表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1212/1767

1209.転売屋は春を先取りする

「もうすぐ春が来ますね。」


「そんな感じだな。まだ風は冷たいが、感謝祭の頃に比べれば大分気温が高くなってきた。」


2月も残り一週間。


この時期になると春のような太陽の温かさを感じる日が多くなってくる。


この世界では暦に忠実な季節感だが、流石に四か月も冬が続くと多少のほころびも出て来るんだろう。


そんなポカポカ陽気の中アニエスさんと二人で大通りを歩く。


ルフは部屋で日向ぼっこ、ジンは月末に向けて資料を作っているはずだ。


アニエスさんとこうやって二人で歩くのは実は久々かもしれない。


「花が増えてきましたね。」


「季節的にはまだ早いが花も待ちきれないっていう感じなんだろう。春の花は色が鮮やかだから見ている方も楽しくなるな。」


「つい部屋に飾りたくなるものです。マリー様もよく飾っておいででした。」


「そういえばいつ行っても花が飾ってあったが、昔から好きなのか?」


「王子の頃から部屋には何かしらの花が飾ってあったと記憶しています。」


アニエスさんはマリーさんがまだ王子だったころからの付き合いだ。


王家の人間なんだから部屋に花が飾ってあっても何の違和感もないが、いつもは自分が気に入った花を選んでいたのでその当時からの習慣か何かなんだろう。


向こうを離れてはや二ヶ月。


皆は元気にしているだろうか。


「折角飾るなら綺麗なやつだよなぁ。」


「もちろんそうですが綺麗すぎると浮いてしまいますよ。」


「そういうものか。」


「色や形、季節の物を取り入れるのが一般的です。春先は色とりどりの花が売られますから、皆さんお気に入りを探して色々と買い集めるのでしょう。」


ぶっちゃけ花だなんだとあまり興味のない人間なのだが、綺麗だって言うのはわかる。


飾りたいと思うかは別だが部屋にあってイヤな気持ちになることはないよな。


ただ一つ注文を付けるとしたらあまり匂いのしないやつが有難い。


過敏症というわけではないがあまり匂いがきつすぎるとくしゃみが出そうになるんだよなぁ。


「とはいえこれだけ花が売られていると似たようなものばかりになる。いくら売れるとわかっていても商売敵がこんなにもいるんじゃ儲けは微々たるもんだろう。生ものだけに長期間置くのも難しいしな。」


