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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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1106.転売屋は雪ウサギを追いかける

『冬の最初に大雪が降ったからもう雪は降らない』


そんな都合のいい話があるわけもなく、草原は再び真っ白い雪に埋もれてしまった。


とはいえまた馬車が止まるような大雪ではなかったのでそこまで問題にはならなかったが、それでも雪かきは大変だし寒さも一段と厳しくなっている。


この冬はこんな感じで寒くなったりゆるんだりを繰り返すんだろうなぁ。


そんな事を考えながら、真っ白い草原をルフと共にスキー板を装着して移動する。


別に遊びに来たわけじゃない、これはれっきとした仕事だ。


『スノーラビット』


その名の通り雪のように白い毛皮をしたウサギなのだが、俺の世界にいたようなあんな小さなものではなく体長1mをこえるような超巨大な体をしている。


そいつは普段北方の山奥かもしくは雪原にしか姿を現さないのだが、この雪の影響かこんな下の方まで下りてきたやつがいるらしい。


最初は冒険者の見間違えかと思ったのだが、目撃証言がいくつも上がっているのでそういうわけではないのだろう。


雪のように白い毛皮はアルビノ種と同様に高く売れる。


しかもこっちは突然変異じゃなくてガチで白い毛皮なので、うまくいけば何匹か発見できるかもしれない。


買取価格はずばり金貨1枚。


一攫千金を狙って多くの冒険者がダンジョンではなくこの草原へと繰り出しているのだが、いまだ討伐されたという情報は入ってきていない。


雪ウサギはかなり警戒心が強いだけでなく魔力管理の能力も高いので、倒す方法は弓やスリングなどの遠距離攻撃に限定される。


そこで俺の出番というわけだ。


ルフの嗅覚と索敵能力に俺のドーピングスリングの腕があれば討伐も不可能じゃない。


というわけで、ルフとデートを兼ねた雪ウサギ討伐にやってきたわけだが・・・。


「どうだ、近くにいそうか?」


ブンブンブン。


雪原を滑りながら北に移動すること早数時間。


いまだ雪ウサギの気配はなく他の魔物に出くわすこともない。


一面真っ白い雪に覆われ、反射した光が俺の顔をじりじりと焼いていく。


念のためにスキーゴーグルのようなサングラスをつけてきたのだが正解だったな。


アーロイには無茶を言って特急で仕上げてもらったのだが、そのおかげでこの白い世界の中でもわずかな濃淡を見逃さなくて済む。


これがなかったら一時間ぐらいで目をやられて街に引き返していたことだろう。


「そうか、いないか。」


「わふ。」


「大丈夫だ、雪の中を歩くんじゃないからそこまで疲れていない。とはえ野宿は避けたいところだ。」


一応最悪の状況を想定して極寒仕様の天幕や寝袋は用意してきたのだが、出来るなら使う前に獲物を確保して引き上げたい。


冬の昼間は短いからな、もう少し進んでいなかったら引き返した方がいいだろう。


ルフの頭をポンポンとたたき大丈夫だと伝えて再び雪原の上を滑りながら進む。


それから休憩をはさみつつ一時間程。


そろそろ引き返すかと思ったその時だった。


ピンと耳を立ててルフがその場に身を伏せたので俺も慌てて雪の上に体を倒す。


こんな雪原じゃ俺みたいなでかい奴は目立ってしまって仕方がない。


少々冷たいがこれも金儲けの為だ。


「いたか。」


返事の代わりに尻尾がパタパタと二回振られる。


ルフは全神経を前方に向けて情報を集めようとしていた。


その邪魔をしないように出来るだけ音をたてないようにして倒れたままスリングの準備を始める。


恰好はちょうどプランクをするような感じ、腕を何度も上下させて手元の雪を固めるような感じで射撃体勢を整えていく。


使うのは消音性に優れたアサシンシードの種。


流線型をした種の表面はつるつるとしており出来るだけ空気抵抗がないようになっている。


これならば着弾するまで音をほとんど出さずに狙うことができるだろう。


うつぶせの体勢は中々にしんどいが、少し掠る程度でもダメージを与えればあとはルフが追い詰めてくれるはずだ。


俺の視界にはまだ獲物は見えていないのだが、ルフがそこにいるというのであれば間違いはないんだろう。


種をつがえたまま待つこと数分。


真っ白い雪原の一か所がわずかに動いたように見えた。


そこからは時間の勝負。


向こうが気付く前にいっぱいまでスリングを引き、ここだという場所に種を飛ばす。


力いっぱい引っ張られたスリングは目にもとまらぬ速さで元の状態に戻りつつ弾を前に押し出した。


「ピィ!」


「ルフ!」


前方からかすかに聞こえた可愛らしい悲鳴と共に、俺が呼びかけるよりも早くルフが駆けだしていた。


急いで立ち上がると一気に視界が開け、遥か前方を灰色の弾丸が飛んでいくように見える。


その行く道を示すように鮮血が奥へ奥へと続いていた。


一撃で仕留めることはできなかったようだが、予定通りダメージを与えることはできたようだ。


