第二十話 ケイオスの弱点
アルフレート、ジェイク、ティアの3人は壁に空いた大穴から外に出ると、外の景色に驚いた。
皇帝が暮らしている建物に拘束されていたので、場所としてはレオンティウス帝国の都心部だろうと考えていたのだが、目の前に広がっていたのは荒れ果てて草木一本生えていない大地だったからである。
「こ、これって……」
「おい、お前ら早くしろ!」
少し先を走っていたジークが振り返ってアルフレート達に向かって叫ぶ。
さらにその先ではテオドールがケイオスと交戦している姿が見える。
「嘘だろ、あれだけやって平気なのかよ」
「ジェイクが切り落とした腕も戻っているわ。完全に化け物ね」
アルフレートはいつの間にか戻っていた髪色を赤毛へと変化させると、風魔法を纏って『加速』のブラッドスキルを発動する。
「先に行く」
アルフレートは瞬間的に音速を超えると、ケイオスに急接近して雷魔法を纏った左ストレートを打ち込む。
しかし、アルフレートの接近に気付いていたケイオスは驚異的な反射神経で闇魔法を召喚してアルフレートの拳を呑み込んだ。
アルフレートは直感的に危険を感知して左手を引くと、飛び退いてケイオスから距離を取った。
「ビーストマスター、エーデルフェルグ、一旦下がれ!」
ジークの声を聞いてアルフレートとテオドールは更にケイオスから離れる。
するとジークベルトが上空に直径100メートル以上の炎魔法を召喚して、ケイオス目掛けて振り下ろした。
炎は相応の熱量を持ってケイオスへと落下し、彼を押しつぶすように迫る。
「無駄です」
ケイオスは闇魔法を召喚すると、自身に迫る炎魔法を包み込んで消滅させた。
「クソっ、俺の最大魔法だぞ。化け物め」
「いや、そうでもない。今の闇魔法はこれまで奴が見せた中でも最大の規模だった。俺の雷魔法よりも、お前の炎魔法は警戒されている」
テオドールの分析にジークは首を傾げる。
「エーデルフェルグ、雷魔法のランクはいくつだ?」
「俺はこの槍に秘められた魔法を操作しているだけだが、最大規模はお前の炎魔法と同じ100メートル越えだ」
「ランクAか、尚更分からねえ。炎よりも雷の方が強いはずだろ」
テオドールとジークが話している間にティアとジェイクも到着し、5人でケイオスを取り囲む。
「これは、これは。さすがに分が悪そうですね」
ケイオスの周りに黒い霧がいくつも現れると、その全てが彼と全く同じ容姿の分身へと変化した。
「厄介な。ビーストマスター、本体がどれだか分かるか?」
「いえ。ですが奴が炎を警戒しているということは、ティアの出番です」
「なるほど、あの時の『あの炎』か。しかし魔吸水晶はツィスカ様が」
ティアは黄金のペンダントを自慢げにテオドールに見せる。
「さっきフランツィスカ皇孫女が返してくれたんです」
「ツィスカ様が……まあいい、頼めるか?」
「やってみます」
ティアはありったけの魔力をペンダントの宝石に注ぎ込むが、宝石は鈍く光るのみで反応しない。
「うっ……まだ魔力が?」
そうこうしているうちに、ケイオス達が闇魔法で攻撃してきたので、アルフレートとテオドールが風と雷の魔法を駆使して交戦する。
しかし闇魔法の方が強力で数も多いので、戦えば戦うほどに目に見えて傷が増えていく。
ジークがタイミングを見て特大の炎魔法で援護しつつ、前衛2人の怪我をジェイクが治療することで何とか時間を稼ぐ。
「どうした! まだかブリュンヒルデ!」
「すみません! 限界まで振り絞っても魔力が足りないんです!」
「なら限界を超えろ! まだ立つ力も喋る力もあるならいけるはずだ。全てを出しきれ!」
テオドールはティアに激励を飛ばしながらも、雷魔法でケイオスの分身を数人貫いた。
陣形が崩れたところでアルフレートが畳み掛け、さらに数人をしとめる。