「シロウ様でも売りづらい物があるのですね。」


「そりゃあるさ。腐らないものは得意だが傷みやすい物はあまり好きじゃない。だからその場で作ってその場で売る食い物以外は扱わないだろ?」


「後は保存食ですね。なるほど、言われれば確かにその通りです。」


保存食系は多少時間がかかっても利益が出るので安心して販売できるんだよなぁ。


なので野菜なんかの生ものはいつもアグリに任せっぱなしだった。


誰にでも得手不得手というものはあるんだから、わざわざ苦手な事をする必要はないだろう。


「とはいえ折角売れるとわかっていて見過ごすのも勿体ない話だ。珍しくて日持ちのする花があればぜひ扱ってみたいんだが・・・。」


「シロウ様にその気があるのであればご紹介できますよ。」


「マジか。」


「ただし、手に入れる為には非常に危険が伴います。その覚悟がおありでしたらの話ですが。」


アニエスさんがそこまで言うということは本当に危険な方法なんだろう。


だが、それをおしてでも手に入れる価値があるのであればそれをやらない手はない。


前までのように身分や財力で一気に稼ぐ手がないのであれば、この世界に来た時のように自分の力で稼ぐしかないのだから。


「その危険はアニエスさんがいたらの話か?」


「私とジン、そしてルフがいてもなおその危険は十分にあるでしょう。」


「この面々でもその危険があるのならもう一人ぐらい増やした方がいいな。」


「伝手がおありですか?」


「あぁ、丁度今日戻ってくるはずだ。」


王都で親交のある数少ない冒険者の中で、エリザにも引けを取らないであろう実力者といえばあの人しかいない。


予定を変更して二人で冒険者ギルドへいくと、ちょうど彼がカウンターで職員と話し込んでいた。


「無事に魔物は駆除し終わったみたいだな。」


「シロウじゃないか。ちょうど今片付いた所でな、それとこれが頼まれていたコボレートハーブだ。」


「こんなにあったのか。」


「随分と溜め込んでいたらしい、おかげで俺は更に大儲けできそうだ。」


そういうとクーガーさんはギルドで貰った報酬が入った革袋を持ち上げてニヤリと笑った。


とある理由で王都近郊を離れず金儲けをしている凄腕中級冒険者。


その巨大な剣を背にした後姿から付いた通り名は『巨岩』。


その名の通り巨大な筋肉は岩のように膨らみ、巨大な剣を振るう腕はワイルドカウの太もも並に太い。


この間頼んでいたコボレートハーブがこんなに手に入るとは思っていなかったが、戻ってきているのは好都合だ。


「10袋分で銀貨12枚、それでいいか?」


「ん?多くないか?」


「その代わり少し頼みたいことがあるんだ。あぁ、もちろん金は払う。疲れているところ申し訳ないが時間を買う金だと思ってくれ。」


「金にうるさい商人が銀貨2枚も払って俺の時間を買おうだなんて、そんなことされたら断れないじゃないか。」


依頼をこなしたばかりで鎧に返り血が付いたままの彼を連れて行くのは心苦しいが、これも金儲けの為。


もちろんそれに応じた金は払うつもりでいる。


ギルドに頼んで応接室を借り、待ち時間の間に装備の点検もお願いしておく。


今日は移動日でそこまで疲れていないはずだからすぐにでも移動できると踏んでいるんだが、どうなる事やら。


「なるほど、それで俺の力が必要なのか。」


「お疲れのところ申し訳ありませんが、シロウ様の願いをかなえるためにはどうしてもあと一人前線で戦う者が必要なのです。」


「他でもない『血狼』と共に戦えるだけで光栄だ、喜んで引き受けさせてもらおう。」


「『血狼』?」


「古いあだ名です。」


そういうとアニエスさんはこれ以上聞くなと言わんばかりの笑顔で微笑んだ。


恐らくは聖騎士団時代の通り名か何かなんだろう。


エリザと同じく前線で武器を振るって戦う様は血に濡れた狼にも見えなくはない。


残念ながら本人はあまり気に入っていないようだけどな。


ともかくだ、クーガーさんはアニエスさんとの共闘と報酬を条件に戦いに同行してくれることになった。


目指すは王都から1日ほど離れた大森林にある遺跡。


そこに出るのはどれも植物系の魔物で、そこで稀に見つかるモルテスリリィが今回の獲物だ。


白百合のような白くて美しい花はそれを狙う者に死か富を与えるのだとか。


多くの魔物を切り伏せながらモルテスリリィを呼び出しそれを狩る。


モルテスリリィだけでなく植物系の魔物は色鮮やかな奴が多いので、それを一緒に駆れば一石二鳥というわけだな。


承諾を得た所で契約書を交わし、前金を先に支払っておく。


契約内容は受託報酬として前金で銀貨3枚と成功報酬として銀貨17枚、その他探索時に使うポーションや食糧などの経費は全てこちら持ち。


