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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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1244/1767

1241.転売屋は空からの客を迎え入れる

もうすぐ青龍祭。


あと一週間ともなるとそこらじゅうが青い物で溢れ、街全体がその日を今か今かと待ちわびている。


年に一度しかない大切なお祭りであることが住民の会話を聞いていてもよくわかる。


それだけガルグリンダム様がこの街で信仰されているという事なのだろう。


見た目はあんなだけどな。


「む。」


「どうした、ジン。」


「何やら南の方からものすごい力を感じます。あれは・・・。」


「ん?」


ジンが指さした方に目をやると、抜けるような青空の向こう側に黒い点が二つ並んでいた。


それはこちらに向かって近づいてきているのかどんどんと大きくなってくる。


その次の瞬間、城壁の方からカンカン!という甲高い音が鳴り響き、ラッパのような音がそこら中に響き渡る。


「敵襲!上空から魔物が迫っているぞ!あれは・・・ドラゴンだ!」


「ワイバーンもいるぞ!」


「住民は建物の中に避難してください!」


まさか王都が魔物に襲われる日が来るとは。


そりゃ城壁のすぐ近くにまで魔物が出るんだから襲われないわけがないんだが、こんな日中にしかも滅多に出くわすことのない天然のドラゴンが襲ってくるなんてそんなことあるのか?


この街はガルグリンダム様の庇護下にあるわけだし、古龍に守られている街を態々狙ってくるとかどれだけ恐れ知らずな奴なんだろうか。


今に王宮からあの人が飛び出してきてすぐに退治してくれる、そんな風に住民も思っているんじゃないだろうか。


だが、いつまでたってもガルグリンダム様が出てくる気配はなくドラゴンは目と鼻の先まで迫ってきている。


鮮やかな赤い色をしたレッドドラゴンとその横には同じぐらい大きなワイバーン。


そもそもこの二種類が同時に襲ってくることなんて今まであっただろうか。


そいつらは王都のはるか上空をぐるぐると旋回したかと思ったら、突然こちらに向かって急降下を始めた。


やばい、逃げなければ!


そう構えたその時だ。


「あれ?」


「消えましたな。」


こちらに突っ込んできたはずのドラゴンがワイバーン共々忽然と姿を消してしまった。


兵士たちも住民も突然の事態を上手く呑み込めず放心してしまっている。


さっきのは夢か幻だったんだろうか。


そう思っていると、突然俺の横で風が巻き上がり土煙が空を舞った。


「なんじゃ、せっかく遠路はるばる来たというのに出迎えもなしか。」


「ハハ、あんなふうに近づいたら街の人に迷惑がかかっちゃうよ。」


「仕方なかろう長旅で疲れていたのじゃから。おい、シロウそろそろ目を開けんか。」


砂埃が目に入りそうになり慌てて目を閉じていると、何やら聞き覚えのある声が聞こえてくる。


恐る恐る目を開けると、そこには少女と青年が立っていた。


「え、ディーネ?」


「何を呆けた顔しておる、折角王都まで飛んできてやったというのに。何か言うべきことがあるのではないか?」


「え、あ、お帰り?」


「まぁそれも悪くはないが・・・。まぁいい、そなたにそういう言葉を求めたのが間違いじゃった。」


突然目の前にディーネが出てきたものだから状況をうまく呑み込めず頭がフリーズしかかっている。


そんな俺に盛大なため息をつき、気の利いた言葉も言えないダメ男の烙印を押してくる。


いやいや、いきなり出てきたらそりゃそうなるだろう。


プリプリと怒るディーネを横の青年が優しい目をして見つめている。


どこかで会ったことがあるだろうか、非常に見覚えがあるんだが・・・。


「トト、お久しぶりです。」


「トト?え、お前バーンなのか?」


「はい、トトも元気そうでよかった。」


「え、ちょっと待ってくれ。ここに来る前はそんなに大きくなかったよな?嘘だろ?本当か?」


俺の事をトトと呼ぶのは確かにバーンしかいない。


だが、こっちに来るときはまだまだ小さくて小学生ぐらいの大きさしかなかったはず。


にもかかわらず目の前に立っている彼は、身長は俺とほぼ変わらず高校生ぐらいの見た目になっている。


なによりもイケメンだ。


いや、マジでアイドルにでもなれるんじゃないかってぐらいの整った顔をしている。


よく見ると目元とかは確かにバーンの面影があるようにも見えるが、まさかこんなに成長するとか・・・そんなことありなのか?


