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レティス王女の近衛7騎士  作者: 相馬あさ
明鏡止水編
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エピローグ

 レオンティウス帝国、アウデンリート城、一室。


「トウヤ、ミヤコ、お前たちの協力のおかげだ。ありがとう」


 ジークは今まで見せたことのないような笑顔で、トウヤとミヤコに礼を言う。


「よせ、お互い目的のために行動しただけだ」

「……どちらかというと、任務成功はグーニラの働きによるところが大きいしな」


 ミヤコの言葉にジークは笑顔を崩す。


「あいつは結局何者だったんだろうな? ただの魔術士かと思っていたが、最後の戦いで見せた魔術の数々は魔法にも対抗できるほど強力なものだった」

「魔術だけではないだろう。確か闇魔法といっていたか。魔術士であると同時に、優秀な魔道士でもあったわけだ」

「闇魔法ね……それこそ強力な古代魔術具(ロストアイテム)をいくつも持っているのかもな」


 ジークはテーブルに置かれていたグラスに嬉しそうにワインを注ぐ。


 資金難で生活すら危うかった彼にとって、ワインなど数年ぶりの嗜好品だった。


 レオンティウス帝国の軍人となったジークはアウデンリート城勤務となり、多額の報酬と城内の個室を与えられて上機嫌でワインを煽っている。


「だが、任務遂行のためとはいえ、リサには……お前たちの妹には悪いことをしたな。結局、置いてくることになったそうじゃないか」

「ああ……しかし理沙はもう俺たちの妹には戻りたく無いだろう。学園に返してやる方があいつのためになるはずだ」


 トウヤの表情には、言葉とは裏腹に後悔の色が見えていた。


 ジークはそんなトウヤを見て反省し、話題を変える。


「そういえば、お前たちはどうしてこの任務を受けたんだ? 盗品を取り返すという名目とはいえ、他国の学校を襲撃するなんて仕事、進んでやりたくはないだろう?」

「それはそうなのだが、もともと暗殺を生業としてきた家の出でな。そういった仕事ばかり受けて来たんだ。慣れたものだよ」

「ふうん。そんなもんかね……お前らなら、暗殺なんて裏の仕事をしなくても十分に稼いで行けそうだけどな」


 トウヤは痛いところを突かれたのか、困った顔で笑った。


「俺だってこんな仕事今すぐにでも辞めたいさ。弟の玄司のように、表の仕事だけして暮らしたいと思っている」

「……実は、これがお兄様にとって最後の裏の仕事になるんだ」

「そうなのか?」

「ああ。さすがレオンティウス帝国の皇帝というべきか、報酬がとんでもない額でな。その報酬を土産に、裏の仕事から足を洗わせてほしいと家族に――父に頼むつもりだ」


 ジークは「なるほど」と相槌を打ちつつ、グラスにワインを注いて二人に渡す。


「なら、次は仕事以外で会いたいもんだな」

「ああ。父と話を付けたら、また会いに来てもいいか?」

「……お土産も持ってくる」

「おう。歓迎するぜ、何てったって、お前ら二人は俺の大切な家族だからな」


 子供のように無邪気に笑うジークに釣られるように、トウヤとミヤコは屈託のない笑顔を見せた。


 それはトウヤとミヤコにとって、息の詰まるような空気が漂う九条家では味わうことが出来ない、心安らぐ思い出として刻まれた。




 リードクイン宮殿でのパーティーの後、そのまま宮殿に泊まることになったアリサは、宮殿のバルコニーから夜のエウニス市の街明かりを眺めていた。


 後方に人の気配を感じたが、振り返らずに泳がせる。


 気の感覚から、後ろにいるのがジェイクだと確信していたからだ。


「アリサっ!」

「わっ、もう……ジェイク君?」


 アリサは後ろから抱き着いてきたジェイクに驚くふりをした。


 内心では期待通りの行動に出てくれて事を嬉しく思いつつ、彼に話しかける。


「どうしたの?」

「いや、ティアにアリサの居場所を聞いてさ、どうせなら恋人らしいことの一つでもやっておこうかと思って」

「恋人っていうか……婚約者だけどね」

「そうだった。でも、シェリーちゃんも酷いよなぁ。卒業までは待て、なんてさ」

「私はそのくらいのペースが良いと思うけどな~」


 アリサは後ろから覆いかぶさるように回されているジェイクの腕に頬を摺り寄せる。


「ま、しばらくは恋人気分を楽しむってのもいいかもな」

「うん」

「そういやさ、前に俺の夢について話したことがあったろ?」


 夢と言われて、アリサは誘拐事件の後に学園の校舎の前でシアメイを交えた三人で話したことを思い出す。


「確か、誰よりも強くなるんだっけ?」

