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レティス王女の近衛7騎士  作者: 相馬あさ
気炎万丈編
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第二十一話 闇を祓う炎

 突如として10人以上いたケイオスの分身が全て消え、1人だけが残った。


「これは……諦めたという訳ではなさそうだな」

「もちろん。本来の私の力であなた方を消し去ろうと思いまして」


 ケイオスが右手を天に掲げると、上空に100メートルを軽く超える漆黒の魔法陣が現れる。


 魔法陣の大きさを確認して、アルフレートは即座に両手を天に突き出す。


「ランクAの闇魔法だと?!」

「テオドールさん、時間稼ぎを!」

「あ、ああ!」


 魔法陣から濁流のように闇魔法が押し寄せると、テオドールは雷の槍にありったけの魔力を込めて投擲する。


「ドンナー・シュラーク!」


 『貫通』のスキルを発動させた雷の槍が闇の濁流へと放たれて大穴を開ける。


 いや、貫いたように見せかけただけだ。


 実際は槍と接触して少しでも威力が軽減されることを嫌ったケイオスが、闇魔法の形を変化させて槍の迎撃を回避したのだ。


 そのまま直ぐに元の形へと戻る。


「あれほどの規模の魔法で避けただと?」

「くっ、これだと嵐魔法も……」

「俺に任せてくれ。テオドールさん、これ借りるぞ」

「なっ――」


 ジェイクはテオドールの腰に差してあった風の剣を引き抜くと、『加速』を発動して高速でケイオスに接近する。


「無駄です」


 ジェイクの剣撃をケイオスは小さな闇魔法で受け止める。


「さあ、闇の世界へご招待致しましょうか」


 闇魔法が再び落下を開始する。


 ケイオスは自分もろとも辺り一帯を闇魔法で呑み込もうという算段のようだ。


 もはや風魔法で回避できるような規模の攻撃ではない。


「そいつはどうかな!」


 ジェイクは風の剣でケイオスを斬り付けつつも、自身の水魔法を召喚する。


 ランクAの水魔法を秘めた右手の魔力器官から膨大な量の魔力が放出されて、ジェイクとケイオスを包み込んだ。


 ジェイクの水魔法はいつもの透き通るような美しい水ではなく、地面の土や砂を巻き上げてケイオスの周りを旋回することで、視界を遮る壁の役割を果たした。


「これならよく見えねえだろ! 今だ、アル!」


 天に向かって伸ばしたアルフレートの両手には、既に黄緑色の魔法陣が作られていた。


 ケイオスはジェイクの水魔法で視界を遮られながらも、アルフレートの魔力の高まりを感知して、闇魔法の形を変化させる。


 それは完璧なタイミングだった。


 アルフレートが魔法を撃ち出すのとほぼ同時であり、見えていないとは思えないほどだ。


「甘いぜ、ケイオス」


 目の前のジェイクが小さく呟く。


 その瞬間に、ケイオスは自分の思い違いに気付く。


 アルフレートの嵐魔法は上空の闇魔法になど放たれていない。


 驚異的な集中力でケイオスだけを攻撃するように対象指定された嵐魔法は、ジェイクの身体をすり抜けてケイオスの身体を雷と風の刃でずたずたに引き裂いていく。


 アルフレートが嵐魔法を放出し終わると、目の前には無傷のジェイクと胴体の右半分が吹き飛んだケイオスの姿があった。


 かろうじて残っていた右腕は今にも千切れそうにぶら下がっている。


 上空にあった闇魔法はケイオスの集中が途切れ、魔力が送られなくなったために消滅した。


「勝負あったな」

「いやまだだ、テオドールさん。よく見てみろ」


 ジェイクに言われてテオドールはケイオスの身体を注意深く観察する。


 すると、ケイオスの身体はゆっくりと再生していることが分かった。


 さすがにダメージが大きいのか再生速度はそれほどでもないが、着実に消し飛んだ身体が元に戻っている。


「化け物め。畳み掛けるぞ!」


 テオドールが投擲した雷の槍を呼び戻すとケイオスに攻撃を仕掛ける。


「調子に……乗るな」


 ケイオスが低いトゲのある声で呟くと、彼の足下に深緑色の魔法陣が展開される。


「何っ!」


 テオドールは急ブレーキをかけて速度を落とすと、正面に赤い宝石から土魔法を召喚して後方へと引き返した。


「ど、どうしたんだよ、テオドールさん」

「あの魔法はまずい。下手をすれば即死するぞ」


 テオドールの土魔法が消えると、ケイオスの周りに緑色の霧がかかっているのが見えた。


「何だ、あれ? 闇魔法じゃないな」

「……おかしい。あの霧は繋がっていない。いったい何十個の魔法を同時に操作しているんだ?」


 アルフレートの疑問にケイオスが答える。


「素晴らしいでしょう? 私の毒魔法は」

「やはり、毒魔法か。厄介な……」

「闇魔法のような万能性はありませんが、人間を殺すことに関してはこちらの方が向いています」


 テオドールがアルフレートとジェイクに忠告する。


「あれは一度出せば魔力が尽きても消えてなくなることはない魔法だ」

「な、何だよ、それ?」

「正確には魔法が消えてもその毒は増殖を続けて空気や大地に残る。最悪の殺戮魔法だ」

「どうすればいい? 対抗策はないのか?」

「弱点はある。炎魔法だ」


 テオドールたちは一斉にジークとティアを見る。


 そこにはいまだ全力を持ってペンダントに魔力を注いでいるティアと、彼女を守る様にケイオスを警戒しているジークの姿があった。


