1342.転売屋は力比べを見学する
エリザとルカが王都にきて二日。
初日は揚げせんべいやらなんやらですぐに時間が経ってしまったので、翌日は二人を連れてのんびりと王都を観光することにした。
エリザは何度か来ているがルカは生まれて初めての王都、おそらく記憶には残らないだろうけどそれでも初めての景色に目を輝かせている。
大聖堂を始め色々な場所を見せてはきたけれど一番興奮していたのはなぜか冒険者ギルドだった。
大勢の冒険者に囲まれてなお目をキラキラと輝かせるルカを見ていると母親と同じ血が流れているのがよくわかった。
こいつは根っからの戦士になる事だろう。
リーシャのように商売に目覚めるとかそういう気配は一切感じない。
脳筋の子は脳筋だったか。
「エリザ奥様、私と手合わせをしていただけませんでしょうか。」
そんなことがありながらも楽しい二日目を終え、迎えた三日目。
のんびりとした朝食を終え、さぁ今日は何をしようかと考えていると突然アティナがエリザの前に立ち深々と頭を下げた。
今なんて言った?手合わせをしてくれだって?
「・・・手合わせをしてくれって言ったのか?」
「その通りです。」
「なんで私と手合わせしたいの?」
「私が戦闘用ホムンクルスだからです。そしてエリザ奥様は今や冒険者ギルドで知らぬ者はいない不倒の名を持つ上級冒険者。聞けばアニエス様と互角に戦えるとか、是非自分の実力を確かめさせていただけませんでしょうか。」
自分の実力を確かめたい、つまりは今まで魔物と戦ってきても本気じゃなかったってことなんだろうか。
あれだけ派手に暴れまわって本気じゃなかったって言うのはちょっと信じられない。
「私は別に構わないわよ。」
「エリザまで。」
「だってこっちに来るまでまともに体動かしてないんだもの。船で魔物が襲ってくるかもって思ってもそんなことなかったし、こっちに来てもシロウを助けるのにウルフを蹴散らしただけでしょ?ちょっと運動不足だったのよね。」
「運動不足の解消で戦闘用ホムンクルスと戦うのか。」
「戦闘用ホムンクルスとかは関係ないわ、私と戦いたいっていう相手と戦うだけ。別に命の取り合いをするんじゃないし、軽く手合わせするだけでしょ?」
これだから脳筋は。
どう考えても軽く手合わせするで済むはずがないだろうか。
アティナは巨大な象をワンパンで倒してしまうような実力者だが、エリザはエリザでドラゴンとタイマンできるだけの実力者。
なんなら巨大化したディーネと戦えてしまうぐらいなのでかなりの実力者といっても過言ではない。
産前産後はおとなしくしていたのだが、やはり脳筋の血が騒ぐのかルカがある程度大きくなった後は普通にダンジョンに潜ったりしていたらしいのでその実力は全盛期と同等、もしくはそれ以上かもしれない。
「お受けいただけますか?」
「もちろんいいわよ。でも、場所はどこでするの?」
「城壁の外にいい場所がございます、そちらで如何でしょうか。」
「わかった。ルカ、そういう事だから応援よろしくね?アティナさんが遊んでくれるからってそっちばかり応援しちゃだめよ。」
「あい!」
「いいお返事、ってことだからちょっと行ってくるわね。」
まるでちょっと買い物に行ってくるぐらいのノリで出かけようとするエリザとアティナ。
いやいや、戦闘用ホムンクルスと上級冒険者のタイマンとか何をそんな危険な・・・じゃなかった美味しい事をさっさとやってしまおうと思っているんだろうか。
別に戦うなとは言わない、本人同士が納得しているわけだしエリザの言うように殺し合うわけでもない。
お互いの実力を確かめたい、そんな脳筋らしい考えなんだろうけどそれをやるには少々準備が不足している。
どのぐらい本気で戦うのはわからないけれど、出来るだけ近づかないようにする方が良いだろうし通報されないように警備なんかにも話を通した方が良いはずだ。
なんなら冒険者ギルドにも伝えておいた方が良いかもしれない。
ってなわけで手合わせは昼過ぎまで待ってもらってその間にジンと手分けをして準備を進めることにした。
店?
