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127.転売屋は面白い事を思いつく

隣町の話をしよう。


比較的産業が発達しており、魔道具や工業用製品を生産しているそうだ。


それだけではなくファンタジーらしく武器や防具なんかも作られている。


そしてそこで作られた武具がこの街で消費されているわけだな。


もちろん消費だけでなくダンジョンから持ち帰られた魔物の素材や食べ物は隣町に運ばれて消費されている。


持ちつ持たれつって言葉がよく合いそうな感じだ。


だが不思議な事にそれで儲けようって人があまりいない。


おそらくはほとんどの素材がギルドを通じて各消費者にばら撒かれているので入る余地がないのだろう。


冒険者ギルドが固定買取しているような素材がまさにそれだ。


皆が欲しがれば値段が高騰し結果利益が無くなってしまう。


それは非常によろしくない。


なのでギルドが一括して買い取りそれを出荷する事で一定の利益を上げられるようになっているんだな。


過去に揉めたっていうのはその利権関係の事だろう。


そりゃ揉めるわ。


ってことで、隣町との間を行き来して儲けている人がいない理由は分かった。


だがいないわけじゃない。


個人業者なんかはギルド単位ではなく個人単位でやり取りをして利益を上げているようだし、先日の輸送業者のような人たちもいる。


それなりに、儲けがあるから食っていけているんだろう。


そこに俺達が突然参入するわけだが、羊男の話では競合する素材ではないので問題ないとのことだった。


税金は街単位になるので隣町で儲けを出した場合一定金額を納めなければならないらしい。


それが具体的にいくらかは向こうで聞いてくれとのことだった。


ギルドはギルドで払っているが個人単位ではまた税率が変わるそうだ。


二割とか取られたら商売にならない。


まぁ、行商をメインでやっていくわけじゃないので一回だけだし我慢すればいいんだけども・・・。


「で、駄目だったのね。」


「あぁどこも馬車はいっぱいだ。」


「どうするのよ、結構仕入れちゃったわよ。」


「当分は倉庫に眠らせる事が出来ますが、生ものは早々に消費しなければなりません。」


「だよなぁ。当分キノコ料理か。」


「私キノコ好きよ。」


「三食キノコ尽くしを二週間だぞ?」


「う、それはさすがに・・・。」


素材はともかく生ものはマズイな。


利益どころかまるまる支出になってしまう。


食費が減ると考えてもいいが、今言ったように三食キノコ尽くしは流石に飽きる。


マスターとイライザさんにお願いして手伝ってもらうしかないか。


いっそのことキノコ祭りとか言って勝手にイベント作るか?


