1281.転売屋は図書館に行く
元の街にも図書館があり、何か調べ物があったらそこに行って知らないことを調べてた。
案外その時間は嫌いじゃなくて何か一つの事に没頭するのは非常に楽しかった。
もちろんこっちに来てもそれは同じか、むしろ簡単に聞ける人がいなくなったので益々利用していると言っていいだろう。
王立図書館。
この国のありとあらゆる本がある・・・というわけではないのだが、王都にある図書館というだけあって他の土地よりも蔵書数は半端なく多いらしい。
流石のアレン少年でもここにある本すべてを記憶することは難しいんじゃないだろうか、そう思うぐらいにたくさんの本が並べられている。
そして今日も疑問に思った事の答えを探すべく図書館の扉をくぐるのだった。
「あ、シロウさんいらっしゃいませ。今日は何の本をお探しですか?」
「花の本を、出来れば魔物の咲かせるやつを探してる。」
「それでしたら・・・書架25の上から3番目ですね。」
「いつもすらすら答えてくれるがまさか全部の場所を覚えているのか?」
「さすがに全部は無理ですよ。でもなんとなくならって感じですね、どうぞお気をつけて。」
いつも笑顔で挨拶してくれる美人司書のラブリーさん、どっちかっていうと見た目は可愛いよりも美人って感じの方が強いのだが話すと結構チャーミングな感じだ。
噂ではファンクラブ的な物もあるそうだが、本人は全く興味が無いらしい。
本の蟲、いや本の恋人?
ともかく本の事をしていないと気が済まないって言う感じだ。
因みにこの前俺が発見した本も大興奮で読み漁っていたと本人から教えてもらった。
あと一冊が見つかればいいんだが、あれ以降市場で魔術書を見かけることがなくなってしまった。
もしかすると別の誰かが探し回っているのかもしれない。
ともかくだ、せっかく教えてもらったんだから案内してもらった場所へ移動して目的の本を探す。
植物系の魔物の多くは花を咲かせることはないのだが、全くいないわけではなくむしろそっちが本体っていうやつも多くいて、食魔植物や食人植物なんかは花で獲物である魔物や人間をおびき寄せて捕獲し食べてしまう。
もしくは花を使って花粉を飛ばして普通の植物のように実をつけ、それを使って攻撃してくるようなやつもいる。
もちろん普通の植物もたくさんあるので元の世界よりも花の種類は多いのかもしれない。
危険かそうでないかは別にしてだけどな。
とりあえず目的は達したので必要な情報だけメモして本をしまい、出口へと向かう。
「はぁ。」
「どうしたんだ、そんな大きなため息をついて。」
「あ、ごめんなさい。恥ずかしいところを見られちゃった。」
さぁ帰ろうかとカウンターの前を通ると、俺に気付いていなかったラブリーさんが盛大なため息をついていた。
まさか俺がいるとは思わなかったんだろう、慌てて笑顔に戻るも恥ずかしがったままだ。
「これだけの本を整理するとなると毎日大変だろ、ご苦労様。そうそう目的の本は無事に見つけられた、助かったよ。」
「それはよかったです。魔物のお花をどうするんですか?」
「花は結構薬にもなるし物によっては長持ちするからそれ目当ての客に売ろうと思ってな。とはいえこの近辺には自生してなさそうだから冒険者に依頼を出さないと難しそうだが。」
「お花はいいですよね、そういえば何年ももらってないなぁ。」
「そうなのか?それだけ美人だと結構な頻度でもらってそうだが。」
「お世辞でも嬉しいです、でもそういうの全然なくて。」
「それなら今度手に入れたらプレゼントしよう、楽しみにしておいてくれ。」
普段からお世話になっているしそれぐらいならファンクラブに怒られることもないだろう。
半分社交辞令的な感じで行ったのだが、なぜかラブリーさんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
おいおい、何をそんな照れてるんだ?
これぐらいよくある話だろ?
