1204.転売屋は王都でも買取をする
「あれ、もしかしてそこにいるのはシロウさんですか?」
「ん?」
「やっぱりそうだ!まさか王都にまで来てるとは思いませんでした!」
いつものように露店をうろうろしながらいい感じのネタを探していた時だった。
突然すれ違った冒険者がこちらを振り返り、俺に声をかけてくる。
向こうの街にいたときは住民の半数以上が顔なじみみたいな感じだったからこんな風に声をかけられることもあったが、まさか王都に来てまで同じことが起きるとは思っていなかった。
とはいえ冒険者は山ほど相手してきただけにどこの誰だかすぐには思い出せないわけで。
「ん?」
「俺ですよ、よく買取してもらってた!」
「すまん、そんなやつはたくさんいるんで思い出せないんだが何を持ってきてた?」
「何をって言われても・・・。そうだ!そうだ!あれですよあれ、蟻砂糖を買い取ってもらってました!」
「あぁ、あいつか!思い出した!」
オレオレ詐欺みたいな説明を聞いた時は全く思い出せなかったが、蟻砂糖って言われた瞬間にピンときた。
昔、蟻砂糖を発見してすぐのころギルドの管轄になったタイミングで毎日のように買取にもってきていた新人冒険者がいたんだ。
ギルドの依頼かつ需要が多くて他の魔物に襲われる心配もないってことで新人冒険者のいい飯のタネになっていたやつなんだが、それを毎日のように受領して持ってきたやつがこんな顔していた気がする。
その後、ある程度お金を稼いで装備を整えてからはダンジョンに通い詰めて少しずつ実力を上げていき、中級に上がる頃には宝箱から出た装備品なんかも持ち込んでいた気がする。
いつの間にか姿を見なくなったと思ったら、まさか王都に来ているとは。
ぶっちゃけ死んだと思っていたんだが元気そうで何よりだ。
「思い出してくれました?」
「あぁ、あんなちんちくりんだった奴が随分と立派になったなぁ。」
「ちょっとやめてくださいよ。」
子供が大きくなって会いに来たみたいな感覚を覚えてしまい、思わず頭をくしゃくしゃと撫でてしまった。
いや、マジでそんな感覚なんだよ。
冒険者なんてどこぞで死んでしまうのが当たり前の職業なのに、無事に実力をつけてさらにはこんな場所で会えるなんて普通は思わないだろう。
そんな俺とのやり取りを後ろにいた仲間たちが信じられないという顔で見ている。
「ねぇ、この人だれ?」
「俺が昔世話になってた買取屋さんだよ。シロウさん、こっちにも店だしたんですか?」
「生憎と店を出したわけじゃないんだ。」
「そうなんですね。あ、でも買取はしてますよね?ちょうどダンジョンから帰ってきたところなんですけど、装備品とか見てもらえますか?」
「そりゃ別に構わないが、仲間はいいのか?」
「この人なら絶対高く買ってくれるから安心していいよ!ってことでよろしくおねがいします!」
それは意思確認にならないんじゃないだろうかと心配したんだが、お仲間は別に気にしていないようで突然買取が始まってしまった。
道のど真ん中では邪魔になるので、ひとまず飯屋に移動してそこで査定させてもらうことに。
移動したのは冒険者御用達って感じのボロいけれど安くて量の多いのが売りの店らしく、昼間にもかかわらず多くの冒険者でにぎわっていた。
「それじゃあブツを見せてもらおうか。」
「今回見つけたのはこの三つです。」
「三つ?宝箱でも見つけたのか?」
「そんな感じです。」
机の上に並べられたのは短剣とオカリナそれと指輪の三点。
どれどれどんなお宝か見せてもらおうか。
『風切りの短剣。極限まで薄くなった刃は非常に脆く直接切りつけるとすぐに刃こぼれしてしまうが、その薄さから実体のないモノを切るのに適している。不死切りの効果が付与されている。最近の平均取引価格は銀貨30枚、最安値銀貨17枚、最高値銀貨45枚、最終取引日は41日前と記録されています。』
『魂寄せの笛。物悲しい笛の音は体を持たない者たちを呼び寄せる効果がある。その音色は生なる者には聞こえず、そうでない者にのみ届くだろう。最近の平均取引価格は銀貨7枚、最安値銀貨5枚、最高値銀貨11枚、最終取引日は88日前と記録されています。』
『器用さの指輪。装備すると手先が器用になり細かな作業が出来るようになる。最近の平均取引価格は銀貨50枚、最安値銀貨35枚、最高値は金貨1枚、最終取引日は16日前と記録されています』
どれも中々の品ばかり。
とはいえ癖は強いからまともに売れるのは指輪ぐらいなものだろう。
