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レティス王女の近衛7騎士  作者: 相馬あさ
気炎万丈編
66/90

プロローグ

12月4日。リードクイン宮殿、会議室。


「これを私にですか?」


 会議に出席していた男は宮殿の兵士から差し出された騎士剣を眺めて、困ったような顔でソフィア女王に尋ねる。


 右の眉の上から縦に斬られたような傷跡のある黒髪の東方人、マサムネだ。


 ソフィア女王の近衛7騎士『黒風の太刀』として宮殿に呼び出されると、いきなり西の国の剣を贈与されようというのだ、東方人のマサムネなら警戒して当然である。


 マサムネの刀とアデライード王国の剣では形も違えば使い方も全く異なる。


 渡されるマサムネにしてみれば、刀を使うのを止めろと言われているような気がしてしまうのだ。


「その剣は我が国が誇る『7魔宝具』の一つ、黄金剣『デュランダル』です。土と金の魔力を秘め、魔法を斬り裂き跳ね返す頑強な剣。きっとあなたの力となるでしょう」

「いえ、如何にこの剣が素晴らしい業物であろうと受け取れません。私の武器はこの刀です」


 そういうと、マサムネは腰の刀を抜いてソフィアに見せる。


「受け取って貰わねば困ります。7魔宝具は女王の近衛7騎士専用の『古代魔術具』であり、力の象徴です。既にあなた以外の7騎士は7魔宝具を受け取っていますよ」


 マサムネが周りにいた他の7騎士――セルゲイ・クライン、アイリーン・メイブリック、シェリー・メルヴィルを見る。


 すると、三人はマサムネに各々が授かった7魔宝具を掲げる様にして見せてくれた。


 セルゲイは鎌、アイリーンは盾、シェリーは銃だ。


「受け取れ、マサムネ」

「使いたくなけりゃ、使わなきゃいいだけだ」

「持っていることに意味があるんですよ」


 三人に促され、マサムネは兵士が差し出す剣に再び視線を向ける。


 持っていた刀を鞘に戻すと、黄金の鞘に納められた剣を手に取る。


「――これは」


 マサムネの手から気が剣へと吸い上げられる。


 無機物であるはずの剣が生き物のように脈動したかと思うと、眩い光に包まれた。


 マサムネはその光からとっさに逆の手で目を守り、しばらくして光が収まったところで手をどけて剣を見る。


「驚きました、多少形が変わることは今までもありましたが、ここまでのものは初めて見ます」


 ソフィアが驚くのも無理はない。


 マサムネが右手に持っていた黄金剣『デュランダル』は、その鞘ごと東方風の刀へと姿を変えていたのだ。


「デュランダルがマサムネを持ち主と認め、マサムネの望む姿へと形を変えた……ということか」

「黄金剣ならぬ、黄金刀ってか」


 セルゲイとアイリーンの言葉を聞きながら、マサムネは真剣な眼差しで刀となったデュランダルを見る。


 刀を抜いて一振りし、また鞘へと戻す。


 一連の動作を終えて、マサムネはソフィア女王へと向き直った。


「感謝します。これからあなたを守る時はこの刀を使いましょう」

「ええ、頼りにしています、マサムネ」


 ソフィアは満足したマサムネを見て安心したように席に着いた。


「ソフィア様、少々お聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」

「ええ。構いませんよ」


 ソフィアは手でマサムネたちにも座るように促しつつ答える。


 マサムネは一礼すると適当な席に着き、他の3人の騎士たちもそれに続いた。


「この7魔宝具というものは、他の『古代魔術具』と呼ばれるものとは違う存在なのですか?」


 マサムネの質問にソフィアは暫し黙り込む。


 どう答えるべきかを考えあぐねているように見えた。


「難しい質問ですね……正直に言うと、私にも分からないのです。同じと言えなくもないですが、全くの別物とも言えます」

「……どういうことですか?」


 マサムネが首を傾げたので、セルゲイがソフィアの言葉を補足する。


「マサムネ、そもそも『古代魔術具』というのは現代の技術では製造も解明も出来ない代物なんだ。遺跡などから発掘される超常の力を秘めた物を総称して『古代魔術具』と呼んでいるに過ぎない。そしてその中でも特に優れた力を持った7つの『古代魔術具』をこの国では『7魔宝具』と呼んでいるんだ」