正直、討伐時間も含めて三日程の依頼で銀貨20枚は破格中の破格だが、それを払ってでも十分利益が出るだけの儲けが確約されている。


安全とそれを得る為の必要経費と考えれば安い物だろう。


「それじゃあ明日正門の前に集合で。」


「今すぐと言わず申し訳ないが宜しく頼む。」


「家族の為なんだろ、気にしないでくれ。」


ひとまずクーガーさんと別れアニエスさんと共に明日の準備を買いに市場へと移動。


片道一日とはいえ、植物系の魔物が多い場所では必要とする道具も多い。


主に毒に対する薬や予防装備をこれでもかという程準備しておいて損はない。


まさか自分がとも思うが、前線で戦うのは俺じゃなくアニエスさんとクーガーさんだからな。


その二人の為と思えば惜しくもない。


「先程の話信じますか?」


「家族が病気っていう話か?」


「はい。ハデスにかかった家族を助けるために金が要る、冒険者がよく言う作り話の一つです。」


「だがそれと同じ事をして母親をすくったミラを見ているからな、俺は信じるさ。」


確かに良くある作り話の一つではある。


家族が、恋人が、そんな話しで仲間から金を借りてトンズラするのは良くある話だし娼婦から同情を誘う為によく使う手でもある。


しかし彼が金にこだわり手近なところで依頼をこなしているのもまた事実。


こんなときセーラさんかラフィムさんがいればすぐに調べも付くのだが、いないのを言っても仕方がないだろう。


「巨岩のクーガーについてはギルドでも話を聞いています、悪い人ではないでしょう。」


「俺からすれば手伝ってもらった結果、儲けが出ればそれでいい。春まであとわずか、最後の一儲けといこうじゃないか。この人数なら問題ないんだろ?」


「はい、間違いなく。」


「じゃあ決まりだ。さっさと買って屋敷に戻ろうぜ、今日は肉だ。」


「楽しみにしています。」


アニエスさんが大丈夫と言ったのを聞き、俺は安心していた。


これまでも特に大きな問題はなかったし何とかなって来た。


この人が大丈夫と言うんだからという全幅の信頼からそう思っていたわけだが、実際はなんていうか地獄だった。


そう、地獄という言葉がふさわしい冒険になった。



「さぁ、珍しいモルテスリリィの花はいかが?ダンジョンから採って来た色鮮やかな花たちだ、一本銀貨1枚花束は銀貨5枚からさぁ春を前に珍しい花を送るのはどうだ?」


死に物狂いで戻ってきた翌日、クーガーさんに渡した報酬分を回収するべく疲れた体をおして露店を立てた。


この花々を見ると今にもあの地獄が目に浮かんでくるが、こいつらは俺に金を運んでくる大切な商売道具。


心を落ち着かせながら群がってくる客に清楚なモルテスリリィの花を売っていく。


『モルテスリリィ。清楚な白い花は見る者を魅了し、それを狙う者を死へと誘う危険な魔物。触手の先についた白い花からは甘い香りが溢れ、その香りを嗅ぐと一時的にモルテスリリィに意識を支配される。そうして手に入れた魔物や人間を苗床にして繁殖をくり返している。最近の平均取引価格は銀貨1枚。最安値銅貨80枚、最高値銀貨3枚、最終取引日は本日と記録されています。』


触手の先に咲き誇る白い花々。


その花の下に転がる無数の骨達。


他の植物が襲い掛かる中、アニエスさんとクーガーさんが前線で得物を振り回して大暴れしれくれたおかげで俺への直接的な被害はなかったが、それでも前後左右から襲い来る蔦にこの間のイチゴを思い出してしまった。


まさかこんな短時間に同じ思いをするとは思いもしなかったが。


春を先取りするのがこんなに大変だったとは思いもしなかった。


「すみません一つください!」


「こっちの花束貰えるかしら。」


「これを使って花束作ってもらえません?予算は銀貨10枚ぐらいで。」


それでも珍しい花々に客が殺到。


あっという間に花は銀貨へと代わり、報酬を余裕でペイできるぐらいの利益を上げることが出来た。


残ったのは多量の銀貨と疲労感そしてトラウマだけ。


金儲けは大変だというけれどこういう大変さは勘弁してもらいたい。


「お疲れさまでした、次は何を狩りに行きましょうか。」


そんな俺の気持ちとは裏腹に、アニエスさんは非常に充実した顔でダンジョンから戻って来た。


俺と一緒だとあまり深い所まで戻る事は出来ないが、深く潜らなくても充実した戦いが出来るとわかってしまったんだろう。


正直出来るならば一人で行ってほしい。


だがそれが金になるのであればまた潜らなければいけない日も来るだろう。


だがそれは今日じゃなくていい。


何なら明日でも明後日でなくてもいい。


それからしばらく悪夢にうなされながら寝ることになったのはまた別の話だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