1248.転売屋は王都の空を舞う
「これより、青龍ガルグリンダム様へ舞を捧げる。演者は前へ!」
どこぞの偉い人の掛け声できらびやかな衣装に身を固めた女性達が舞台の上に集まってきた。
王城へとつながる大通りに臨時で作られた会場には、大勢の観光客が集まっていた。
音楽隊が奏でる演奏に合わせて最初は静かに、だがだんだんと激しい動きの踊りが披露されている。
ウーム、これが青龍祭なのか。
もっとこう過激に魔法とかが打ちまくられるのかと勝手に思っていたのだが、祭りが始まって1時間程経過するも粛々とスケジュールが消化されている。
目に見えない神様への奉納とかならまぁ好きなように出来るけど、実際に真正面で本人が見ている中ってのはかなり緊張するんだろうなぁ。
あの人の性格からすると何をしても喜んでくれるんだろうけど、やっている方は必死だ。
しばらくして最後の舞が終わり、盛大な拍手が会場中に響き渡る。
ガルグリンダム様もスタンディングオベーションで彼女たちの頑張りに報いるようだ。
「これより休憩とする。この後はガルグリンダム様がお近くに参られ、皆に祝福を授けて下さるだろう。供物はそれまでに所定の祭壇に収めるように。」
お、休憩をはさむのか。
そりゃそうだよな、一時間ぶっ続けじゃ漏らす奴も出てくるかもしれない。
舞台では演者に向かってガルグリンダム様が手を振り、それを見た演者たちが黄色い歓声を上げていた。
まるでアイドルだな。
「素敵な踊りでしたね。」
「ね!」
「あぁ、この日のために無茶苦茶練習したんだろうなぁ。」
「毎回見せてもらう立場ですが、本当に尊敬します。」
「マリーさんも練習してみるか?」
「そんな、私なんかの踊りで喜ぶのは父上ぐらいなものです。」
ただ喜ぶだけじゃなく泣いて喜ぶんじゃないだろうか。
マリーさんが踊るとなるとシャルも一緒にやるというだろうし、そうなればどんな反応をするか想像もつかない。
かなりの親バカ孫バカだからなぁ陛下は。
「トト!」
「お、バーンも来たか。あれ?ディーネは?」
「ハハは向こうで準備してる。トトも早くいくよ!」
貴賓席側からバーンが走って来たと思ったら、そのまま俺の手を引っ張り始めた。
この後はガルグリンダム様のありがたいお言葉をもらった後、いよいよ俺達の出番が控えている。
別に俺は参加したくないのだが陛下の命となれば話は別だ。
「マジでやるのか?」
「そういう約束だから。カカ、行ってくるね!」
ぶんぶん。
可愛い息子の晴れ舞台にルフが勢い良く尻尾を振る。
はいはい、やればいいんだろやれば。
引っ張られるまま貴賓席の裏側に到着すると、ディーネが満足そうな顔でお菓子を頬張っていた。
「やっと来おったか、いい加減諦めれば良いものを。」
「いいだろ別に。っていうかよくディーネが承諾したな。」
「何をじゃ?」
「ガルグリンダム様の祭りで舞う事だよ。いつもならめんどくさいの一言で終わりそうなもんだが。」
「そうさな、面倒といえば面倒じゃがそれに釣り合うだけの報酬をもらっておるからのぉ。」
「報酬?」
まて、そんな話一切聞かされてないんだが?
