1383.転売屋は動く鎧に襲われる
「随分と近くに目的の物があるもんじゃな。」
「いや、あくまでも可能性の一つだし流石にこの近距離で見つかったらシュタインさんも落ち込むだろ。」
「我らが助力せねば近くにあったとしてもどうにもならなかったのだ、感謝はしても落ち込むことはあるまいて。」
血の花、ブラッディマリーゴールド。
その名の通り真っ赤な色をしたその花を煎じて服用すればヴァンピールの能力を一段上に高めてくれるという伝説の花。
そんな大層な伝説があるのだからさぞ険しい山奥にでもあるんだろうと思っていたのだが、可能性の一つとして教えられたのはディーネの背に乗って一時間ほどの山の中腹。
天然の洞窟でもダンジョンでもない人の手によってつくられたというそこは、場所を知らなければ見つける事すらできない小さな入り口をしていた。
四つん這いになればなんとか入れるぐらいの穴の周りは茂みに覆われており、離れていてはまず見つけることは出来ないだろう。
そんな場所をだれが何のために作ったのかは流石のシュタインさんでも知らないようだ。
ただ、かつてのヴァンピール仲間からは近づいてはいけない不浄な場所という呼ばれ方をしていたらしい。
その呼び方から想像するに幽霊とかアンデッドとかそういうのが多いんじゃないだろうか。
事前にわかっていたら色々と準備できたんだけど、まぁディーネがいればそういうの関係なく吹き飛ばしてくれるので何の心配もないだろうけど。
「それじゃあ行くか。」
「何が出ても私が守る故シロウは安心してついてくるがよい。」
「自分の身ぐらいは何とかするつもりだがよろしく頼むな。」
「任せておけ。」
よく考えるとディーネと二人きりでこういった場所に行くのって数えるほどしかなかったんじゃないだろうか。
ダンジョンに入ったことは何度もあるので流石に初めてというわけではないが新鮮といえば新鮮。
先を行くディーネの後ろを追いかけるように小さな穴に身を投じ、匍匐前進の要領で中へと入ると外の見た目とは一変して大理石のような硬い物で床を含めてすべてが覆われた空間になっていた。
人工的に作られた場所だとは聞いてたが、まさかこんな風になっているとは思わなかった。
空気も全くと言ってよどんでいないところから察するに換気されているのかどこかに通気口のようなものがあるのかもしれない。
壁に設置された魔灯が自動で点灯したのか奥までよく見える。
「これはまた想像していたのと全然違う場所だな。」
「このような手の込んだ場所はそう見られるものではないぞ。旧王朝、そのまた前の王朝にこういった特殊な場所を作る技術があったと聞いたことはあるが私も現物を見るのは初めてだ。」
「ディーネですら初めてなのか。」
「当時は人など興味の対象でなかったというべきなのかもしれんがな。」
「とりあえず進んでみよう、一応慎重に。」
こういった場所だからこそ罠が設置されている可能性は十分にある。
壁伝いに気を付けながらコツコツと靴を響かせつつ奥へ奥へと進んでいくと、先を行くディーネが右手を俺の方に向けた。
慌てて実を掲げ腰にぶら下げたスリングに手を伸ばす。
呼吸を殺して意識を集中するとわずかに奥の方から何かが近づいてくるような音が聞こえてきた。
足音じゃない、もっとこうガチャガチャという金属音的な感じの音。
それがどんどんと大きくなっていくのがわかる。
「来おったな、この感じはリビングアーマーか何かじゃろう。」
「リビングアーマー?」
「遺跡などを守るゴーレムの一種で、中身のない鎧が侵入者を探して巡回しておるのじゃ。」
「あー、なんとなくわかる気がする。」
昔やった国民的なRPGゲームで出てきたモンスターがそんな感じだった。
序盤で出てきたときにあまりの強さにビビった記憶がある、結局はレベルが上がればどうにでもなるんだがその後も似たようなやつが出てくるたびに仲間を殺されかける始末。
そんな記憶からかあまりいい印象が無いのは間違いない。
音は次第に大きくなり、通路の奥にその姿を確認することができた。
文字通り歩く鎧、西洋風の鎧が中身もなしにガッシャコンと歩いてくるのは中々にホラーな感じだ。
それでも間違いなく敵であることがわかるだけに遠慮することなくスリングに弾をつがえ、力いっぱいに引っ張って狙いを定める。
「初手は任せる、遠慮は無用じゃ。」
「もちろんそのつもりだっての。」
弾は鎧を貫く事も出来るドリルポットと呼ばれる植物の種、その名の通りドリルのような螺旋が種に彫られていてそれを高速で打ち込むと着弾と同時に回転する力で薄い鎧ぐらいなら容易く貫通させる事が出来る。
人相手に使用することが禁止されているが相手は魔物、何も遠慮をする必要はない。
