第十五話 意外な乱入者
暗闇の中を歩き、別の部屋へと入ったところで、軍人たちによって強制的に床に跪かされる。
目隠しが外されると、アルフレートたちの目の前には白に近いブロンドの髪と髭をたくわえた男が椅子に座っていた。
彼を見た途端、ティア、ジェイク、ライラは驚きで息をのんだ。
男の煌びやかな衣服と威厳ある風格から、記憶喪失の田舎者であるアルフレートにもその男が何者なのかおおよそ見当が付いた。
ヨハネス・アウデンリート。レオンティウス帝国の皇帝だ。
その隣には漆黒のローブを身に纏った妖艶な女性、グーニラ・マイヤーの姿もある。
「ほう、確かにツィスカによく似ているな」
「ブリュンヒルデは不死身のセルゲイの娘という話ですが、そうなると母親は……」
「ふんっ、考えたくもないな」
ヨハネスは見下すような視線を四人へと送る。
「グーニラ、尋問の前に今一度魔力を奪っておけ。例え私に届かなくとも抵抗されると目障りだ」
「かしこまりました」
グーニラは小さな赤い宝石を四つ取り出すと、アルフレートたちの前へと投げる。
宝石が煌めいたかと思うと、そこから植物のつるのような魔法が飛び出して四人へと突き刺さった。
「ぐっ……これ、アリサの……」
アリサが得意としていた木魔法のマジックスキルである『収穫』が発動し、四人の生命エネルギーを限界ギリギリまで吸い上げる。
回復してきていた体力をあっという間に奪われて、魔法どころか態勢を保つことさえ難しくなり、床に手を付いて何とか倒れるのを堪える有様だ。
「このぐらいですかね。これ以上は受け答えにも影響します」
グーニラは満足げな笑顔で木魔法のつるをアルフレートたちから外す。
その後、やや後方へと下がって四つの木魔法から金色の液体を絞り出して瓶に詰め始めた。
恐らくは奪い取った生命エネルギーを抽出しているのだろう。
「さて、話してもらおうか。お前たちはどうやって魔獣島へと侵入した。あの島は人の力では到底破ることの出来ない結界で囲まれているはずだ」
「魔獣島? 私たちがいた場所は帝国ではそう呼ばれているのですか?」
「質問しているのはこちらだ。早く答えろ」
ヨハネスは小さな土魔法を作り出してティアにぶつける。
ティアはうめき声をあげながらも、倒れないように歯を食いしばって痛みを堪えた。
ヨハネスの機嫌を損ねないように、ライラが気を利かせて代わりに回答する。
「私たちは古代魔術具の調査をしている際に偶然あの島へと転移してしまったんです。あの島がレオンティウス領であることも知りませんでしたし、結界で囲まれているというお話も今初めて聞きました」
「ほう、結界を転移魔法で越えたか。見せてみろ」
「えっ? そ、それは……」
見せろと言われても、現物がこの場にあるわけではないのでライラは狼狽える。
「どうした。見せろと言っている」
再びヨハネスの顔に苛立ちの色が見えたところで、ジェイクがアルフレートを肘で付く。
「おい、アル。早く見せろよ!」
「え、ジェイク、何を言ってるの?」
「お前、皇帝の話を聞いてなかったのか? 転移魔法を見せるんだよ。お前の両腕にあるだろ!」
アルフレートの両腕にはオルトロスが腕輪として装備されていた。
所持品はあらかたテオドールたちに没収されたのだが、腕輪は手首にぴったりのサイズだった為に外す事ができず、取り上げられずに済んだのだ。
精霊島へと渡った際に使った古代魔術具とは全く別物なのだが、ジェイクは扉の事が帝国に知られるよりも、オルトロスの力で偶発的に転移したことにした方が王国に迷惑を掛けないと考えていた。
アルフレートはジェイクの策に乗り、両腕を掲げて腕輪をヨハネスに見せる。
「これがそうです」
「二つあるのか」
「はい。これは僕の使い魔ですから」
「何?」
アルフレートはフローラとリーゼロッテに命令して二人を人型へと変身させる。
「子供になっただと? これがお前の使い魔だというのか?」
