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レティス王女の近衛7騎士  作者: 相馬あさ
外伝 シーラ王女の近衛7騎士
62/90

閑話 シーラ様、初めての海外

三章の完成が当初の予定よりも遅れそうなので、外伝の続きを無理やり書きました。

 魔道暦2017年。1月4日。


 アデライード王国次期女王であるシーラ・エレノア・アデライード・オーウェルは初めて東方の国に足を踏み入れた。


 シーラの近衛7騎士であるヒルデガード・エメットがキョロキョロと辺りを警戒しながら彼女に耳打ちする。


「シーラ様、本当に私たちだけで大丈夫ですかね? 心なしか注目を浴びているような気もするんですが……」

「ふむ、言われてみればそうですね。髪も染めたというのに何故でしょうか?」


 シーラは黒く染まった自身の頭髪の毛先をいじりながら首を傾げる。


「いや、それは6割くらいヒルダちゃんの髪のせいだと思います」


 大和国出身のアリサ・サクライがため息交じりに言う。


「ええっ? だってアリサちゃん、大和国には茶色や金色に髪を染めている人がいっぱいいるって言ってたよね?」

「言ったけど、そんなまだら模様の髪の人はそうそういないよ」


 ヒルダの髪は綺麗な金色の巻き毛だったのだが、数か月前にあった戦いの後遺症で炎のような赤い髪が混ざってしまっている。


 挙句の果てに瞳の色は右が赤で左が緑だ。目立たないはずがない。


「ではアリサ、残りの4割は何ですか?」

「……シーラ様から溢れ出てるオーラです」

「オーラ? 私はそんなもの使えませんよ? むしろオーラを使えるのはあなたとシアメイでしょう」

「そういう意味ではないです」


 シーラは髪の毛を黒く染め、緑色の目を隠すためにサングラスをかけている。


 しかし、美しい顔立ちはサングラス程度で隠せるものではなく、その立ち振る舞いからお忍びの芸能人のようなオーラがしっかりと出てしまっている。


 あげく、近衛7騎士のヒルダ以外にも身の回りの世話をするためにソフィア女王から執事のオルグレンと部下の侍女を4人ほど付けられているのだ。


 これではアデライード王国の王女とバレなくとも、どこかのお金持ちのお嬢様だということは丸分かりである。


「ほらほら、こんなところで突っ立ってたって目立つだけなんだ。さっさと行くよ」

「そうそう。写真とか撮られる前に移動しよう?」


 エウニス学園で働いていた料理人のアオイ・クジョウと晋共和国からの留学生であるシアメイ・リーがスタスタと歩き出す。


「それもそうですね。行きましょう、ヒルダ、アリサ」


 アオイとシアメイの後にシーラが続いたので、アリサとヒルダは慌ててシーラの両サイドを護衛する。


 ヒルダは右眼がほとんど見えていないのでシーラの左側、アリサは右側を警戒する。


 その後ろからオルグレンと4人の侍女が続く。


 オルグレンは振り返ると、みんなとの会話をそっちのけで辺りをウロチョロして楽しそうに写真を撮っている女性に声をかけた。


「セリーヌ様、出発いたしますよ」

「えっ? あ、ま、待ってください!」




「うわ~、ここがアリサちゃんの住んでいたところなのね」


 空港からバスに乗り、電車を乗り継いで再びバスで移動した先で、セリーヌは学園では見せたことがないような無邪気な笑顔で写真を撮り始める。


 シーラたち一行はアリサの実家がある温泉街に来ていた。


 事の発端はシアメイがアオイと一緒に九条家に向かうと決めたところから始まる。


 話を聞きつけた東方好きのセリーヌが、いまだ警戒が必要な九条玄司の妻であるアオイを監視する目的で同行することとなったのだ。


 そのセリーヌから話を聞いたシーラは、王国で起きた事件に対して無関係を主張している大和国と九条家を調査するために7騎士のヒルダと7騎士候補のアリサを連れて自分も行くと言い出した。


 そこで更に九条家とは浅からぬ因縁があるマサムネまでもが同行を申し出たのだが、ソフィア女王の近衛7騎士を国外に派遣するのは危険ということで、マサムネは王国で待機となった。


