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レティス王女の近衛7騎士  作者: 相馬あさ
気炎万丈編
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第六話 飛竜の翼の特別講義

 午後6時頃。


 セルゲイ中隊との訓練を終えたアルフレート、ジェイク、ティアの三人は雪山から下山して再び屋敷に戻ってきた。


 暖かい室内でソファに座って使用人が出してきた紅茶を飲んでいると、同じように訓練を終えたアイリーンとライラが屋敷に帰ってきた。


「おう。ビーストマスターじゃねえか。そっちはどうだった?」


 アイリーンはアルフレートたちに気付くと遠慮なくアルフレートの隣に座る。


「あ、リンドバーグさんもどうぞ」

「はい。失礼します……」


 今にも倒れそうだったライラはティアに促されるままに彼女の隣に腰を下ろした。


「炎耐性のスキルはまだ自分の意志ではうまく発動させられないですけど、皮膚強化の方はそれなりに安定して使えるようになってきました」


 アルフレートは自分の左腕の皮膚を黒く変色させて見せる。


「おっ、やるなあ。こっちはこんな感じだ。ライラ、治せ」


 言うや否や、アイリーンは自分の両手のひらを風魔法で斬り裂いてライラに突き出す。


 すると憔悴しきっていたライラが間髪入れずに水魔法を二つ召喚してアイリーンの両手をそれぞれ包み込む。


「ヒール」


 アイリーンの両手の傷はみるみるうちに治癒して塞がった。


 それと同時にライラの魔法が消え、ライラは電池が切れたように眠りについた。


 ティアが慌てて倒れないようにライラを支える。


「おっ、本当の限界がきちまったみたいだな」

「今、リンドバーグさん水魔法を二つ召喚していましたよね」

「ああ。予想以上の逸材だった。三時間ほどいたぶったらあっさりB+まで成長したぞ」


 アルフレートたちはその一言で午前中に自分たちがされたことを思い出して身震いした。


「学校じゃ絶対出来ないですよね……あれ」

「ん? まあ、そうだな。エウニス学園のセリーヌ先輩とかにバレたら怒られそうだ」


 秘密にしてくれと言ってアイリーンは子供のように笑う。


 アルフレートたちも笑って見せたが、その笑いは乾いたものだった。


「あ、お前らくれぐれも真似はするなよ。あれは私の絶妙な力加減があって初めて出来る追い詰め方なんだ。お前らがやったら普通に死ぬからな」

「いや、やりませんから!」


 アルフレートが思わず鋭いツッコミを入れるが、アイリーンは気にした風もなく笑っていた。


「そういえば、アイリーンさんってもうすぐ基地に帰っちゃうんですよね?」


 ジェイクが思い出したように尋ねる。


「ああ。ライラを送り届けたらさっさと帰るつもりだったが、少しくらいなら大丈夫だぞ。何だ?」

「いえ、ちょっと風魔法について聞きたくて」


 それはアルフレートも聞きたいと思っていた内容だった。


 魔獣オルトロスが使う上級魔法。


 それをなぜ人間のアイリーンが使うことが出来るのか。


 そもそも上級魔法とは何なのか。


 エウニス学園の教科書にも答えは載っていなかった。


「風魔法か。確かに学校じゃ習わねえよな。いいぜ、教えてやる。そもそもこいつは上級魔法と呼ばれる魔法なんだ」

「僕の使い魔が使える風魔法と雷魔法がそうですよね」

「ああ。私たち人間が魔力種を体内に取り込んで作り出す疑似魔力器官は下級魔法と呼ばれる炎、水、土、木の四属性。だが、魔獣などの上位生命体は上級魔法と呼ばれる雷、風、金、毒の四属性を使うことが出来るんだ」

「他にも金と毒があるんですね……」


 炎魔法の上位が雷魔法。

 水魔法の上位が風魔法。

 土魔法の上位が金魔法。

 木魔法の上位が毒魔法。


 という関係性らしく、上級魔法を秘めた古代魔術具を使用する際も、自分の得意な系統の属性の方が消費魔力は少なく済むらしい。


「じゃあ、アイリーンさんはどうして風魔法が使えるんですか? 俺たちに見えないところで古代魔術具を使って発動してるとか?」

「いいや。私は風魔法をここで作り出している」


 アイリーンは自分の右胸を軽く叩いてみせる。


「お前の右手と同じだよ。研究者共には『竜の心臓(ドラゴン・ハート)』って呼ばれてるブラッドスキルでな。ようは風の魔力を作ってくれる器官を私は生まれつき持ってるんだ」

「風の魔力を……ってそれ完全に俺の上位互換じゃないですか! ランクは? ランクはいくつなんですか?」

「当然、ランクAだ。悪いなジェイク。私は世界最強のランクA風魔法使い。水のランクA止まりのお前じゃまだ私には追い付けねえよ」


 アイリーンの魔道士ランクは炎B、水A、土B、木C+。


 それに加えて、風魔力器官Aを所持している世界で唯一の風魔道士だ。


 アルフレートたちは改めてアイリーンの強さを実感したのだった。


「質問は終わりか? なら、今度は私からも聞かせてくれ」


 アイリーンはアルフレートを真剣な表情でじっと見つめる。


「ぼ、僕にですか?」

「ああ。アルフレート、お前は私との訓練で最後まで切り札を見せなかった。ジェイクやルクレーシャと違ってな」


 ジェイクは右手の魔力器官で作り出したランクAの水魔法を『天羽々斬(あめのはばきり)』に纏わせて無生物を透過する水魔法を作り出していた。


 アイリーンの頬に傷を付けたのもこの魔法である。


 ティアは『戦乙女の外套(ヴァルキリー・ドレス)』に溜め込んでいる膨大な魔力で最大火力であるランクBの炎魔法を連発し、その全てをマジックスキルによって爆発させることで、アイリーンの強力な風魔法を相殺することに成功していた。


