1275.転売屋は追跡用ボールを売り込む
「と、いう事で今日は横の買取屋兼冒険者のシロウと一緒に例の魔物を追跡する。一応は新人扱いだが実力と実績は中級並みだからくれぐれも下に見ないようにな。シロウ、挨拶を頼む。」
「あー、シロウだ。なんだか大層な紹介をされてしまったがみんなと同じただの冒険者だから気軽に話しかけてくれ。今回は俺の考案した道具の実証実験に付き合ってもらって感謝する。これが上手くいけば諸々の依頼が楽になるはずだから意見があればどんどん上げてくれ。最後に宣伝だが、うちは薬の販売のほかに素材や武具の買取も行ってる。っていうかそっちが本業だからそんな意味でも引き続きよろしく、冒険者目線で買い取らせてもらうつもりだ。」
いきなり挨拶をさせられるとは思わなかったが、集まった冒険者の前で宣伝するいい機会になったのでこれで帳消しだ。
横に控えるウォーリーさんが苦笑いしているが今日は俺が主役みたいなんで遠慮は無用。
さっきも言ったようにこれが上手くいけば特定の依頼に関しては格段に楽になるのは間違いないんだ。
それが上手くいくかどうかはここにいる彼らの手にかかっている。
前に考案したマーカーマウスの体液を使った追跡道具。
イメージは防犯用のカラーボールだが、特定の魔物にぶつける事でどこに逃げてもその魔力を追いかければ見つけることが出来るという仕様だ。
そして今回狙うのはラディカルマウスと呼ばれる物凄く動きの速い魔物。
あまりに動きが早すぎてどこに逃げたかわからなくなるのだが、出現場所がわかっているのと広範囲で逃げることが出来ないので追い詰めていけば何とかなる・・・てのが冒険者の中の通説。
だがそれを立証することが出来なかったので、今回こうして討伐隊が編成されたというわけだ。
広範囲に逃げられないとはいえ出てくるのはうっそうと茂ったやぶの中、腰ぐらいある草がそこら中に生い茂る草原を、土の中も含めて逃げ回る厄介者。
これが成功すれば同じように居場所を掴みにくい魔物を倒すのに使えるだろう。
因みに、マーカーマウスの体液を効かなくする洗浄液も一緒に開発してくれたので当てるのに失敗してそこら中が反応だらけになる心配もない。
流石カーラ、こう言った所にも気が利くんだから大したもんだよなぁ。
おかげで目標だけを追いかけることが出来そうだ。
馬車に揺られる事半日。
途中休憩をはさみながら、そこでもうちの携帯食料を振舞ってしっかりとアピールすることを忘れない。
暑くなってきたのもあり保冷ボトルは大好評なうえにサッパリ系のドライフルーツが男女問わず反応が良かった。
パパパインとレレモン、今度からこっちをメインで入れておくとしよう。
「よし、各自準備は出来たな。」
「「「「「はい!」」」」」
「まずは各班分かれて目標を捜索、発見次第追跡弾をぶつけてくれ。失敗した場合は消去剤をかけるのを忘れるなよ。弾は大小二種類、無くなったら追加を取りにここまで戻ってくるように。一匹とはいえ捕まえられたらデカいからな、しっかり稼げよ!」
ギルド長に発破をかけられ冒険者たちが勢いよく飛び出していく。
追跡弾と呼ばれるそれは、カラーボール大の手で投げるやつとスリング用の弾丸の二種類。
各班にスリングを使える冒険者を配置しているのでどちらも問題無く使えるはずだ。
大きい方は液体が飛び散るようにしているので、直撃しなくてもわずかでも触れてくれれば捜索できるはずだ。
「それじゃあ俺達も行くか。」
「わふ!」
「久々の探索にルフが張り切っていますね、我々の鼻があれば探索することは容易ですが今回はあくまでも冒険者の為。最高の結果を出せるようお手伝いいたします。」
今回はルフとアニエスさんの狼コンビに手伝ってもらうことに。
ジンには店を任せているので今頃一人で頑張ってくれている事だろう。
