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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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1103.転売屋は小麦を転売する

厳しい寒さも慣れてしまうと多少はましになるのだろうか。


カイロ袋にしっかりと焔の石を入れて、比較的風の弱い昼間に市場を見てまわる。


一時よりも店の数は少なくなったが、心なしか住民の出す店が増えているような気がする。


年納めの大掃除っていうには少し早いか。


不用品を販売しつつ小銭を稼ごうなんて感じの店もちらほらあるように思える。


そういった店にこそ掘り出し物があるのだが、蚤の市とかチャリティーオークションなんかでそういったものは大方吐き出してしまったんだろう。


あまりめぼしいものを見つける事はできなかった。


こういう事ならリーシャに手伝ってもらえばよかったと思いながらも、彼女は今保育園に行っている。


ミミィがいるので別に行かせる必要もないのだが、同年代の子供と触れ合う機会というのはそうあるものでもない。


そういう環境でこそ手に入れる事の出来る感覚もあるわけだし、外の世界に触れるという意味で週に何度かは通わせることになったわけだ。


初日は不安そうな顔をしていたものの、保育士代わりの奥様方が非常に優秀なようで翌日からは自分で行きたいようなそぶりさえ見せていた。


こちらとしても保育園に行った日は比較的自由が利く上にその日はよく寝てくれるので色々とメリットもある。


今頃ハーシェさんはのんびりと自分の仕事に打ち込んでいることだろう。


「さて、そろそろ屋敷に戻るか・・・。」


「失礼、そちらにおられるのはシロウ名誉男爵でしょうか?」


突然見知らぬ声が俺を呼び止める。


声の感じから察するに俺と同い年かそれよりも上か?


もっとも同じと言っても元の世界の話だが。


ゆっくりと後ろを振り返るとそこにいたのはすらりとした長身長のイケメン。


柔らかな笑みを浮かべる姿に、近くを通る女性が見とれてしまうほどだ。


俺が女ならときめいていたかどうかはわからないが、こんなイケメンが俺にいったい何の用だろうか。


「いかにも俺がシロウだが、何か用か?」


「私はメルケンと言いまして細々と商売を営んでおります。この度シロウ様が小麦を大量に所有しているというお話を聞きまして、是非お譲りいただけないかと参上いたしました。今お時間よろしいでしょうか。」


「その話をどこで?」


「近隣の街に立ち寄った際にお名前がよく出ておりましたので。」


そろそろ来るかなと思っていたが思ったよりも早い到着だったな。


今回俺が小麦を買い集めたのはまさに彼のような相手を目の前に引っ張り出す為。


折角売るのならただ売るだけでなく、俺が小麦を買い集めたことを知りそれを手に入れるべく画策するような相手に売りつけたいと思っていた。


態々俺を選ぶって事は別に何か理由があるという事。


それを探るべく相手を目の前に呼び出したわけだが・・・とりあえず第一段階は成功ってところか。


「ま、この街じゃ誰でも知っている話だ。いいだろう立ち話もなんだし後で屋敷まで来てくれ。」


「ありがとうございます、後ほどお伺いさせていただきます。」


深々と腰を90度近くにまで曲げてお辞儀をするイケメン。


この世界でここまで深いお辞儀を見たことは数えるほどしかない。


お辞儀は素晴らしいが下手にへりくだるような感じでもないし、見た目以上の曲者なんだろうなぁ。


そんな相手とやり合うのならこっちも然るべき準備をしなければならないわけで。


急ぎ屋敷に戻り懐刀であるミラに事情を説明して同席してもらうことにした。


待つこと30分程、今度は屋敷の応接室で再び相対する。


「この度は突然のお話にかかわらず快くうけてくださりありがとうございました。」


「なに、金になるのであればこちらとしてはありがたい話だ。メルケンさんだったな。」


「早速覚えていただきありがとうございます。」


ソファーに腰かけ向かい合う俺とイケメン。


ミラは特に表情を変えることなく静かに横に座ったままだ。


見とれているかどうかは真横の為確認できないが、彼女が俺以外の男に見とれる事はないといううぬぼれはある。


まぁ、それはいいとしてまずはジャブから行こうじゃないか。


「小麦を買いたいということだが、なんでわざわざ俺みたいな相手から買うんだ?港町に行けばいくらでも手に入るだろ。」


「もちろんそちらにも足を運びましたが残念ながら出荷先が決まっている物ばかりでして。まだ取引ができる相手を探してこのあたりを探していたのです。」


「で、俺が買い付けたっていう話を聞いたわけだ。だがなんでそこまでして小麦を買い集める必要がある?今年は豊作だったしそんなに焦る必要もないだろう。」


「西方国が我が国に宣戦布告をしたのはもちろんご存じかと思います。そしてそれを受けてシロウ様も小麦を買い集めていたのではないでしょうか。」


「あくまでも開戦しそうだという噂は聞いていたが、そうか宣戦布告されたのか。」


「おや、ご存じありませんでしたか?」


もちろんご存じだったとも。


あたかも知りませんでした的な顔で返事をしてみたのだが、そんな俺の作戦はお見通しとばかりにニコニコとした表情を崩さない。


ジャブ程度じゃ全くダメージは与えられそうにないなぁ。


そんじゃま次に行きますか。


「横から失礼いたします。メルケン様は先日よりこの街で何度も小麦を買われておりますね。取引所を経由して金額にして金貨120枚ほど、それでもまだ足りないのでしょうか。」


