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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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118.転売屋は売るのを拒む

ルティエに頼んだアクセサリーは少しずつ形になっているそうだ。


可愛いのに本物の宝石を使っていてしかも属性の加護まで得られるとあって、冒険者の中ではかなりの噂になっているらしい。


面白いのは女性だけでなく男性も興味を示しているところだ。


まぁ、少しでも身を助けるなら見た目など気にしないってのもあるかもしれないが、ブレスレットやアンクレットのような形であれば男性がつけても問題ない。


なのでルティエが裏通りの他の職人にも声をかけて分業制で作成しているとか。


なんだ、俺が入らなくてももう立派に商売できるじゃないか。


「シロウ花が咲いたわよ!」


「ってことはそろそろ実がつくな。」


「楽しみだね。」


土いじりも少しずつ形になってきており、とうとう芋畑に花が咲いた。


後は実が大きくなるように手を加えるだけだ。


しっかし、なんでもあるなあの図書館。


土いじりの本だけでも山のように出てきた。


おかげで初めてながら順調に生育している。


ありがたい話だ。


「今まではただ何となく生きてきたけど、こうやって目標があるのっていいよね。」


「主に食べる目標だがな。」


「それでいいの。私にとっては帰る場所もできたし。」


「宿ほったらかして入り浸ってるよな。」


「もー!いいでしょ!」


ポカポカと横にいる俺を殴ってくる。


暴力反対。


冒険者が一般人殴るなよ。


まったく、これだから脳筋は。


「シロウ様お客様が参られました。」


「ん?客?」


俺の知り合いなら名前で呼ぶはずだがどうやら違うらしい。


水場で手を洗ってから急ぎ店に行くと年配の女性が椅子に座っていた。


見た感じ60代後半って感じだ。


でもよぼよぼじゃなくシャキシャキしてるタイプだな。


「お待たせしました、店主のシロウです。」


「・・・・・・。」


挨拶をするもジロリと俺を一瞥するだけで返事すらしない。


下手に出たのに返事をしないとはいい度胸だ。


それならそれで俺にも考えがある。


「婆さんいったい何の用だ?買取なら商品を見せてくれないか。」


「なんだい、口の利き方も知らないガキだね。」


「最初は丁寧に話しただろ?それで返事をしなかったのはそっちだ。」


「おやまぁ、あれで丁寧なのかい。気づかなかったよ。」


「育ちが悪いものでね、用があるならさっさと言ってくれ。俺も忙しいんだ。」


「土いじりが忙しい理由になるのかい?」


「食い物を雑に扱うと罰が当たるって言われなかったのか?」


売り言葉に買い言葉。


後ろで話を聞いていたミラが何となくオロオロしている気がするが、今目線をそらすと負けな気がする。


いや、負ける。


お互いにジーっとにらみ合う事数分。


急に婆さんの目が優しくなった。


「なんだ、追い出すのかと思ったらそうでもないんだね。」


「口は悪そうだが客は客だ、それに年長者は敬えって一応教えられているからな。年寄りには優しくするさ。」


「いい心がけだね。」


「で、そろそろ要件を聞かせてくれないか。」


「せっかちなのは女に嫌われるよ。」


「あいにく女には困ってないんだ。」


「こんな美人の奥さん・・・いや奴隷だね。これだから男は。」


まぁ男が奴隷を買ってたらそんな目で見られるのは良くある話だが、うちでそれをやると・・・。


「失礼ながら奥様、シロウ様は私の為を思って奴隷の私を買って下さったのです。理由もわからず批判するのはおやめください。」


「なんだい、偉そうに。」


「事実を述べているだけです。奴隷になった女が全員不幸になるという思い込みは止めて頂けますでしょうか。」


「じゃあアンタは幸せなのかい?」


「はい、シロウ様の奴隷になれたこと以上の幸せなどあるはずがありません。」


そろそろ勘弁してくれ、恥ずかしくて死にそうだ。


至って真面目にこれをやってくれるものだから毎回俺のメンタルがやられていく。


本人に悪気は全くないんだよなぁ。


「ふん、そういう事にしておいてやるよ。」


「話は済んだか?」


「ご理解いただけたようです。」


「そりゃなによりだ。」


「今日来たのは他でもない、あんたが持ってる鉱蟲の死骸を譲ってほしいのさ。」


「・・・。」


今度は俺が無言になった。


何故俺が持っていると知ってるんだ?


あの時教えたのはエリザだけ。


しかも自分を喜ばせようと嘘を言ったと誤解しているぐらいで、今では忘れてしまっているはずだ。


あの後金庫に閉まったままでどこにも出していないはずなんだが。


「何で知ってるのかって顔してるね。私にはね、わかるんだよ。」


「なにがだ?」


「死骸が呼ぶのさ、ここにいるから助けてくれってね。」


「助けるってどうするんだ?」


「新しい命を吹き込んでやるんだ。アンタが持っているのはただの入れ物、その証拠に全く光ってないだろう?」


その通りだ。


エリザの話では高濃度の魔石でものすごい価値があると聞いていた。


だが実際は黒く光るだけで輝きはほとんどない。


魔石だしそんなもんかと思っていたんだが、まさか違うのか?