ぶっちゃけ俺がいない時にどうなるかの実験にもなっているので、戻ったら愚痴を含めて話を聞かせてもらうつもりだ。
あまりにも大変なようなら店番を任せられる人を手配しなければならない。
とはいえ誰でもいいわけではないので、すぐに手配するのは難しいだろうなぁ。
他の冒険者を追いかけるようにうっそうと茂る草をかき分けながらゆっくりと進んでいく。
ラディカルマウス、またの名をスピードマウスというそのまんまのあだ名がついたそいつは目にも止まらぬ動きで冒険者を翻弄する。
実はそれだけではなく、その速さで冒険者を襲い光るものを奪っていくという泥棒鼠でもある。
さっきドォールさんが言っていたデカいって言うのは、巣を見つけられたらそこに隠された金目の物を纏めて手に入れられるという事。
逃げ出した後巣に帰るという事は確認されているのだが、このブッシュの中で小さな巣を探すのは至難の業。
しかし、目印があれば話は別というわけだ。
探索が始まり一時間程。
集中力が切れかけたその時だった。
「見つけた!」
「どこだどこだ!」
「あっち!くそ、外した!」
「消臭剤忘れないで、おいかけるよ!」
どうやら最初に見つけたのは女性ばかりのパーティーだったようだ。
女性だけとはいえ前衛の二人は筋肉もりもり、後衛の二人も熟練者という珍しい四人組。
息の合った連携で魔物を討伐するとアニエスさんから聞いた頃がある。
声の聞こえた方を意識しながら回り込むようにして離れた所から追いかける。
「アニエスさんわかる?」
「気配はわかります、左斜め前方。ルフ、そのまま右側に追い込めますか?」
「わふ!」
アニエスさんの指示に従い、ルフが草の中をトップスピードで駆け抜ける。
捕まえられなくても逃げる方向さえわかれば追い込むことは可能。
そう判断したアニエスさんの作戦は見事にはまり、少しずつ包囲網が狭まっていく。
いたるところで発見の報が聞こえ、いよいよこちらに現れる。
「ルフ、左から右へ!シロウ様そこの隙間に現れます!」
草原にぽっかりと空いた何もない空間。
そこを通り抜けるようにルフとアニエスさんが追い込んでいく。
出てくるのは正面、この機を逃すとめんどくさいことになる。
装備の力と自分の反射神経を信じ、追跡弾を装填したスリングを力いっぱい絞ったまま待機する。
ガサガサという二つの音が正面から迫ってくる。
黒い影が見えたその瞬間、俺は手を離しスリングが勢いよく弾をはじき出した。
「ギィ!!」
「おっしゃ、命中!」
向こうも俺に気付いたようだが、弾を避けるにはわずかに速さが足りない。
しかしながら殺傷能力のある弾ではないので命中後慌てたようにまたやぶの中へ逃げてしまった。
「よし、散開してねぐらに戻るのを待つぞ!」
「さすが、ギルド長が認めるだけあるよな。」
「あれで普段は商人なんだぜ、信じられるか?」
とはいえ目標は達した。
追い回してくれていた冒険者たちが息を切らせながらも命中させた俺をねぎらってくれる。
ひとまず休憩を兼ねてギルド長たちのいる場所まで戻り、奴が落ち着いて寝床に戻るのを待つことに。
「どうだ?」
「すごいですね、かなり離れているんですけどおおよその場所まで感じられます。」
「ということは索敵用の道具として有効だって事か。」
「そうなります。例えば、森の中にコボレートの巣があったとして、巡回中の魔物に当てる事が出来れば必然的に奴らの巣がどこにあるかもわかるわけです。巣がわかれば直線距離で巣まで行けるわけですから余計な魔物と戦う必要がなくなりますからかなり楽になりますよ。」
マーカーマウスの体液はかなり離れていてもその存在を確認できることが実証さえた。
俺は逃げ回る魔物を捕まえられるっていう事しか考えていなかったのだが、流石現役冒険者だな、俺の気づかなかった使い道を即座に編み出してしまった。
言い換えればそれだけ実用性の高い道具という事になる。
ある種の革命と言っていいのかもしれない。
