1505.転売屋は大会を主催する
カードゲームを売り出して二ヶ月近く経つだろうか。
街道沿いの広場で時間潰し用に開発したのだが、今では一家に一セットぐらいの勢いで普及しているらしい。
最初こそ飛ぶように売れたけれど、最近はそれ専用に素材を狩る冒険者も出てきたこともあり持ち込み自体も減ってきている。
まぁ消耗品でもないし一度広まったらしばらく売れなくなるのは当然のこと。
それでも買取をやめずにコツコツ生産しているのには別の理由があった。
「ほぉ、カードの大会ですか。」
「聞けば還年祭の頃は武闘大会とか冒険者向けの催しで大盛り上がりするそうじゃないか。だが今回の一件でその開催も危ぶまれているって聞いたんでな、それなら一般も巻き込んだお祭り騒ぎにしてしまえば似たような感じになると思ってる。実際ダンジョン街じゃそういった事を色々と主催してきたんでね、多少のノウハウはあるつもりだ。」
ある程度準備が整ったところでギルド協会へと売り込みをかけた俺はムートンさんと対峙していた。
麻薬騒動で冒険者数が減り、毎回開催されていたはずの武闘大会は中止の瀬戸際だという噂は誰もが知り得る状態になっている。
ギルド協会のメンツのためにもなんとかしたいと思っている今、向こうがこの話に乗ってこないはずがない。
「誰もが簡単に参加できて、それでいて盛り上がるっていえばやっぱり勝負事だからな。もっと雪が降れば別の企画もあったんだが天候に左右されないとなればカードが一番だろう。ババ抜きでもいいしポーカーもいいだろうけど、ここは一つ新しいルールでやるつもりだ。その方が全員平等に楽しめるだろ?」
「確かに経験しているのとそうでないのとでは少なからず差が出てしまいますから、それであれば一般住民も参加しやすそうです。具体的にはどんなもので?」
「それは本番のお楽しみ、と言いたいところだが主催者が知らないってのは色々と問題あるからな。とりあえずやってみるのが早くないか?」
そう言いながら懐から新しいトランプを取り出し机の上に置く。
折角ならあと二人ぐらいいてくれると面白いのでタイミングよく香茶を持ってきてくれた職員も誘って四人で遊ぶことにした。
やるのはお馴染み大富豪。
ローカルルールが山ほどあるのでオーソドックスな8切りと革命のみを採用したルールをセーラさんに書き起こしてもらい、それを各自の前に置いておく。
百聞は一見にしかず、いや一験だろうか。
ともかくやって覚えるのがカードゲーム、そんなわけで職員も含め仕事を忘れて楽しんでもらうこととなった。
「どうだった?」
「確かにこれは盛り上がりそうです。運の要素ばかりと思いきや戦略もそれなりにあるのですね。」
「だろ?他の二人はどうだ?」
「面白かったです!」
「まだまだやりたいんですけど、これはまだ教えちゃダメなんでしたね。我慢します。」
参加してくれた二人とも夢中になって楽しんでくれたようで何よりだ。
一試合につき四回戦行い、最後に富豪と大富豪だった人がリーグを勝ち上がるやり方で参加人数を減らしていき、最終的に20人ぐらいになったら決勝リーグとして大人数の前でやってもらう。
もちろんここまで来たら何かしらの賞品も出すし優勝すれば武闘大会ほどではないがそれなりの額の賞金をもらえるとなれば大盛り上がり間違いなしだ。
カードが小さいので見ている人は面白くないかもしれないが、確か武闘大会には実況を専門にする人がいたはずなのでそういった人に盛り上げてもらうのもいいかもしれない。
ぶっつけ本番だが向こうもプロ、何とかしてくれるだろう。
多分。
「気に入ってもらって何よりだ。これを行うにあたり俺の要求は三つ、一つは当日の出店への無料参加。二つ目が当日使用するカードをうちから購入して貰う事。最後に参加者に配る粗品を含め賞品をうちから購入すること、この三つだ。」
「参加賞まで、これは高くつきそうですね。」
「無料参加で参加賞を配るとなるとかなりの量が必要だろう?そっちは武闘大会の代わりを手に入れて面目を保ち、俺は賞品を含めて大儲けさせてもらう。本当は出店にかかる税金も免除して欲しいところだが流石に税金となると色々と面倒だろ?」
「特にシロウさんは毎回かなりの金額を稼がれますから、大会費用を回収するためにもそこは譲れません。」
「なら他の条件は飲んでもらえるんだな?」
「これを逃す手はありませんからね。正直カードは経費削減のため自前のを持ち込みさせたいところですが公平性を考えれば新しいものを用意するのは当然のこと、無理だとは思いますができるだけお安くお願いしますよ。」
「はは、善処するとだけ答えておくよ。」
そんなわけでカードの大会が急遽開催される運びとなった。
その他色々と詰めなければならないところはあるけれど、ひとまずは一安心。
向こうもコンサートだけじゃ足りないってことはわかっていただろうからいいタイミングだったに違いない。