「ブリュンヒルデ、先ほどからエーデルフェルグが言っているのは何だ? お前の魔力が溜まればどうなる?」
ジークに尋ねられ、ティアはペンダントに魔力を込めながら返答する。
「このペンダントの宝石には強力な炎魔法が入っているの」
「炎魔法? ランクAか?」
「分からない。でも、エーデルフェルグ大佐の雷魔法を相殺するほどの威力だったわ」
「何だと?」
雷魔法を相殺できる炎魔法など存在しない。
しかし、もしもそんな事が可能だとすれば、ジークの記憶には1つだけ候補が存在した。
「……ランクA+」
「A+? そんなものが存在するの?」
「あくまでも噂に過ぎないと思っていたが、お前の話が本当なら真実かもしれない。協力させろ」
「無理よ、他人の魔力と混ざり合ったらコントロールなんて出来ないわ」
ローズ姉妹のような双子ならまだしも、ジークとティアではお互いを知らなさすぎる。
混ざり合った魔力が反発し合ってどちらかをペンダントの外へと押し出してしまうだろう。
「先ほどからそちらの2人は何をしているのですか?」
ケイオスが新しい分身を作り出してティアとジークを闇魔法で攻撃する。
ジークが炎魔法で迎撃すると、アルフレートやテオドールの上級魔法すら通用しなかった闇魔法が相殺された。
「やはり……我々の常識を超えた魔法の相性があるようだな」
テオドールはケイオスに炎魔法が有効だと確信を持つと、赤い宝石から炎魔法を召喚して攻撃する。
宝石に秘められたランクAの炎魔法にテオドールは『爆発』のスキルを命じて、闇魔法もろとも近くに居たケイオスの分身数名を吹き飛ばした。
「すげえ、これならいけるんじゃねえか?」
「それはどうでしょうね?」
ケイオスの弱点が発覚したことをジェイクが喜んでいると、追い詰められているはずのケイオスが不敵に笑った。
次の瞬間、テオドールが持っていた赤い宝石が砕け散る。
「ちっ、もう耐久限界か」
「な、なんだよそれ? 回数制限があるのか?」
「ああ。魔吸石は三度使えば魔力の行き来に耐えきれなくなって砕けてしまうんだ。永久に使用できる魔吸水晶の模造品だからな」
ケイオスが闇魔法でテオドールを攻撃すると、テオドールは近くに居たジェイクの手を掴んで風魔法で移動する。
アルフレートと近くに移動したところでテオドールが風魔法の『加速』を解除すると、無理やり高速移動させられていたジェイクは急ブレーキに対応できずに転がった。
「今のを避けたということは、もう炎魔法を内包させた魔吸石を持っていませんね?」
「さあ、どうかな。節約しただけかもしれんぞ?」
「雷魔法を使うあなたが攻撃用の魔吸石を複数所持しているとは思えません。残りは回復が3つ、防御が2つ、拘束が1つといったところでしょう」
テオドールは顔色一つ変えなかったが、ケイオスの読みは見事に正解だった。
そしてテオドール自身の炎魔法ランクはC+。
弱点とはいえ、とてもじゃないがケイオスに通用するとは思えない。
つまり、これでケイオスに有効打を与えられるのはアルフレートの嵐魔法と、ジークの炎魔法、ティアのペンダントの炎魔法の3つとなった。
「フランツィスカ皇孫女を置いてきたのは失策でしたね」
「黙れ! 貴様のような化け物の相手をツィスカ様にさせるわけにはいかんのだ」
テオドールに対してケイオスは辟易するようにため息を吐く。
「私は本来、表舞台に立つ気は無いのです。ヨハネス皇帝が魔術から解放された今、物語は終幕するべきでしょう」
「貴様をみすみす逃す訳にはいかない。貴様を打ち滅ぼさない限り、帝国に真の平和は訪れん」
「そうですか」
ケイオスの表情が初めて苛立ちの顔へと変わる。
「ならば消し去るしかありませんね」
次回、最終決戦です。