ディーネ達にはあってなんで俺にはその話が来てないんだよ。
「僕はお肉をいっぱい食べさせてもらえるんだよ!ハハはお肉の他にお菓子をいっぱい食べさせてもらえるんだって!」
「こりゃバーン、勝手に話すでない。」
「それは陛下からの報酬なのか?」
「いや、ガルからの報酬じゃ。シロウはまだもらっておらんのだろう?全部終わってから何か頼んでみてはどうじゃ?」
そういえば陛下から話は来てもガルグリンダム様とはまだ話をしていなかった。
正直何をもらえるのかさっぱりわからないが、それなりの仕事はするんだしいい感じのものがもらえるとありがたい。
具体的には高く売れそうな武器とか、なんならガルグリンダム様の鱗なんかでも十分だ。
滅多に手に入らないからこそ青龍の鱗ともなればかなりの値段で取引されるはず、武具関係よりもそっちの方が高値がつくかもしれないしな。
「とりあえず終わってから本人に聞いてみる。準備は?」
「いつでも飛べるよ!」
「私も声がかかればいつでも行ける。しかしあれじゃな、折角の晴れ舞台だというのにその恰好はどうなんじゃ?」
「やっぱりだめか?一応謁見できる程度の堅さは残したつもりなんだが。」
「折角の晴れ舞台にそんな地味な服を着てくるのがどうかと言っておるんじゃ。もっとこう派手な鎧とかはなかったのか?」
「んなもんあるわけないだろ。」
前衛職ならまだしも普段後ろでチクチク攻撃するだけの俺がガッチガチの鎧なんて持っているはずもなく。
どうせ上空に出てしまったら服なんて見えないんだし別に気にしなくてもいいと思うんだが・・・。
「話は聞かせてもらった。」
突然誰かが話に入って来たかと思ったら、見知った顔がどや顔でこちらを見てくる。
「ん?なんでホリアが・・・ってそうか、陛下の警護か。」
「青龍祭の一番の目玉なのにそんな恰好は流石にあれだろう。せっかくワイバーンに乗るんだしうちの鎧を着ていくのはどうだ?ガンレットやブーツまですると大変だが鎧だけならそこまで動きにくくもないし、何より見栄えがするぞ。ガルグリンダム様も喜ぶんじゃないか?」
「鎧って、由緒ある聖騎士団の鎧を俺みたいな一般人が着ていいのかよ。」
「団長の俺が許す。それに全くの部外者というわけでもないし、なにより聖騎士団の宣伝にもなるだろ。」
「目的はそっちかよ。」
てっきり青龍祭を盛り上げる為と思っていたのに、自分の騎士団を宣伝するのに利用するとか。
そういうところは嫌いじゃないぞ。
使えるものは親でも使う、それこそ顔なじみの買取屋ともなればなおの事だろう。
俺だってそれでガルグリンダム様に恩を売れれば報酬も高くなる可能性が出てくる。
両者win-winってやつだな。
急ぎホリアの鎧を装着し終えるタイミングで、ガルグリンダム様の演説も終わりを迎えた。
何とか間に合ったな。
「これだけの人が王家に忠誠を誓い街を愛してくれていることを誇りに思う。皆の健やかなる日々を願い私も祝福をもってそれに答えよう。此度は古き仲間、そして新しい友も一緒だ。ディネストリファ、バーン、そしてシロウ。共に平和なる日々を祝おうではないか!」
突然の咆哮。
さっきまで穏やかな口調で話していたにもかかわらずいきなりドラゴンになるとか、もう少し手順とか流とかそういうのを説明してくれるとありがたいんだが。
「シロウ行くぞ。」
「トト乗って!」
貴賓席から飛び出し、ガルグリンダム様を追いかけるようにディーネがドラゴンの姿に戻り空に向かって炎を放つ。
そしてその炎を追いかけるようにバーンが一気に空へと駆け上った。
振り落とされないようにしっかりと首につかまり、炎を追い抜いてから姿勢を整える。
眼下には鮮やかな青い色に染まった王都と大勢の人たちが歓声を上げているのが見える。
あそこのどこかにマリーさん達がいるはず。
一応はガルグリンダム様の為に空を舞うのだが、俺的にはマリーさん達にカッコいい姿を見せたいだけなんだよな。
「その鎧、なかなかいいじゃないか。」
「だろ?折角用意したんだから報酬も弾んでくれよな。」
「そういえば君には何も言ってなかったね。なんでもというわけにはいかないけど陛下にも進言してそれなりのものを用意しよう。ただし、その為にもしっかりと頼むよ。」