「おう。その夢は今も変わらないんだけどさ、実はもう一個、現実的な夢があるんだよな」

「最強の夢は現実的じゃないってこと?」

「うっ……マサムネさんとかメイブリック大尉とか見ちまうとなぁ……まあ、それはいいとして、もう一つの夢は就きたい職業なんだが」

「軍人じゃないの?」


 エウニス学園の魔法科卒業生の半数は魔法軍に入隊する。


 今は魔法軍も人材不足であり、何より最強を目指すジェイクは軍人になるものだとアリサは勝手に思っていた。


「いや、そういうのじゃなくてさ…………喫茶店を開きたいんだよな、実は」


 ジェイクは少し照れるように打ち明ける。


「喫茶店? ああ、確かにジェイク君って料理とか好きだもんね。コーヒーとか豆から挽いてるってアル君が言ってた気がする」

「……人に話すのは初めてなんだけどさ」

「もしかして、ジェイク君照れてる?」

「う、うるさいな~」

「あははっ! 最強になるとかは恥ずかしげもなく言えるくせに!」

「い、良いだろ! こっちは夢っていうよりは、ガチなほうなんだよ!」


 アリサはひとしきり笑った後、今度は自分の番だと言わんばかりに話題を振る。


「でもいいね、喫茶店。なら私は、喫茶店の隣でお花屋さんでもやろうかな?」

「なんだよ。その頃には結婚しているだろうし、手伝ってくれないのか?」

「ん~? まあ、手伝いくらいならしてあげてもいいよ。どうせお花屋さんの方は柚葉お姉ちゃんが継ぐだろうし」

「継ぐって……サクライ家って花屋なのか?」

「そうだよ。だから、喫茶店をやるなら私のお店の隣にオープンしてよ」

「面白そうだなそれ。なら、俺の店にもアリサのとこの花を飾ったりするといいかもな」


 そうして二人は自分たちの将来についての話に花を咲かせていく。


 話し込んでいるうちに冷えてきたので、室内に入ってラウンジでコーヒーを飲むことにした。


 ソファに腰かけると、隣に座ったアリサが寄り掛かってくる。


「でも不思議だね。ジェイク君と会ってからまだ三か月も経ってないのに、こうしてお互いの秘密を打ち明けて、将来について話し合える間柄になっているなんて」

「……確かに冷静になって考えると、出会って三か月で付き合うなら普通だけど、結婚は早すぎるかもな。シェリーちゃんが止めるわけだ」

「バカだな、ジェイク君は」

「うるせえ。でも今のところ、卒業したら結婚してくれる気でいるんだろ?」

「それは……うん」


 アリサは恥ずかしそうに頬を染めながらコーヒーに口を付ける。


「卒業まであと一年半以上あるんだ。俺の事、結婚するに足る男かどうか、しっかり見極めてくれよ」

「もちろん。私ももっと頑張らないと。『漆黒』の騎士として、迷惑をかけた人たちに償いをしないといけないからね」


 アリサはこの数日で、自分が知る限りのエウニス学園関係者に頭を下げて回った。


 ジェイクはあえて同行せずに、アリサ一人に任せていた。


 それはアリサが一人でやらなくてはならない事だと思ったからだ。


 もちろんアリサ自身も、謝ったからと言って自分のしたミスが帳消しになるとは思っていない。


 全ては彼女のこれからの振る舞いに掛かっているのだ。


 ジェイクはアリサの肩を抱き寄せると、唇を重ねる。


「……コーヒーの味がするな」

「当たり前でしょ……バカ」




 『氷』と『漆黒』の騎士。


 後に理想の夫婦とまで言われるようになる二人は、この事件を通して強い絆で結ばれた。


 ジェイクがエウニス学園の近くに開店した喫茶店『ラグナロク』は平日でも店の前に行列が出来るほどの大人気店となるのだが、それはまだ少し先の話である。


 今はまだ、水魔法に特化した目の良い魔道士という印象しか周囲の人々は持っていないが、この時すでに天然の魔眼とまで言われた、彼のブラッドスキルは目覚めつつあった。


 ジェイク・アーサー・レインウォーターは最強への一歩を確かに踏み出した。


 彼の進む道の先には、これからも数々の試練や戦いが待ち受けている。


 しかし、最強へと至り、自由気ままに喫茶店を経営する未来の彼は、今回の戦いが一番辛いものだったと語る。


 なぜならば――


『どんなに強い敵よりも、アリサと戦うことが何より辛かったから』

これにて明鏡止水編完結となります。


人生で初めて続編を書くことに挑戦しましたが、ここまで苦戦するとは思いませんでした。


ブクマを切らずに待っていてくださった方には感謝しかありません。


今後の展開ですが、話がごちゃごちゃしてきたので、作中のとあるキャラクターを使って状況を整理する短編を書こうと考えています。


その後、次の章に続く形です。

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