1278.転売屋はゴミをお金に変える
この間から販売されているラムネのような飲料は今も行列ができ昼過ぎには売り切れてしまう程の盛況ぶりを見せている。
その分廃棄されるボトルの量も中々で、貧民街の子供達を使って毎日回収してもらいその内の半分を売主に戻すというやり方で毎日少しずつだが利益を回収している。
しかしながら同じことを考えるやつはそれなりにいるようで、俺とは別の誰かが同じことをして売主に直接購入を持ち掛けているという話を本人から直接聞かせてもらった。
幸いにももちかけられた金額があまりにも高額過ぎるのでお断りしているようだが、向こうも在庫を抱えたままではどうにもならないのでいずれは価格を下げて提案してくるだろう。
そして俺の方が高くなった時に安い方に移るのは必然。
もちろん俺も価格を下げるという選択肢はあるのだが、それでは利益が出なくなってしまうのでその時の為に新たな使い道を考えなければならない。
「どうだ、使えそうか?」
「使えるのは使えるでしょうけど、正直南方の品の方が魅力的ですわね。」
「まぁ、この出来だとそうなるよなぁ。」
「こちらで手に入れるグラススラグはどうしても鋭利ですから、真似て作っても全く同じ感じにはなりませんわ。もちろん向こうに送って作る手もありますけど、正直輸送費だけが高くついて利益を生み出すどころか赤字確定でしょうし。」
せっかく綺麗なボトルなので南方で作ったのを真似して似たようなのを作ってやろうかと考えたんだが、イザベラが言うようにグラススラグはかなり鋭利だし砂も南方のような白くてサラサラな物が見つからない。
じゃあ向こうに送って作ろうにもその分の輸送費が上がれば結局赤字、偶然向こうに運ぶ荷物があればそれに便乗して価格を抑えるという手もあるのだけれど、生憎と近々でその用事もないしバーンもいないので頼む事も出来ない。
やり方を変えるしかないわけか。
「となると当初の予定通り一輪挿しか何かにするしかないか。」
「売れます?」
「わからん。ビー玉でも入れたら綺麗だと思うんだがなぁ。」
「びーだま?」
「このぐらいのガラス製の玉だ。透明だけじゃなく中に色々な色を混ぜてあって中々綺麗なんだが。」
確かビー玉って結構近代になってから作られたはずだからこの世界にはないかもしれない。
いや、それはあくまでも元の世界の話であって魔物の素材なんかで似たようなものがないこともない・・・はずだ。
「確かにルビーアイやコバルトアイの目玉を入れると綺麗かもしれませんわね。」
「結構簡単に手に入るのか?」
「出現する場所は限られますけど、別に珍しい魔物というわけではありませんわね。無数の目玉がこちらを睨んでくるので正直出くわしたくはありませんけど、目玉から採れる結晶がシロウ様の言うような奴に似てますわ。丸に近ければ近い程価値が高く、そうでないものはどんどん安くなってますから、形にこだわらなければそこそこの値段で手に入るんじゃないかしら。」
ふむ、とりあえず現物を見てみない事には何とも言えないが可能性は出て来たしとりあえず取引所で出品されていないかを確認してから図書館で他の種類を確認しよう。
ってな感じで色々と調べてみた結果、市場に流れているのは比較的価値のある丸みの強い物らしくそれを利用するとものすごい値段になってしまうことが判明。
逆を言えば価値の低い物はその場に捨てられているという事なので、早速アニエスさんにお願いをして探索についてきてもらうことになった。
巨大な塗り壁のような体に無数の目がついているという中々に恐怖なヴィジュアルをしている魔物らしいのだが、今回の目的はそいつの討伐ではなくあくまでも市場価値の低い物がどれだけ捨てられているかという実地調査。
なので必要最低限の装備だけをして馬車を飛ばし、途中野営をして翌日には目的の遺跡に到着した。
なんでもこの中は非常に複雑な魔素で満たされているらしく、今回のような通常とは少し毛色の違う魔物が多数蠢いているのだとか。
見た目は宜しくなくてもサングラス用のレンズもここの魔物から回収できるらしいので、案外身近なところで使われているのだろう。
「ここですね。」
「これは・・・予想以上だな。」
「価値のある物以外は不要だという意思が伝わってくるようです。」
「これ全部ゴミになるのか?」
「間違いなくそうでしょう。これなどは十分綺麗だと思うのですが、この形がだめなのですか?」
遺跡の前を埋め尽くす大量のガラス玉。
無造作に積み上げられたいくつもあり、地面のいたるところにガラス玉が埋まっている。
アニエスさんが無造作に足元のガラス玉を手に取ってみると、多少ラグビーボールのようになっているものの透明度は高く夏の日を浴びてキラキラと光り輝いていた。
『ルビーアイのレンズ。透明な結晶の中に赤い筋がいくつも入っている。レンズは丸ければ丸いほど価値が高く時に金貨で取引されるものもあるが、そのほとんどはいびつに歪んでいる為程度のいい物を探すために冒険者に乱獲されている。最近の平均取引価格は銀貨10枚、最安値銅貨1枚、最高値金貨3枚、最終取引日は六日前と記録されています。』