 未解明の力を秘めているという意味では7魔宝具は他の古代魔術具と同じだが、その製造方法が不明なのだから、それぞれが独立した存在であり全くの別物の可能性もあるということだった。


「なるほど、それ故に『分からない』ということですか……」


 マサムネはテーブルの上に置いたデュランダルを見つめる。


「気に入りませんか?」

「いえ、そういうわけではありません。むしろ興味が湧きました。よろしければ他にはどのような7魔宝具があるのか教えていただけませんか?」

「ええ、良いですよ」


 ソフィアは小さく咳払いをすると、アデライード王国が誇る7魔宝具について語り始めた。


「7魔宝具には強力な力があると共に、それぞれに役割が存在します。まずはあなたの黄金剣『デュランダル』、それと紅蓮槍『グングニル』。この二つは戦場において最前線で戦える者に与えます。『デュランダル』はその防御力で敵の攻撃を受け止め跳ね返し、『グングニル』はその攻撃力で敵を貫き焼き払います」

「攻撃の槍と防御の剣ですか。それなら私に剣が与えられたのも頷けますね」


 マサムネは亡きセルゲイの妻、エルネ・クラインに不殺の誓いを立てている。


 どのような状況であろうとも相手の命を奪うことをしない彼には、攻撃よりも防御の方が合っていた。


「次に水氷弓『アッキヌフォート』と猛毒杖『ミストルティン』。水の矢で味方を癒し、氷の矢で敵の動きを止める『アッキヌフォート』は視野の広い指揮官に、毒の蔦を伸ばし操る『ミストルティン』は単独で敵を打つ暗殺者に与えます」

「指揮官用の弓に暗殺用の杖、なかなか所有者の選定が難しそうですね」

「ええ、本当に。どちらも候補者はいるのですけどね……」


 ソフィアはどこか遠い目で息をつく。


 そんな彼女を見てセルゲイとアイリーンが苦笑いを浮かべていた。


 二人は何かしらの事情を知っているのだろう。


「次はシェリーに与えた六魔銃『フライクーゲル』。7種類の弾丸を銃の中で精製して打ち出すことが出来る強力な銃です。しかし、悪魔が潜む銃とも呼ばれており、強い精神力を持った魔道士でなければ精神崩壊を起こすそうです」

「だ、大丈夫なのですか?」


 マサムネは驚いて所有者であるシェリーを見る。


「まだ数発しか試し撃ちしてないんで分からないですけど……まあ、今のところは平気ですよ」


 シェリーは張り付いた笑顔を浮かべながらテーブルの上に置いてあったフライクーゲルを撫でる。


「安心しろよ、シェリー。お前の図太さは私が保証してやる。7発目さえ撃たなければ大丈夫だよ」


 シェリーの隣に座っていたアイリーンがシェリーの頭をぐりぐりと撫でる。


 シェリーはその手を嫌そうに払い除けた。


 マサムネはそれを見て、アイリーンが自己紹介の時にシェリーのことを『私の妹分だ』と言っていたことを思い出した。


「メイブリックさん、その7発目というのはどういう意味ですか? そもそも六魔銃なのに7種類の弾丸というのも変ですよね?」

「うえぇ……メ、メイブリックさんとか呼ぶなよな、気持ち悪いだろ! アイリーンでいいよ、敬語も止めろよな」

「そう――か。分かった、アイリーン」

「おう。それで、なんで六魔銃なのに7種類の弾丸なのかって話だったな。そもそも使用者が任意で撃てる弾は6種類なんだよ。装填数も最大6発で6連射まで可能だ。もちろん魔力を込めて新しい弾丸を精製したり、物理的に弾を込め直せばまた6連射まで出来るんだ。だから名前が六魔銃」