「大丈夫だよ!」
「ガルの為であれば気乗りせんが、シロウの為ともなれば話は別じゃ。シャルも見ておるからの、いいところを見せて美味い菓子を作ってもらわねば。」
そんな会話が行われているとは地上のだれも思っていないだろう。
王都の空に現れた赤龍と青竜、それとワイバーン。
その背中には聖騎士団の鎧を身に着けた男が騎乗しており、さながらワイバーンナイトのようだったと人々は思ったそうだ。
そんな三頭が王都の空を猛スピードで並走したり、交差したり、円を描いてみたりと気分はさながら航空ショーのパイロット。
俺はただバーンの背中に乗っているだけなのだがそれがまた無茶苦茶しんどい。
Gをほとんど感じないのだが目まぐるしく変わる景色に酔いそうになっていたのは内緒だ。
時間にして10分ぐらいだろうか。
炎あり雨あり風ありの特別な時間を終えた俺達を待っていたのは、地響きのような歓声と拍手の嵐だった。
人の姿に戻った三人も満足そうにその嵐を浴びている。
そんな俺達の前に貴賓席からエドワード陛下がやってきてその場に膝をついた。
「ガルグリンダム様、青龍祭を締めくくる素晴らしいお姿ありがとうございます。我ら王族一同をはじめこの地に住む者達は皆、祝福を胸に健やかなる日々を過ごすことができるでしょう。ディネストリファ様、バーン、そしてシロウ。この日に相応しい舞をありがとうございました。」
「苦しゅうない、この地にガルがいる限り平穏は約束されたも同然じゃ。これからも己が役目をしっかりと果すのだぞ。」
「ありがたきお言葉ありがとうございます。」
再び恭しく頭を下げるエドワード陛下。
いや、国の長が頭を下げている中自分だけ立っているとか非常にやりづらいんだが。
メインは古龍の二人なんだし俺達はもう解散でいいよな?
頭を上げ立ち上がった陛下はそのまま元の場所に戻る・・・はずもなく、俺とバーンの前に立つ。
流石に俺が立ったままなのはあれなので急いでその場に固い膝をつく。
それを見たバーンも慌てて俺と同じように片膝をついた。
「そんなに畏まるな。古のワイバーン騎士のようなそなたらの勇姿はここにいる全員の心にしかと焼き付いた。今後もその翼と知恵を我らが為に使ってくれる事を願っている。この良き日に大儀であった。」
「ありがたきお言葉ありがとうございます。」
「ありがとうございます!」
古龍二人は陛下よりも上の立場だが、俺達はまだまだ下っ端。
陛下はそんな風に思っていないだろうけどそういう風にしておかないとめんどくさいことを言ってくるやつが大勢いる。
まだまだ王都で稼いでいかないといけないんだから余計な荒波を立てる必要はないだろう。
「エドワード、一ついいかな。」
「なんでしょうガルグリンダム様。」
「僕らの無茶なお願いを快く承諾してくれた彼に相応しい報酬を与えたいと思うのだけど、どうだろうか。」
「そうですな、この素晴らしい時間に報いる必要はあると思われます。してシロウ、そなたは何を望む。なんなりと申してみよ。」
いや、ちょっと待ってくれ、なんだよその無茶ぶり。
お礼を言ってさっさと帰るはずがまさかここで報酬を持ち出してくるとは思わなかった。
いや、欲しかったよ?
俺だけないってのはどういうことだってちょっと怒ったりもしたさ。
だが、これだけの大勢の前でそれを聞くってのはどういう事だろうか。
下手なことを言えば顰蹙を買うし、かといって遠慮しすぎるのもよろしくないだろう。
なんせこの祭りの主役がそれを求めているんだ、文句を言うやつはいないんだろうけどいくらなんでも急すぎる。
どうする、何を願うべきだ?
ジンがいつも言うようにあまりにも欲が深すぎてこれってものに絞り込むことができない。
一番は金、二番も金、三番も・・・。
いや、待てよ?
こういうのはありなんだろうか。
「それでは一つお願いがございます。」
街中の人たちの視線を一身に浴びながら震える声で絞り出した願い。
それをきいた陛下とガルグリンダム様の顔はこの祭り一番の驚きに満ちていたのは間違いないだろう。