「本当も何もバーン本人じゃ。大変だったんじゃぞ、そなたに会いたいからと必死になってやっとここまで大きくなったんじゃから。しっかりと褒めるがいい。」


「ハハにお願いしてダンジョンでいっぱいいっぱい戦って、マウジーにお願いして魔力水をいっぱい飲んだんだ!大変だったけどトトに会いたかったからこんなに大きくなったんだよ!」


「そうか、それは頑張ったな。偉いぞバーン。」


「えへへ、ありがとうトト。」


この話し方この笑い方は成長しても変わらないようだ。


まさかこの二人が飛んでくるとは思わなかったが、会いに来てくれたのはものすごく嬉しい。


はやくマリーさん達に伝えてあげないと。


「それよりも先に腹が減った、そこな魔人。先に屋敷に戻っておるから何か腹にたまる物を買ってくるがいい。甘い物も忘れずにな。」


「お任せくださいディーネ様。」


「僕お肉がいい!」


「かしこまりました。失礼ですが何とお呼びすればよいですかな?」


「僕、バーン!」


「バーン様ですね、準備しますのでどうぞお先にお戻りください。」


二人に向かって恭しくお辞儀をすると、まだ動揺する人込みの向こうに消えてしまった。


こんな大騒ぎを作った張本人たちがまさかこの二人だとは誰も気づくことはないだろうけど、ぶっちゃけもう少し気を使ってほしかったなぁと心の中でつぶやくのだった。


そんな二人とともに屋敷に戻り、ちょうど屋敷に戻ってきていたウィフさんとイザベラにバーンを紹介する。


マリーさんも突然大きくなったバーンに驚きを隠せない感じだったが、シャルだけはすぐに気が付いたのかトコトコと近づいて行って嬉しそうに抱き着いていた。


まるで年の離れた兄と妹のような関係に見ているこっちがほっこりとしてしまう。


「なるほど、青龍祭を見る為に来たのか。」


「本当は来るつもりはなかったんじゃがな、バーンがどうしてもシロウに会いたいというから仕方なくついてきてやったんじゃ。大きくなったとはいえまだまだ一日で海を飛び越えるのは難しいからのぉ。」


「いやいや、三日でも十分早いから。街からの移動時間を考えても通常十日かかる道のりをその時間で移動するとか前代未聞だぞ。」


「ワイバーン、それも黒龍の力を少しでも継いでいるバーンならもう少し成長すれば一日で飛び越えることも可能じゃろうて。」


「僕、もっと大きくなってトトのお手伝いするよ!」


そういって両手に力こぶを作って見せるバーン。


今回二人がここまでやってくるのにかかった日数は四日。


まずは港町まで移動してその日は休憩、翌日こちらの大陸に向かって飛行をはじめ夕方頃にドレイク船長の船に着陸して一泊、そのまま一日英気を養って次の日こっちまで一気に飛行ってな感じだったらしい。


ディーネの話では航路が定まっているから下を行き交う船を見れば方向を間違う事もないし、ドレイク船長の船がどこにいるかを事前に確認してから飛んでいるので途中の休憩は問題はないんだとか。


