1271.転売屋は瓶を回収する
「おや、あれは何でしょう。」
「そういやさっきも歩いている人が持っていたな。」
真夏の太陽が降り注ぐ王都。
大通りを歩く人たちの手にはある共通のものが握られていた。
緑の可愛らしいボトルでガラスのようにもペットボトルのようにも見える。
装飾を施されている事から何か加工はされているだろうけど、中には何が入っているだろうか。
「飲み物のようですね。」
「だな、ちょっと見に行ってみるか。」
「そしていい物でしたら買い占められるわけですね。」
「買占めとは人聞きの悪い。そういうときもあるが、あくまでも俺が気に入ったらの話だ。」
そして金銭的にそれが許されるのならな。
物が高すぎたり大人気すぎたりするともう手を出せないので転売は難しい。
人気があるからこそ転がすべきなんだろうけど、大人気になる事にはもう手を付けられなくなっているのがほとんどだ。
自分で作った物や企画した物ならその状態でも手に入れる方法はあるのだが、全くのノータッチだとそれも難しい。
人混みを避けるようにして市場に到着、すると奥の方に人だかりができているのを見つけた。
が、近づいた時には時すでに遅く完売の報が聞こえてくる。
「すみませ~ん、また明後日お願いします~!」
「折角並んだのに残念。」
「仕方ないよ、こんなに人気なんだもん。」
悔しそうな話し声事聞こえてくれど恨み事が聞こえてこないあたり阿漕な商売はしていないんだろう。
とりあえず正体を確かめるべくモーゼの如く開いた人混みをまっすぐ進んでいく。
「すまない、ちょっといいか?」
「ごめんなさい今日の分は売れてしまって・・・。」
「いや、何を売っていたのか気になったんだが緑色の入れ物を売っていたのはここか?」
「そうです。ラーンムネールっていう飲み物なんですけどシュワシュワして美味しいんですよ。」
ふむ、どうやらここで間違いないらしい。
発泡水に味がついたようなやつだろうか、どっちかっていうとラムネっぽい飲み物なのかもしれない。
「それにしても綺麗な入れ物だな。」
「そこはうちの自信作です。グラスプラントを改良してつけた特別なグラスポットを使ってるので他ではまねできません。」
「グラスプラントってあの半透明の実をつける魔物だろ?改良出来るのか?」
「うちは何十年も手を加えて今の形を作り出したんです、時間はかかりますけど愛情をかけてあげるとちゃんと答えてくれるのは他の植物と変わりません。」
「それはわかる。あいつら人の顔も見分けるし感情もあるよな。」
「そうなんです!一本一本個性があって可愛いんですよ!」
植物に個性が、なんて笑ったりはしない。
うちの畑で帰りを待っているであろう奴らにも個性があり、一本一本違いを感じる事が出来る。
カニバフラワー達もそうだしメロンメロンにも何となくだがそういうのがある気がする。
あいつらも元気にしているんだろうか。
商品について聞こうとしたのだが、突然如何にグラスプラントが可愛らしいか語り始めた店主から逃げるようにして店を離れる。
ここで親しくなる手もあったのだがどう考えても長くなるのは目に見えてるからな。
しっかし、なんで好きなことになるとこう周りが見えなくなる人が多いんだろうか。
どこからかお前もだって声が聞こえてきた気もするが気のせいという事にしておこう。
「よろしかったので?」
「ん?あぁ、長くなりそうだったからな。それにぶっちゃけ商品の方には興味はない。」
「と、言いますと?」
「見てみろ。」
市場から離れつつ道端の方に目を向けると、先ほどのボトルがところどころに捨てられていた。
数が多いというわけではないが、色が色だけに視界に入ってくる。
おそらくは無作法な冒険者がそこらに捨てたんだろうなぁ。
いや、冒険者って決めつけるのはよくないか。
一般住民にもそういうやつはいるしゴミ拾いが仕事になるぐらいに普通にゴミを捨てるからなぁこっちの人は。
「あれがなにか?」
「何十年もかけて作られたボトルがあんな無造作に捨てられているんだ。もったいないと思わないか?」
「え、まさか主殿はあれをどうにかするおつもりで?」
「もちろんそのつもりだが?」
「さすがにゴミを使うのはいかがなものかと。」
ゴミを拾って何が悪い。
金になる物がそこら中に転がっているんだぞ、捨てたってことは所有権を放棄したって事。
これを使わないでなんとする。
ってことで落ちているボトルを手に取り改めてどんなものかを確認する。
『グラスポット。グラスプラントがつける特殊な実で中が空洞になっており中に液体を貯めることが出来る。野生下ではそこに水をため、入って来た虫や魔物を吸収する。ガラスのような見た目だが弾力があり落としても割れる事はない。最近の平均取引価格は銅貨15枚、最安値銅貨11枚、最高値銅貨24枚、最終取引日は22日前と記録されています。』
触り心地はやっぱりペットボトル。
だがペコペコではなくそれなりに質量もあるのでガラスとの中間って感じだな。
落としても割れないけど軽くはない感じ。
一輪挿しとか小物とかに使えば面白そうなのにこれを捨てるなんてもったいない。
あー、勿体ない勿体ないって感じてしまうのはしみついてしまった感覚なんだろうなぁ。
「別にこれに飲み物を詰めて真似しようってわけじゃない、別の使い方をするだけだ。」
「といいますと?」