「動きはないか?」
「ありません、巣に戻って休んでいるようです。」
「よし、それじゃあ最後の追い込みと行くか。各自盾は持ったな?」
「もちました!」
休憩も終わり、いよいよ最後の戦いが始まるようだ。
といっても所詮は鼠、デカいとはいえ速度を殺せば我々の敵ではない。
ってことで、全員がギルドが用意した大盾を持ち巣を中心に円を描くように近づいていく。
もし巣から出てきても盾を地面に置いて即席の壁にする。
もちろん隙間が出来たらそこから逃げてしまうので、そこは自分の体や武器を割り込ませて隙間を埋めるしかない。
最終的にお互いがぶつかるぐらいの場所まで近づくことが出来れば包囲終了。
後はとどめを刺すだけだ。
もちろん俺もその一人として参加し、ルフがその後ろに待機してくれている。
仮に飛び出してきてもトップスピードでなければ何とかなるはず。
「動きました!」
「盾降ろせ、隙間を埋めろ!」
合図と共にドスンと盾が降ろされ、それとほぼ同時に何かがぶつかる音が響いた。
何度も何度もぶつかる音はするものの、逃げ出す様子はない。
そのままじりじりと囲い込み、無事ラディカルマウスを仕留めることに成功した。
「皆ご苦労、それじゃあ最後のお楽しみと行こうじゃないか、巣を探せ!この辺りにあるはずだ!」
「「「「「はい!」」」」」
そして獲物を倒した後はお待ちかねの宝探しの時間だ。
文字通り地面をほじくり返してお宝を探し出すわけだが、これがまた中々に大変だった。
話ではそんなに深いところに巣はないっていう話だったのにどれだけ探しても巣が見つからず、最後はルフに匂いをだどってもらってなんとか巣穴を見つける事が出来た。
その長い事長い事。
幸い出口は一つしかないようだが、これ二か所あったらこの作戦使えなかったよなとか色々反省も見えてきたのはご愛敬だろう。
ともかくだ、予想通り大量のお宝が巣の中から発掘され最大の功労者であるルフの相棒である俺にお宝の第一選択権が与えられた。
金銀財宝とまではいかないまでも、中々にため込まれた銀貨や装備品の数々。
鼠の大きさからアクセサリー系が多かったが、その中に面白い物を見つけた。
『見破りの鈴。半径3m以内にいる人物が嘘を言っている場合にのみ鈴が鳴る。それ以外に使い道はなく、無理に振ると壊れてしまう。最近の平均取引価格は金貨3枚、最安値銀貨50枚、最高値金貨5枚、最終取引日は293日前と記録されています。』
俺みたいな交渉事をする人間には必要不可欠といってもいい品。
まさかこんな素晴らしい道具が手に入るとは思ってもみなかった。
値段も高いがこれは売らずに使うべきだな。
「俺はこれをもらおう。」
「見た感じ鳴らない鈴みたいだが、お前が態々選ぶ当たりすごい効果があるんだろうな。」
「まぁそういうことだ。」
「最大の貢献者だ、遠慮なく持って行ってくれ。それじゃあ残りを全員で分けるから悪いが鑑定してもらえるか?欲しい物がかぶったら手をあげろ、どっちが選ぶかは話し合うか殴り合うか納得する方法で決めてくれ。金がいいならそこに買い取ってくれる人がいるから頼むのもありだな。」
「せめて街に戻ってからにしてもらえるとありがたいんだが?」
こんな所で買取とか、仕事に来てるからそこまで持ち合わせがないっての。
間違いなく本気で言ってるんだろうけど、その辺もうすこし考えてもらえると嬉しいんだがなぁ。
なんてことがありながらも無事にマーカーマウスの体液を使った追跡用ボール並びに追跡弾は想定通り、いやそれ以上の成果を生み出したのだった。
今後はギルドを通じて冒険者に支給、販売されることになることが決まっている。
消臭剤も一緒に売れるので一挙両得、大儲け間違いなし。
とはいえ値段はこれから相談になるので製造量も含めてカーラと相談することにしよう。
一体どれだけの儲けが出るのか今から楽しみだ。