「はぁ、師匠にも一緒に来て欲しかったなぁ……」

「仕方ないよ。そもそもマサムネさんはこの国だとまだ殺人犯として服役している設定なわけでしょ? ウロウロして顔見知りに会ったら大変な騒ぎになっちゃうよ」

「ああ……そういえば、そうだったね」


 シアメイはマサムネが無実の罪で九条家に殺人犯に仕立て上げられたことを思い出したのか、眉間にしわを寄せる。


「シアメイちゃん、怖い顔になっちゃってるよ?」

「う、うん、ごめん……ていうか、アリサ。いつの間にかボクのことちゃんと名前で呼ぶようになったよね?」

「あ~、お姉ちゃんにシアメイちゃんのこと話してたら、『アリサの付けるあだ名にはセンスがない!』って言われちゃって……」

「あははっ、センスか!」

「……ちなみにお姉ちゃんならシャオメイかなっちゃんにするってさ」

「うわっ、アリサと大して変わらないと思うんだけど」


 二人のどうでもいい会話を聞いていたセリーヌは、写真を撮りながらも会話に口を挟んでくる。


「あら、私はアリサがつけてくれたあだ名、結構気に入っているわよ?」

「せっちゃん……」


 アリサが嬉しそうに目をキラキラさせてセリーヌを見たので、シアメイは理解できないと肩をすくめる。


「そういえば、アリサにお姉さんなんていたかしら? サクライ夫妻には子供がいなかったからアリサを引き取ったと聞いていたけれど?」

「あっ、お姉ちゃんは私たちがアデライード王国に引っ越すときに櫻井家の養女になったの。でも、お義父さんとお義母さんとは私よりも前から親交があったんだ」

「一緒に……もしかしてあの子かしら。私が大和国のサクライ夫妻の家に泊めてもらっていた時によく出入りしていた……確か名前はユズハ――」


 アリサの義姉の名前を言いかけて、セリーヌはカメラを撮るのを止めてアリサに向き直る。


「ユズハ・ムネタカ……確かそういう名前だったわ」

「うん。お姉ちゃんの旧姓はムネタカで間違いないよ」


 アリサは真剣な顔でセリーヌに答える。


 その場にいた全員が、ムネタカという苗字に聞き覚えがあった。


 ソフィア女王の近衛7騎士『黒風の太刀』マサムネ。


 本名、マサキ・クラインの旧姓がムネタカだ。


「私、マサムネさんの過去の話を聞いた時にもしかしてって思ったんだ。それで年末に帰省した時にお姉ちゃんに確認して、すぐにマサムネさんに連絡して家に来てもらったの」

「そ、それで? 二人はどういう関係だったんだい?」


 大好きな師匠のことだからか、シアメイは急かす様にアリサに詰め寄る。


「もうビックリだよ。お姉ちゃんはマサムネさんの妹だったんだよ?」

「――っ! 師匠、妹がいたんだ!」

「うん。マサムネさんは泣いて喜んで、お義父さんとお義母さんに何度もお礼を言ってから、しばらく泊めてくれって土下座までしたんだよ。たぶんまだいるんじゃないかな」


 アリサは喜ぶマサムネを思い出したのか、クスクスと笑う。


 シアメイは泣いているマサムネなど想像もつかないのか首を傾げたが、彼が喜んでいるのなら何でもいいので、自分の事のように嬉しくなった。


「マサムネさんって頑なに和食を食べたがらなかったらしいんだけど、大和に残してきた妹の事を思い出しちゃうからだったんだってさ。そしたら後から奥さんが来て、お姉ちゃんに和食を教わってたよ。料理上手らしいからすぐにマスター出来そうだったなぁ」


 アリサが楽しそうに年末の家での出来事を語っていると、彼女とは真逆にシアメイがみるみる青い顔へと変わっていった。


「ちょ、ちょっと待ってよ……アリサ、何言ってるの?」

「え? 何って?」

「いや、ボクの聞き間違いかもしれないんだけど……師匠の奥さんがどうとかって」

「うん。ティアちゃんのお姉ちゃんのクリスさん。マサムネさんの奥さんだよね?」


 シアメイは張り付いた表情のまま、乾いた笑い声をあげる。


「いや……はははっ、お、面白い冗談だねアリサ。クリスさんが師匠の奥さんだなんてさ」

「えっ? いやいや、冗談じゃないよ? 私ちゃんと妻のクリスですって挨拶されたもん」


 大真面目に答えるアリサの前で、シアメイが地面に崩れ落ちる。


「ちょっ! シアメイちゃん!?」


 シアメイは頭を抱えてブツブツと「嘘だ」とか「そんなわけない」と呟いている。


「あ~あ、アリサちゃん、ついにバラしちゃったのね」

「せっちゃん。どういうこと?」

「マサムネさんとクリスさんの関係。私が気付いた時にはシアメイはマサムネさんにベッタリだったから、私も教えるタイミングを見失っちゃっててね」

「ええっ! じゃあ、シアメイちゃん、マサムネさんが結婚していること知らなかったの?」


 その場にいた全員が可哀そうな目でシアメイを見る。


 シアメイはスッと立ちあがると、涙目で悔しそうな顔をしながらアオイに視線を向ける。


「アオイさん……ボク、帰ってもいいかな?」

「いや、気持ちは分からなくもないけど……玄司さんにも連絡しちゃってるから」


 これまでの会話を黙って聞いていたことで大体の事情を理解したシーラは、その上でシアメイの腕を掴んで引っ張る。


「どうせ帰ったところで状況は好転などしません。ほら、行きますよ」


 シーラにキッパリと言い切られてシアメイはついに本格的に泣き出した。


「うわぁぁぁ、嫌だぁぁあああ!」


 子供のように泣きながら、シアメイはシーラに連れられてトボトボと九条家の屋敷へと歩を進めるのだった。

シーラ王女とシアメイたちが九条家に行くという話でした。


書くタイミングを失っていたマサムネとクリスの関係を思い出話を通して書けたのでシアメイには悪いですが個人的には満足です。

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