「花を活けてもいいし色合いがいいから水を入れてふたをするだけでも小物として映えるだろう。貝殻やグラススラグの破片を入れても綺麗だと思うぞ。」
「なるほど、あくまでも入れ物としてお使いになるわけですか。」
「そんな感じだ。とりあえずどのぐらい集まるか確認してみよう。」
「我々でですか?」
「まさか、どう考えても無理だろ。」
どれくらいの数あるかもわからないし、そもそも街中をくまなく捜し歩くのは二人では不可能だ。
そう、二人ではな。
ってことで急ぎ教会へと向かい、ジャンヌ大司教に説明して目的のボトルを回収してもらえるようにお願いをする。
こういう時に役立つのは普段からゴミ拾いを生業にしている貧民街の子供達。
小さい体と素早い身のこなしで人混みの中を動き回り、彼等しか知らない道を使って街中のボトルを回収してきてくれることだろう。
自分の労力は使わず金で解決するといえば聞こえは悪いが、金を払う事で彼らはうるおい俺も楽をしてネタを回収できる。
両者win-winなんだから誰に文句を言われるいわれもない。
待つこと半日、銀貨10枚を対価になんと500個ものボトルを回収することに成功した。
少し古いものもあるけれど売り出したのは5月になってかららしいのでそこまで傷んでいるものはない。
流石に傷だらけや泥だらけな物は捨てるしかないが、8割以上が再利用できるんじゃなかろうか。
400個として一個当たり銅貨2.5枚。
これを銅貨5枚で売っても銀貨10枚、銅貨10枚で売れば銀貨30枚にもなる。
今後もボトルは売り出されるだろうからその都度これだけ儲かると考えると・・・やばい儲けになるなこれは。
向こうは勝手に売れていくだろうから、俺はそれを回収して転がすだけで大儲け間違いなしだ。
もちろん途中で誰かが真似をしてくるだろうけど、個人でこれをやってもたかが知れている。
俺以上の値段を出して子供達を雇うならまだしもそうでないのなら俺に分があるのは間違いない。
こっちにはジャンヌ大司教をはじめ貧民たちとのパイプがあるからな、負けるつもりはないぞ。
「あの~・・・。」
「ん?あんたは確か、このボトルの売主か。」
「その売主です。あの、少しいいですか?」
積み上げられたボトルを前に皮算用をしていた時だった、申し訳なさそうな感じで昼間ボトルを販売していた店主の女性がやってきた。
一体何の用だろうか。
これを返せと言ってくるようなら、文句の一つや二つや三つ言ってやるつもりでいるのだが。
「なんだ?」
「このボトルなんですけど・・・。」
「返すつもりはないぞ、これは俺が集めたものだからな。」
「もちろんわかってます、お客様の手に渡った時点で私達の物ではありませんから。それはわかっているんですけどこちらにも事情があってですね。」
どうやら奪い返しに来たというわけではなさそうだ。
仕方がない、一応はこの金儲けのきっかけになるわけだし話ぐらいは聞いてやるとしよう。
「なるほど、あまりにも売れすぎてボトルが足りないのか。」
「まさかこんなに人気が出るって思ってなくて、毎日ボトルは手に入るんですけどこのままだと追い付かなくなるんです。」
「ぶっちゃけ使用済みを再利用するってのはどうなんだ?」
「もちろんちゃんと洗って使いますよ!」
「まぁ再利用するのはいいことだ、エコだしな。」
「えこ?」
この世界にリユースリサイクルの概念はなかったか、こりゃ失礼した。
一応煮沸とかそういうのをして利用するんだろうしその辺の責任は俺にはない。
何かあっても向こうがどうにかするだろう。
「まぁそれはいいとして、それでこの山にいくら出す?」
「タダというわけにはいかないんですよね。」
「そりゃな、これは俺が金を出して集めたものだ。それをなんでタダで譲らないといけないんだ?」
「・・・銀貨10枚、いえ15枚じゃだめですか?」
「それならこの半分だ。他にも使い道はありそうだし全部が全部渡せるとは思わないでくれ。」
流石に原価のままじゃ渡せない。
渡せてせいぜい半分、残りは俺なりのやり方で金もうけに使わせてもらおう。
さっきも言ったようにこれはもう俺の物だから遠慮は無用だ。
「そう、ですよね。わかりましたそれで充分です。」
「とりあえず今渡せるのが200個、集める度にその半分を提供しよう。」
「ありがとうございます。あの、これがお代金です。」
「確かに。次売りに来るのは明後日だったな。」
「今の所はその予定です。毎回これぐらい回収できれば何とか・・・。」
「頑張ってくれ、次は商品をもらいに行こう。」
売りつけるだけじゃフェアじゃないからな、それにこのボトルの中身も気になるのは本当だ。
どんな飲み物か、そしてそれも金になるのなら・・・。
いや、流石にそこまで手を出すのは無理か。
とりあえずこのボトルを有効利用することを考えよう。
集めるだけで回収費用はペイできるうえに、残った分を売れば丸々利益になる。
一輪挿しかそれとも小物か、夢が膨らむじゃないか。
売れば売るだけ利益が出るとか最高だな。
たかがゴミと侮るなかれ、そのやり取りを見ていたジンが何か言いたげだったがあえて気づかないふりをした。
強欲で結構、これぐらいしなきゃみんなの所に戻れないんだ。
出来るだけの事をするそう誓ったからな。
鮮やかな緑色のボトルが太陽の光を浴びてキラキラと光り輝く。
さて、次の金儲けと行こうじゃないか。




