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レティス王女の近衛7騎士  作者: 相馬あさ
外伝 シーラ王女の近衛7騎士
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第五話 シーラの騎士たち

「では、次はその隠密部隊について話しましょうか」


 シーラ、フラン、リアンの3人はリードクイン宮殿にて見えない敵から攻撃を受けたことを思い出す。


 幸い、宮殿には『黒風の太刀』『不死身の大鎌』に加えて、のちに『飛竜の翼』としてソフィアの7騎士となる、王国最強の魔道士『竜の逆鱗』がいたこともあり、シーラたちの出番はなかった。


 いや、そもそも敵は外から宮殿の外壁を魔法で攻撃するばかりで、まるで攻め込んでくる様子がなく、ソフィアの7騎士の出番すらなかったと言える。


 しかしながら姿が見えないために気は抜けないといった状況が続いたのだった。


 レティスに聞いた話では、オーウェル城も同じような状況だったらしい。


「確か、アリサは最初の襲撃の時にジークベルトと直接戦ったのでしたね」

「はい。強力な炎魔法を使う魔道士でした。恐らくはランクAの魔道士だと思います」

「私ものちに交戦しましたが、あれほどの力を持つ炎魔道士は我が国にもそういませんね。恐らくは戦闘力だけなら魔法軍大将の『紅蓮の魔槍』と同格でしょう」


 シーラの言い回しに引っ掛かりを覚えたリアンが尋ねる。


「戦闘力だけなら――ということは、それ以外はそこまで脅威ではないということですか?」

「脅威でないとは言いませんが、アリサの木魔法で追い詰めることが出来たと報告を受けています」

「アリサの木魔法で、ですか? アリサ、ランクはいくつなんだ?」

「木魔法はC+で、他はもっと低いです」

「C+ということは『収穫』が使えるのか。しかし、それでランクAの炎魔法使いを追い込めるものなのか……?」

「イチかバチかの賭けに勝ったって感じでしたけどね。私の作戦に上手く引っかかってくれた感じです。あの人が自分の力を過信していたのと、私たちを学生だと侮ってくれていたのも要因だと思います」


 実際、アリサが使った奇襲は二度と通用しないだろう。


 ジークがアリサを侮っていたこと、木魔法使いとの戦闘経験が少なかったこと、アリサが気配を断って行動するのが得意だったこと、戦場が土の上だったこと。


 様々な要素が重なり合ったゆえの勝利だったと言える。


「アリサを7騎士に勧誘するにあたって、その辺りのことは現場にいた他の生徒から話を聞いていますが、ジークという男は優秀な魔道士ではありますが、優秀な指揮官ではないかと。そもそも、ヒルダによって透明化の魔術が破られたというのに、学園の生徒たちに死者が出ていないというのもおかしな話です」


 本当に魔眼の奪還を第一優先とするなら、隠密行動が出来なくなった段階で学園の生徒たちを早々に殺戮したほうが簡単だったはずである。


 そして、それが出来る実力がジークとその部下にはあった。


 にもかかわらず足止めに徹して、魔眼の奪還をミヤコ1人に任せたのは失策と言わざるを得ない。


 学園にはレオンティウス帝国から『ネクロマンサー』と恐れられるシェリー・メルヴィルなど優秀な教師が数名確認されていたはずだ。


 その状況下で足止めに徹して時間を稼ぐというのは部下の命を危険に晒すことであり、シーラから見てもあり得ない指揮だった。


「あんなことをした人に言うのは変かもしれないですけど、私はジークベルトという人は優しい人なんだと思います。道をふさぐ私たちを無理に倒そうとしたのは、正門側にいたシェリー先生と戦っている部下を助けるためだったと思います」

「優しいですか。それが部下を危険に晒してまでする行動とは思えませんね。こちらとしては助かりましたが」

「たぶん……何かの理由があって嫌々協力していたんだと思います」

「でしょうね。それでなくてはあのオーレンドルフがそんな生温い戦い方をするはずがありません」


 アリサが首を傾げる。


「……オーレンドルフ? シーラ様、あの人の事を知っているのですか?」

「ええ。先の戦争で各地を暴れまわったレオンティウスのオーレンドルフという部隊があります。その指揮官は赤毛の炎魔法使いで、伝承にある魔導師レオンティウスの容姿と酷似していたと母から――女王陛下から教わったことがあります」

