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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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1446.転売屋は武器を転売する

「シロウさん、これっていくらで買ってもらえます?」


今日もいつものように冒険者がやってきては探索で手に入れた素材を売りに・・・ってお前もか。


思わず出た小さなため息に彼女は首を横に傾げてしまった。


どんな物でも金のなるのなら買い取るのが俺の心情。


幸いカウンターに置かれたソレは今日持ち込まれた物の中ではまだマシな方だろう。


『鋼鉄のショートスピア。鉄よりも固く鋭利に加工された鋼鉄を用いたショートスピア。鋭さの効果が付与されている。最近の平均取引価格は銀貨7枚、最安値銀貨3枚、最高値銀貨12枚、最終取引日は本日と記録されています。』


しっかりと整備された短い槍は鈍い光を放ち戦いの時を待っているようだ。


しかし彼女の腰には燻んだ黒い別の槍が固定されており、彼女の手元にある限りその願いが叶うことはないだろう。


「綺麗に手入れされてるな、これなら銀貨4枚は出せるぞ。」


「え、そんなに高く買ってもらえるんですか!」


「他所なら銀貨枚良くて銀貨3枚ってところだろ?」


「それぐらいです、なんでわかるんですか?」


そりゃこんな商売してたらおおよその相場は相場スキルがなくても把握出来るし、王都の流通状況や需要を加味すればそこからどのぐらい値が下がるかも計算できる。


新人では使いこなせない、でもベテランにとっては物足りない。


そんな中級冒険者向けの武具が多数店に持ち込まれている。


どれもまだまだ使える物ばかりなのだが、固定の家や場所を持たない冒険者にとって予備の予備まで落ちた武器は使いにくい物。


それならばさっさと現金化してしまったほうが何かと使い勝手がいいといわけでだ。


「そりゃこの仕事して長いからな。これも前の氾濫の時に買ったのか?」


「そうです。あの量じゃ一本だけだと心許なくて、何度か前線で命を助けてもらったんですけどそれ以降は使わなくなっちゃいました。」


「常に最悪を想定して備えるのはいいことだが、あの状況からすると今は平和すぎるぐらい平和だからな。そんなわけでどこも値下がりしてるんだがうちはこの値段で買わせてもらうつもりだ、どうする?」


「お願いします!」


ま、そうなるよな。


他の店に持って行ってもここが一番高いのは間違いないんだし、そんな時間を使うぐらいならさっさと売って次の準備をしたほうが効率がいい。


元気良く返事をする彼女の前に銀貨を積み上げ、代わりに槍をカウンターの後ろの壁に立てかける。


その後買い付けたのと自前の資金を足していくつか探索用の道具を買い、嬉しそうに店を出て行った。


「これもまだ使える物ですが、最近多いですね。」


「前みたいに魔物が溢れたり囲まれた状況になったら無理をしてでも予備を買うが、普通に考えったら余計な買い物だからなぁ。この状況を考えたら懸命な判断だろう。」


「ですがこれだけ相場が下がっているというのにそのような値段で買ってしまって大丈夫なのですか?」


「確かに相場を考えれば高すぎるぐらいだがそれはここに限った話だ。冒険者が多いからこそこういった品が溢れてしまうが、場所を変えればいくらでも相場で売れる物ばかりだからな。高かったり安かったりの平均が相場価格、それよりも安く買って高く売れば間違いなく売れる。」


「でもどこで?」


アニエスさんの疑問も尤もだ。


国全体で考えても一番需要があり顧客がいるのはここ王都。


理屈で考えればさっきの話になるんだが、そこで値崩れしている品が本当に売れるのか、というかどこで売るつもりなのか。


他の素材と違って一個当たりの単価が高いのでそれだけ在庫金額が膨れ上がってしまう。


夏前ごろだったらこんな無茶な買い付けはできんかっただろうけど、例の素材や清酒のおかげで今はかなり懐が暖かい。


だからこそいつもできないような強気の買取ができるわけだけど。


「そりゃもちろん向こうで。今はまだ農繁期だが収穫がひと段落すれば元冒険者みたいなやつが戻ってくるからな、そうすると安い装備が市場から無くなり割高な装備だけが残っていく。とはいえものは良くないから誰も買わないし、いい物は取り合いになる。そうなったところで買い付けた武具の登場ってわけだ。」


「粗悪なものばかり出回る中でこういった装備が出てくれば嫌でも目を引きますね。」


「そして残った装備と持ち込んだのを天秤にかけるはず。収穫でそれなりに金は持っているはずだし良い物だとわかれば多少高くても買うだろう。少々の差なら新しい装備ですぐに取り返せるしな。」