『コバルトアイのレンズ。透明な結晶の中に青い筋がいくつも入っている。レンズは丸ければ丸いほど価値が高く時に金貨で取引されるものもあるが、そのほとんどはいびつに歪んでいる為程度のいい物を探すために冒険者に乱獲されている。最近の平均取引価格は銀貨10枚、最安値銅貨1枚最高値金貨5枚、最終取引日は六日前と記録されています。』
『タイガーアイのレンズ。透明な結晶の中に黄色い筋がいくつも入っている。レンズは丸ければ丸いほど価値が高く時に金貨で取引されるものもあるが、そのほとんどはいびつに歪んでいる為程度のいい物を探すために冒険者に乱獲されている。最近の平均取引価格は銀貨10枚、最安値銅貨1枚、最高値金貨1枚、最終取引日は六日前と記録されています。』
どれも美しい輝きを放っているにもかかわらず歪だからと捨てられるゴミ。
『レンズ』という物として価値はないかもしれない、だがそれ以外に十分使い道があると思うんだがなぁ。
「俺も十分綺麗だと思う。丸ければいいってのは誰かが決めた事だろ?」
「そうですね。」
「なら俺がこいつに新しい価値を与えてやればいい。とりあえず持ち帰れるだけ持ち帰ろう、ゴミを持ち帰って怒るやつはどこにもいないからな。」
馬車から木箱を降ろし、武器ではなくスコップを手にレンズの入った土を掘り起こすとそれを巨大なざるに入れて土を落としレンズだけを回収する。
本当は水にさらせば簡単なのだが、残念ながら水の魔道具なんて高級品は持ち合わせていない。
近くに川があればそこにもっていくという手もあるのだが生憎とそういう気の利いた場所はないんだよなぁ。
なので根気よく土を落としては中身を木箱へ入れてを繰り返す。
汚れているのは街に戻ってからでも綺麗にできるので俺達は時間の許す限り回収し続けた。
そして翌日。
全身筋肉痛の体に鞭を打ち、回収した緑色のボトルと今回のレンズを店の前に並べ炎天下の露店に立つ。
太陽の光を浴びて目の前で光り輝くそれらはゴミ。
道に捨てられ、地面に埋もれ、価値もなく廃棄された物達。
それがもし金になるのなら・・・それこそ夢みたいじゃないか?
「さぁ、この光り輝く宝物を自分の好きなように飾ってやってくれ。ガラス玉を好きなだけ詰めて銅貨50枚。この瓶に入るならどれでも好きなだけ入れていいぞ。飾るもよし、水を入れるもよし、早い者勝ちだ。」
パンパンと手を叩き、回収した瓶を片手に客を呼ぶ。
食い物と違って最初は食いつきが悪かったものの、一人二人と子供が集まってきてガラス玉を興味深そうに触り始める。
普段なら怒るところだが、彼らは大切な客寄せパンダ。
しばらくは様子を見ておこう。
「ねぇお父さんこれ欲しい!」
「こんなのがいいのかい?」
「うん!ピカピカして綺麗、ねぇ買ってよぉ!」
「わかったわかった、すまないがこれを二人分頼む。」
「毎度あり、このボトルに好きなだけ詰めてくれ。二つで銀貨1枚だ。」
客寄せパンダ・・・じゃなかった、大事なお客が親にねだってボトルをお買い上げ。
ボトルの原価なんてたかが知れているし、並べられたレンズは全部タダ。
それが銀貨1枚に生まれ変わった瞬間だ。
一人が手を出すと自分もと周りの子供が親にねだり、何枚もの銀貨が転がり込んでくる。
そして複数人がそれを手に取れば自分もと大勢の人が集まってくる。
金が金を呼ぶまさに最高の流れの出来上がりだ。
その日、拾い集めたボトルとただ拾ってきただけのガラス玉は新たな価値を見出され300本もの宝物へと生まれ変わった。
同じ色のガラス玉を詰める者、色とりどりのガラス玉を詰める者、ガラス玉と一緒に水を入れて踊るのを眺める者。
その人が思い描く宝物を形にしていく商売は俺の想像以上に大当たりとなった。
これが既製品だったらこうはならなかったことだろう。
あえて形にせず、客の好きなようにさせることでここまで大儲けできるとは俺も想像していなかった。
うーむ、俺の思い描いた形が必ず万人に受け入れられるわけじゃないってのがよくわかるな。
あの層のようになった配置とか、水を入れてかき回す感じとか俺じゃ絶対に思い付かない。
あぁいう自由な発想は勉強になるなぁとボトルを手渡しながら考えたものだ。
もちろんこれで終わりではない。
流石に毎日回収しに行くわけにはいかないが人を雇って回収させる予定なので引き続き新しい形を生み出してくれることだろう。
もちろん真似する奴は絶対に出てくる。
だが所詮は二番煎じ本家の儲けにかなう事はないだろう。
商売なんて真似されてなんぼ、それでも最後に残ったやつが一番儲けを勝ち取るだけ。
なんせ俺はゴミから金を生み出す男。
これからもガンガン金儲けのネタを考えて大儲けしよう。
そして借金を返してみんなの所に戻る、夏の強い日差しを受けながらそう誓うのだった。