むりだよなぁ。


キノコ料理で酒が進むとは考えにくい。


「まぁ手配してしまったのはしかたない。しめていくらだ?」


「レッドタートルの甲羅が銀貨50枚分でロングスケルトンの骨も銀貨50枚分、アラクネの糸が金貨1枚分よ。支払いは三日後、シロウ名義にしてるからよろしくね。」


「ブラウンマッシュルームは金貨1枚、聖糸と聖布を合わせて金貨1枚分手配いたしました。代金は先に納めてあります。」


「聖布?」


「鎧の内布に使うとの話を耳にしましたので、この間の残りを格安で買い付けてきました。」


「さすがだな。」


「残っても来年また使えますから。」


「合計金貨4枚か。加えてグリーンスライムの核があるから・・・金貨15枚にはしたいよなぁ。」


仕入れた以上せめて倍は儲けたい。


金貨15枚で売れたと仮定して税金を二割と仮定すると、金貨7枚は経費で飛んでくわけだから残りは金貨8枚。


後は馬車でどれぐらいかかるかだ。


金に物を言わせて借りるってわけにもいかないし、いやはやどうしたもんか。


と、三人で知恵を絞りあっていると向いのベルナの店の前に一台の馬車が止まった。


獣耳の生えた大柄な男が何かを持って店に入る。


馬車にもさまざまあるがあれは3トントラックぐらいの大きだ。


幌もついてるしあれぐらいの大きさがあれば十分なんだけどなぁ。


「倉庫の装備とかは持って行かないの?」


「露店を出すわけじゃないから今回は見送りだ。」


「そっか。何が売れるかわからないもんね。」


「その調査を兼ねての行商ですから。」


「そういうこと。」


具体的にどんな品に需要があって、どれぐらいの利益が出るのか。


その辺の情報を仕入れる事が出来れば、ここでの買取にも色を付ける事が出来る。


高く買い取れば冒険者が来て、良い素材や武具を売ってくれるというわけだ。


何でもかんでも手を出すわけにはいかないが、一・二品目程度に絞れば定期的に売りに行く事も出来るだろう。


まぁ。理想は魔物の素材じゃなくて買い取った武器や防具が売れるのがベストだけど。


それからしばらくエリザとミラが行商の打ち合わせをしているのを横で聞きながら、俺は前に止まった馬車を眺めていた。


結構長い間停車しているがそんなに大量に持ち込んだんだろうか。


そんなに持ってない感じだったけど。


と、先ほどの大柄の男が馬車の裏側から姿を現した。


明らかに落胆した様子。


そのまま馬車の荷台に座り大きくため息をつくのが分かる。


おそらく買取金額が安かったんだろう。


其のまま動かず俯いている。


「あの馬車どうしたのかな。」


「ベルナの店に行ったみたいだが買取金額が安かったんだろうな、後ろでうつむいて座ってるよ。」


「こっちに来たらいいのにね。」


「うちが買取屋って知らないんじゃないか?よそから来た感じだし。」


「そっか、そうよね。私ちょっと声かけて来る。」


「おい、待てって。」


面倒事だったらどうする。


自発的に来るのはともかく呼びに行ったら買い取らないわけにはいかないじゃないか。


そんな俺の考えをよそに勢いよく店を飛びだしていくエリザ。


そのまま馬車の裏に回り落胆した男に何か話しかけている。


あ、戻って来た。


「とりあえずベルナが馬車を動かせってうるさいからこっちに回してもらったよ。」


「お前なぁ・・・。」


「別に変な人じゃなかったし大丈夫よ。」


「何を売るのか聞いたか?」


「ううん、聞いてない。」


「お前なぁ・・・。」


まぁそうだよな。


エリザがそこまで聞くはずないか。


しばらくして前に止まっていた馬車が店の前に停車した。


大柄の男が店に入って来る。


「あの、ここでいいんですか?」


「こっちこっち、どうぞ入って。」


「お前の店じゃないだろうが。」


「この人が店主のシロウ、でここは何でも買い取る買取屋さん。」


「なんでも買い取ってくれるんですか?」


「そうだな、お互いに金額に納得するのなら買い取らせてもらっている。で、ベルナの店に何を持ち込んだんだ?」


「これなんです。」


大柄な割に声は小さく勢いもない。


なんていうか非常に疲れているように見える。


男が背覆ったリュックを降ろし中からラムネ瓶位の入れ物を取りだした。


「ガラス製の器か、中に何か入ってるな。」


「ハッポウスイです。」


「ハッポウスイ?」


「あの、グラスを貸してもらえますか?」


ミラが素早く裏からグラスを持って来た。


グラスっていうかジョッキだな。


男は無言で瓶の上に乗っていた王冠を外すと、シュポっと良い音が店に響いた。


それをグラスに注ぐと中の液体がシュワシュワとはじけながらグラスを満たした。


「なるほど、発泡水だな。」


「面白い、エールみたいね。」


「だが水なんだろう?」


「はい、水です。私の地域では岩場からこの水が湧き出ていましてそれを売って歩いているんです。」


炭酸水のように人工的に二酸化炭素を混ぜて泡立たせているのと違い、発泡水は泡立ちが少し弱い。


あと、少し味がするんだよな。


「売って歩いているならベルナの店はマズイだろ、あそこは質屋だぞ?」


「わかっています。ですがどこのお店でも断られてしまって、路銀も尽きてしまったのでなんとか買っていただけないかと持って行ったんです。」


「で、断られたと。」


「はい・・・。」


大柄な男がシュンと俯いてしまう。


泡が抜けるようにどんどんと小さくなっていくな。


「で、どれだけあるんだ?」


「馬車にあと500本あります。」


「値段は?」


「一本銅貨20枚です。」


「高!」


「それは高いわ、だって水でしょ?それならエールを飲んだ方がましよ。」


「で、ですが酔わずにスッキリできると他の街では評判で・・・。」


「ここは冒険者が多い街だ、奴らは酔えることにこそ生きがいを感じるような生き物だからな。ここじゃまず売れないだろうよ。」


「そんなぁ・・・。」


なんせ薬を飲んでまで呑み比べをしようなんて奴らだぞ?


酔えない水なんて飲むはずがない。


「隣町に行こうにももう路銀がなくて・・・。お願いします、何とか買っていただけませんか?」


「一本銅貨5枚なら買わなくもない。」


「そんな!瓶代にもなりませんよ!」


「だが路銀はできる。途中で全部割れたと思えばあきらめもつくだろ。」


「せめて銅貨15枚でお願いします。瓶を返却してもらえたら次回銅貨5枚値引きしますから!」


ビール瓶も回収すると10円返してもらえたな。


昔はよく瓶を回収して小遣いを稼いだっけか。


懐かしいなぁ。


このシステムはどこも同じなのか。


作るよりも再利用、リサイクルは重要ですってね。


「だがうちに持ち込んだところで500本も消費出来な・・・。」


まてよ、もしかすると使えるかもしれないぞ。


「なぁ、一つ提案を飲んでくれたら銅貨20枚で買ってやらなくもない。」


「本当ですか!」


「三日あの馬車を貸してくれ。もちろん宿代はこっちが出すし故障した場合なんかの修繕費は俺が出そう。その様子じゃ結構大変な旅だったんだろ?三日間ほど三食昼寝付きで休んでくれれば言い値で買い取ってやる。簡単だろ?」


俺の提案に大柄な男が口を大きく開けて固まってしまった。


横を見るとエリザが信じられないという顔をしている。


ミラはというといつもと変わらずにこやかな笑顔で俺を見つめていた。


さぁ、どんな返事をしてくれるのか楽しみだ。


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