急いで板を装着しなおし、ルフの後追いかける。


どこまでも続く鮮血と足跡を追いかける事10分程、真っ白い雪原に突如血の海が広がっていた。


「さすがだな、ルフ。」


「わふ!」


口元を真っ赤にして笑顔を見せるルフ。


その足元には巨大なウサギがゴロンと鎮座していた。


息の根はもう止まっているんだろう、ピクリとも動かないその巨大なウサギの耳をつかんで頭を持ち上げてみると耳の先端部分に不自然な穴が開いているのがわかった。


あそこに弾が当たったって事だろうか。


とにもかくにも金貨1枚ゲットだぜ、ってね。


「とりあえず毛皮をはぐから少し待ってくれ。それが終わったら肉の分解、この大きさならそれなりに可食部はあるだろうから一番おいしい所はルフにやろう。」


ブンブン。


これでもかという感じで尻尾が力強く二度振られるのをみて思わず笑ってしまった。


この世界にきてからというものなんだかんだと魔物の解体を行う機会があったので、初見ではあるもののあまり苦労することなく毛皮と肉を分離することに成功。


ついでに肉もいい感じの大きさに加工して持ち帰れるようにしておいた。


それでもそれなりに時間がかかってしまい、気づけば太陽が地平線に消えるのは時間の問題という状況だった。


「うーむ、こりゃここで野宿しかないか。」


「わふぅ?」


「大丈夫だって、準備はしてきたし火でも起こせばバーンが見つけてくれるかもしれない。お前と一緒なら怖いものなんてないさ。」


心配そうな顔をするルフの頭を撫で、その場に荷物を降ろして中から必要な道具を取り出して雪の上に並べていく。


まずは雪の除去。


そのまま設営する方法もあるのだが、それだと不安定な上に風の影響をもろに受けてしまうのでまずは地面が見えるぐらいに雪を掘り、更にはそれを壁のように積み上げる事で雪原を駆け抜ける風を防げるはずだ。


汗だくになりながらなんとか穴を掘って雪を積み上げることに成功。


続いて天幕を設置して、入り口付近には火の魔道具を設置して簡易コンロを作っておいた。


一緒に持ってきた冒険者道具の一つ、焚火台がこんなところで役に立つとは思わなかったが地面が濡れていても使えるっていうのはかなりポイントが高いな。


問題は薪が手に入らないというところだが、代わりにシュウが作った炭を持ってきているので調理も問題なし。


まぁ、調理って言ってもさっき手に入れたウサギ肉を塩とぺパペッパーで味付けして焼くだけだけどな。


後は天幕内に寝袋を設置すれば準備完了っと。


さすがにこのままルフを外で寝かせるわけにはいかないので天幕の中に迎え入れて天幕の先から顔だけ出すような感じで暗くなっていく空を眺める。


「お、流れ星。」


右から左に素早く星が移動して静かに消えていく。


こんなにたくさんの星を見る機会なんて元の世界ではほとんどなかったし、何よりこんな風に星空を見続ける余裕すらなかった。


それが今ではこんな時間も作れるようになって・・・。


「いや、こんなにゆったりとした時間を過ごすのも久々か。」


冬になってからは特に時間の流れが速くてあっという間に時間が過ぎていたように感じる。


極めつけがこの間の小麦転売。


ほんの短い時間ではあったのだが、あの後どっと疲れて倒れこむようにして眠ってしまったんだよなぁ。


久方ぶりにまともにやり合って性も根も尽き果てったっていう感じだ。


あぁいうのはできればもうやりたくないんだが、そういうわけにはいかない気もする。


「ルフ、焼けたぞ。」


「わふ。」


「熱いから火傷しないようにな。」


ルフは別に生肉でもいいんだが、折角食べるなら一緒の奴がいいだろう。


もちろん味付けしてない奴だけど。


二人で食事をしながら、真っ黒な夜空を静かに眺める。


何もしない時間。


いつもなら子供達を風呂に入れたり今日あったことの報告を受けたりと夜は夜で忙しいのだが、そういうのも一切ない本当に自由で静かな時間。


こんな贅沢に時間を使えるなんて、こんなことができるのも生活に困らないだけの金があるからこそ。


まぁ、その為の金もうけをしにここまで来たわけなんだけど・・・。


「この肉美味いな、これなら明日はもう一匹ぐらい捕まえたい所だ。」


ブンブン。


天幕の中でルフの尻尾が降られたのがなんとなくわかる。


顔は見えないが美味しそうに肉を頂いているんだろう。


顔は冷たいが、足元は毛布とルフの体温でぬくぬくだ。


「毛皮もそのままブレラに流すのもいいけど、折角なら何か作りたいよな。金貨1枚分の毛皮で何を作るんだって話にもなるんだが・・・何がいいと思う?」


もちろん返事が返ってくるわけではないのだけど、なんの違和感もなくルフに尋ねる。


まじめな彼女のことだ、きっと色々と考えた上で返事をくれるに違いない。


「わふぅ?」


「だよなぁ、それがいいよなぁ。」


そんなやり取りを重ねながらも冬の夜は更けていく。


持ち込んだ炭がなくなるまで、俺達は静かに話をつづけたのだった。


翌日。


バーンが迎えに来てくれるまでの間に追加で二匹仕留める事が出来た俺達はどや顔で街へと凱旋したのだった。

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