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128.転売屋は馬車を借りる

男の答えはYesだった。


それもそうだろう。


馬車を三日俺に貸すだけで予定の金額で品は売れ、宿代はかからない。


休んでいるだけでお金が転がり込んでくるようなものだ。


話を聞いた感じではかなり過酷な旅だったようだ。


ここにくるまで三つの街を経由したがその全てで断られ続け、その道中盗賊に追われ命からがら逃げだしたこともあったそうだ。


なかなか過酷な旅の末に命からがら辿り着きはしたが、ここでも惨敗。


最後の頼みとベルナの店に行ったが断られ、失意のどん底にいたところにエリザが声をかけたと。


そりゃ藁をもすがる感じで来るわなぁ。


俺が買い取らなかったらどうなっていたんだろうか。


正直ちょっと考えたくない。


店で借用書と契約書を書き、その足で三日月亭へと向かう。


もちろん馬車を使ってだ。


「あの、本当に宿までお借りしていいんでしょうか。」


「あぁ、金だけ払って使ってないからな。そのほうがマスターも喜ぶだろ。」


「しかも三日月亭といえばここで一、二を争う高級宿。そんな所に泊まらせていただけるなんてなんとお礼を申していいのやら。」


「マスターの所にも売り込みに?」


「もちろんです。ですが、使い道がないとのことでした。」


使い道がないねぇ、じゃあその使い道をご教授しようじゃないか。


馬車を三日月亭の前に横付けし、発泡水をもって中に入る。


「イラッシャイ、なんだシロウか。」


「なんだとはなんだよ、せっかく客を連れてきたのに。」


「客?あんたは確か・・・。」


「あぁ、さっきこれを売りに来た商人だよ。」


ちなみにこの人の名前はウィーキスト・コッチというらしい。


長いんでウィーと呼んでほしいとのことだった。


「発泡水だろ?確かに珍しいが・・・。」


「とりあえず込み入った話はあとだ、三日ほど部屋を使わせてほしいんだが構わないか?」


「一部屋なら空きがある、かまわないぞ。」


「助かったよ。ってことで、三日間ここでのんびりしてくれ。」


「あの子をよろしくお願いします。」


「あぁ、乾いた草と水だったな。」


「はい。湿ってると食べないんです。それと、怖がりなので厩舎はできるだけ奥を使わせてもらってください。」

馬車を借りるということは馬を借りるということだ。


大事な足だけにぞんざいに扱うわけにもいかないからな。


気持ちよくつかわせてもらうためにも引き継ぎはしっかりする必要がある。


荷物を持って部屋に向かうウィーさんを見送るとこそっとマスターが話しかけてきた。


「どこか行くのか?」


「隣町に行くんだよ、ちょっと行商しに。」


「お前のちょっとはちょっとじゃないだろ。だが、荷台には発泡水があるんじゃないのか?」


「そう、だからマスターに力を貸して欲しいんだ。」


「言っとくが無駄になるものは買わないぞ?」


「わかってるって。だが儲かるなら別だよな?」


「そりゃ儲かるならな。」


お互い商売人だ、儲かると聞いて嫌な顔をするはずがない。


「なら琥珀酒を出してくれ、確かあったよな?」


「あぁ、好きなやつは好きだからな扱ってるぞ。」


「それをグラスに半分ぐらいついでくれないか?」


「はいよ。」


普段冒険者たちが飲むぐらいの大きなグラスに半分ほど琥珀色の液体が注がれる。


中身はウィスキーっぽい酒だ。


製造方法は聞くな、美味ければ何でもいいんだ。


持ってきた発泡水の栓を開けそれに注ぎ込むとシュワシュワと発砲するハイボール風の酒の出来上がりだ。


「薄めるのかよ。」


「ただ薄まるだけじゃないぞ、飲んでみてくれ。」


訝しそうな目をしながらマスターがグラスの液体を飲む。


すると、見る見るうちに目が見開かれ、驚きの表情に変わっていった。


「なんだこれは。」


「美味いだろ?普通は薄めると不味くなるがこいつは違う、ほのかな炭酸が後味をすっきりさせるんだ。こいつを冷やしてから注ぐとさらに良くなるぞ。」


「確かにぬるいよりも冷えている方が良さそうだ。氷の発注を増やしたほうがいいな。」


「これが一本銅貨25枚、一本で大体5杯分作れるから氷を入れればもう少し増やせるだろう。」


「さらに薄まれば酔いにくくなりさらに注文が増える。単純に倍増えれば元は取れるわけか。」


「今年は暑いからなよく売れるんじゃないか?」


「面白いじゃないか。だが本当に売れるかはやってみてからだぞ。」


「もちろんだ、とりあえず50本置いていくからよければ買ってくれ。」


お互いにニヤリと笑い握手を交わす。


するとタイミングよくウィーさんが上から降りてきた。


