1449.転売屋は叫び声を放つ
店番をしていると突如として聞こえてきた叫び声。
耳をつんざく女性の悲鳴に慌てて外に飛び出るも、そこにいたのはやけにオドオドする青年冒険者のみ。
こいつがなにかしたのかと周りを見渡してみたのだが、路地の奥にもそれらしい姿はない。
「おい。」
「は、はい!」
わからないのならば聞けばいい、ってことで挙動不審な冒険者に近づき彼の目を真っ直ぐ見ながら声を掛ける。
何をそんなに怯えているのだろうか、そんな反応されるとますます怪しく感じてしまうんだが。
「さっきの声はなんだ?」
「えっと、その。」
「その反応からするとお前が犯人か。とりあえず警備を呼んで・・・。」
「何もしてません!さっきのはこいつのせいです!」
必死に弁解する青年が突き出したのは剥ぎ取った跡と思われる生々しいどこぞの部位。
人間のものでないのは間違いない感じだがどういうことだ?
「これ?」
「そうです!だから警備を呼ばないでください!っていうかもう何度も呼ばれすぎて次呼ばれたら投獄されるんです!お願いします早く買い取ってください!」
必死の形相で青年が突き出してきたそれを致し方なく受け取る。
『スクリーマーの叫び袋。スクリーマーの悲鳴が閉じ込められたその袋を押すと、耳をつんざくような声をどこででも出すことができる。ただしその声には魔物を呼び寄せる効果があるので注意が必要。最近の平均取引価格は銅貨10枚、最安値銅貨3枚、最高値銅貨16枚、最終取引日は昨日と記録されています。』
触った感じは特に気持ち悪いとかそういうのではないのだけど、真ん中の部分が不自然に膨らんでいる部分を押すと悲鳴が発せられると。
なるほどなるほど?
「なんでまたこんな物を持ち歩いているんだ?」
「だってそこらに捨てたら叫び声で魔物が寄ってくるかもしれないじゃないですか。かといって誰も買ってくれないし、処分もできず困ってたんです。お願いします、いくらでもいいので引き取ってください!」
「それは別に構わないんだが・・・。」
「ほんとですか!後はよろしくお願いします!」
厄介払いが出来たと言わんばかりの笑顔を浮かべて青年は文字通り飛び跳ねるようにしてどこかに消えてしまった。
残されたのは不気味に膨らむ叫び袋のみ。
別に潰さなきゃ叫ばないんじゃないか?そんな俺の甘い考えは一時間ぐらいした後脆くも崩れ去った。
昼食時に突然響き渡る女性の悲鳴。
それが二階の倉庫にしている部屋から聞こえてきたもんだから、食事をしていた全員が同時に天井を見つめる。
「なんでしょう。」
「あー、おそらくスクリーマーの叫び袋だろう。朝方冒険者に押し付けられたんでとりあえず置いといたんだが、なんで触ってもいないのに叫ぶんだ?」
「スクリーマーと言えばあの煩わしい叫び声を発する魔物ですな。あの声を聞くと嫌でも魔物が引き寄せられてくるとか、よくまぁそんな物を買い取りましたな。」
「まさか勝手に叫ぶと思わなかったんだよ。グレン、大丈夫だから心配するな」
突然聞こえてきた悲鳴にグレンが怯えたようにミラの胸元に顔を埋める。
羨ましい・・・じゃなかった、かわいそうなことをしてしまった。
なんで叫んだかはさておき、毎回こんなふうに叫ばれたんじゃたまったもんじゃない。
さっさとこいつを処分しないと世間的にもよろしくないぞ。