「古代魔術具によって契約した、変身能力のある魔獣です。フローラ、少し離れてくれる?」
「はい、かしこまりました」
フローラがアルフレートとリーゼロッテの元から少し離れたところで、アルフレートはリーゼロッテの肩に手を乗せる。
「リーゼロッテ、フローラの元まで転移するんだ」
「任せて」
二人の使い魔の足元に白い魔法陣が展開され、アルフレートとリーゼロッテは光の粒子になって消滅する。
次の瞬間、フローラの周りに光の粒子が出現して二人の人物を形作っていく。
瞬く間にフローラの元へと転移したアルフレートとリーゼロッテを見たことで、ヨハネスは驚きに目を見開いていたが、やがて何かを考える様に真剣な顔であごひげを撫でる。
「その転移魔法はお互いの場所へと転移するものなのか?」
「は、はい。えっと、本来はそうなんですけど、それ以上のことが出来ないか実験していたらあの島に飛ばされてしまって……」
アルフレートは即興でそれらしいことを言って誤魔化しにかかる。
「魔獣島が魔獣の本来の住処である以上、そこに転移魔法で戻ることも可能だったということか」
「あ……な、なるほど」
ヨハネスはアルフレートの説明を自分の知識で補足して勝手に納得してくれた。
「しかし、事故とはいえお前たちが我が国の聖地に無許可で踏み入った事実は変わらない。アデライード王国に正式に抗議させてもらうとしよう。下がらせろ」
ヨハネスは興味を失ったように手を払ってアルフレートたちを下がらせるように軍人たちに指示を出す。
「お待ちください、皇帝陛下」
「ん? どうした、グーニラ」
「このような者どもの言うことを信用するのですか? 私にはそこの魔獣に王国から帝国までの距離を四人の人間を連れて転移するほどの力があるようには思えません」
グーニラの不気味な目に見つめられて、フローラとリーゼロッテは怯える様にアルフレートの後ろに隠れた。
アルフレートも二人を庇う様に前に出ようとするが、先ほどグーニラにかなりの量の生命エネルギーを吸い取られたので、バランスを崩さないように立っているのがやっとだった。
「ほう、こいつらが嘘を吐いていると?」
「ええ。ですから私に尋問をお任せください。特製の秘薬を使用しましょう」
グーニラは赤黒い液体の入った小瓶を取り出して、ニヤリと笑う。
アルフレートの本能がその液体の危険性を感知して総毛立つ。
今ここで全てを話してでも秘薬の投与だけは回避しなくてはと考えていると、背後の扉が勢いよく開かれる。
「お爺様! 勝手なことをされては困ります!」
棘のある声を響かせて入ってきたのは、帝国の皇孫女であるフランツィスカ・アウデンリートだった。
その後ろにはテオドールとジークの姿もある。
「彼らを捕らえたのは私の騎士です。尋問は私にお任せください!」
「ツ、ツィスカ……しかしだな」
「私の尋問では信用できないと?」
「いや、そんなことはないのだが……」
「では、彼らの身柄は私が預かります。テオドール」
「お任せください、ツィスカ様」
テオドールは赤い宝石の嵌まった指輪を取り出すと、そこから木魔法を発動してアルフレートたち全員を縛り上げる。
フローラとリーゼロッテは木魔法から逃れるように腕輪に変身してアルフレートの両腕に装着された。
ツィスカは縛られたティアに近付くと耳打ちする。
「一つ貸しよ、ルクレーシャ・クライン。必ず返しなさい」
レオンティウス帝国の人々がたびたび使用している赤い宝石ですが、あれは古代魔術具ではなく普通の魔術具です。
現代の技術で製作可能な魔術具ということですね。
アデライード王国は医学と魔法の研究が進んでいますが、レオンティウス帝国では武器や魔術具の研究が進んでいます。
魔道士ランクが平均的に劣っているレオンティウス帝国がアデライード王国と対等に渡り合えているのは、武器や魔術具の性能で魔法の弱さを補っているからです。
以上、裏設定でした。
次回は再びツィスカ皇孫女殿下のターンです。