「やっぱりティアのペンダントにかけるしかないってことだな?」

「ああ、そうなるな」

「よし、一か八かやってみるか。テオドールさん、あんた炎魔法は?」


 ジェイクの声に何やら頼もしさを感じて、テオドールは眉をあげる。


「ランクC+だが?」

「それでも俺やアルよりはマシだ」


 ジェイクはティアとケイオスの間に立つと、風の剣を構える。


「アル、俺と一緒に時間を稼いでくれ。テオドールさんとジークベルトはティアにありったけの炎魔法をぶつけろ!」


 ジェイクの指示を聞いて、ティアの苦しそうだった表情が明るく変わる。


「そっか! その手があったわね!」


 ティアと同様にケイオスもジェイクの言葉の意味を理解したのか、即座に毒魔法で攻撃する。


「やらせねえ!」


 ジェイクが風の剣を振ると、風魔法がケイオスの毒魔法を押し返す。


「くっ、ならばこれはどうですか!」


 ケイオスが毒魔法から闇魔法に切り替えると、今度はアルフレートが嵐魔法で闇魔法を迎撃して相殺する。


「……忌々しい、複合魔法ですね」

「いいね。その表情が見たかったんだ!」


 ケイオスが苛立ちに表情を歪めたのを見て、ジェイクが楽しそうに笑う。


 続け様に放たれた闇魔法をアルフレートの嵐魔法とジェイクの風魔法でなんとか防いでいると、アルフレートたちの後方を目にしたケイオスが焦りの表情で固まった。


「――っ、ジェイク、準備が出来たみたいだ」

「ああ。すげえ熱さだぜ」


 背中から圧倒的な熱量を感じて二人が振り返る。


 そこには、真紅の鎧を身に纏い、炎の翼で天を舞う戦乙女の姿あった。


 テオドールとジークは本当にありったけの炎魔法をティアの『戦乙女の外套』に吸収させたので、地面に膝と手を付いて肩で息をしている。


 彼らの過剰とも言えるほどの魔力を吸収した結果、ティアの長い髪は炎髪へと変わり、炎の翼は異様な巨大化を遂げていた。


「待たせたわね。悪いけど、一瞬で決めさせて貰うわよ!」


 ティアはペンダントの赤い宝石に魔力を籠める。


 宝石から稲妻を纏ったオレンジ色の炎が飛び出したのを見て、ケイオスが目を見張って後退りした。


「そ、そんな馬鹿なことが……まさかあなたはレオンティウスの――」

「うるさいわ。さっさとこの世から消えなさい!」


 ティアはケイオスの言葉を聞き終える前に、彼目掛けて雷の炎を打ち下ろす。


 ケイオスは即座に特大の闇魔法を召喚して迎撃するが、圧倒的な炎魔法は闇魔法をたやすく貫いて燃やし尽くすと、ケイオス本体へと迫る。


「このようなことが、私がどれだけの時間をかけて今の状況を」

「あんたの話を聞く気はないわ。今すぐ灰になれ!」


 ケイオスは死の淵で自身の千切れかけた右腕を左手で引きちぎると、炎の範囲外へと放り投げる。


 それはケイオスに残された最後の手だった。


 右腕一本を残してケイオスは灰になり大地に帰った。


 テオドールとジークに貰った魔力を使い果たしたティアは、地上に着地するとケイオスの右腕に近付く。


「ここから復活するのかしら?」

「さすがにそれは……ないとは言い切れねえのが恐ろしいところだ」

「うん。今のうちに弱点の炎で燃やしておこうよ」


 金髪に戻ったアルフレートが提案すると、ティアは肩を竦めて見せる。


「ちょっと休憩させて、実は立っているのがやっとなのよ」


 ティア、ジーク、テオドールは消耗が激しいらしく少しふらついている。


「でもよ、その間に復活されたら目も当てられないぜ?」

「……確かにな。これを使ってみるか」


 テオドールは軍服のポケットから一つの瓶を取り出す。


「それって」

「ああ。グーニラが解毒薬といって渡してきたものだ」

「いや、偽物だろそれ。むしろ毒なんじゃないか?」

「どうだろうな。しかし、あいつの性格を考えると……」


 テオドールはケイオスの右腕に解毒薬をかける。


 すると右腕は解毒薬がかかった場所から発火して燃え上がった。


「やはりな。俺たちは奴を信用せず薬を使わなかった。それが分かっているからこそ、あえて本物を渡したのだろう。どこまでも人を馬鹿にした女だったからな」


 テオドールは燃え続ける右手を眺めながら続ける。


「奴が何者だったのか、それを知るためにも俺は再び魔獣島へ向かおうと思う。お前達も連れて行くから、そのタイミングで帰るといい」

「いいのかよ?」

「ああ。皇帝を陥れようとした悪魔を倒すのに協力してもらったのだ。ツィスカ様からの許しも得られるだろう」

「よかった〜、これで帰れるぜ」


 ジェイクが安堵してその場に座り込むと、アルフレートとティアは微妙な顔で彼を見下ろしていた。


「な、なんだよ、アルにティア。嬉しくないのか?」


 話を聞いていたジークは呆れたように笑うと、近くに居たアルフレートの肩に手を置く。


「お前達も大変だな」

「うっ……はい。そうですね」

「何だよ、どういうことだよ?」


 テオドールはにやりと笑うと、勝ち誇った顔で告げた。


「お前達は、やはり魔獣島からアデライード王国へと渡る手段を持っているようだな」

「あ……!」

最後の最後でジェイク痛恨のミス。


ともあれ一件落着ということで、次回からまとめに入ります。

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