「ならば、7種類目の弾丸はどうすると撃てるんだ?」

「6連射した後に間髪入れずにトリガーを引けばいい。そうすれば7発目が勝手に精製されて発射される」


 アイリーンの話にマサムネは首を傾げた。


 結局のところ『フライクーゲル』は7種類の弾丸を持つ、7連射の銃ということになる。


 それならば六魔銃ではなく七魔銃のはずだ。


「話が読めないな」

「その7発目の弾丸が問題なのさ。7発目には銃に潜んでいる悪魔の力が色濃く込められているって話だ。撃ったら最後、使用者は魂を悪魔に喰われ、発射された弾丸は悲劇を呼ぶって言われてる」

「……実質、撃つことが出来るのは6発まで、それ故に六魔銃か」

「そういうこった。シェリーにはくれぐれも撃った弾数を数え間違えないで欲しいと思うよ」

「た、隊長! 私の事、バカにしてるんですか?」


 じゃれ合う二人を見て本当の姉妹のようだと思いつつも、マサムネはフライクーゲルの凶悪性に冷や汗を流した。


 一歩間違えば命を失うほどのリスクがあるということは、それを補うほどに強力な力を秘めているということだからだ。


「紅蓮槍、黄金剣、水氷弓、猛毒杖、六魔銃、そして残る二つが――」


 マサムネの視線に気付いたセルゲイとアイリーンがそれぞれの七魔宝具をテーブルの上に置くと、ソフィアが口を開いた。


「金剛盾『アイギス』と煉獄鎌『アダマス』。この二つは代々、女王が特に信頼を寄せる騎士に授ける7魔宝具です。あらゆる攻撃を引き寄せて女王を守り、眩い光で全てを停止する『アイギス』、時空を引き裂き、死の炎で女王の敵に災いをもたらす『アダマス』。7魔宝具の中でも『フライクーゲル』と並んで強力だとされています」

「アダマス? デスサイズでは?」


 マサムネの問いにセルゲイが答える。


「それはレオンティウスの魔道士が付けた名前だな。死神の鎌のような見た目からそう呼ばれたんだ。俺も俺の前の所有者もこの大鎌で戦果を上げたからな、敵に恐れられた名前が味方にも浸透してしまったというわけだ」

「私の『ネクロマンサー』と同じですね」


 シェリーは戦時中、多くの傷付いた魔道士を癒して戦場へと送り出した。


 何度倒してもシェリーの周りの魔道士たちは立ち上がってきたので、敵兵はシェリーの事を『死霊使い(ネクロマンサー)』と呼ぶようになったのだ。


「ともかく、女王の右腕と左腕である『アイギス』と『アダマス』の所有者が揃ったことで、私の守りは万全と言えます。これでマサムネにはこれまでよりも自由に動いてもらえると思います」