狙いは鎧の中心部。
思い切り引っ張った指を離すと限界まで引っ張られたゴムが一気に反発して高速で弾を打ち出す。
目にもとまらぬ速さで打ち出されたそれは見事歩く鎧の真ん中に風穴を開けることに成功した。
が、一瞬バランスを崩したものの倒れることはなくそいつは穴をあけたまままっすぐこっちに走り始めた。
「やはりあの程度では無理かのぉ。」
「どうやって倒すんだ?」
「あやつを動かしているのはどこかに施された呪印、それを削るか打ち抜けばただの鎧に戻るじゃろうて。」
「どこかってことは場所はわからないのか。」
「わかれば苦労はせん。じゃがまぁ、動けないぐらいにつぶせば問題はなかろう。」
まるでエリザのような脳筋的発言、確かに足や胴体を原形をとどめないぐらいにつぶしてやれば動けなくなるんだろうけど普通の冒険者にそれを求めるのはどうかと思うぞ。
空っぽの鎧が握りしめた剣を振りかぶりながら近づいてくるが、拳を振りかぶったディーネが倍以上の速度で近づきその拳を力いっぱいにたたきつける。
ベコ!とかミシ!とか、まるで空き缶をつぶすような音を響かせながらリビングアーマーの鎧が真ん中からへこみ、壁に向かって吹っ飛んでいくのをそのまま追いかけ容赦ない連打で原形を保てないぐらいに変形させていくディーネ。
その過程で呪印を傷つけたのか、ボコボコになった鎧が突然力を失いその場に崩れ落ちてしまった。
「どうじゃ、問題なかろう?」
「まず普通の人は鎧を殴って凹ませたりできないから。もちろん俺もな。」
「エリザやアティナはするぞ?」
「あいつらは別枠、脳筋と一緒にされてもこまるっての。」
流石のアニエスさんも拳でつぶすことはしないだろうけど、目に見えない速さで武器を振るって同じことはするかもしれない。
というかうちの女達が特殊過ぎるんだよな、そもそもリビングアーマーはそうやって倒す物じゃないだろう普通は。
『リビングアーマーの鎧。呪印により命を吹き込まれた主亡き鎧、感情を持たずただ命令を遂行するために動き続けるゴーレムの一種で主に旧王朝もしくはそれ以前の遺跡を守護しており、それ以外の場所で見かけることはない。穴が開いている。呪印を取り除いた鎧には稀に能力が付与されていることがある。最近の平均取引価格は銀貨7枚、最安値銀貨3枚、最高値銀貨11枚、最終取引日は71日前と記録されています。』
床に落ちたリビングアーマーを確認するといつものように相場スキルが発動した。
呪印がなくなった各部位には稀に使えるものがあるようだが、どうやらそれを探している時間はなさそうだ。
「む、まだまだ来るようじゃな。」
「この音はそうらしい、行けそうか?」
「たかが鉄くず、どれだけ来ようが敵ではない。」
「ならできるだけ傷つけない方向でよろしく、物によっては使えるものがあるらしい。」
「この状況でも金儲けか、流石じゃな。」
「お褒めにあずかり光栄だよ。」
もちろんそれが難しい場合はあきらめるがディーネならその辺をうまくやってくれると期待している。
もちろん俺もこの辺だろうという場所に弾をうちこんで万が一の可能性に賭けるつもりだ。
大抵は頭か首か、その辺に刻むもんだろうから少しでもかすれば儲けものだ。
削れば万々歳、そうでなくても穴が開くか叩き潰されるかのどちらかなのでやらないよりかはやった方が残る可能性はあるはずなので遠慮は無用だ。
その後、通路を埋め尽くすほどの大量のリビングアーマーが奥の方から湧いてきたが大暴れする古龍にかなうはずもなく残骸が積みあがるだけとなった。
流石にこの量と戦うのは疲れたのか、最後の一匹が地面に崩れ落ちると同時にディーネもその場にへたり込んでしまった。
ひとまず休んでもらっている間に俺は俺で残骸を漁り、いくつか使えそうなものを発見。
まぁ99%以上は使い物にならなくなってしまったがこれだけ見つかっただけでも上々だろう。
「これだけ大量のリビングアーマーに守られているんだ、ここになかったらどこにあるんだろうな。」
「さっき可能性の一つだと言っていたのではなかったか?」
「さっきはさっき、今は今だろ。まぁここじゃない可能性だってまだあるわけだけどさ。もう大丈夫なのか?」
「あれぐらい少し休めば問題ない。」
残骸を漁っているといつの間にかディーネが復活して後ろに立っていた。
これだけ派手に戦ったにもかかわらずもう動けるとか元気だなぁ。
両肩をぐるぐるとまわして問題ないとアピールするディーネと共に再び洞窟の奥へと足を進める。
果たしてこの先に血の花はあるのか。
そもそもこの場所はいったい何なのか。
わからないけれど俺達には進むほかに選択肢はないんだけどな。