前までならとりあえず全部買い付けるところだが、今回はそこまでの余裕はないわけで。
「どうですか?」
「どれもまずまずって感じだが、価値があるのは指輪だけだな。こっちの風切りの短剣は実践向きじゃないし、この魂寄せの笛は宜しくない連中を呼び寄せるみたいだ。器用さの指輪は実用性があるし需要も高そうだな。短剣が銀貨10枚笛は銀貨3枚、指輪が銀貨30枚と言いたいところだかおまけして全部で銀貨50枚ってところだろう。」
「な?他の店より高値で買ってくれるだろ?」
「なんだ他所にもっていった後なのか?」
「行きつけの店にもっていったんですけど全部で銀貨40枚だったんです。さすがシロウさん、俺達の味方ですね!」
別に味方になりたいわけではないんだが、どうやら王都の買取屋はなかなかシビアな店が多いようだ。
でもまぁ安く仕入れて高く売るのが商売だからその辺は致し方ないところはあるだろう。
俺には相場スキルがあるからいい感じの価格を狙い撃ちできるものの、普通はそうじゃないもんなぁ。
利益が出るかわからずさらにはいつ売れるかもわからないともなれば安くするしかないわけで。
「どうする?俺が買い取っていいのか?」
「なぁ、買取に出していいかな。」
「他所より高いんだしいいんじゃない?」
「その方が分け前が増えるんだし文句はないぜ。」
「ってことでお願いします!」
交渉成立。
とはいえそこまでの現金を持ち歩いていないので、ここで待ってもらって一度屋敷にとりに戻ることになった。
どんなやり方であれ金儲けは金儲け、しかしながら直接冒険者から品物を買い付ける買取屋は俺の性に合っている気がするなぁ。
小走りで屋敷との間を往復して代金を支払って品物を回収。
これだよこれ、やっぱりこの達成感が違うんだよなぁ。
気持ちのいい達成感を感じながら屋敷に戻るとなぜかジンがエントランスで仁王立ちしていた。
「どうしたんだ?」
「その買い取った品、どうするおつもりで?」
「どうするって買い取ったなら売るしかないだろ。」
「ではどこで?露店に出すのですか?」
「向こうでもそうやってたしそうなるだろう。指輪に関しては別に声をかけるつもりだが、短剣と笛は他の品と一緒に出すつもりだ。」
器用さの指輪は欲しがる人が多い。
特に職人関係では引く手あまただろうから、まずは宝飾ギルドに声をかけて買い取り手を探すつもりだ。
羊男じゃないけれど公平性ってのは大事だからな。
しかしなんでまたこいつは仁王立ちで俺を待っていたんだろうか。
「それがどうかしたのか?」
「いえ、主殿がどのようにしてそれらを売るのか非常に興味がございまして。」
「露店で売っている所は何度も見ていると思うが?」
「それはそれ、これはこれ。あれらは明確に売る相手が決まっていましたがこれらは特定の方が買うようなものではございません。買い付けたからには売らねば利益は出ませんから、欲深き主殿がどのように利を得るのか非常に興味がございます。」
「つまりどう売るのか見てみたいって事か?」
「おっしゃる通りです。」
うーむ、別にそれは構わないんだが何か面白いことがあるんだろうか。
これと言って変わったことをしているつもりはないのだが、本人が見たいっていうのならば何も言うまい。
まだ夕方まで時間があったので、作っておいた干し肉と前に露店で買い付けた品を手に市場へと戻る。
春が近いとはいえ夕方が近くなると寒くなってくる。
寒くなれば客も減る。
そんな状態で客が来るのかと言われれば、来るんだなぁこれが。
客寄せをするわけでもなく店の前に商品を並べて道行く人を静かに見守る。
並べたのは持ってきた干し肉と、先ほど買い取った短剣と笛。
それとコツコツ買い付けてきた金になりそうな雑貨達。
一見すると雑多な感じに並べられているが、その方が何が置いているのかと足を止めてくれる可能性が高くなる。
その証拠に干し肉目当てと思われる冒険者がぴたりと足を止めた。
「いらっしゃい、明日からの冒険に干し肉はどうだ?一つ銅貨8枚、三枚で銅貨20枚。しっかり乾燥させてるから日持ちはするぞ。」
「銅貨20枚、安いな。」
「どこに行くんだ?」
「ダンジョンにな。アンデットが増えたっていうから駆除しに行くんだ。」
まずは天気の話を振るような感じで、冒険者から情報を聞き出す。
背中にぶら下げた大剣から察するに思いっきり振り回して戦うソロタイプだろう。
もちろん仲間はいる可能性もあるが干し肉を三つも買うのはおそらく違うはずだ。
「最近多いな。」