「なるほど、ありがたいです。この前の襲撃事件の時など、早く外に出て敵を倒したくてしょうがなかったですから」

「ふふっ、王国最強の騎士の力、頼りにしていますよ」


 ソフィアの言葉に、アイリーンの眉がピクリと吊り上がる。


「ち、ちょっと待ってくださいよ、ソフィア先輩」

「……アイリ?」

「あっ、す、すみません、女王陛下。でも、いつの間に王国最強が私からマサムネになったんですか! それだけは納得できません」


 アイリーンは怒りのあまり席から立ち上がって抗議する。


「……仕方ありませんね――あなたたち、下がりなさい。オルグレンは見張りを」

「かしこまりました」


 ソフィアの命令で傍に控えていた執事のオルグレンが兵士やメイドたちを部屋から追い出す。


「今から話すのは、この場にいる人間を覗くと、シーラやレティスなど、本当に極一部の者しか知り得ない情報です」


 ソフィアの態度から、よほど重要な内容なのだろうと、アイリーンとシェリーは息をのむ。


「先日、エウニス学園から盗まれた『光の魔眼』ですが、実は盗まれたのは左眼だけなのです」

「左眼――ということは、右眼はまだ王国内にあるということですね」

「ええ、そういうことになります」


 シェリーは真面目に話を聞こうとしていたが、アイリーンは急にマサムネの話から魔眼の話に話題を変えられたことに苛立ち、不機嫌そうな声で尋ねる。


「……陛下、何の話をしているんですか?」

「アイリ、黙って話を最後まで聞きなさい」


 ソフィアはマサムネに視線を送る。


 マサムネはソフィアが何を話そうとしているのか察し、頷いた。


「『光の魔眼』の右眼は10年以上前から王国内にありますが、私の管理下にはありません。セルゲイがレオンティウス帝国から持ち帰った際に献上したのは左眼だけですから」

「では、右眼は今もセルゲイさんが持っているんですか?」

「いいえ。あれはセルゲイが東方の大和国に新婚旅行に行った時でしたね?」

「し、新婚旅行?」


 一同の視線がセルゲイに集まる。


 セルゲイはやれやれと首を振ってから口を開いた。


「新婚旅行と言っていいものかは分からんが、確かに俺が大和国を妻と旅行していた時の事だ。妻が路地裏で野垂れ死にしそうな青年を発見したんだ」

「いよいよ何の話だか分からなくなってきた……」


 言い付け通り黙って話を聞いていたアイリーンがぼやく。


「私は……もしかしたら、分かっちゃったかも知れません」


 シェリーは何かに気付いたのか、マサムネの顔をじっと見ていた。


「当たりだ、メルヴィル先生。その時助けた青年がそこにいるマサムネなんだ」

「あの時の事は感謝してもしきれません」


 マサムネは悲しそうな顔で笑いながら、傷跡のある右のまぶたを撫でる。


「――右眼の傷! お、おいおい、もしかして!」


 アイリーンも気付いたのか、興奮したように立ち上がる。


「そうだ、アイリ。その時のマサムネは右眼を失明していてな、妻は『光の魔眼』の右眼をマサムネに渡したんだ」

「そして、残った左眼を私に――というより王家に献上したのです」


 アイリーンは乾いた笑い声をあげたかと思うと、崩れる様に椅子に座った。


「『光の魔眼』かあ、恐れ入ったよ……」


 アイリーンは椅子に沈み込んで何かを考えたあとテーブルに置いてあった『アイギス』を持って再び席を立ち、部屋の開けた場所まで移動する。


「なあ、マサムネ。私の『アイギス』とお前の『光の魔眼』。どっちが強いか勝負しろよ」

「んなっ、た、隊長! 何言ってるんですか!」

「黙ってろシェリー。私はマサムネに聞いてるんだ」


 マサムネは許可を求める様にソフィアを見る。


「こうなったアイリは私の言うことも聞きません。マサムネ、お願いできますか」

「分かりました。アイリーン、全力で行くぞ」

「ああ。来い!」


 アイリーンはアイギスをマサムネに向ける。


 対するマサムネはデュランダルを掴んで立ち上がり、ゆっくりとアイリーンの方へと近付いていく。


「お前の魔眼も私の盾も同じ光魔法を秘めている。伝説の魔眼だか何だか知らないが、条件は同じはず、なら私よりお前が強いはずがないんだ!」


 アイリーンがアイギスに魔力を込める。


 すると、アイギスの表面が輝く。


 アイギスに秘められた光魔法が正面の敵――マサムネへと襲い掛かった。


 アイリーンは亡くなったソフィアの祖母、サンドラ女王の元近衛7騎士であり、レオンティウス帝国との戦争でもアイギスを持って戦場を飛び回った。


 アイギスは周囲全ての魔法を引き寄せて、それを相手へと跳ね返す。そしてその表面から放たれる光魔法を浴びたものは時間を奪われる。


 これだけ聞くとまるで無敵の盾だが、弱点も存在する。