「ウィーさん、発泡水を50本下してもらえます?」


「え、売れたんですか?」


「その確認をするんだ、喜べこいつ次第じゃこれからバカ売れするぞ。」


「えぇ!?シロウさんどういうことですか?」


「まぁ、ちょっと。とりあえず今日は様子見ですから下ろしたらもう一軒行きますよ。」


「なんだよ、うち専売じゃないのか?」


「取引先が多いほうがよく売れるからな。大丈夫だって、持ってくのはイライザさんのところだけだから。」


「そこだけにしてくれよ、儲けが減るだろ。」


これは別に俺やマスターが儲けるためじゃない。


今後ウィーさんが商売していくための話だ。


荷下ろししてもらってから次に向かったのはイライザさんの店だ。


マスター同様に事情を説明してハイボールを試してもらう。


ここでもかなり評判がよく、50本引き取ってもらえた。


よしよし、あとは明日を待つだけだな。


一先ずウィーさんには馬車と一緒に宿に戻ってもらって俺も店に戻る。


そして翌日マスターのところに戻った。


「どうだった・・・って聞くまでもなさそうだな。」


「全部で何本ある?」


「残り400本だが全部は無理だぞ。」


「ぐっ、半分か。」


「ここは仲良くいこうじゃないか、今後はマスター次第ってな。」


「あの反応は予想外だった。そうか、薄めるとうまくなるのか。」


「濃いだけが酒じゃない・・・って誰かが言ってたんだ。」


何の本だか忘れたが、加水することで味が二段三段と良くなっていく。


けして薄めるのとは違う、加水という行為。


すごいよなぁ、酒ってさ。


「おはようございます。」


「あ、おはようございますウィーさん。」


「シロウさんずいぶん早いですね・・・ってなんでマスターがこっちを見てるんですか?」


「とりあえず込み入った話はあとにしてくれ。ウィーさん、食事前の運動と行きましょうか。」


「えっとどういう・・・。」


「さぁ、200本下ろしますよ。」


「どういう事か説明してくださいよ!」


文句を言うウィーさんに事情を説明しながら200本分の発砲水を下ろし、次へ向かう。


これまた大好評だったイライザさんのところでも200本の発泡水を下ろした。


ふぅ、これで積み荷は空になったな。


朝からいい運動・・・っていうレベルじゃなかったけど結構頑張ったと思う。


「信じられません、昨日は誰にも話を聞いてもらえなかったのに。」


「要はやり方の問題だな。水ってだけじゃ誰も買わないけど、その水が金を生むなら話は別だ。今後に関してはあの二人と交渉してくれ。それなりの値段で買ってくれるだろう。」


「本当にありがとうございます。」


「じゃあ予定通り今日と明日馬車を借りるぞ。」


「はい!」


俺が間に入って中間マージンをとっても良かったんだが、マスターとイライザさん相手に金儲けをするつもりはない。


直接やり取りする方が楽だし、俺も小金の為に時間を割かれるのは御免だ。


金貨1枚で馬車を借りられただけでも十分プラスになる。


さりげなく銀貨25枚儲けさせてもらったしな。


ウィーさんを宿まで送って店の前に馬車を横付けする。


大量の木箱が積まれているところから察するに、少し前にギルドから荷が届いたんだろう。


「あ、シロウおかえり。」


「さぁ馬車は手に入った。さっさと積み込んで出発するぞ。」


「シロウも手伝ってくれるのよね?」


「俺は朝から働いたのでパスだ。」


「えー、ずるーい!」


「いいだろ馬車を手配できたんだから。」


「早く出発したいんでしょ?じゃあシロウも手伝わないとダメ、ほら頑張る!」


いや、頑張るとかじゃないんだけど・・・。


そんな俺の文句をエリザが聞くはずもなく、まさに馬車馬のように働かされてしまった。


うぅ、もう腕が上がらねぇ。


「ご主人様これを貼ってください、隣町につく頃にはダルさが取れてますから。」


「アネット助かる。」


「これぐらいしかできませんから・・・。」


シュンとうつむくアネットの頬にキスをしてやるとうれしそうに顔を上げた。


ちょっとキザだっただろうか。


「店を頼むな、一日空けるが働き過ぎで倒れるとかは止めてくれ。あと、ちゃんと飯も食え、わかったな?」


「大丈夫です、どうか気を付けて。」


「私がいるから大丈夫!」


「アネットさん留守を頼みます。」


「いってらっしゃいませ!」


さぁ行商に出発だ。


アネットに見送られながらエリザが馬車を出発させる。


さぁ、この世界に来て初めての別の街だ。


いったいどんな場所なんだろうな。

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