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【祝!2200万アクセス突破!】転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す  作者: エルリア


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1060.転売屋は歯を磨く

「アナタ・・・あ、ごめんなさいお邪魔でしたね。」


「ん、ひょっひょまっふぇふへ。」


夕食後。


自室に戻りいつものように歯を磨いているとハーシェさんが部屋に入って来た。


反応から察するに急ぎでは無いようなのでそのまましっかりと磨いてから口をゆすぐ。


「悪い待たせた。」


「いつも念入りにされていますね。」


「そりゃな、あんな痛みもう二度とご免だ。」


この世界に来てから一度虫歯になった事があるのだが、その時の治療?があまりにも壮絶で二度と経験したくないので、あれ以降はどれだけ疲れていても歯磨きをしてから寝るようにしている。


あれ以降、意識を失うとかそんな事が無い限りはたとえ出先でも忘れない日課だ。


マジであの恐怖は二度と味わいたくない。


「綺麗好きなのは良い事だと思います。リーシャもアナタを見習ってくれればいいんですけど。」


「いつも逃げ回っているな。」


「押さえられるのがイヤみたいで。」


「その辺は根気強くやっていくしかないだろう。俺が見本になれるように頑張るさ。」


「宜しくお願いしますね。」


子供の歯磨き嫌いはどこの世界でも同じ事。


子供の歯は生え変わるので虫歯になってもいいじゃないかなんていう人もいるが、あの痛みを子供に味わわせるなんて考えられない。


アレは治療じゃない、拷問だ。


思い出すだけで背中に寒気が走る。


「それで、こんな時間にどうしたんだ?」


「北方からの仕入れなんですが少し意見が聞きたくて。」


「仕事熱心だな。」


「私達のお金ですから、しっかり増やさないと。」


「まるで俺を見ているようだ。」


夫婦は似るとよく言うけれど、ここまで似なくてもいいと思うぞ。


お金の怖さを知っているからこそそう思ってしまうんだろうが、十分な資金があるんだしそこまで貪欲にならなくても大丈夫なんだけどなぁ。


まぁ、ルーズよりもいいけどさ。


「ガムブランチ、面白いんじゃないか?」


「かなり大量に仕入れを行う必要はあるんですけど、その分単価が安いので売れればそれなりの儲けになると思うんです。」


「150本で銅貨10枚、資料に描かれた大きさから察するに、木箱いっぱいとなるとかなりの本数になるな。」


「今回はダンジョンを経由して運んでもらうことになりますので運ばれてくるのは頑張っても3万本ぐらいじゃないでしょうか。」


3万本と聞くとかなりの本数に思えてしまうが、仕入れ値だけで行けば銀貨20枚程度。


そんな格安で卸して向こうは大丈夫なんだろうか。


いくらダンジョンを経由するとはいえ、一本1gとしても30㎏もの重さになる。


輸送費だってそれなりにかかりそうなもんだけどなぁ。


「で、これがサンプルか。」


「はい。見た目の割にグニグニしていて折れないんです。」


「ふむ、細いけど刺さる感じはないのか。なるほどなるほど。」


『ガムブランチ。北方に自生するガムピーノの樹から採れる細い枝で、一本の樹から大量の枝を得ることが出来る。幹と同様に非常に弾力があり、見た目の鋭利さとは裏腹に触り心地が非常に良い。束ねて太くした後肩や腰などに押し当ててマッサージに使用されることが多い。最近の平均取引価格は銅貨1枚。最安値銅貨1枚、最高値銅貨3枚、最終取引日は本日と記録されています。』


長さは太さはそのまんま爪楊枝。


でも、材質はゴムというかシリコンというか少し細くなった先端部分を触っても刺さるような感覚は無い。


何処かで見たことがあるんだが、なんだったかな。


サンプルとして入っていたのは10本程。


前回食器を売りに来てくれたご夫婦からの紹介で、もし気に入ってくれたら他の物と一緒に持って来てくれるそうだ。


グニグニと触って遊んでいると、ふと歯と歯の隙間に何か詰まっているのを舌で感じた。


しっかり歯磨きしたつもりだったんだが、元の世界のように極細繊維で掻き出すような歯ブラシではなく布でこするような感じなのでどうしても残ってしまうんだよなぁ。


無意識に手が動き手に持っていたガムブランチを歯の隙間へ。


先端が尖っているので難なく歯の隙間に入り、更には柔らかいので歯茎を痛めるような痛みもない。


これは・・・歯間ブラシだ。


「アナタ?」


「これはいいな、歯茎を傷めずに歯の汚れを取れるぞ。」


「そういう使い方をする物なのでしょうか。」


「わからんが、俺の世界ではこういったものが結構売られてたな。歯の汚れは虫歯の原因になるしなにより口臭がきつくなる。若い時はそうでもなかったが、ある程度の年になったらマナーとして使うようになったもんだ。」