「貴女は?」


「妻のミラだ、俺の右腕として商売全般に携わってもらっている。悪いがそっちのことはこちらも調べさせてもらっているんだ。夏の半ばから時間をかけて小麦を買い続けているようだな。小麦だけじゃない、芋・塩・砂糖等生活に必要な物をかなりの量買い付けている。それは間違いないな?」


突然横からストレートが飛んできたもんだから、さすがのイケメンも動揺を隠せなかったようだ。


もちろん一瞬ではあったが確かな手ごたえがあった。


前に食料品の高騰に気付いた時にミラに頼んで誰が買い付けているのか調べてもらっていたのだが、その中に彼の名前が多数残されていた。


決して買い占めるわけでもなく、でも確実に一定の価格以下の物を仕入れていく。


そうしてじりじりと物価が上昇して今に至るというわけだ。


いくら西方国方面の情勢が不安定だって言っても戦争が始まったわけではない。


にもかかわらずこんなに離れた場所の物価が上がるのは正直不自然なんだよなぁ。


急ぎナミル女史にも調べてもらったのだが、向こうはそこまで値段が上がっていなかったらしい。


つまりそこで仕入れれば安く手に入るにもかかわらず、わざわざ値段の高いこの街で仕入れをしていたというわけだ。


それはなぜか。


色々と考えられるのだが、それは本人に聞くのが一番だろう。


「間違いありません。」


「否定しないのか。」


「事実ですので。それに安く仕入れて高く売るのは私どもの商売ではごく普通のことではありませんか?」


「その通りだ。だからそのことについては何も咎めようとかは思っていない。あくまでも事実を確認したかっただけだ。」


「まだ必要なのかという事でしたらもちろん必要だと答えます。西方国との戦争が始まった以上在庫はいくらあってもこまりません。いかがでしょう、シロウ様の買い付けられた小麦を金貨120枚でお売りいただけませんでしょうか。」


今回俺が仕入れた小麦は全部で金貨87枚分。


それでも通年の相場に比べれば十分に高いのだが、それにさらに上乗せして買おうといっている。


普通で行けば願ってもない取引ではあるのだが、ここでそれを承諾したらわざわざここに読んだ意味がないよなぁ。


「失礼します、香茶をお持ちしました。」


「お、ちょうど喉が渇いていたところだ。最近南方に足を運んだ時に珍しい茶葉を見つけたんでね、よかったら飲んでみてくれ。」


俺の回答を待っているタイミングでの休憩。


もちろんこれも俺の作戦だ。


いつもはグレイスが香茶を運んできてくれるのだが、今日はセラフィムさんがカートを押して中に入ってくる。


イケメンの顔を見るわけでもなく、淡々と香茶の入ったカップをそれぞれの前に並べていく。


その横にはこの間買い付けた砂糖、そしてこの間のスコーンとジャムも一緒に添えられている。


「シロウ様、少しよろしいでしょうか。」


「なんだ?」


「ガレイ船長より王都行の荷物について問い合わせがございました。いつもの物に加えて今回は砂糖を追加するので間違いありませんね?」


「あぁ、在庫は全部持って行ってくれ。」


「かしこまりました、至急準備に入ります。」


わざとイケメンに聞こえるように指示を出し、それを受けたセラフィムさんが足早に応接室を出ていく。


ミラはというとカップを手に静かに香茶を楽しんでいるようだ。


「王都とも取引を?」


「あぁ、懇意にしている船長がいてな魔導船を使って物を運ぶようになってから随分と仕事が楽になった。今回は買い付けた砂糖と岩塩、それと街で仕入れた素材を送るつもりでいる。」


「手広くされているんですね。」


「俺みたいな成り上がりはどうしても白い目で見られるからな、実績と金を積んでいくしかないんだ。だから申し訳ないがその値段じゃ俺の小麦は売れない。」


「まだ安いと?」


「そりゃ安いだろ。戦争が始まったとなれば戦地に物資を送る王都周辺での値上がりは必至、そこに送る術を持つ者としてはいくらでも高く売ることができる。みすみす安い値段で売るぐらいなら向こうに送って高く売るのが普通だろ?」


買いたいならもっと高い金を出せとゆすりをかける。


高く売る術を持っているのだからさっさと帰れということは簡単だ。


だがあえてそれをせずに交渉のテーブルに着き続ける事で、向こうに選択肢を与えてやるわけだ。


このまま引き下がるのか、それとも高い金を出してまで俺から小麦を回収するのか。


何かしらの理由があってこの街の食物価格を釣り上げているのは間違いない。


それがどういう理由なのかはこの場ではわからないかもしれないけれど、向こうの本気度は確認できる。


俺を狙っているのか、それとも街を狙っているのか。


ただ小麦を転売するだけで満足すると思っているのなら、俺も甘く見られたもんだなぁ。

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