 引き寄せる、跳ね返す、動きを止める。


 この3つ能力のどれを使っても物凄い量の魔力を消費するのだ。


 その中でも動きを止める光は5秒以上発動することが出来ない上に、一度使うと1分間どの能力も使用不能になってしまう諸刃の剣だ。


「なるほどな、同じ力同士ではこうなるのか」


 アイギスの光を受けたというのに、マサムネは平然とアイリーンへ近付くように歩いていた。


 その右眼は東方人特有の黒から、美しいプリズムのような7色へと変わっていた。まるで波が揺らめくように不規則に7色の輝きを放っている。


 アイリーンが周囲を確認すると、ソフィア、セルゲイ、シェリーの三人の時間が止まっていた。


 あの三人にはアイギスの光を当てていない。


 アイリーンは光に指向性を持たせ、マサムネだけに当たるように調節して放ったのだから。


 それならば、あの三人の動きを止めているものはマサムネの右眼にある『光の魔眼』の力に他ならなかった。


「くっ――それなら!」


 アイリーンはマサムネを攻撃しようと風魔法を展開する。


 その時だ。


 アイリーンの身体が前触れもなく動かなくなった。


 その状況をマサムネは冷静に観察して分析する。


 恐らく、アイギスも魔眼も相手の光魔法の時間停止能力から所有者を守っていたのだ。


 しかし、時間が経過したことでアイギスは力を失い、マサムネの魔眼の力から所有者であるアイリーンを守ることが出来なくなった。


 輝きを失ったアイギスとアイリーンの停止が同時だったことから、マサムネはアイギスには消費魔力とは別に制限時間があることを見抜く。


「……5秒といったところか」


 マサムネは動かなくなったアイリーンに近付くと、鞘に入ったままのデュランダルをアイリーンの額に突き付ける。


 マサムネの『光の魔眼』はアイリーンの『アイギス』とは違い、光を相手に浴びせる必要は無い。


 右眼に気を集めると発動し、自分から半径10メートルほどにいる生物の時間を止めるのだ。


 アイギスのように5秒などという制限時間はない。


 ただ単純に大量の気を消費するというだけだ。


 マサムネは魔眼に気を送るのを止めて、その場にいた全員の時間を動かす。


「――いっ!」


 アイリーンは目の前に突然現れたデュランダルの鞘に額を小突かれる。


 続くように足を払われて尻餅を着いた。


「ここまでだな」


 アイリーンは自分を見下ろすマサムネを見て、敗北したことを悟った。




「隊長が負けるところなんて初めてみました」

「……私だって初めてだよ」


 アイリーンは悔しそうに椅子に座って俯く。


 シェリーは落ち込むアイリーンかける言葉が見つからず、切り替える様にマサムネに質問する。


「時間を止める魔眼……私には一瞬にしてマサムネさんが隊長の前まで移動したように見えました。あれは私たちの時間も止めたってことですよね?」

「そうです。この眼は何か力場のようなものを周囲に展開する力があるようで、その範囲内にいる私以外の全ての生命の時間を止めることが出来ます」

「ならどうしてこれまでの戦いで使ってこなかったんですか? その力を使えば先日エウニス学園を襲撃したジークベルトという魔道士も捕らえられたと思いますが」


 シェリーの睨むような視線にマサムネはその時の事を思い出したのか、悔しそうな顔をする。


「私も、出来ることならこの力ですぐに戦いを終わらせたかったですよ。ただ、出来なかったのです。前回だけじゃない、その前のシアメイや王女殿下が誘拐された時も、私の力に干渉してくる別の力に相殺されるようにして、力を発動出来なかった」

「相殺……? なるほどな、そりゃ魔法の反発作用だろ」


 アイリーンの言葉にマサムネが驚いて彼女を見る。


「どういうことだ?」

「魔法には反発する属性みたいなのがあるんだよ。私は昔、エリアス・アルダートン――前のデスサイズの持ち主と手合わせしたことがある。その時に、私のアイギスの光魔法をアルダートンさんはデスサイズの闇魔法で斬りやがったんだ。光と闇ってのは正反対の存在だろ? それがぶつかり合った時、二つの魔法は糸が解けるみたいにバラバラの魔力に返還されて消滅したんだ」


 アイリーンの話にセルゲイが異論を唱える。


「まて、それならデスサイズを持っている俺はどうしてさっきのマサムネの力で時間を止められたんだ?」

「それがアイギスと光の魔眼の違いなんじゃないですかね。私のアイギスとセルゲイ先輩のデスサイズはどちらも光魔法と闇魔法という形で力を使っています。時間を止めるのは光魔法のマジックスキルである『停止』の力です。でも、マサムネの魔眼は違う。光魔法の『停止』だけを周囲に展開して時間を止めているんですよ」