ダンジョン街にいつどんな冒険者が来るかをわかっているからこそできる強気の仕入れ。


なにより向こうで売ってくれる人がいるからこそ出来る技だ。


「なるほど、そういう目論見があっての買い付けなのですね。」


「せっかく買うからには安く買って高く転がしたいからな。まぁ輸送コストとかを考えるとちょっとあれだが、定期便に乗せればそこまでの負担にはならないだろう。」


「もう一つ質問なのですが。」


「なんだ?」


「こちらももう少しすれば農閑期に入りますし、いっそのことそういった装備を全て買い集めて売ればよろしいのではありませんか?」


アニエスさんの素朴な質問。


ここでも同じことが起きるのであればいいものをどんどん買い占めて、なくなったところで提供すればいいのではないか。


全くその通りではあるのだが問題が二つある。


一つはここが氾濫の中心地だったせいで値崩れするほど過剰なほどに武器が溢れており、それを全部回収するにはとんでもない費用が必要になること。


そして二つ目。


「買い集めたところで武器工房が新しい装備を流すだけだ、流石にそこまで買い占めることは出来ないしなにより農閑期にやってくる人たちの分を補ってもなお余る量だからこそ値崩れをしている。それを全て買い集めてしまったら値崩れが止まってしまうし、売るに売れなくなってしまうだろう。それなら崩れたいい感じのを買い集めて他所で売ったほうが簡単にかつ何倍も儲かるってことだ。」


「簡単にはいかないのですね。」


「まぁ買い占めは利益を出すためには必要な手段ではあるけれど、この街でそれをするのは得策じゃないだけだ。一応向こうに流すまでには何度か店や露天には並べるつもりだからそこで売れれば万々歳だな。」


「いっそのこと騎士団に売り込むのはいかがですか?」


「あそこは武器工房と提携しているだろ?俺みたいなのが中古品を売り込んだところでどうにもならないのさ。もちろん冒険者ギルドも同じ、可能性があるとしたら輸送ギルドなんかだが彼らも冒険者を雇えば済むからわざわざ武器を新調することもない。」


つまり王都ではもう八方塞がりということだ。


それでも人が多いだけに買い取り客はやってくるので、普通の店は買取価格を下げて客を返すか格安で仕入れて塩漬けにするかのどちらかを選ぶしか無い。


その点俺はいくつも選択肢があるのでこうやって強気の買取ができるし、それをすることで新しい客がたくさん来るようになる。


多少高く買ってもそれを上回る素材の持ち込みがあれば装備を売らなくても十分にプラスを作ることができるし、そうなるど装備はほぼタダってことになる。


損して得取れ、まぁ最終的には大きなプラスを作るんだから得しか無いわけだけども。


「あの、いいですか?」


「ん?イラッシャイ、買い取りか?」


装備品を片付けながらアニエスさんやミラと話し込んでいると新しい客が店にやってきた。


見るからに気弱そうな線の細い吹けば飛んで行ってしまいそうな感じの青年。


どう見ても冒険者じゃないしかといって商人という感じでもない。


「いえ・・・。ここで武器をたくさん売っているって聞いてきたんですけどあってますか?」


「買い取った装備で良ければ間違いないが、アンタが使うのか?」


「一応使いますけど僕よりも他の仲間のほうが使います。」


「見た感じ冒険者じゃ無さそうだが一体何に使うんだ?」


質問攻めで申し訳ないが何か良からぬことに使うのならば売りたくないのがホントのところ。


金になるのなら何でもするというわけではない、犯罪に使われるぐらいなら売らないぐらいの矜持は持ち合わせているつもりだ。


「村の近くに魔物が巣を作ったのでみんなでなんとかするつもりなんです。冒険者にお願いしても中々受けてくださらなくて。幸い収穫が終わったばかりで装備を買うお金ぐらいはあります。色々と聞いて回ったらここが安くていいものを扱っているって聞いたので来たんです。」


「魔物ねぇ、報酬を上げても冒険者はこなかったのか?」


「二回ぐらい上げましたけどダメでした。なのでせめて装備だけでも良いものをと探しているときに噂を耳にしたんです。」


せっかく頼りにしてくれているわけなので話を詳しく聞かせてもらうと思った以上に深刻な状況のようだ。


必死に説明する青年の話を聞きながら表向きは表情を変えないようにしながらも心のなかでは冷や汗が流れている。


もしかするとその原因を作ったのは俺かもしれない。


花蜜を回収するべく巣に突入した俺達だったが、どうもその後アリが森の外まで徘徊する様になったそうだ。


蜜を探しているという感じではないようだけど本来森から出てこないはずの魔物が外に出てくるのはただごとではない。


そりゃあのバカでかいアリと戦うことになるのならあまり引き受けたくはないよなぁ。


とはいえ原因を知ったまま何事もなかったことには出来ないわけで。


ということで彼らには武器を買ってもらいながらも援軍としてアティナを派遣することにした。


最初はアティナだけ派遣すればいいかなとも思ったのだが、襲撃が一度で終わるとも限らないし何より向こうが買う気満々なんだからそれを断る理由もない。


ということで買い付けたいい感じの装備達は新たな主人のもとへと売られていったのだった。


この後も引き続き持ち込みはあるだろうし、それはそれで買って予定通り向こうに送ればいい。


安く買って高く売る、右から左に転がすのが俺の仕事。


少々のイレギュラーはいつものことなのでそれをも商売に変えて頑張るとしよう。


それから二日後。


無事に仕事を終えたアティナが新しい花蜜を手に戻ってくるのは、ちょっと想定していなかった。

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