「あぁ。グールやスケルトンならどうとでもなるが、ゴースト系が面倒で仕方がない。聖水をかければどうにでもなるがあれも結構するからな。」
「とはいえ属性武器はもっと高いしなぁ。」
「よくわかってるじゃないか。その為だけに武器を買いなおすのもあれだし、後で聖水も買っておかないと。」
「それなんだが、面白いものがあるんだ見ていかないか?」
「面白いもの?」
よし、食いついた。
この駆け引きが面白いんだ。
見た感じ中級冒険者異常なのは間違いないし、ソロなら金もそれなりに持っているだろう。
ケチなように見えて案外必要なものにはポンと金を出すタイプってのが俺の見立て。
もちろん食いついたからと言って売れるとは限らないが、そこは腕の見せ所。
後ろに控えるジンからなぜかプレッシャーを感じながら次のカードをどう出すか考える。
「この短剣なんだが実体のない魔物を切るのに特化したものになっている。で、こっちの笛はそんな魔物を引き寄せるのに使う。その得物に比べると小さくて使いづらいかもしれないが、最初にこの笛を使って実体のないものを呼び寄せておけば戦うのも楽になるだろう。もちろん聖水を使うのも手だが、毎回使うとなるとそれなりの金額になるだろ?」
「確かに面白いが、そういったものは大抵高いと相場は決まってるだろ。」
「まぁな。」
「が、ゴースト系に対する対策は前々から考えていたところだ。いくらする?」
「本来なら銀貨20枚はするんだが、今後もうちで干し肉を買ってくれるなら銀貨10枚でいいぞ。」
この二つの買取価格は銀貨13枚。
しかしながら利益は器用さの指輪の方で回収するつもりなのでこれはあくまでもオマケだ。
「もう二度とここで買わないかもしれないぞ?」
「その時はその時だ。だがその黒光りする大剣、確か最近噂になってる中級冒険者だよな?一匹狼でどんな魔物も切り倒すっていう。違うか?」
「もしそうだとしたら?」
「そいつは王都を中心に活動しているらしい。護衛任務も受けず短期間で回れる依頼ばかりを受けている事から察するに出て行けない理由があるんだろう。それなら毎回利用してもらえる可能性が高い。それにだ、噂になるような冒険者に恩を売る機会なんてそうそうないだろうし、俺は買取屋もやってるから素材をも含めて色々と買い取りさせてもらえれば十分回収できると考えている。まぁそういう打算で動いているから遠慮なく買ってくれ。」
冒険者ギルドに通っていたのは依頼を受ける為だけじゃない。
どんな冒険者が活躍しているのか、中級から上級冒険者の情報を集める事でこういった機会に生かせるからだ。
買取屋を始めると絶対になる情報だけに色々と準備をしていたのだが、まさかこんなにすぐ使う機会が来るとは思っていなかった。
もちろんそれが実を結ぶかはまだわからないが、今の感じだとうまくいく気はする。
「グレイウルフを従えた新人がいるっていう話は聞いていたが、それはお前か?」
「従えているわけじゃない、俺の嫁だ。」
「そりゃ失礼した。」
頭のおかしいやつと思われるかもしれないがまぎれもない事実なので、それをごまかす必要はない。
そんな俺の反応にも彼は嫌がる顔もせず、むしろ真剣な目でこちらを見て来た。
「確かに王都を離れられない理由がある。その為にも金を稼がないといけないんだが、あんたが買取屋だって言うのなら普通よりも高く買ってくれるのを条件にそれを買ってやろうじゃないか。」
「あー、誤解しないでほしいんだが別に高く買うつもりはない。あくまでも相場次第だ。俺が高く売れると思ったら高くするし安いと思ったら安くする。その辺の線引きはしっかりさせてもらうが、干し肉の品質は落とさないから安心して買ってくれ。」
「面白いやつだな。」
「元は商売人なんでね、そこを妥協するつもりはない。もし合わないと思うならこの話は無かったことにしてくれ。」
「いや、その手の武器を欲していたのは事実だ。俺はクーガー、あんたは?」
「シロウだ。」
彼がまっすぐに手を伸ばしてきたので、その手をしっかりと握り返す。
俺は欲深い男なんでね、ただ売るだけじゃ満足しないんだ。
損して得取れというやつで今は損をしているけれど、今後大きなプラスになって戻ってくることはな違いないだろう。
王都でもこういう馴染みの冒険者を作っていけば買取屋としても十分やっていけるはず。
いつの間にか後ろから感じるプレッシャーも小さくなっていた。
ジンがどんな顔をしているのか推測できるのであえて後ろを振り返らず彼に商品を手渡す。
やっぱり買取は楽しいなぁ、そう改めて感じる一日となった。