最悪別の船に今回のように上空から着陸すればいいだけなので、海上で苦労することはないらしい。


何とも強引なやり方だがドレイク船長もそれを了承しているのであれば何も言うことはない。


しかしあれだな、どう頑張っても十日はかかっていたのをわずか四日に短縮するとか、しかもそれと一緒に荷物を運べるともなれば物流革命もいいところだ。


もちろん重たい物とか大きなものは流石に難しいけれど、大きくなったバーンにかかれば大型木箱二つをまとめて運ぶ事も出来るのだとか。


なんとまぁ頼もしいことだ。


もちろん今回もそれを証明するかのように向こうから荷物を一緒に運んできてくれたようで、港町に置いてきたものが明日には到着するらしい。


その時間を加味しても五日、つまり半分か。


手紙とか身に着けて持ち運べるようなものだったらそういったタイムラグもないだろうし、もし本当にディーネの言うように一日で移動できるようになれば情報伝達も一気に向上することだろう。


もちろんそれができるのはバーン一人なわけだし、その便利さに見合った代金は徴収するべきだ。


簡易的な連絡はできるもののまだまだ現物を移動させるには時間のかかるこの世界で、これだけの事が出来る事実を安売りするべきじゃない。


今後バーンの存在は世界の常識をどんどんと変えていく。


そんな息子をもって俺はどれだけ幸せ者なんだろうか。


「因みに今回は何を運んできたんだ?」


「女達に頼まれた荷物の他にジョウジに頼まれた清酒がいくつかと、後は南方でバーンが仕入れてきた茶葉じゃな。」


「バーンが買い付けた?」


「うん!ものすごくいい匂いがしたから、ババにもらったお小遣いで買ったんだ!」


まさかあのウンチュミーから小遣いをもらっているとは知らなかったが、蛙の子は蛙というか商売にまで手を出すとは思わなかった。


どんな茶葉を買い付けたかはわからないが、荷物が到着するのが待ち遠しい限りだ。


「それとね、ジョウジさんから納品書とね請求書を預かって来たよ。」


「ブッ、マジか。」


「青龍祭用の清酒だそうじゃ。とはいえ向こうも商売、いくら相手がシロウとはいえタダで品物を卸すことはしないそうじゃ。そういう約束なんじゃろう?」


「まぁな。」


清酒造りに一枚噛ませてもらっているとはいえ、向こうは生産者で俺は仲介業者。


どちらも公平な立場でいるべくこの辺の線引きはしっかりする約束になっている。


俺が噴き出したのはバーンの口から納品書と請求書という単語が出てきたから。


体が大きくなると同時に頭も賢くなっているのは流石というかなんというか。


そっちに関しては女達が色々と教えてくれたんだろうなぁ。


バーンから預かった納品書を見るに、運んできてくれたのは大瓶が20本に小瓶が50本。


感謝祭が明けてすぐにこっちに来てしまったのでどのぐらいの量が仕上がったのかまではわからないのだが、青龍祭だけにこれだけ提供できるとなるとかなりの量なんだろう。


次いで請求書の方だが・・・。


「安いな。」


「主殿、金貨20枚を安いと申されますか?」


「あぁ無茶苦茶安い。前回販売した価格で売っても金貨27枚程、そこにこの特急輸送料を加味したら金貨30枚でも足りないぐらいだ。それをこの値段で卸してくれるんだからかなり頑張ってくれたんだろうなぁ。」


前回仕込んだ清酒は、大ビン金貨1枚に小瓶が銀貨15枚で販売された。


その金額でざっと計算しても金貨27枚と銀貨50枚になる。


そのままの値段で転がしても金貨7枚以上儲かるわけだし、青龍祭なんていうお祭りに合わせた価格にすればその倍は稼ぐことができるだろう。


西方との取引が再開したとしても清酒が国外に出ていくことはほとんどないはず。


それが飲めるとなれば貴族が競い合うようにして金を出すのは間違いない。


ジョウジさん頑張ってくれたんだなぁ。


「それだけ旦那様が信頼されている証拠ですね。」


「そうだといいんだが。他にもみんなが色々と詰め込んでくれたみたいだし、明日の荷物が届くのが楽しみになってきた。」


「いっぱいあるから楽しみにしててね!」


突然の空からの来訪者。


可愛い息子とディーネの登場に驚きながらも、新たな金儲けのネタが出来た事に別の意味で胸が高鳴ってしまう。


さぁどうやって転売してやろうか。


金儲けの可能性に思わず笑みが浮かんでしまった。

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