そんなの開けてる場合じゃないだろう。
「で、こんな大事にしちゃったのね?」
「そりゃ金儲けになるのにやらない理由はないからな。不倒のエリザといえばこっちでは大人気の上級冒険者だ。そんな相手と今ギルドで人気急上昇の戦闘用ホムンクルスアティナとの一戦ともなれば盛り上がらないわけがない。それにだ、二人が本気でやり合うとして余計な人が巻き込まれたら大変だろ?その辺は聖騎士団と冒険者ギルドがしっかりと監視してくれているから安心して戦ってくれ。」
「とか言って本当はこの前の揚げせんべいを売りたいだけじゃない?」
「正確に言えばそれ以外もだけどな、飲み比べ前に反応も確かめたかったからいいタイミングだ。」
二人の手合わせを見ようと大勢の冒険者・・・だけではなく、騎士団員やその他一般人まで集まってきている。
会場となる城壁の外には壁沿いにいくつもの露店が並び、この間の揚げせんべいを始めとした飲食店が軒を連ねている。
世紀の一戦というのは語弊があるけれど、めったに見れない戦いという意味では間違いはない。
「でもなんで予選があるわけ?」
「それは俺にもわからん。」
「なんでよ。」
「気づいたらこんなことになってたんだよ。どこで誰が言い出したのか予選を勝ち抜いた上位二名がどちらかに挑戦できるっていう話になって、それを信じた連中がどんどんと増えて収拾がつかなくなったらしい。こんなことなら参加料取ればよかった。」
二人の戦いを前に何故か一般予選が行われることになり、当初は一つだった会場が三つに増えて挑戦権をかけて冒険者や騎士団員が熱い戦いを繰り広げている。
参加者リストを見るとクーガーさんだけでなくホリアの名前もあるんだが、聖騎士団長がなにをやっているんだか。
「マスター、お酒がもうないと報告がありましたがどうしますか?」
「マジか、まだ予選だぞ?」
「思いのほか反応がいいそうで特にレレモンで割ったものが大人気とのことでした。」
「仕方ない、飲み比べまで置いておくつもりだったが在庫をいくつか出すか。」
エールに交じって新作と称して売り出したのだが、予想以上に反応がいいようだ。
流石に原酒のまま出すわけにはいかないのでかさましの意味を含めて果実水なんかで割って売り出したのだがそれがよかったのかもしれない。
割ってもなお酒精は高めなので酒飲みの冒険者にはちょうどよかったのかもな。
「揚げせんべいも順調に売れているそうです。一番人気は塩、次いでペパペッパーと醤油が拮抗しています。」
「1皿5枚入りで銅貨10枚、ぼろ儲けだな。」
「またシロウが悪い顔してるわ。ルカ、こんな顔しちゃだめよ?」
「ダメ?」
「だーめ。もっとこうニコニコしてるほうが可愛いんだから。」
何故嫁にここまでディスられなければならないのかは甚だ疑問ではあるけれど、確かに子供には金にがめつくなってほしくない。
それは俺の仕事であって子供達は好きなことをのびのびとしてくれればいい。
もちろん冒険者になるというのであればその意思を尊重するが、その分装備を含めて過剰なほどに口と物は出すだろうな。
そんなこんなで飲食関係は大盛況、予選も大盛り上がりでいよいよ決勝トーナメントが始まった。
ホリアは連戦の疲れか運動不足かはわからないが、準々決勝で敗退。
クーガーさんも同じタイミングで別の冒険者に敗北した。
白熱した試合が続いたが最後に残ったのは王都でも指折りの冒険者と聖騎士団の期待の新人と呼ばれるまだ若い騎士団員の二人。
冒険者はエリザと、騎士団員はアティナとの戦いを希望したので両者同時に挑戦することになった。
結果はまぁ、お察しというかなんというか。
連戦の疲れもあるんだろうけど、どちらも瞬殺というぐらいの短時間で決着がついてしまった。
あまりに一方的な試合に観戦していた観客たちは静まり返っている。
「腕を上げたな。」
「そりゃシロウがいなくなってから大変だったもの。この子達を守れるのは私だけ、そう思ったらいやでも強くなるわ。」
「母は強しってやつか。」
「そんな感じかしら。でもちょっと弱くないかしら、向こうの冒険者の方がもう少し骨があるわよ。」
「あまり言ってやるな、お前が強すぎるんだ。」
元々実力はあったが、出産を機にさらに実力が増した気がする。
本人もその自覚があるようで基礎から体を作り上げたのがよかったという事らしい。
「さぁ、お待ちかねの時間だ。不倒のエリザとアティナの腕試し、どっちが勝つかは最後の最後までわからないぞ!」
いつの間にか司会者的な人までやってきて二人の戦いを前に会場を盛り上げている。
人が増えてきたせいでよく見えないのか、ぴょんぴょんと飛び跳ねるルカを肩車して絶好の場所で二人の戦いを見守ることにした。
「まだ会って二日目だけど私も貴女の実力は確認しておきたかったの。シロウはすぐに無茶するでしょ?それをしっかり守れるか見せて頂戴。」
「エリザ奥様にご納得いただけるよう全力でお相手させていただきます。」
「ふふ、期待してるわ。」
向かい合う二人の気迫に離れていてもプレッシャーのようなものを感じてしまう。
それは他の観客も同じなのかその時を固唾をのんで見守っているようだ。
エリザの手にはオリハルコン製の斧でアティナは聖銀製の長剣と武器の差はあるけれど実力者になるとそれはもう誤差に過ぎないらしい。
にらみ合いながらお互いに笑みを浮かべた次の瞬間。
目にもとまらぬ速さでアティナがエリザに切りかかり、それを堂々と正面から受けるエリザ。
上から、下から、横から、縦横無尽に動きながら攻撃を繰り出すアティナをエリザはほとんど動かずに受け、逆にカウンターを返していく。
かと思ったら今度はエリザが切りかかり、アティナが華麗に避けていく。
あまりに人間離れした戦いに見ている人は歓声を上げるのも忘れ呆然としているが、ルカだけは大はしゃぎで大きな声をあげて二人を応援していた。
エリザは俺の嫁であり、アティナは俺の仲間。
次第に固まっていた観客も声を上げ始め最後はもの凄い盛り上がり方だった。
酒もツマミもよく売れてそっちの方でも大盛り上がり、これなら飲み比べもいい感じの儲けを出せそうな感じだ。
こうして突如はじまったエリザとアティナの手合わせは大勢の人に見守られながら、一応両者引き分けという形で幕を閉じたのだった。




