるほうがおもしろいだろ?試しにフードを被ってもらえるか?」


「こうですか?」


髪の毛の量が多いからか自重でペタンとなっていた彼女の髪の毛がまるで空気が入ったかのようにふんわりとまとまっている。


それでいてベタベタ感はなく手櫛をすればそれなりに通る。


試しに羽織っていた外套のフードを被ってもらったが、まるでフードを押し上げるようにふわっとした髪の毛はその状態を維持していた。


「よし、いい感じに状態を保ってるな。」


「こ、これ何処で売ってますか!?今まで何をしても頭ぺったんこになるから寒くても我慢してたんですけどこれで気にせずフードをかぶれます!」


「まだ商品化する前だがよかったら使ってみるか?」


「いいんですか!?」


「実験に付き合ってくれたお礼もあるし、これを取る時の感想も聞きたい。一応お湯で頭を洗うだけで取れるはずだけどどんなふうになるかも教えてもらえると助かる。明日にでも買取屋まで教えに来てくれ。」


「わかりました!」


実験に付き合ってくれたんだからこれぐらい安いもんだろう、いい感じの髪量だし長時間使った実証実験を行うことも出来る。


その後もくしゃくしゃと髪の毛をかき乱してもらったし、それを撫でて直してもらったりと色々と試してみたが思った通りの結果になってくれた。


ヘアクリーム配合のヘアワックス。


普段は主に女性に向けた商品を販売しているが、ここにきて男も使える商品を作れたような気がする。


男だからって髪の毛を蔑ろにしていると後で後悔する、いやマジな話で。


別にトリートメントしろとは言わないけれどしっかり乾かすとか、頭皮から洗うとか、ともかく髪の毛は大事にするべきだ。


それからは彼女の髪の毛を見て自分もやってほしいという人が増えてきたので残りのサンプルを使って様々な髪質に対してサンプル試験を実施、概ね良好な結果が出たと言っていいだろう。


どこぞの戦闘民族のように上に向かって髪の毛を立たせたまま大声を出して笑うやつもいれば、後髪に動きをつけて満足そうに頷く人もいた。


模倣して作ったものがまさか逆に模倣されてしかもバカ売れするかもしれないとは売り逃げしたやつも思うまい。


もう髪型が崩れることを恐れなくてもいい。


その喜びの声とともに、この冬新しい商品が誕生したのだった。

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