「つまり婆さんが命を吹き込めば光り輝くってわけだな。」


「そうさ、世界でも私しかできないとっておきの魔法だ。どうだい?売る気になったかい?」


「いや、余計に売りたくなくなった。」


「私が命を吹き込まなきゃずっとそのままだよ?」


「そもそも売った時点で俺の手から離れるだろ?その後光り輝こうが俺がそれを見ることは叶わない。だからお断りだ。」


「金貨100枚出そう。」


「断る。」


「150枚でどうだい?」


「金の問題じゃない。あれは俺が見つけた俺のものだ、あのままでも十分さ。」


偶然見つけたとはいえエリザが連れて行ってくれなかったら手に入らなかったものだ。


あそこに行くと永遠に結ばれるだっけか?


アイツはそれを信じて俺を連れて行ったんだ、その時に見つけた宝物をはいそうですかと売れるわけがない。


金になれば何でもいいってわけじゃないんだよ。


「強情な男だね。」


「金の問題じゃないんだ。」


「今までの持ち主は皆すぐ売ったものだけどね。」


「他人はそうかもしれないが俺は違う。生憎金にはそんなに困ってなくてね、欲しければ自分で稼ぐさ。」


「どうしても売らないんだね?」


「あぁ。だがどうしても助けたいというのなら話は別だ、俺が金を払うから命を吹き込んでやってくれないか?」


俺自身あの死骸が黒いままなのは納得してないんだ。


もっと光り輝く凄い代物だと思っている。


あの時の光は本当に綺麗だった。


またあの輝きを取り戻すなら金を払うのは惜しくない。


「アンタが金を?」


「そうさ、婆さんが買い取って命を吹き込むのも金を払って吹き込んでもらうのも結果は同じだろ。事実誰にも言ってないのに婆さんはここに来た、助けてって声が聞こえたのもあながち間違いじゃないんだろう。」


「仮に命を吹き込んだとしてどうするんだい?」


「そうだなぁ、金を払った分は楽しませてもらうさ。話では凄い綺麗っていうじゃないか、その輝きを見てみたくてね。」


「それで金を払うのかい。言っとくけど安くないよ?」


「で、いくらでやってくれるんだ?」


「金貨150枚。」


「わかったすぐ持ってこよう。」


すぐに立ち上がり店の裏に行こうとする。


ミラが凄い顔で俺を見ているが気にしない。


「待ちな。」


と、戻ろうとしたところで婆さんが俺を引き留めた。


「値上げは勘弁してくれよ。」


「なんでそこまでこだわるんだい?」


「あれはただの死骸じゃない。あの場に連れて行ってくれた俺の女との記念の品なんだ。そいつに本当の輝きを見せてやりたいんだよ。」


「なんだまだ女がいるのかい。」


「ちなみに上にももう一人いるぞ、奴隷だけどな。」


「これだから男ってやつは・・・。」


婆さんがまたやれやれと首を振る。


別にどう思われたってかまわない。


俺は俺だ。


「でもまぁ、そこまで言うのなら今回はあきらめよう。その子たちを輝かせたくなったらいつでも私を呼びな。」


「いや、呼びなってどこにいるんだよ。」


「その子が呼ぶから勝手に来るよ。邪魔したね。」


それだけ言うと婆さんは静かに店を出て行った。


一体何者だったんだろうか。


「何者だったんでしょうか。」


「さぁ。だが誰にも言っていなかった鉱蟲について知っていたのは間違いない。本当に呼ばれてきたんだろう。」


「この間手に入れられたんですね?」


「あぁ、本当に偶然だったけどな。」


「ズルいです。」


「は?」


「私も一緒に行けば手に入れられるかもしれません、シロウ様行きましょう。」


「いや、行きましょうって。」


急にどうしたんだ?


まさかエリザにやきもちを・・・。


慌ててミラの方を見ると頬を膨らませてこちらをみるミラと目が合った。


まったく、この女は。


「また来年な。」


「絶対ですよ?」


「あぁ、絶対だ。」


「二人っきりですからね。」


「もちろんだ。その代わりアネットとも行くからな。」


「それは致し方ありません。でも次は私とです。」


「わかったって。」


珍しくすねるミラも中々に可愛い。


まさかこんなことになるとは思わなかったが、鉱蟲の件はミラと俺との秘密だ。


売る時が来たらまた勝手にあの婆さんが来るだろう。


それまではまだ眠らせておく。


あれが必要になる時がいつかはまったくわからないけどな。


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