とりあえず防音性能の高いストーンゴーレムの核室の中に放り込み、さらにはブラックスライムの核をペタペタと貼り付けて隙間を埋める。
そうこうしている間に再び中から叫び声が聞こえてきたものの、当初の声と比べればほとんど気にならないぐらいに抑え込むことが出来た。
やれやれ、とんだ出費になってしまったなぁ。
次からはちゃんと考えて買い取らないとダメだな、うん。
後はこいつを何処かに捨てに行けば完璧なんだが、下手な場所に捨てるとそこに魔物が集まってきてしまうので気をつけなければならない。
どこに捨てたもんかなぁ。
「おや、マスターちょうどいい所に。」
「ん?」
「少しお時間をいただきたいのですがよろしいですか?」
城壁にもたれかかるようにしてどこに捨てるべきか思案していると、外から戻ってきたアティナが近づいてきた。
今日は確かギルドの要請で山賊の殲滅に向かったはず、人間相手の依頼なので受けたがる人があまりおらず戦闘用ホムンクルスであるアティナにお鉢が回ってきたって感じだったと思うのだが。
「もう終わったのか?」
「いえ、少し面倒な状況になっておりまして知恵をおかしいただきたいのです。」
「俺にできる範囲のことなら構わないが、とりあえず聞かせてくれ。」
かしこまるアティナを横に座らせて話を聞く。
なんでも山賊の数が思っているよりも多く下手に突入するとアジトで挟み撃ちに合う可能性が高いらしく、陽動するにも人手が足らず引き返してきたらしい。
こんなときに限ってジンは別の依頼で王都から離れられない。
本来ならば聖騎士団がやらないといけない仕事を破格の値段で受注しているだけにやっぱり出来ませんって言うわけにもいかないわけで。
かといって手伝ってくれる人もいないだけにどうしたもんかねぇ。
「つまり音か何かを出して数分でいいから気を引いてほしいと。」
「それだけ気を引いていただければその隙に侵入して殲滅することが可能です。下手に籠城されると蓄えた物資を燃やしてしまう可能性もあるだけにできるだけ短時間で行う必要があります。もちろんマスターに参戦していただこうとは思っておりません。ただ気を引いてさえいただければ。」
「そういうのが一番難しいんだっての。巡回しているやつとかはわかっているのか?」
「日中はアジトに引きこもっていますので可能性はありません。出来るだけ彼らの気を引いて良くて半数、少なくとも三分の一を引っ張っていっていただければ。」
「山賊の気を引くねぇ・・・。」
魔物相手にやり合ったことは何度もあるが、人相手は数えるほどしか無い。
彼らの存在が輸送業の妨げになっていることは知っているし、冒険者を雇うのも彼らから命と荷物を守るため。
金儲けのために百害あって一利なしとはまさに彼らのことを言うのだが、俺だって好んで人を殺す気はサラサラないしなにより剥ぎ取るものがないので儲からない。
装備だってぼろぼろだし、金がないからこそ山賊になるのであって蓄えているかと聞かれればほぼ持っていないだろう。
だがアティナの話によると今回の奴らはかなり蓄えているんだとか。
装備もそれなりにしっかりしているので売ればかなり儲かるんじゃないかって話だ。
うーむ、そんな事言われたら余計に気になるじゃないか。
とはいえ命あっての金儲けなので危険な事はできないわけで。
いっそのこと魔物に襲われていなくなってくれたほうが非常にありがたい。
ん?魔物に襲われる・・・?
