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レティス王女の近衛7騎士  作者: 相馬あさ
疾風迅雷編
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第五話 力への憧れ

「何度も言うようだが、次からはこんな危険な真似はしないようにな」


 フローラとリーゼロッテが逃げ出した男を捕らえた後、警官によって男たちは拘束され、シアメイと被害者の女性は事情聴取のために警察署の一室に案内された。


「……不満そうな顔だな」

「そりゃ、感謝されると思っていましたからね。まさか、お説教をされるとは思いませんでした」


 シアメイはというと、あからさまにふてくされていた。

 被害者の女性の方は事情聴取が終わると警官に家まで送ってもらったのだが、シアメイの方はもうかれこれ30分以上は警官にお説教をされていたからだ。

 先ほど学園にも連絡を入れられてしまったので、おそらくは学園に帰ってからも教師から説教をされることだろう。


「あのなぁ、確かに結果的には助かった。だけど、一歩間違えば君の命だって危険だったんだぞ?」

「あ~、はいはい、分かりましたって。もういいでしょう? 帰ります」


 シアメイは心底嫌そうな顔で椅子から立ち上がった。


「やっと終わった? あたしお腹空いちゃったよ~」


 アルフレートたち3人は後ろのソファに座って待っていたのだが、さすがに待ちくたびれてしまい、フローラに至ってはアルフレートにもたれかかる様にして眠りこけていた。


「じゃあ、行こうか。ほら、フローラ起きて」

「ん……はぃ」


 アルフレートはフローラを揺すって起こし、二人の手を引いて部屋の出口へと向かう。


「ああ、待ちなさい」


 4人そろって帰ろうとしたところで警官に呼び止められた。


「まだ何かあるんですか?」

「そんな嫌そうな顔するな。すぐ終わる」

「はいはい。で、何ですか?」


 シアメイが尋ねると警官は少し険しい表情になった。


「ニュースで見たかも知れないが、ここ最近魔道士を狙った犯罪が多発していてな。同じ犯人による連続事件のようなんだ」


 そのニュースならアルフレートも見た記憶があった。


「確か、東の沿岸部でしたっけ?」

「ああ、そうだ。だが、段々と西に移動しているみたいでな、そろそろこの辺りも危ないんじゃないかって話だ」

「なるほど。なら、ボクたちが狙われる可能性もあるってことですか?」

「そうだ。おそらく学園の方も生徒の外出を制限するなどの対策を取るだろうが、念のため次に外出する時は大人と一緒に行動するようにしなさい」

「分かりました。気を付けます」


 素直なアルフレートとは違い、シアメイは俯いて返事をしなかった。何かを考えているようにも見える。


「……不満か?」

「いや、さすがのボクも、魔道士相手はきついかなぁ~って思って。気を付けます」

「そうか。十分気を付けてくれ。それと、今日はありがとう。おかげで助かったよ」


 警官のおじさんのお礼を聞いて、シアメイは気が抜けたようにため息を吐いた。


「なんだ、どうした?」

「もっと早く、その言葉が聞きたかったです」




 日が沈み、空に星々が瞬き始めた頃。シアメイは一人でクライン邸の前に立っていた。

 アルフレートたちはというと、警察署に忘れ物をしたと伝えて先に寮へと帰ってもらった。もちろん嘘だ。

 ちなみに使い魔の双子も一緒に寮へと向かった。なんでも、女子寮で面倒を見てくれる生徒が見つかったらしい。

 では、なぜシアメイがここに立っているのか。

 それは彼女が昔から追い求めていた理想の人物がここの住人かもしれないからだった。

 インターホンを押すと、ティアではない女性の声がした。おそらく母親だろう。


『はい。どちら様でしょうか?』

「エウニス学園生の黎夏美(リー・シアメイ)と言います。ルクレーシャさんはいらっしゃいますか?」

『あら、ティアの友達? すぐに呼んでくるから、少し待っていてもらえるかしら?』


 巨大な門がゆっくりと開く。

 シアメイが敷地内に入ったところで門は自動で閉まり出した。