「そのオーレンドルフの指揮官がジークベルトじゃないかってことで、レオンティウス側に抗議したらしいんだけど、見事に突っぱねられてるってわけですよ」


 フランはあっけらかんと笑い、シーラはため息をつく。


「笑い事ではないですよ。せめて監視カメラの映像に映っていればよかったんですが、見事に全て破壊されていましたからね」


 シーラは持って来ていたカバンから真っ黒なナイフのような物を取り出す。


「――っ」


 それを見たアリサの顔色が変わった。


 シーラはアリサの反応を見て、そのナイフが九条家に関係していると確信を持った。


「では最後に、クジョウについて話しましょう」


 シーラは黒いナイフをアリサへと手渡す。


「学園の監視カメラに刺さっていたものです。見覚えがあるのですね?」

「……これは飛苦無という名前の、投擲用の武器です。私もいくつか持っています」

「やはり、それは東方の大和国の武器なのですね」

「はい。大昔からある武器です。現在では持っている人も少ないと思いますが、九条家では今でも使われています」

「学園に現れた東方人の二人は九条透也と九条美夜子ということですが、大和国からは別人だと否定されました」

「映像証拠がないならそうなりますよね」


 フランが苛立つように仰け反ると、両足とパタパタと振る。


「どいつもこいつも証拠、証拠ってさ~、やってらんないよね~。私が会えば一発なのに、その力はただの勘でしかないのだろってさあ、私の勘が外れたことなんて一度だってないのにぃ~!」

「ね、姉様、気持ちは分かりますが、はしたないですよ!」


 リアンが暴れるフランを宥めながら、両足を押さえつける。


「ええっと……フラン先輩は何かあったんですか?」

「先日、サルゼード首相らとの会議に出席した際に、フランが自身の『ブラッドスキル』について明かし、正式な捜査に加わりたいと申し出たのです」

「サルゼード首相も姉様の力は認めているようですが、やはり研究途中のブラッドスキル――ましてや第六感などという不確かな能力に頼るわけにはいかないと拒否されてしまったんだ」


 シーラはサルゼード首相の考えにもいくらか理解出来る部分があるために、フランの捜査への正式参加をそれ以上強く願い出るのをやめて引き下がったのだ。


「……怒ったらお腹空いてきた。シーラちゃん、寮に帰ろう」

「ね、姉様。あと少しの間はこれで我慢してください」


 リアンはカバンからサンドイッチを取り出すとフランに手渡す。


 フランはいまだ怒りが収まらないという表情のまま、サンドイッチにかぶりついた。


「さて、長年我が国が争ってきたレオンティウス帝国と違い、東方の大和国に関してほとんどの情報がありません。クジョウに関してはアリサや『黒風の太刀』、それに学園で雇っている東方料理人のアオイ・クジョウから情報を得る以外には今のところ方法がないのも問題です」

「やっぱ、一回行ってみた……んぐっ、方がいいって」

「姉様、食べながら喋らないでください」


 一貫して緩い態度で空気を読まないフランにシーラは力を抜かれるように息を付き、ソファに腰かける。


「近々、アリサを含む数名を連れて大和国に調査に行こうと思います」

「えっ、シーラ様自らですか?」

「フランではないですが、直接自分の目で見ないと分からないこともあります。それに、そのための近衛7騎士でしょう?」


 シーラは自身の騎士たちを見る。


 未来予知のローズ姉妹。


 魔道士であり、魔術士であるヒルダ。


 気功と木魔法の使い手、アリサ。


 実に頼もしい面々だ。


「えっと、案内は任せてください」

「怖いけど……私も頑張ります」

「私が守ってあげるから、シーラちゃんのやりたいようにしたらいいよ」

「もちろん、私も全力でお守りします」


 シーラは4人に対して柔らかく微笑む。


「今日はここまでにしましょうか。帰りましょう」


 シーラが立ち上がり片づけを始めると、フランが待っていましたとばかりにソファから跳ね上がり、鼻歌交じりに部屋から出て行こうとする。


「ね、姉様、少し待ってくださいよ!」

「え~、早く早く、お腹減ったよ〜」

「まったくフランは……ヒルダとアリサも一緒にどうですか?」

「は、はい、ご一緒させてください」

「あっ、私はその……男子寮の方に……」

「うわっ! アリサちゃん、大胆!」

「いやっ、だ、だってジェイク君がご飯作ってくれるって言うから」

「いいな~、私もエルちゃんのとこ行こうかな……」

「ふむ。ヒルダも恋人がいるのですか?」

「えっ? こ、恋人ってわけじゃないんですけど……その……」

「何々、恋バナ!? 私も興味あるな~。リアンの話もしたいしさ~」

「ちょっ、ね、姉様、私を巻き込むのはやめてください!」


 シーラはきゃいきゃいと騒ぐ少女たちを微笑ましいと感じつつも忠告する。


「ともかく、もう夕刻ですし、男子寮へ向かうのは認められません。ヒルダもアリサも私と一緒に女子寮で食事をとりなさい」

「「は、はい」」


 荷物をまとめ終え、シーラに率いられるようにして全員で女子寮へと帰宅する。


 道中の会話は、会議とは打って変わって10代の少女たちらしいものだった。


 シーラはしばらく黙って聞きに徹していたのだが、思い出したように呟く。


「私もそろそろ……将来の相手を見つけないといけませんね」


 その呟きを聞いた彼女の騎士たちが目を輝かせる。


 その日の女子寮で、シーラはたくさんの女生徒たちから有望な男子生徒の情報を得るのだった。

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