「ど、どういうことだ、違いが分からん」


 セルゲイが首を傾げる中、シェリーが何かを閃いたように手をあげたので、ソフィアはホッとしたように許可を出した。


「私、分かったかも知れません。説明させてください」

「お願いします、シェリー。正直、私もよく分からなくなっていました」

「つまり隊長が言いたいのは、マサムネさんが力を使えなかったのは光魔法と闇魔法の反発作用ではなくて、『停止』の力場と別の力場の反発作用が原因だってことですよ」

「おお、そうそう、それが言いたかったんだよ!」


 アイリーンが嬉しそうにシェリーの背中を叩く。


「別の力場……なるほど、シーラから報告を受けています。ケイオスもグーニラも魔術結界という広範囲魔術を使っていたそうですから、その結界とマサムネの魔眼の力場が反発作用を起こして力が使えなった、ということですね」

「広範囲魔術ですか。自分で言い出しといてあれですけど、魔術ごときに光の魔眼を相殺するほどの力があるとは思えないですね」

「どうだろうな。魔眼とはいえ、俺は右眼だけだ。両方揃っていれば寄せ付けないかもしれないが、片方だけでは意図的に狙われれば相殺されてもおかしくはない」


 現に、ケイオスの隠れていた地下でマサムネは力を使えていた。


 使えなくなったのはケイオスが途中で何かをしたからだ。


 あの時に反発作用だけを狙った魔術をケイオスが使ったのならば、全てに説明が付く。


「両目が揃っていれば、か……ソフィアせんぱ――女王陛下、空の魔眼は両目とも揃っているんですよね?」

「空の魔眼ですか? まあその……一応、両目とも揃って王国内にありますよ」

「な、何ですか一応って……」


 アイリーンは身を持って魔眼の力を体験したからこそ、今でも両目揃って存在している『空の魔眼』をソフィアに使ってもらい守りを万全にしておきたいと考えたのだが、ソフィアの返答は異様に歯切れが悪いものだった。


「実を言うと、空の魔眼はもう両目とも所有者がいるのです」

「んなっ! 初耳ですよ! だ、誰に渡したんですか?」

「私の娘――レティスにです」

「ふへ?」


 アイリーンは驚きのあまり間の抜けた声を出す。


 シェリーもその隣で目を見開いて絶句していた。


「れ、レティス様に? シーラ様じゃなくてですか?」

「ええ、レティスに与えました」

「なぜですか? 言っちゃなんですけど、レティス様は戦いには向いていませんよ。魔道士ランクだけはシーラ様より上みたいですけど、病弱で気弱、それにシーラ様がいる限り女王にもなれないんですよ」

「……レティスは生まれつき目が見えない子だったのです」

「――っ」


 ソフィアの一言で、立ち上がって問い詰めていたアイリーンは気落ちするように席に座りなおした。


「それで、魔眼をレティス様に?」

「はい。マサムネの話で普通の目の代わりになるということは分かっていましたので」

「…………これ、レオンティウスにバレたら不味いですよ。向こうは光の魔眼の片割れの回収に成功して調子付いているわけでしょう? 病弱なレティス様から空の魔眼も奪おうと考える可能性は十分にあると思います」


 光の魔眼の時間を止める能力を使えば、レティスの両目を奪って逃げることなど簡単に出来てしまう。


 先ほどのマサムネとの勝負で敗北したアイリーンには光の魔眼を持つ相手からレティスを守るなど、到底できることではないと感じられた。


「私じゃ無理だ……マサムネをレティスの護衛に付けるしか方法はないんじゃないですか?」

「アイリ、レティスを守るのは彼女の7騎士だ」

「何言ってんですかセルゲイ先輩。あの三人、確かに才能はあるみたいですけど、まだ成長途中じゃないですか。私に言わせれば子供ですよ」


 セルゲイはアイリーンに対して穏やかな声で答える。


「そう、成長途中だ。ティアも、アルフレートもジェイクも、そしてレティスもな」


 ゆったりとした声に反して、セルゲイの目は真剣そのものであり、力強い意志が感じられた。


「俺は北部に別荘を持っていてな。年明けにはそこで部下と共に訓練をしているんだ」

「まさか、先輩」

「ああ。レティスや新米の7騎士たちを、俺がまとめて強くしてやる」

すみません、いくら何でも長くなりすぎましたね。


プロローグなので分割するわけにもいかず、こういった形になってしましたが、以降はこの半分程度の文量が大体の目安になっています。

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