「はい、楽しみにしてます。」
「そ、そういや何をため息ついていたんだ?何か良くないことでもあったのか?」
こりゃマズい、っていう雰囲気になって来たので慌てて話題を切り替える。
するとさっきまでの表情はどこへやら、暗い感じで俯いてしまった。
「最近本を借りに来る人が少なくなってきて、どうにかして増やせないかって考えているんです。でも興味が無かったら誰も借りに来てくれませんし、それなら本を借りたくなるようなものがあったらいいなって思うんですけど・・・。」
「それを思いつかなくて困っていると。」
「ただ借りてくださいって言っても誰も来てくれませんから、何か渡せるものがあったら喜んでもらえるかなって。」
「渡せるものねぇ。」
本を借りるのは余程興味が無いと難しいだろう。
この世界の本は元の世界と違って大量生産されていない為、借りるのにもかなり制約がある。
全く借りれないというわけではないのだが取り扱いに際して制約がそれなりにあるので、それを守れる人しか借りてくれないんだろうなぁ。
とはいえ基本は住民のだれもが利用できる。
せめて借りなくてもせめて読んでもらえるような施策がそこから少しずつでも貸出数は増えていくに違いない。
「なるほど、押し花ですか。」
「比較的簡単かつ大量生産できる贈り物って思った時に一番に思いついたのが栞だ。とはいえただ紙をはさむだけじゃあ誰も喜んでくれないからその辺は工夫が必要だろうけど、押し花なら簡単に作れる上に珍しい花とかも混ぜればコレクションできるからそれ目当てでの貸し出しも増えるかもしれない。」
店に戻ってからも色々と考えていたんだが、栞を作るって言うのは我ながら妙案だと思う。
あれやこれやと考えたのだがこれが一番簡単かつ図書館らしいものだと思ったんだ。
俺の考えにアニエスさんも深くうなずいてくれている。
なんなら別に花じゃなくてもいいかもしれない。
フェルさんやビビなんかに絵を描いてもらって、それを何等分化に切り分けて全部集めたら一つの絵になるとかも面白そうだ。
後は当たりを作って、それを引いたら何かプレゼントとかどうだろうか。
でもなぁそういうのにすると本を借りるだけ借りて読まないとかいうやつ出てきそうだが、何もしないよりもまずは貸出数を増やすのが重要なのでまずは王都近郊で手配できる花を冒険者に依頼して数をそろえることにした。
花の採取ぐらいならば新人でも簡単にできるので、翌日には山のような花が店に届けられる。
本来であれば押し花に加工するのは時間がかかる物なのだが、集めた花を紙に挟んで渇きの箱に入れるという荒業を使えば短時間で大量に作れることが判明した。
「どうだ?」
「人間の感性と私が似ているかはわかりませんがなかなか綺麗かと。」
「魔人が認めたのなら問題ないだろう。」
「それでよろしいので?」
「俺以外の感想が聞けたら問題ない。」
個人的には悪くないと思っていたので同じ意見なら問題ないだろう。
「しっかしあれだな、まさかベルベラドンナにこんな使い道があったんだな。」
「普通はベル状の実を使うものですが、花にもこれ程の毒性があるとは知りませんでした。これは使い方次第では大変なことになるかもしれませんなぁ。」
「他人事みたいに言いやがって。」
「ですが主殿にはまたとない金儲けのネタではありませんか。幸い実と違って致死性の毒が出るわけではありませんから要は使い方かと。」
冒険者が持ち帰ったたくさんの花々。
その大半は特に問題の無い普通の物だったのだが、中には毒性を持つものも混じっていた。
もちろんそれを咎める事はないしそれを含めてしっかり報酬は出している。
っていうか押し花にする為に一輪ずつ確認していた時に気づいたから誰が持ちこんだのかすらわからないんだけどな。
『ベルベラドンナ。ベルのような見た目をした紫色の実はその見た目に恥じない毒性を持ち、その実を食べるとドラゴンでも腹を壊すと言われている。実をすり潰して裏ごししたエキスを魔物のえさに混ぜると非常に効果的ではあるが肉が食べられなくなるという欠点がある。花は一般的に無害だと言われているが雄しべを乾燥させると神経性の毒をまき散らすので扱いには注意が必要。最近の平均取引価格は銅貨5枚、最安値銅貨1枚、最高値銅貨7枚、最終取引日は本日と記録されています。』
その中にこの毒の花があったわけだが、一般的には無害で見た目も綺麗な為持ち込まれたんだろう。
試しに乾燥させてみると雄しべに相手をしびれさせる強い毒性がある事が判明。
魔物にどれぐらい作用するかは不明だが、これを使えば肉を傷めることなく相手の動きを止められるんじゃないかとも考えている。
しかしながら人間にも効果があるようなので、まずは然るべき人物に渡してその効果を実証してもらうことに。
こういう時の聖騎士団ってね、あの二人なら安全かつ確実に効果を判断してくれるだろう。
いい意味でも悪い意味でも安心できる二人だ。
今の所製法は俺しか知らないので効果次第ではそれなりの値段で売れるに違いない。
たかが銅貨数枚の花がいったいどれほどの値をつけるのか、まぁそれはまた次回のお楽しみってね。
「この間の話なんだが、せっかく本を借りるんならと思ってこういうものを作ってみた。近隣の花ばかりだが悪くはないだろう。それと、知り合いの画家に声をかけてみたら面白そうだと言ってもらえてな、栞用に絵を描いてもいいと言ってもらっている。それを当たりのようにして混ぜておけばそれ目当てにはなるだろうけど借りてくれる人が増えるんじゃないかって思っている。」
「凄い、こんなに綺麗な押し花をこんなにたくさん!これなら皆さんに喜んでもらえます。当たりの方も気になりますが、どんな方なんでしょう。」
「フェル=ジャン=メールって知ってるか?」
「えぇぇぇ!?あの王宮画家とお知り合いなんですか!?」
図書館ではお静かに、そんな周りの視線を向けられながらもラブリーさんは一人でキャーキャー騒いでいる。
さすがイケメン宮廷画家、人気は半端ないな。
「知り合いっていうか友人って言うか。まぁその感じなら他の人にも喜んでもらえそうだな。とはいえタダってわけにはいかないんだ、栞を作るのにも金はかかっているし1セット100枚当たり込みで銀貨8枚でどうだ?」
「うーん、さすがに私一人の一存では決められないので上に聞いてもいいですか?でもその金額なら十分見込みはあると思います。といいますか、私が欲しいぐらいです。」
「それはどっちが?」
「えへへ、フェル様の方が。」
まさかの様付けに思わず笑ってしまいそうになったが、それだけの人気があるもんなぁあの人は。
あとはラブリーさんが上にどう持って行ってくれるかだが、この感じは間違いなく成功すると思っている。
さて、今のうちに量産の準備に入っておくとしよう。
しばらくは沢山の花に囲まれる生活が続きそうだな。