「つまり、そういうのを気にされる方々に売れる可能性があるわけですね。」


「あぁ、これは凄い利益を生み出すかもしれない。」


本人にはわからないが周りが迷惑していることが多いのが口臭。


俺も一応は気にしているのだが、女達が言わないだけでもしかしたら臭っているのかもしれない。


元の世界では歯間ブラシの他にもマウスウォッシュ的な物も使っていたのだが、こっちに来てからは口をゆすぐ程度に留まっている。


なんだろう、急に不安になって来たぞ。


「正直に言ってもらって構わないんだが、臭くないか?」


「ふふ、大丈夫ですよ。」


「本当か?遠慮しなくていいんだぞ。」


「正直商談の際に気になる方もいますが、アナタからはそんな感じはしません。お世辞じゃないですけど、心配なら皆さんに聞いて聞いてみますか?」


「こんな時間に口が臭いか聞いて回るのはさすがに気が引けるんだが。」


「そもそも臭くありませんけどね。」


ハーシェさんは忖度なくはっきりと答えてくれるので本当なんだろうけど、一度気になりだすと不安が大きくなってしまう。


ひとまず仕入れをするようにお願いして、ハーシェさんが出て行ったあと先程のブラシで全部綺麗にしたのは言うまでもない。


「なるほど、これは面白い物ですね。」


「どこに持ち込むか考えたんだが一番影響があるのはここだと思ったんだ。もちろん客に強制することはできないが、彼女たちに率先して使ってもらって少しずつ広げて行ってもいいかもしれない。」


翌日。


サンプルをいくつか拝借して最初に向かったのは龍宮館。


不特定多数の客と至近距離で接する仕事だからこそ、口臭に関しては人一倍敏感なはずだ。


もちろんこれを一回使ったから口臭が無くなるとは思っていないのだが、ここに通う冒険者が継続して使うようになることで彼女たちの負担が少しでも減るのではないと考えたわけだ。


「ぶっちゃけ、そういう苦情というか不評もあるんだろ?」


「もちろんありますとも。遠慮気味に指摘する娘もおりますが、大抵はお客が帰った後に文句を言っております。」


「まぁ本人には言えないよなぁ。」


彼女達もこれで食っているだけに客を減らす可能性のある事は中々しづらいだろう。


でも、それをすることによって自分の仕事がしやすくなるのならと考える娘もいるかもしれない。


その辺は本人の自主性に任せるしかないだろうが、この感じだとそれなりの需要はありそうだ。


「これを他のお店にも?」


「あぁ、サンプルが少ないから馴染みの飲食店を何件か。」


「それはいいですね、皆さん食事の後に来られますから。」


「因みに他の娼館に卸すのは構わないか?」


「避妊薬同様娘たち全員が喜ぶ話です、私達だけいい思いをするのは不和を産みます。」


「わかった。まだ現物は届いていないから届き次第っていう話になるがその時は宜しく頼む。」


今回持ち込んだ話は30本銅貨10枚。


今回の仕入れ本数で提供できるのは1000セットなのでこの値段で売れれば銀貨80枚も儲かることになる。


利益率8割、しかも消耗品なので好評なら定期的な仕入れも見込める。


娼館だけでなく飲食店での需要もありそうだし、何なら俺みたいに個人での利用も十分ある話だ。


一日一本使っても一か月銅貨10枚程度。


これぐらいの出費はこの街では安い部類に入るだけに、広まればかなりの利益が出る。


問題はそれだけの数を仕入れることが出来るかだ。


この辺は先方に連絡して追加分に関しては時間がかかってもいいから木箱での輸送をお願いしてもいいかもしれない。


北方からの陸路はかなりの時間がかかるが、王都を経由して海路を使ってもらえばある程度時間短縮できるだろう。


最悪港町に着いたら取りに行くという手もある。


これによって口臭だけでなく虫歯も減れば俺のように痛い思いをする人も減ってくる。


いや、その為にはまず歯磨きを徹底させるのが先決か?


後はどうやってそれを普及させるかだが・・・、ここにも新しい金儲けのネタがあるかもしれない。


竜宮館での商談を終え、大通りに出てから大きく息を吐く。


いやー、緊張した。


なんだろう、ローランド様とかレイブさんと話しているときと同じぐらい疲れるんだよなタトルさんと話していると。


決して高圧的でも下手に出ているわけでもない。


冷静で落ち着いている雰囲気を持っているのだが、その奥で何を考えているのかが一切読めないんだよなぁ。


レイラがいた時は色々と世話になったが、最近はあまり顔を合わせていなかっただけに余計緊張したのかもしれない。


そういえばレイラは元気しているだろうか。


王都に行くことがあれば様子を見に行ってもいいかもなぁ。


「さて、次の店に行くとするか。」


商談はまだ始まったばかり。


このネタが冬の儲けに繋がるようしっかりと宣伝していかなければ。


再び深呼吸をして新鮮な空気を取り込み、気合を入れなおすと次の店に向かうべく大通りを力強く進むのだった。

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