正式回答を手土産に店へと凱旋を果たすと、心配そうなバーバラに向かって力強く拳を突き上げた。
「おめでとうございます!」
「そんなわけだからコンサートに続いて還年祭でカードの大会が開かれることになった。条件に関しても概ね予定通り飲んでくれているから大勝利と言っていいだろう。本番まで後一ヶ月を切ってるからな、忙しくなるぞ。」
「カードの持ち込みだけでなく参加賞もとなるとかなりの量が必要になりますなぁ、色々候補はありますが何を渡すおつもりで?」
「そりゃできるだけ安く、それでいて誰もが喜んでぶ実用的な物がいいよなぁ。」
口で言うのは簡単だけどその2つの条件を満たす物がそう簡単にみつかるわけもなく。
一応突っ込まれたときのために候補は考えて来たけれどあくまでも候補であり正式決定ではない。
一番簡単なのは食べ物、旬のものを渡しておけば誰もが喜ぶしある意味実用的ではある。
手元に何も残らないという欠点はあるけれど一番現実的な参加賞だろう。
次に考えているのは携帯カイロ。
この間買い付けたボルケーノタートルの噴石を使ってカイロを作れば皆喜んでもらえるんじゃないかと思うんだが、酸の取り扱いが悩ましいところ。
となると何もせずに温まれるものってことになるんだが・・・。
「この間のバーニングマウスはどうですか?アレなら値段は手頃ですしこの時期は喜ばれますよ。」
「確かに手袋はかなりの人気が出ているが加工するとなると値段は高くなるし採寸とか非常に煩雑になるぞ。」
「別に手の形にしなくてもいいと思うんです。袋状にしておいて寒くなったら手を入れるだけなら手間もかかりませんし大きさも一つで済みます。暖を取るには少し物足りないかもしれませんが袋の中に食べ物を入れておくと暖かいまま食べられるってこの間冒険者に教えてもらったんです。」
「ふむ、手袋じゃなくただの袋。だが手を入れれば暖かいし中の物をわずかに温めることも出来る・・・か。だがなぁ、袋だけとはいえそれなりに値段はするんだよなぁ。できれば銅貨50枚以内に収めたいところだ。」
どれだけの参加者が来るかはわからないけれど、仮に銀貨1枚とすれば100人で金貨1枚1000人で金貨10枚もの経費がかかってしまう。
カードゲームの良い所は老若男女誰でも参加できるところ、となると王都の住民を考えればそれだけの数が来る可能性は十二分にあるだろう。
参加賞の他、上位に行けば賞金も貰えるだけに参加しない理由がむしろ見つからない。
それじゃあ参加費を取ればいいのだけれど、その金額を捻出できない貧しい人もいるので参加費のせいでその楽しみを奪うことはできない。
結局は誰かが損をしなければならないわけで、でもありがたいことにそれは俺じゃない。
1000人参加しようが10000人参加しようが、そのカネを払うのはギルド協会でありそして最後はこの国の主だ。
コストを抑えたいのはただ単に売り込みをかける時の利益の問題。
バーニングマウスの袋だと加工賃も含めて原価がおよそ銅貨70枚ぐらいにはなってしまうから、銀貨1枚で売り込んだとして利益は銅貨30枚。
とりあえず1000人分は用意するとして儲けは金貨3枚にしかならない。
ここを削れば削るほど金貨は増えていくのだが安すぎれば誰も喜んでくれないんだよなぁ。
企画者としてそこをケチって盛り下げるのは本意ではない、この辺の駆け引きが難しいところだ。
「カードだけでもかなりの利益が出るというのに、主殿は強欲ですなぁ。」
「悪いか?」
「いえ、それでこそ我が主ですな。カードの原価が現在銀貨2枚、それを銀貨3枚で売れば1000個で金貨10枚にはなります。そこに参加賞の儲けを加え、更には出店の売上もとなると最終的な儲けは軽く金貨20枚を超えることでしょう。これでまだ足りないと考えるあたりさすがの強欲と惚れ惚れいたします。」
「個人的には30枚は稼ぎたい所だが、流石にそこまでは難しそうだ。いや、まてよ?賞金じゃなく別のものを商品にして更には決勝を見るのに入場料を取ればワンチャンいけるか?」
「あはは・・・、店長のお金にかける執念ってなんていうかすごいですよね。」
バーバラに呆れられながらも決してそれを辞めるつもりはない。
この世界において金はすべてだ。
自分の命以外のものなら手に入る魔法の道具と言っても過言ではない。
だが使えばなくなるのでこうやって定期的に補充してやらなければならない。
なにより罰金を支払うためにもこの程度の儲けじゃまだまだ足りないっていうね。
せっかくの機会だ、盛大に利用して儲けさせてもらうとしよう。
この日のために様々なものを買い取っているんだからしっかり転売して稼がせてもらうとしよう。
次の日、大々的にカードイベントが告知され還年祭に向けて街はさらに盛り上がりを見せるのだった。