 ふと、シアメイは敷地の左隅に木造の建物があることに気が付く。どう見てもこの国の建物ではない。


「ボクの国の建物に似てるな」


 もしかしたらマサムネはこの建物に住んでいるのかもしれないと思い、好奇心に動かされるままに近付くと、中から男性の声がした。


「――はい。では、そのように」


 どうやら、マサムネが電話をしているようだ。いけないとは思いつつも、シアメイは壁に張り付くようにして聞き耳をたてる。


『くれぐれも子供達には内密にしてください。でなければ奇襲の意味がなくなりますので。はい――ティア様も? 分かりました。ええ、では明日』


 電話が終わった次の瞬間だった。

 たったの一呼吸をする暇もなく、シアメイの眼前には銀色の刀剣が突き付けられていた。


「――え、そんな」


 あまりの早さにシアメイの思考は軽いパニックに陥った。

 一秒にも満たない瞬きほどの時間で、外に出て、刀を抜き、シアメイに突き付ける。そんな芸当が出来るはずがない。


「さすがだな。俺も途中まで話を聞かれていることに気が付かなかったぞ」


 マサムネは鋭い眼差しでシアメイを睨む。


「……見つけた」


 本来、恐れおののくはずの場面で、シアメイはしっかりと目を見開き、高揚した面持ちで子供のような笑顔を浮かべてマサムネを見つめた。


「何? どういう意味だ?」


 刃が左目に触れるか触れないかのギリギリの所まで近付けられる。

 少しでも動こうとすれば、目を一突きにされる。そんな威圧感があり、瞬きすら出来ない。

 そこまでされてやっとシアメイは我に返り、自分がとんでもないほど追い詰められている事を思い出した。


「あ、それはその……」

「この際、話を聞かれたことなど、どうでもいい。この家に忍び込んだ目的はなんだ?」

「し、忍び込んでなんていないです!」

「嘘を付くな! なら、どうしてお前はここにいる!」


 殺されると、本気で思った時だった。

 遠くから女性の怒り声が響く。


「なっ!」


 マサムネは後ろへ振り向き、刀を一閃した。

 突如こちらへ飛来した物体が真っ二つに切り裂かれ、芝生の上に転がる。


「…………靴?」


 見事に切り裂かれたそれは、どう見ても女性用の靴だった。




 アルフレートは男子寮の食堂で夕食を食べながら、警官に言われたことを思い返していた。

 魔道士を狙う連続事件。

最初のニュースでは夕方に帰宅中だった魔道医師が襲われたと報じられていた。被害者はなんとか逃げおおせたらしいが、犯人の炎魔法で大火傷を負ったらしい。

 先ほどネットで調べてみたが、犯人は徹底して魔道士だけを狙っているようで、これまでに起きた4つの事件全てで魔道士が被害に会っている。

 ぞっとしない話ではあるのだが、学園内にいる限りは安全だろう。

 アルフレートが楽観する理由は、学園のセキュリティもそうだが、教師たちの実力にある。

 国内でもトップクラスの魔道士だけがこの学園の教師になることが出来るので、生徒は絶対安全というのが学園の売りの一つなのだ。

 おかげで生徒の中には要人の子供も多く、二年生にはこの国の王女様までいる。


「よく考えたら、僕は場違いだな……」


 アルフレートの家は南部にある小さな農家で、言ってしまえば田舎者だ。

 記念にと受けた学園の入学試験に合格していなければ、今頃は南部の小さな高等学校に通っているか、家の農業を手伝っているかのどちらかだろう。


「何が場違いなんだ?」

「うわぁっ!」


 急に話しかけられて驚き、椅子から転がり落ちそうになった。


「お、おいおい、大丈夫かよ」

「だ、大丈夫だけど、いつからいたのさ、ジェイク」


 アルフレートがジェイクと呼ぶ青年は、いつの間にか彼の正面の席につき、フィッシュパイを食べていた。

 ジェイク・マクスウェル。

 最初の授業でアルフレートの隣に座ったことがきっかけで仲良くなり、この学園で彼の最初の友になった。

 この国伝統の青髪を持つクラスのリーダー的な存在で、面倒見が良く、田舎者のアルフレートにいつも色々な事を教えてくれる。


「ついさっきな。お前ぼーっとしてて全然気付かないからさ。なんか悩みでもあるのか?」