「一つだけなんとか出来そうな案があるぞ」
「本当ですか。」
「あぁ、そのために準備が必要なんだが手伝ってもらえるか?」
「お任せください。」
ちょうどいい感じのものが手元にあるじゃないか。
とは言え流石に一つだけだと心もとないので、スクリーマーのいるダンジョンに寄ってあと2つ3つ回収してから彼らのアジトへと移動する。
時間はまだ昼過ぎ、まだ中に引き込もっている間に叫び袋を設置して急いでその場を離れる。
アジトがぎりぎり見えるぐらいの距離まで離れて様子をうかがっていると、叫び袋から例の叫び声が発せられた。
それに反応するように残りの奴らも悲鳴を上げる。
どういうからくりなのかはさっぱりわからないが連鎖してくれたほうがありがたい。
流石にあの声は気になったんだろう、アジトの中からぞろぞろと山賊がでてきたのが確認できた。
ちゅーちゅーたこかいなっと、全部で7人か。
アティナの話じゃ山賊は全部で19人位いるらしいので半数以上はまだ中にいる計算になる。
が、当初の目的であった3分の1はでてきた計算になるので、アティナは満足気に頷いて音を立てずアジトの方へと消えていった。
あとは彼らが戻ってこないことを祈りつつ彼女の無事を祈るだけ。
アジトの中へと突入してから待つこと10分ほど、今度は例の叫び声が聞こえた方向から別の声が聞こえてきた。
どうやら向こうも作戦通り魔物に襲撃されたようで怒号というか悲鳴というか、ともかく普通じゃない感じの声が森の中に響き渡る。
俺はもしもの事を考えてスリングを構え、でもそのもしもが起きないことを祈り続けた。
どれだけ時間が経っただろうか。
叫び袋を設置した方向から何かがアジトの方へと向かってくるのが見えた。
思わずスリングを持つ手に力が入ってしまう。
例え人でも魔物でも、アティナの邪魔になるのであれば容赦なく打つ。
そう心のなかで反芻しながらボムツリーの実をスリングにつがえ、ゆっくりと引っ張っていく。
やってきたのは血まみれの棍棒を手にしたオーガ。
この感じだと様子を見に行った山賊たちは皆殺しにされてしまったんだろう。
相手が魔物となれば何も遠慮はいらない。
もっとも、人だとしても撃ち込むのは間違いないんだけど。
しっかりと狙いを定め、ゆっくりとアジトへと近づくオーガの背中めがけてボムツリーの実を発射。
着弾するのを確認せず追加で後二発ほどぶち込んでやる。
着弾と同時に実が弾け、中の油分に引火して炎が巻き起こる。
突然背中が燃え上がり、更には追加が背中にめり込んで体の中から燃え上がる恐怖。
悲鳴を上げながらオーガはその場に倒れ込み、燃える体を消そうと棍棒を放り投げゴロゴロと転がりまわる。
本当は追撃用に殺傷性能の高い弾をぶち込んでやるべきなんだろうけど、下手に攻撃すると俺の居場所がバレてしまうので必要以上の攻撃ができない。
もっとも、やつが転がっている間にアジトの中から誰かが出てきて、火が消えて安心したやつの頭に巨大なハンマーを振り降ろしたわけだけども。
かくして山賊は魔物とアティナの頑張りによって殲滅され、必死に蓄えたなけなしの財宝や装備はすべて俺に接収されたのだった。
ついでにオーガに襲われた山賊からも装備を回収、オーガの素材もアティナと手分けをして剥ぎ取っている。
金になるものをわざわざ置いておくのはもったいないからな。
そんなわけでアティナとともに山賊討伐の報告をギルドにすると、大抵のことでは驚かない受付嬢の顔がみるみるうちに変わっていった。
「えっと、本当にお二人であの人数を?」
「もし確認が必要なら人を連れて見に行ってもらって構わないぞ。まぁめぼしいものはほとんどもらったが、金にならないのはいくつか残ってるから好きにしてくれ。」
「一応確認はしますが、そこまでおっしゃるのであれば報酬はお渡しさせていただきます。それだけの装備を持ち帰っているわけですしね。しかしあのスクリーマーの叫び袋をそんなふうに使う人がいるなんて思いませんでした。」
「個人的には結構使えると思うんだがなぁ、魔物をおびき寄せたり襲わせたり。まぁうるさいから持ち歩く途中で襲われない保証もないが、それ専用の箱が欲しいのなら譲ってやらないこともない。」
箱無しで持ち歩けばただ魔物をおびき寄せているだけ。
それはそれでありかもしれないが、わざわざ来てくださいっていうのも変な話だ。
なによりうるさいしな。
そんなわけで使い道がないと言われ続けたスクリーマーの叫び袋は一躍冒険者の道具として地位を獲得し、輸送用の箱がそこそこの数売れるようになったのだとか。
どんな物にも何かしらの使い道がある、その新たな例として歴史を刻むのだった。
もっとも、そうなっても買取金額は銅貨30枚ほどにしかならなかったそうだけどな。




