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第四回 冬

 二学期は色々な行事があった。


 クラス全員が一丸となって戦う体育大会では、僕はクラス対抗リレーの三走として出場。


 一走二走が頑張って一位になっていたにもかかわらず、僕の番で一気に追い抜かれてしまい、結果は最下位。苛めめられこそしなかったものの、周囲から冷たい視線を向けられた。


 続く学園祭では、合唱コンクール。そこでも、二年C組は下から二番目という振るわない結果だった。


 そんなパッとしない秋。

 しかし、僕は毎日楽しかった。


 なぜなら杏がいるからである。


 彼女がいればいい。彼女と同じクラスで過ごせるなら、良いことがあろうが悪いことがあろうが、楽しいことに変わりはないのだ。



 そして、冬が来た。

 冬服をしっかり着ていても寒い、そんな冬が。



「何か今日特に寒ない!?」

「急に冷えたなー。びっくりやで」


 それは、そもそもかなり寒い冬の中でも特に寒さの厳しい、ある日のこと。

 僕は二限目と三限目の間の休み時間に、物凄く大きなくしゃみをしてしまった。それはもう、涙は溢れ鼻水が顎まで垂れるほどのくしゃみを。


 その時、奇跡が起きたのだ。


「……使う?」


 そう声をかけてくれた杏の手には、色気のない真っ白なポケットティッシュ。


 僕は彼女の優しさに、暫し何も返せなかった。


 これは大きなチャンスだ。日々頑張っている僕へ神様がくれた、細やかな贈り物に違いない。このチャンスを上手く活かせば、僕は彼女と友達になれるかもしれない。


 ——だが、無理だった。


 僕には勇気がなかったのだ。


 憧れの女の子がティッシュを貸そうとしてくれているというのに、僕は「いや、いいよ」と愛想なく返してしまった。


「そう」


 杏は小さくそう言って、差し出していたポケットティッシュを引っ込める。


 あああああ……。

 これは人生最大のミスになるだろう。



 一生に二度あるかどうかも分からないような大きなチャンスを、僕は台無しにしてしまった。


 やり直したい。けれど無理だ。

 時を巻き戻すなんて、人間には不可能。



 こうして、僕の一日はまた終わってゆくのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  話しかけること。ハードル高いですよね…。  話すよりもうしろから見ている方が幸せな僕。  いつかはと思っていても踏み出せない。  とてもよくわかります………。  ですが彼女がいなければ…
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