「ちょっと気になる事件があったんだ。知ってるでしょ、東の沿岸部で起きている事件」

「ああ。魔道士が被害にあってる事件のことだな」

「今日、駅前まで買い物に行っていたんだけど、そこで警察にしばらくは外出を控えるようにって言われたんだ」

「……なるほど」

「怖い話だよね。犯人も魔道士だろうから、普通の警察じゃなくて、早く魔道警察が動いてくれるといいんだけど」


 そこでジェイクは食事の手を止める。


「……ジェイク?」


 彼は今まで料理に向けていた目線をアルフレートへ移した。その表情はいつになく真剣だ。


「……アル、この学園の生徒――特に二年生は、たまに魔法軍や警察に協力を要請されることがあるってのは知ってるか?」

「う、うん。聞いたことならあるけど……?」


 アルフレートはジェイクの唐突な話題の転換に戸惑いつつも答える。


「実は今朝、その事件の捜査に協力してくれって話が、学園に来てたんだ」

「えっ! じゃあ、もしかしてジェイクは」

「そういうことだ。本当は二年生に来てた話だったんだが、興味本位で先生を言いくるめて俺も参加させてもらった」

「そ、それで? どうだったの?」


 アルフレートはいつになく興奮した様子でテーブルから身を乗り出す。


「落ち着け、アル。今まで報道されてきた事件は全部でいくつあったか覚えてるか?」

「えっと、4つだね」


 先ほどネットで調べたので確実だ。


「ああそうだ。被害者は、最初が医者の男。次がその妻の看護師とその同僚。3人目が退役した元軍人のじいさん。最後が学者の男だ」

「全員大怪我はしたものの、死亡した人はいないんだよね。犯人は何が目的なんだろう?」


 ジェイクはその問いには答えずに携帯端末を取り出し、素早く操作する。

 しばらくしてアルフレートのポケットの中の携帯端末が振動した。確認すると、ジェイクからメールが届いていた。


「ジェイク、これって」

「いいから読め」


 ジェイクはそれだけ言うと、食事を再開してしまった。

 仕方なく、彼からのメールに目を通す。


『ここだと誰が話を聞いているか分からないから、続きはメールでする。この連続事件で報道されたのはさっき言った4件で間違いない。ただそれは、報道された事件だ。俺が知る限り、まだ報道されてない最新の事件があと2つある』

「それって――」


 つい、ジェイクに尋ねそうになってしまった言葉を飲み込む。それではわざわざメールに切り替えた意味がない。

 アルフレートは黙ってメールを最後まで読むことにした。


『一つ目は今朝起きた事件で、被害者は軍人3名。夜勤明けの帰り道で襲われたらしい。2人死んで、1人は病院送り。今も昏睡状態だそうだ』


 思わず画面から視線を上げ、ジェイクの顔を見た。


「ん? 読み終わったのか?」

「い、いや。まだ途中」


 まずは最後まで読もう。考えるのはそれからだ。


『二つ目の事件は昼の12時頃。被害者は事件の捜査に動き出していた魔道警察官。捜査に関わっていたベテラン5人と突然連絡が取れなくなった。この事件の捜査には俺を含めた学園生5人が協力することになったんだ。日中探し回ってなんとか居場所は特定したんだが、全員血まみれで死にかけてた。これ以上は危険だってことで一年生の俺は帰されちまったから、それ以上詳しいことは分からないけどな』


 ゴクリと唾を飲む。

 魔道警察とは、魔道士の犯罪者を取り締まる警官達のことだ。彼らが動いてくれれば犯人などすぐに捕まると思っていた。魔道警察はこの学園の教師と同様にエリート揃い。魔道士の犯罪者に敗れるなど、誰が想像するだろうか。


「読み終わったか?」


 気が付くと、ジェイクは食後の紅茶を飲んでいた。


「う、うん。なんだか、大変なことになってたんだね」

「だからアルも気を付けろよ。今日警官に言われたとおり、学園外へ行くのもしばらく控えておいた方がいいと思う」


 そこまで言うと、ジェイクが立ち上がり食器を乗せたトレーを厨房に返して、寮の部屋へと戻って行った。

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