 しかしアルフレートはというと、3種類の肉体強化で駆けまわってアイリーンの魔法を掻い潜り、強力な雷魔法を暴れまわらせるといった戦い方を終始続けていた。


 もちろんアルフレート自身は真剣に訓練に取り組んでおり、力を温存している余裕など見せていなかったのだが、アイリーンは最初に3人を追い詰めた時にアルフレートがやろうとしていた事が彼の真の切り札ではないのかと睨んでいた。


「いやいや、アイリーンさんそんなわけないじゃないですか」

「そうですよ。アルの切り札は異なる属性の魔法を同時に展開出来る事です」


 ジェイクとティアがそんなはずはないと笑って否定するが、アイリーンは二人を無視してアルフレートを凝視し続けている。


「その、切り札になりそうな技ならないわけではないんですけど……」


 アルフレートがアイリーンの視線からくる無言の圧力に負けて白状しようとすると、ジェイクとティアの二人が目に見えて動揺しだす。


「お、おい何だよアル。冗談はよせよ」

「そうよ! アルがそんな…………これ以上切り札とかで強くなられた私はどうしたらいいの?」


 自分たちは使うことの出来ない上級魔法に加えて、それを二種類同時に使うことが出来る特殊能力。


 さらには5種類以上のブラッドスキル持ちとなったアルフレートがこれ以上強くなると、ジェイクとティアの中で頼もしいという気持ちよりも置いて行かれて悔しいという気持ちの方が大きくなるのだ。


「ええい、うるさい黙れ。そろそろ時間がないんだ。アルフレート、手短に説明しな。お前の切り札が何なのか、そしてどうして私に対して使わなかったのか」


 アイリーンに一喝されてジェイクとティアが押し黙ると、アルフレートは少し気まずそうに語り始めた。


「アイリーンさんはシアメイやレティスが誘拐された事件の実行犯であるアッシュと僕が戦ったという話は知っていますよね」

「ん? まあ、もちろん知っているが?」

「あの戦いで、アッシュは見たこともない魔法を使っていたんです」

「炭魔法とかいうやつか。もう一人の女は泥魔法ってのを使ったらしいな。確か、異なる二つの魔法を混ぜ合わせ――」


 アイリーンは何かに気が付いたように固まると、視線だけ動かしてアルフレートに目で訴えかける。


「たぶんご想像の通りです。僕はアッシュが使っていた二つの魔法を混ぜる技を研究していました。もしかしたら僕にも可能なのではと思ったので」

「なるほどね。それで出来る様になったのか?」

「いえ。正直かなり魔力のコントロールが難しいです。生み出した二つの魔法に流れる魔力を完璧に揃えていないと、魔力が少ない方が消滅してしまうんです」

「つまり、私の質問への答えは、やりたくても出来なかったということか」

「そうなります。ただ……」


 アルフレートはアイリーンにジェイクとティアが殺されかけた時の事を思い出す。


 少しでもあの時の感情を思い出そうとするが、なかなか上手く行かない。


「僕は感情が高ぶるといつもは出来ないことが一時的に出来るようになることがあるんです」

「ブラッドスキルのコントロールとかか?」

「それもそうですが、魔法のコントロールも制度が格段に上がります。アッシュとの戦いではその状態に入れたおかげでレティスを守ることが出来ました」


 アイリーンはアルフレートの話を聞いて興味深そうに目を細める。


「スポーツ選手がゾーンに入るようなものか? ともあれ、その状態になっている時に限り、お前は切り札の複合魔法を使えるかも知れないという事か」

「そうなりますね」

「どうして最初の一回目しかその状態になれなかった? 私はその後何度もお前たち三人を死ぬような状況まで追い込んだだろう」

「たぶん、ジェイクとティアがそれ以降は再起不能になることがなかったからだと思います」

「……ちっ、お前、自分より仲間のために本気を出すタイプか」


 アイリーンは諦める様にソファに寄り掛かって沈み込むと、天井を眺めながら喋る。


「さすがの私もお前の切り札を出させるためにジェイクとティアを動けなくなるまで叩きのめす気はないからな」

「それ、本当ですか?」

「正直、アイリーンさんならやりそう……」


 ジェイクとティアが胡乱な目でアイリーンを見る。


 最初の戦闘以降は確かに意識を失うほど追い詰められることはなかったのだが、それでも気を抜けばそのまま命を落とすような攻撃をバンバン放って来ていただけに、二人にとってアイリーンは常識の外にいる存在として認識されつつあった。


「お前らな…………まあいいや。アルフレート、お前はイメトレを毎日欠かさずやっておけ」

「イメージトレーニングですか?」

「そうだ。アッシュと戦った時に感じた事、私にジェイクとルクレーシャがやられた時の事。とにかくお前の感情が最高点まで高ぶった時の事をしっかりと思い出して、どんな時でもその精神状態に入れるようになるんだ」

「……分かりました。やってみます」


 アルフレートが返事をすると、アイリーンはソファから立ち上がって屋敷の入口へと歩いていく。


「じゃあな、次に会うときは三人で本気の私と戦えるくらいになってることを祈ってるよ」


 ひらひらと肩の横で手を振りながらアイリーンは屋敷を出て行った。


「……アイリーン・メイブリック大尉。噂以上にぶっ飛んでて、噂以上に強かったな」

「ええ。でも、あの人がソフィア女王の7騎士だと思うと頼もしいわ」

「本当に嵐みたいな人だったね」

これにてアイリーンの出番は終了です。


次回からまた恋愛話が再開します。

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